真面目新訳第二章 おてんば姫の望見 おまけ   作:赤色ねんね

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(52) アネイルへの道中にて

二日目。砂漠の夜の行軍は順調だった。トルネコ曰く、私達の護衛のおかげで進行方向に集中でき、行軍速度が予定よりも早いと。

私達は、いや、クリフトと私はあまり何もしていないのだけど。

まず馬車先頭では、トルネコの魔剣による炎の攻撃範囲が広く、前方だけでなく側面もある程度カバーする。私達は後方馬車にて分散待機し、側面後方にて複数まとまった敵を見つけると、ブライのヒャド呪文で対処。魔物の慌てふためく姿を見るに、これがとても効果的だった。そして単独の敵やこぼれた敵は私とクリフトの出番として出撃するのだが、広いスペースで単独の敵というのは、倒すのが容易だ。近接すれば、魔物達は馬車ではなく私に一直線に向かってくるので、動きがまず単調なのだ。クリフトの方もさほど手こずってない様子だった。

夜とはいえ、砂漠の白が敵を浮かび上がらせ、苦労もない。

そして朝になり、トラブル無く二日目の行軍が終わった。今日の野営ポイントは、三日目に利用する予定だった箇所。昨日の野営ポイントも、予定よりほどほど先行していたらしい。

食事は各テントで取ることになっており、そこから私とトルネコの雑談は始まっていた。クリフトも交えて。

話はデスピサロについて。

「やはり、戦って勝利することで、大会優勝を確固たるものとしたい、という感じですかな?」

「そんなところです」

あまり深くは考えていないけど、そんなところとしよう。それは、まるきり嘘でもないと思う。

「知人が大会を見てましてね、やはり、言いにくいですが、デスピサロは別格だったと言ってました」

「クリフト、ブライもそう言ってましたね。出場者、私は他の試合を見られないので、残念ですが」

「彼の剣、見ました!?」

「いえ、私は……」

通路で彼に会ったときに剣は全く目に入らなかった。そんな余裕がなかった、という緊張感も思い出しつつ。何か知ってる?とクリフトを見る。

「剣、というよりはレイピアのような、極端に細身の剣身でしたね。しかし刺突は、確か一度も無かったかと。斬撃のみでした」

「あれね、友人が言うには、隼の剣というものらしいですよ! ええ、レイピアではありません。あまりにも軽すぎる剣で、それはそれで一癖も二癖もあって、なかなか扱いにくいとも聞きます。……クリフトさんの剣も細身でしたが、ちょっと良いです?」

「はい、少々お待ちください」

として、隅に置いていた剣を持って来、トルネコに渡す。彼は剣を抜いた。

「ふむ、鋼鉄製の剣ですね。この細さ、結構限界まで攻めてますね。これで大体、1kgというところですか」

トルネコは剣を返却し、にやりとした。

「隼の剣、重さどのくらいだと思います?」

クリフトは視線を左上、右下に切って、答える。

「500g?」

「あれは、100g程度だそうです」

「まさか!」

「そうでしょうそうでしょう! あの重さでは、斬れません、剣と呼べる代物ではありません」

トルネコはクリフトの興味を引きつけたことを確認し、一息空けた。

「剣の素性は不明なんですが、近年ではもともと観賞用の扱いなんですよ。剣として使うとは誰も。ただ(つか)が特徴的で、美しくてですね。サビもせず、傷もつかず、美術品としては正直、値が付かないレベルです。本当かわかりませんが、100万ゴールドでやり取りされたなんて噂も知ってます」

100、エンドールからの支援額と一緒だ……。

「……話を元に戻しますと、あれが剣として振られるのが信じられんのですよ。疑っているわけではありません! ただ、どう振っていたのかいろんな人の意見が聞きたくて。何か、何かないです?」

クリフトは、いえ、と小さくつぶやいてから、続ける。

「まず、早いというのは特徴的でした。今まで見たこともないほど。振りかぶりもないような、最小限の動きです。剣筋も正直見えません。遠くから見てそうであれば、対峙するものにとっては一瞬でしょう。しかし剣が軽かったというのは、それにしては、自然な剣術でした。美しいほどに。だからこその、これは根拠ない仮説ですが、軽いから速いのではなく、あの剣術の速さについていける剣、なのかもしれません。まず速さ。そしてその目にもとまらぬ速さが、剣に重さを乗せ、斬る、のかもしれません」

トルネコは腕を組んでうなった。

「面白いですねぇ、やはり剣を振るう人の感想を聞いて良かった。早く振っての重さですかぁ、面白い。可能性はありますが、やはり常人には振れないでしょうなぁ」

「だと、思います」

クリフトも何か考え込んでいる。実は私が王代行になった後の旅のタイミングで、クリフトの剣が細身のものに変わっていた。その理由が、デスピサロの強さ、だったのかもしれない。

最近のクリフトの戦闘を横目で見ていて、手数は増えたとは思って、そういう狙いなのかと思っていたが、それは彼なりに課題として感じていたのかもしれない、剣を軽くすると斬れない、と。

正直私から見て、軽い剣を振るうようになったクリフトの剣術は、美しくはなくなっていた。いや。若干ね。体全体というよりは、腕だけで振るう傾向が増していた。そこの改善に向き合わないと強くなれない、とも、今、感じた。

……私が言っても説得力がないので何も言わないけど。オリオンがクリフトの剣術の改善点について何か言っている、と信じる。

扱えない剣の話題になったところで、昨日の天空の剣の話になり、クリフトは興味を持ったようで、そう誘導しようとしていた私はなんだか嬉しくなっていた。

 

三日目の夜間行軍は三時間ほどで済んだ。つまり、砂漠を抜けた。

そこから1時間も歩かぬ距離にアネイルという街があるが、少なくない人数で深夜に訪問すると余計な憶測を招くだろうとして、街に入らず夜が明けるまで休憩を取った。

そして夜が明け、アネイルに到着した。

商団とはここで別れる。彼らは一週間ほど、この街で商売をするらしい。私達は私達で、聞き込みをしなくてはならない。2、3日はかかるはずで、その間、まだ会うこともあるだろう。

値段の割にサービスが良いと、商団の一人が絶賛紹介していた宿に来ている。

商団の皆は宿を散らせることにしていて、良い宿を私達に譲ってくれたことになる。私達は砂漠移動中は戦闘のため馬車に乗れない時間があったり、日中の野営時の見張りを率先して引き受けたこともあり、皆からいろいろと優遇してくれる立場になっていた。皆請け負っている役割を同様に、私達ができるものを、果たしただけなのだが。

良い気持ちで、宿の部屋に入ることが出来た。私で一部屋、クリフトとブライで一部屋だ。本当は、商団の皆が考えたような配慮をなぞり、三人で一部屋で良いと提案したのだが、二人に断られてしまった。まあ、固執することでもない。

このアネイルは温泉というものが名物で、そのため?、小さい宿屋含めると10程の宿屋があるらしい。街の中で宿屋組合が強いと言える。商団の利用が偏ると目を付けられる可能性を考慮し、商団は宿を散らしたのだ。なんとなく私達も、二部屋よりは一部屋の方が良くない? まあ、それが弱い根拠なのはわかっていた。

さて、昼食時間までゆっくりしようか。荷物を下ろしてベットに腰掛けて初めて、自身の疲労に気づき、枕目掛けて体全体を使った頭突きをするのだった。

 

そして1日ちょっとをかけてアネイルを調査。周辺には洞窟が無く、私達としては戦果無しという結論となった。

そうだ、そういえばアネイルの教会は天空の鎧と呼ばれる白銀の鎧を所有していて、希望者にはその安置部屋に通してもらうことができ、見せてもらうことができた。ただし事前にトルネコからは、意匠に力が入っただけのただの鎧で、装備品として骨董品として価値は乏しいと、天空の剣の参考にはならないとは言われていて、そうなのかと思いながら鑑賞した。私には利く目は無いが、こんな綺麗な装備で戦闘するのは、笑っちゃうくらい違和感がある。なんだろう。王にも貴族にも騎士にも儀仗兵にも似つかわしくない、鎧と言うには異物とも思えた。目的が想像できない。戦闘ではない。何か生き物を表現しそこねたような代物。ああ、仮に私が本物の天空の剣や鎧を見たとしても、なんだろうこれとしか思えないのだろうな、と思った。もっと別の感動を期待してしまっていた。自分の感性を信じすぎていたのだとも思う。反省。

 

さて、戦果無しということで私達三人は、滞在二日目夕方にアネイルを発ち、さらに南下を開始した。目指すは世界一の貿易自由都市、コナンベリー。人も物も集まれば、情報も集まる。期待できる。

途中行軍は油断せず。木々で視界も聴覚も邪魔されたり、全方位集中が必要だったりと、しかし太陽の明るさのちょっとした安心感。そういった砂漠との差を楽しみながら。

 

翌々日。ます柵が見えたかと思ったが違って、帆船のマスト群が海と陸との境に見え始める。私達を歓迎する彩り多種の祭事旗のようで。そんな港街、コナンベリーに到着した。

コナンベリーと言えば大灯台というのは、本で読んだこともあり、私でも知っている。街のある海沿いからは少し離れた森の中に、それは屹立している。古びた塔で、いつから灯台として役目を担ってきたかの記録は無い。また、塔の頂上で焚かれている炎は、人手の管理もあって、途絶えたことなく燃えさかっているという。その炎は曰く、神から授かったものとして、現地の信仰対象にもなっている。……雷から火種を得たということかな?

信仰の対象とは言っても、灯台の管理は聖教が半分を担っており、私達から見てここの信仰はそれほど異教というわけでもなさそうだ。灯台がいったいどんな雰囲気なのか興味はあるが、この旅で訪れることはなさそうで残念。いや一応、地下が無いか聞いてみても良いか。

さて、コナンベリーの街だ。東は噴水広場を中心として放射線状に道が整備された住宅エリア、その西が南北を貫く一本太い、商店大通り。さらにその西は海に面した船着き場として、整理された構造をしている。総じて、建物や道路に古さは感じられない。街としては歴史があるはずなのに、不思議だ。規模が小さいからこのように保てるのか。行政府はどのような構造なのか。予算規模と用途内訳は。興味は尽きない。そんなことを、商店大通りの人込みに紛れ、三人で話していた。

さて、夜、酒場だ。その建物はやや古びていたが、エンドールの酒場ほど大きく、ほぼ満席で、笑い声がそこらで爆発していて、何かエネルギーをどうしても感じてしまう。エンドールでは人の多さに圧倒されたが、コナンベリーではエネルギーだ。活気というものにも、大小ではなく種類がある。

折角なので三人別れて、酒場内にて情報収集にあたる。ただ結論から言って、コナンベリーから離れた地域の話は聞けたがそれでも、人の生活圏に地下洞窟があるなんて話について、有力な情報は得られなかった。

「街の下に洞窟なんて、そもそもあり得ない気がしてきたわ……」

「それで絞り込めることができれば楽ですが、候補がそもそも無ければ、そうですね」

「現地に赴いての姫の直観が頼りですな」

それ、最近は全く自信がないのだけど……。宿までの帰り、そんなことを三人で話していた。

 

コナンベリーの次は、船で少し南下したところにあるソレッタ大陸へ。まずその玄関口の街、ミントスへ足を伸ばす予定だ。ソレッタ大陸は広大ではあるが集落は大きくは二つのみ。時間があるならその二つを回ろうとしていた。具体的にどこまで回るかは最初の街、ミントスにて決定することとなっている。ミントスは学問が盛んと聞く。そこで何か、今後の方針に関わる有力な情報がつかめればと思う。

さて、そういうわけで、ミントスへはコナンベリーから定期船で渡る。出航時間は早い。港、横付けされた船の前で、乗降用ブリッジの入場待ちロープの前で待機していた。

船、だ。サランからフレノールへの移動で先々週に船を利用してはいた。しかし精神的に忙しなかった。落ち着いて、船をまじまじと観察すると、興味がつきない。昔は舵輪だけで船を操作できると思っていたなとか、この船は何人くらいでマストの開きを変えるのかな、などと期待に胸膨らませていた。

と。すぅっと、クリフトの息を吸う声がした。振り向く、何か発言するかと思ったが、何も無い、いや、あの顎の筋肉の張り。もしかして、あくびを噛み殺している?

「寝てないの?」

「いえ、……はい、そうですね」

と中途半端な回答。

興奮して眠れなかった?とは聞けなかった。私の状態をばらすわけにはいかなかった。

でも、はて、彼には船を前に緊張している様子は無い。もう慣れたのかな。ただこれは、変につつかない方がいいな、聞いてしまうとそれがきっかけになるかもしれない。私は視線を船体に戻した。

そういえばこんな木組み船体で、どうやって海水の浸入を防ぐんだろう?

そんなことを考えていた。

 

船は予定時刻を大幅に超過し、昼前の出航となったが、船員による荷交換が大変そうであることを目の当たりにしたので、何も言うことは無い。それよりも今の、航行の楽しさが勝る。

甲板の上で他の旅客にまぎれ、360度の風景を楽しむ。

帆に風を受けて進む船。海上にはそれしかいない。……いや、後ろも前も、陸は見えるので、多少の誇張表現ではある。外海なら本当に海で孤独になれるのだろう。それはとても、すっきりしそうな情景だ。

風を感じながら、マストの開き具合から、船の挙動をつかむ。舵輪がどちらを向いているかはわからないけど、それでも、船の意思がわかったような、私自身が船体一部となったような、錯覚じみた全能感を覚えてしまう。クリフトやブライは、いやブライは知っていそうだ、クリフトは帆船の仕組みを知っているだろうか? そう思って甲板階段下りて回り込んで二つ目のドア、船室に戻る。

「あ」

クリフトは寝台で寝ていた。

「寝不足だったようにございますな」

とブライ。

それは、そうか、残念だ。船はあと二時間ほどで目的地に到着する。甲板にいれば、先程までのように、相当短く感じるはずだ。上の甲板に戻ることをブライに伝え、ドアを静かに閉めた。

 

時間が経つのは早い。着港が近いということで下の部屋に戻り、クリフトを起こす。のそっと起き上がった彼は顔面蒼白で、具合が悪そうだった。

「大丈夫!?」

「……すみません、気分が、少し。もう到着するんですよね? 出る用意を……」

「船酔い?」

「かも、しれません、すみません、船酔いした経験が、ないもので」

「わかったわ、とりあえず、出るにせよ、街まで距離あるのよね……」

港から1時間ほど歩いたところに街ミントスがある。その間に往復馬車はあるが、それを利用するにはコナンベリーで予約する必要があった。ミントスまでは歩く予定だったため、予約はしていない。

港にて馬車行者に、馬車をもう一つ手配できないか相談していたところ、私達に馬車予約を譲ってくれた旅行者がいた。ありがたく使わせてもらった。

そしてミントスに到着。小さい街ではあるが背の高い建物が整然と並び、遠目からは要塞をイメージしてしまった。それは誤解なのだろう。一刻も早くクリフトを休ませようと思い、空きがあるだろう一番大きな宿を使うこととなった。部屋は空いていた。変わらず具合の悪そうなクリフトは寝て、私とブライは今後のことを話した。すぐにクリフトが良くなることを信じて。

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