生贄廻戦   作:ララミー牧場

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名もなき魔法使い #3

『どうやら俺達は場違いらしいぞ、オイ』

 

 リブロムの言う通り、3人の子供たちは私を見て驚いた表情を浮かべていた。

 人懐っこそうなのと気難しそうなのと気が強そうな男女3人組……揃いの黒い装束をまとっていることから同じ組織の人間だろうことが分かる。この世界の魔法使いだろうか?

 

「どういうこと? 帳下ろし忘れたとかじゃないでしょうね」

「そんなことはない、ハズだが」

 

「まずい、敵だと思われているのか?」

『高確率でそうだろうよ。とりま、お前が怪しい奴じゃねえってのを示した方が良いんじゃねぇか?』

 

 何やらかを話し合う子供たち3人に、私は少し焦りを覚えた。

 この世界で初めて出会えた同類と思しき存在と敵対だけはしたくない。敵対の意思はなく、不審者でもないと示すにはどうすれば……その時、魔物の耳をつんざくような咆哮が響き渡った。

 3人の子供たちはすぐに意識をそちらへ戻し、各々、構えている。「その魔物を倒せばいいのか?」

 

 そう訊ねると、薄茶色の髪の子供が答えた。

 

「マモノって呪霊のこと? そう、俺らはコイツを倒しに来てんの! 危ないから下がってなよ!」

「なるほど」

「いや、なるほどじゃなくって」

 

 集団から離れた位置で私は魔物(この世界ではジュレイと呼ぶようだ)を観察した。

 体調は2メートルほど、人型ではあるが頭部は犬のソレである。追体験の中で見た【ケルベロス】に酷似している。剛腕による殴打と、鳴き声で他の小型ジュレイを呼び寄せるのが主な戦法のようだ。

 

 しかし何より驚いたのは3人の子供たちである。

 彼らはうまく連携を取りフォローし合いながら戦っていた。この状況に慣れている。子供だからとどこか甘く見積もっていた自分を恥じ入るばかりだ。

 

『お前もあのガキどもを見習っちゃどうだ』

 

 リブロムが口の端にイヤミな笑みを刻む。

 

「放っておいてくれ……む」

 

 追い詰められたジュレイが最後の悪あがきとばかりに金切り声を上げると、それに呼応した小型のジュレイが瞬く間にどこかから集まってきた。子供たちの表情にかすかな焦りが浮かぶ。犬頭のジュレイを叩けば任務完了なのだろうが、自身を小物に囲ませ守りの態勢に入ってしまっている。

 

「この期に及んでウザい戦法取ってくるなっつの引きこもり野郎! 業者呼んでやろうか業者ァ!」

 

 オレンジ髪の女子は苛立ちを隠さずに吠え、手元の金槌で釘を打ち飛ばした。釘は犬頭ジュレイを守る小物の数体に刺さり、次の瞬間、ジュレイが破壊された。しかし、それでも守りは固く、問題ないように見えた。

 3人の子供たちは確かな実力を備えているが、相手がこれでは埒があかない。無駄に時間を浪費され、精神が消耗するだけだろう。

 

「……とにかく、あの大型の魔物を引き摺りだすか倒せば君たちの任務は完了するんだな? ちょっと通路を開けてくれないか、危険だ」

「は? アンタまだいたの……」

 

 私は突撃魔法の供物を使い、小型の群れに突っ込んだ。ぶつかった衝撃はすさまじく、小型どもが吹き飛び本丸が露わになった。私はさらに全身を回転させながら、犬頭のジュレイにめり込ませていく。肉、というよりも泥濘のような感触だった。ゆっくりと、しかし確実にジュレイの体を貫通する最中、何か核のような物が指先に触れた。おもむろに握ってみると、脆い。

 

 身体にまとわりつく泥濘を抜け反対側の地面に着地するのと同時に、ジュレイは霧散した。この世界では元になった人間が存在しないようだ。『魔物の発生条件が違うのかもな』

 発生条件が違う。なるほど、そのセンは大いにありうる……。

 

「ちょっとアンタ! さっきのは何なの?!」

「呪術師なのか……?」

「いやでも助かったよ! アレあんたの術式? すっげえじゃん」

「いや、私は……」

 

 いつのまにか子供たちにぐるりと取り囲まれていた。驚愕、訝しみ、好奇心の視線を容赦なく万遍に浴びせられ思わず戸惑う。

 

「私はジュジュツシとやらではなく、魔法使いだ」

 

 ハッキリとそう告げると、3人はぽかんとし互いの顔を見合わせた。

 

「あんま魔法少女ってナリには見えないわね」

「魔法少女ではなく魔法使いだ」

「高専では見たことがない顔だな。高専所属じゃないのか?」

「コウセンというのが君たちの所属する組織なのか? そうならば代表者に会わせて欲しいんだが」

「代表者っていうと夜蛾学長?」

「そのヤガという人物に会わせてくれ。私は元の世界に帰らなければならない」

 

「………」

 

 もう一度、子供たちは互いの顔を見合わせた。口にこそ出さなかったが私に対して「変な奴」という共通認識が芽生えたようだった。いや、オレンジ髪の女子だけはハッキリこう言った。

 

「アンタ、中二病?」

「チュウニビョウとはなんだ、この世界にはそういう病気があるのか? だとすれば安心しろ。私は至って健康だ」

 

 周囲を覆っていた濃い闇が晴れていく。静かな公園の景色が戻ってきた。

 私をジッと見てから、ツンツン頭の男子がフウと軽く息を吐いた。

 

「協力者ってことでひとまず高専の方に連れていく。学長に会えるかどうかはアンタ次第だが」

 

 

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