フィオレちゃんの婚約者(仮)   作:なんちゃってアルゴン

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求婚、玉砕、それが始まり

 

 生まれて初めての恋だった。

 こちらを見て微笑んでくれた車椅子の彼女に、俺は一目で心を奪われた。

 

 その日は家同士の社交の場と言う事で、俺の家と古くから友好を結んでいると言う一族の人らが集められていたらしい。

 自分の家族が知らない大人達と何やら話していたが、当時の俺はそんな見ず知らずの他人にも、そいつらの話にもまるで興味がなかった。

 ただただ家族の後をついて回り、言われた通りに挨拶を繰り返すだけだった。

 でも俺はその時、初めて自分の意思で足を止めた。

 家族が振り返って声をかけてきた様な気もするが、もうそんな事はどうでもよかった。

 

 あの女の子から少しでも目を逸らしたくない。少しでも彼女の前から離れたくない。ただそれだけだった。

 

 何故か見覚えがある様な気がする、車椅子に乗る可愛らしい彼女。

 可愛らしくて、愛らしくて、美しくて、麗しくて、素敵で、可憐で、ビューティフルで、キュートで……その全ての言葉が彼女には当てはまっていて、それでも彼女を表す言葉としては全然もの足りない様に感じた。

 柔らかそうな髪、キラキラと綺麗な瞳、愛らしい唇……整った鼻も、形の良い耳も、滑らかな肌も、手も指も爪も足も首も、目に映る彼女の身体全てが! 声も匂いも呼吸も雰囲気も魂でさえも! 目の前の彼女の全てが! その何もかもが! 心の底から愛おしくてたまらなかった! 

 

 こんな気持ちは生まれて初めてだった。

 胸の奥から止めどなく何かが溢れてきていた。暑く、熱く、あつく、でも嫌な感じはしない。ただすごく、暖かい。心臓が脈打つ度に、溢れる何かで心と身体が満たされていく様な……。

 

 ああ、そうか、そうだったんだ。俺はきっと、君を探していたんだ。

 

 やっと────やっと出会えた! 見つけた! 会いたかった! 

 俺の人生は今まで、始まってすらいなかったんだ! 

 俺の心も身体も魂も! 俺の全てはきっと全部! 君と出会うためにあったんだ!!! 

 

 早く、速く、はやく! もう1秒だって待てやしない! 

 胸の中の奥の奥まで! 君の事で満ち満ちて破裂してしまいそうだ! 

 

 俺の全てを受け取ってほしい! 君の全てがほしい! それ以外はもうどうでもいい! 

 この胸の想いを! 俺の中から溢れ出る全部を! すべてを君に! 

 

「初めまして! 好きです! 俺と結婚してください!」

「えっと……あなたのことをよくしらないので、ごめんなさい」

「ぐぼはぁっ!!!」

 

 ……生まれて初めての失恋だった。

 彼女の前に跪き、渾身の愛の告白をしてから振られるまで、その間10秒もかからなかった。

 彼女の言葉が胸を貫き、身体と心が芯から冷たくなっていった。さっきまで胸を満たしていた暖かいものが、冷えて凍えて固まっていく感覚。視界は揺れて昏く、暗く、遠くなって────。

 

 でも、気のせいかそんな中で、いつか画面越しに観ていた彼女と、目の前の彼女の顔が重なって見えた様な気がした。

 

 

 

 

 

 と言うのが、もう10年も前の話だ。いやぁ……うん、全然気のせいじゃなかったわ。そりゃあ見覚えのある筈だわ。

 

 その後で分かった事だが、俺が一目惚れして一世一代の求婚後に見事玉砕した相手である彼女こそが、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 近い内に勃発するであろう聖杯大戦にアーチャーのサーヴァントを召喚し、黒のマスターとして参加する事になる魔術師であり────かつての俺の推しキャラであり、今の俺の初恋の女の子でもあった。

 

 

 

 えーさて、ここまでくれば賢明な読者の皆様なら既に察している方も多いでしょう。ですが、こう言う事はきちんと示しておくのが形式美と言う奴だと思うので、ささっと手短に説明をば。

 

 俺、三輪清霞(みわきよか)は前世の記憶持ち異世界系転生者。職業、魔術師。ピチピチの18歳。

 生まれ変わったのはFateシリーズの世界。

 そして世界線はFate/Apocrypha。

 

 説明以上。はい、おしまい。

 

 いやまぁ、初っ端からキモすぎ〜とか、お前さん第四の壁を〜とか、Fate世界ならカレスコおじさんが〜とか、テンプレ設定乙〜とか、色々と言いたい方もツッコミたい方も多数いらっしゃるでしょう。ただ、どうかその辺りに関しては大きな心を持って、気にせず流していただけたら幸いです。俺は気にしません。

 だって、そんなんいちいち気にしていたらハゲますよ? 俺はハゲました、前世の事ですが。今世はまだまだフサフサです。いぇい。

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで玉砕の衝撃を受けてそのまま気を失い、そのままの流れで前世の記憶を思い出すって間抜けを晒したのが当時8歳の俺って訳なんですわ。

 もちろん最初の方はめちゃくちゃ混乱したもんだけど、前世で推しキャラだったフィオレちゃん関係・Apocrypha関係の事から少しずつ記憶と現状を整理していく事にした。そこから前世と今世それぞれの記憶に折り合いをつけながら、受け入れながらでどうにかこうにか今の状態に落ち着く事ができたって訳なのよ。ん? 今もお前の様子はちゃんとおかしいって? そんな貴方はお口をチャック、もしくは◯ッフィーちゃんにすると良いでしょう。

 

 それはさておき、前世では推しキャラで今世では一目惚れした初恋の女の子である彼女に速攻で告白して秒で振られるとか言う特級の黒歴史を生み出してしまった訳だけど、それはそれとして記憶を整理し落ち着けた事で、俺の頭にはある閃きが降りてきた。

 

 ……原作を知る俺が黒のマスターとして聖杯大戦に介入できたら、フィオレちゃん所属の黒の陣営サイドが勝てる確率上がるんじゃね? 

 

 いやぁ、我ながらとんでもなくマーベラスでファビュラスでナイスなアイデアだと思ったもんだ。もはや天啓と言っても良いのかもしれない。

 ……そこの貴方、浅いとかありがちとか言わないでください。泣いちゃうぞ、見た目ティーンの中身おっさんが。

 

 さて、原作のApocryphaにおける聖杯大戦では、諸事情により黒のアサシン・ジャック・ザ・リッパーとそのマスターが黒でも赤でもない第三の勢力として暴れ回っていた。

 そのせいで本来なら魔術協会側の赤の陣営VSユグドミレニア一族側の黒の陣営でサーヴァントが7対7の戦いになる筈が、黒の陣営サーヴァントは全部で6騎となってしまっていた。さらに悪い事に、黒のセイバー・ジークフリートは大戦とは関係ないところで早々に脱落。黒のライダー・アストルフォは契約していたマスターの死後に新たなマスターと再契約した事で実質的に黒の陣営からは離脱。そして黒のキャスター・アヴィケブロンは自分の目的の為に赤の陣営へ鞍替えした。

 最初から最期まで黒のサーヴァントとして戦い抜いたのはランサー・ヴラドⅢ世、アーチャー・ケイローン、バーサーカー・フランケンシュタインの3騎だけだ。

 原作を知る一人のファンとして物語やその展開についてをサゲるつもりも非難するつもりも毛頭ないが、それでも声を大にして言わせてほしい。

 

 ……もうこれ、一つのチームとして機能してなくね? 

 

 もちろん、サーヴァントだけのせいではなく黒のマスター側にも結構な割合でチームプレイとして無視できない様なやらかしが確かにあった。だが、そもそもの話として陣営の主戦力となる筈のサーヴァントの半数が重要局面でほぼ使い物にならないってのはどう言う事よ? それも大戦での事以外が主な要因で。黒チームとしての、戦い以前の問題じゃないかね? 

 おまけに戦いの途中でランサーもバーサーカーも退場しちゃうから……マジで、ユグドミレニア代表のダーニックさんと途中から代表になったフィオレちゃんは泣いてもいいと思う。本当に、あのクライマックスの場面までよく踏ん張ったもんだよ、ホント。あと黒のアーチャーが過労死するぞ。

 

 対する赤のサーヴァント達は錚々たる顔触れ。

 某作家系キャスターを除いて、各々強力なパワーや能力を持った大英雄達が揃っていた。加えて、凄腕魔術師のライオンGO……失礼、凄腕魔術師の獅子劫界離さん・掟破りのマスター兼サーヴァントとして天草四郎時貞までいる。

 中立としてルーラーのジャンヌ・ダルクが召喚された事でかろうじて聖杯大戦として成立していたけれど、もし仮に原作にあった赤の陣営の企みで彼女が抹殺されていたら…………うーん、考えたくない。

 

 そんな状態の……いや、これからそうなるであろう黒の陣営を原作とは違う勝利の道へと導けるのは、原作として未来を知っている俺だからこそできる事だと思った訳だ。

 おっと、ありがちとかあるあるとかは言わないで下さいね。心はガラスなのです。

 もちろん、一人の原作ファンとしては物語の未来を変えると言う事に対して、思うところがない訳じゃないのよ。ただ、より良い未来を目指したいと思うのも、今を生きる一人の人間として間違いではないんじゃね? と思った次第だ。

 

 あとは何より、愛しのフィオレちゃんの力になりたいってすごく思う。

 

 俺は痛い事が嫌いだ。怖い事も、辛い事も、苦しい事も、しんどい事も、面倒な事も、全部大嫌いだ。少しでも楽しく、気楽に、嫌な事も辛い事もなく苦しくもなく幸せに好きな物に囲まれて生きていたいと心から思うし、そう願っている。

 ……でも、一目惚れして求婚して振られるぐらいに心を奪われた女の子が辛く、厳しく、恐ろしい戦いに身を投じる事を知っていながらただ黙って何もせずにいられるほど、俺の心ってのは強くないんだよね。

 

 だから決意した。

 この生まれ変わった原作の世界で、一目で心奪われ大好きになった彼女の為に、大好きだった原作をぶっ壊す事を。力を示し、一人のマスターとして聖杯大戦を勝ち残る事を。あの子と自分の為に、より良い未来を目指し、そして掴みとる事を。

 その為に、今日まで準備を重ねてきた。

 その為に、魔術師として研鑽を続けてきた。

 その為に、今日までの10年間を費やしてきた。

 言わばこれは、俺が俺自身に課した冠位指定(グランドオーダー)であり────。

 

 

 

「おい小僧! さっきからブツブツと何をしておるか! お前が最後だ! さっさとサーヴァントを召喚しないか!」

「ア、ハイ……スミマセン……」

 

 格好つけてる良いところだったのに、突然のゴルドさんの怒鳴り声で我に返ってしまった。

 ちぇっ、せっかく主人公っぽい回想の最中だったのに……。

 それにこうでもしてないと、本番って実感で胃がひっくり返りそうな感じなんだよなぁ……ああ、緊張して手足も震えてきた気がする……。

 

「三輪清霞。要望通り、君の召喚が最後になる様に取り計らった。次は君の番だ」

「……はい。あの、ホント色々ありがとうございます。ダーニックさん」

「なに、例には及ばない。君は我々に多くのモノをもたらしてくれたからな。あとは君の願い求めるモノの為に、まずは黒のマスターとして尽力してくれたら良い」

 

 そう言ってダーニックさんは俺に向けていた視線を外し、別のところに目をやった。つられて俺も視線を向けると、その先には召喚を終えたばかりのフィオレちゃんがいた。

 こちらの視線に気づいてくれた彼女に向かって軽く手を振ってみたら、ジトっとした目で睨まれた後にプイっとそっぽを向かれてしまった。可愛いね。

 

 俺の願い求めるモノ……と言うか、ユグドミレニア一族じゃない外部の俺が黒の陣営にマスターとして参加する事への見返りとして、何とダーニックさんは俺とフィオレちゃんとの婚約を持ち掛けてきた。

 聞けば、10年前のユグドミレニア一族とその協力者達との交流の場で、フォルヴェッジ家の長女に突然求婚したおかしな子供としてバッチリ覚えられていたらしい。

 その後はダーニックさんや通達を受けたフィオレちゃん本人と色々とあったものの、とりあえずは婚約者(仮)と言う措置で一旦落ち着いた。

 

 まぁ俺としては、前世から今世で好きな女の子と(仮)だとしても婚約者と言う関係になれた事に悪い気はしない。むしろ超嬉しい。

 その後はダーニックさんとの正式な契約によって、無事に聖杯大戦を勝ち抜きユグドミレニアに聖杯をもたらした暁には正式な婚約者……即ち婚約者(真)になれると言うモチベーションまで新たにできた。

 

 そんな感謝してもし足りないダーニックさんから召喚を促された事もあり、俺はいよいよと覚悟を決めて最終的な準備に取り掛かる事にした。

 予め描いておいた召喚陣に歪み等の不備がないかを注意深く確認していき、用意しておいた召喚の触媒を近くの台座に慎重にセッティングする。

 

「はぁ? おい、小僧貴様! ふざけているのか!? 何だその珍妙な触媒は!」

「ゴルドさん、この触媒は俺が求めるサーヴァントを召喚するのに、これ以上ない物なんですよ。あと、これでもめちゃくちゃ真剣にやらせてもらってます。フィオレの婚約者(仮)で終わりたくないんで」

 

 台座の上に置かれているのは、中をくり抜いた大きめのカボチャだ。カボチャをくり抜いたり穴を開ける作業に使ったナイフと一緒に、古新聞を敷いた所にデンッと乗っかっている。

 確かにゴルドさんの言う通り、これは何かの聖遺物と言う訳じゃないし、何か特別な神秘が宿っている物でもない。

 でも……だからこそ、俺の求める彼を呼べる筈なんだ。

 

 準備も整って召喚を前に少し身体をほぐしながら、自らのコンディションを確認していく。

 身体良し、精神良し、魂も良し、もちろん魔術回路も問題なし。そして気合いもやる気も、申し分なし! 

 こちらに注目するマスターやサーヴァント達の視線を感じながら、令呪の宿った左の手の甲に視線を落とす。そしてはやる気持ちを落ち着ける為に、意識的に呼吸を繰り返していく。

 

 …………よし、いこう。

 何度目かの深い呼吸を終え、目の前の召喚陣に向かって令呪の宿った左の手を差し出す。

 そして、この時の為にずっと頭の中で繰り返してきた召喚の為の呪文を、意味のある言葉にして紡いでいく。

 

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。手向ける色は“黒”」

 

 ……ん、よしよし。まずは問題なく召喚を始められたみたいだ。召喚陣が淡く光を放ち始め、俺の魔術回路から作られた魔力が陣に流れ込んでいくのを感じる。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

「繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する」

 

 淀みなく順調に、召喚の儀式は進んでいく。詠唱が進むのに比例して、召喚陣の輝きも引き出される魔力の量も大きくなってきた。

 

「────告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 よし、ここまでは上々だ。そしてここから、俺が聖杯大戦を勝ち抜く為のサーヴァントを形作り、そして呼び出す! 

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」

 

 周りを見渡す余裕は無いが、俺の詠唱に他のマスター達がどよめいているのを感じる。

 そりゃそうだ。本来ならこの追加の文言は、バーサーカーとしてサーヴァントを呼び出す為に詠唱に付け加えられるもの。黒の陣営には既にバーサーカーが召喚されているのだから、追加する意味はない様に感じるだろう。

 でも、俺の望むサーヴァントの霊基を作り、呼び出すにはどうしても必要なんだ、この狂おしいほどの狂気が。しかし、これだけでは足りない。

 ────だから。

 

「されど汝はその身を暗闇に浸らせ潜むべし。汝、尊き生命を手折りし者。我はその手を取りて導く者」

 

 俺が検証し考案した、アサシンを呼び出す為の追加の文言。

 もうアサシンしかクラスの空きがないからじゃなく、どうかアサシンとして召喚に応じてほしい。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―!」

 

 バーサーカーの特性……つまり狂化のスキルを持ったアサシン。即ち『バーサークアサシン』として、彼を現界させる為の霊基を作り整えた。これでおそらく、他のサーヴァントにも負けず劣らずな存在として召喚できる筈なんだ。

 ……頼む、どうか応えてくれ。その力を俺に貸してくれ! 

 

 

 

 

 

 

 ────召喚によって巻き起こっていた強烈な風と光が、少しずつ収まり晴れていく。乱れた息を整えていると徐々に明らかになっていく召喚陣の中に、確かにソレはいた。

 周囲からは驚きの……と言うより、困惑した様な反応ばかりだが、そんな事は関係ない! 

 やった、大成功だ! 彼こそ、俺が求めていたサーヴァントだ! 

 

「……ふむ。これがサーヴァント、と言うものですか」

 

 聞こえてきたのは、男性特有の低く響く声だ。

 声の主である成人ほどの大きな人影が、ゆっくりと立ち上がった。 

 黒いボロボロのマントの様なもので首から下の身体を覆っている為シルエットは曖昧で、正確な体格は分からない。

 でも、そんな事が気にならないくらいに特徴的なのは、そのオレンジ色の大きなカボチャ頭だ。

 顔の様に開けられた二つの穴の奥から、二つの怪しい光がこちらをじっと見つめてくる。

 

「魔力によるパス……問うまでもなく、私のマスターは貴方様の様ですねぇ? ならば今日と言う素晴らしいお近づきの機会を記念して、まずはこの言葉を贈らせていただきましょう」

 

 

 

 

 

「────ハッピー・ハロウィン!」

 

 

 

 

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