真面目新訳第二章 おてんば姫の望見 おまけ   作:赤色ねんね

16 / 17
(66) パデキアの洞窟への道中にて

早朝、ソレッタを発ち、さらに南下、国の保管庫を目指す。日が暮れる前に着くかというところ。

ソレッタの南にアルテト山と呼ばれる山がそびえ立っている。麓にある天然の洞窟は、中の温度が通年氷点下近くまで下がり、何かと保存に良いとのことだ。その洞窟を整形・改築したものを保管庫と呼び、今回の目的地としている。パデキアの種自体も、冷温保存が必要とのこと。果たしてその保存が今でも有効なのか、か細い糸に思えてくる。私の第六感が働かないよう、深く考えないことにする。

そうして夕方には、山麓にある、無骨で大きな扉の前に到着した。保存庫の扉だ。山の切り立った壁に両開きの金属扉。山全体が巨大な城にも思えて、そうであれば扉は小さい。なんだか滑稽だ。

さて、解錠しなくては。褒められた作業ではないので、それを秘するため、皆には扉の前の私から距離を取ってもらう。

懐から盗賊の鍵を取り出す。よし、問題無く鍵穴に入る。それを刺し、ゆっくり回して、硬い、硬い、硬い、折れた。……枝が全て、根元から折れている。つばを飲み込む。扉をノックする。存外軽い音が返ってくる。これは厚さを意味する。とても破れそうにない。

中の鍵構造が固まっている? 扉に埋め込まれた鍵の部分に軽く掌底を放ってみる。こんなことで改善されるだろうか?

「リフィルさん!」と彼女を呼ぶ。 

「どうしたの?」

「お願いが。中の金具が固まっているようで、ギラで暖めてもらえませんか?」

「あたた!? ええと、加減が全然わからないのだけど?」

「では私がストップと言うまで」

「わ、わかったわ……」

として、炙ってもらった。しかしそんなもの、当てずっぽうだ。状態が悪化しているかもしれない。やらずにはいられなかった。しかし多分、熱すぎても良くないだろう。

少しは冷まそうとしてそれまでの時間で、枝をできるだけ太いものに選別しておく。これが失敗してしまうと、まずい。

再度、鍵穴に入れる。回す、硬い、硬い、鍵を回そうとしながら、扉を掌底で強くノックし続ける。開いて。開いて。硬い。どうしてこんなに、か細いのか。汗が背中を濡らす。別にこれだけではない。パデキアは無事なのか、クリフトに間に合うのか、全て綱渡りだ。まだその一歩目? 楽になりたい楽になりたい楽になりたい。つい力が入った。動く!? そのまま鍵を捻り切った。音が出ていたかわからない。果たして、扉は動いた。

「ななな、何やってたんだ!?」

とロイドが駆け寄ってきた。

「は、はは、それは秘密だけど、開きました……」

私は座り込んで、枝が全て折れた鍵を持っていた。

「大丈夫? いける?」

とリフィルが聞いてくる。

日はもう落ちるが、保管庫に入るに昼も夜もない。このまま中を探索することになっていた。

「もちろん、行きましょう」

まだまだやることがある。私は立ち上がった。

 

さて、中だ。

隊列はさほど変わらず、ロイド、クラトス、リフィル、私。

松明係は前後、ロイドと私。

最初、扉を火炎で熱したことの影響かと思ったが、リフィルが、

「あまり、寒くないのね?」

と、こぼした。寒くないというよりも、まず外よりも暖かい。

「確かに、変ですね。壁に氷があって、ですけど、表面は溶けている。先ほどのリフィルさんの呪文の影響?」

「まさか、扉を挟んで、あの程度でこうは」

不安が大きくなる。パデキアの種は低温で保存されなければならない。ゴールまであといくつのハードルを無事越えなければならないのか。その数はぽこぽこと増えていっていないか? 早く、早く。

いや、氷の表面が溶けている程度ということは、その変化は起きてまだ時間が経っていないとも言える。

まだ、まだできることがあるかもしれない。

通路を進み、魔物3匹を倒し、広いスペースに出た頃には、ソレッタ王からもらった毛布がふさわしい温度になってきて、一つ安心。周囲の氷はやはり一部溶けてはいるが、この寒さでは、じきに固まるのでは? 手がかりも無く、先ほどの暖かさ含め、忘れることにした。

その広いスペースは天然の空間だった。大きな岩が複雑な段差を作り、空間の見通しを悪くしている。一見、崩落後の何かにも見えたが、氷の発生具合や、何年も経過しただろう人の足跡から、おそらく、昔からこの状態だったのだろう。

「これは、少しやっかいだな」

とクラトスが口を開く。

「なるほど」

「ん? どういうことだ?」

「スペースが広すぎる。見渡しが効かん。敵の掃討はできないな」

クリフト、ブライとの三人で洞窟攻略の際も、スペースがあればそこに見える魔物を全て倒していた。

「でもどうせどこだって沸いて出てくるんだろ?」

「そうだ。それでも可能な限り退路を安全に保つのが定石だ。敵も弱くはない。それと、この音だ」

「音? 問題でもあるのか?」

遠くのどしゃぶりの雨のような音が途切れない。音は反響して低音が目立ち、その正体を掴みにくくしていた。

「おそらく壁の中を水が大量に流れている。壁や床の氷もそこから来ているのだろう」

「へ~、滑らないように気を付けないとな」

「そうではない。敵の接近音を捉えにくくなるということだ」

「ああ確かに。なるほどなー」

その広いスペースを多少探索するも、広すぎるため、全容把握よりも、今見えている枝葉の通路を探索することとなった。足跡はぽつぽつと、しかしどの方向にも見えて、探索を絞り込む材料にならない。地図も昔に紛失したとソレッタ王から聞いていたが、その損失を実感する。一つ一つ潰して行こう。

として、枝葉を三つ潰した。それら枝葉は通路自体が人工に掘られたもので、そしてそれも掘削された小部屋に繋がる。収納箱がいくつか設置されているが、無視する。パデキアは一番よく冷える部屋の中央にぽつんと置かれている、という情報があるためだ。それを言われた途端に、その部屋のイメージも浮かんできた。信じよう。

その三つ目の部屋で大休憩を取ることになった。部屋入口には扉もあり、野宿よりも安全だろうという判断だ。焚き木の都合、さすがに部屋が暖まるというので念のため、収納箱の中身をさっと確認する。衣類だった。儀式的な、あるいは歴史的な何か。

歴史? 明日も知れない私からすると、何だか笑ってしまった。

 

そして、大休憩の後、探索を再開。まず広いスペースに戻ってその周囲の壁沿いに、未踏破のところを確認していく。その広いスペース、スペースとは言ったが、瓦礫や倒れた氷柱やらのアップダウンはあって、見通せず、進みにくいのだが、更に下に潜れそうなスペースを発見した。それは、斜めよりはほぼ縦の、縦穴とも言える。岩や氷で自然に構築された足場が穴側面にあって、それらを利用して下っていくことが可能だ。踏みならされた、人が通った痕跡もある。この保管庫、というにはもう洞窟といった方が適切だが、その上下構造を早めに確定させるためにも、その穴に潜ってみることになった。とはいえ、ロイド達の持っていたロープの長さ30m。そこまでの探索となる。ロープを備えるという考えがあると初めて知った。彼らがそれを持っていて良かった。

……しかし、これは、滑る氷を避けたとしても、足場が崩れない保証はなく、足を取られないことを祈るしか。魔物が出たとしても、冷静に、

「のぅわぁぁあああ!」

あ、先導するロイドが滑った。しかしロープがあるため、

「けへっ」

あ、背中を打った。ロープから手を離した!?

穴に入る前、全員が松明を持つことにしていた。

「のぉぉぉおおお!!」

ロイドの持つ松明の明かりが、ロイドと共に穴を落ちていく。見る、見る。

「私、行きます!」

としてすぐに穴に跳んだ。今は私の松明が届いていない暗いところも、ロイドと共に落ちた松明のおかげで、足場が脳裏に焼き付いている。もちろん崩れない保証はないが、一つ一つ、跳び降りる。

その足場群に視線を集中していて気付くのが遅れたが、ロイドは穴の底で座り込んでいた。深さは25mもなさそうだ。

「ロイド、無事みたいです!!」

とは叫んでみたが、周囲の音のため果たして上に聞こえるか。私も底に到着。

「いてて、ぴりぴりする……」

とロイドは手のひらを見ながらつぶやいていた。

「大丈夫? 怪我は?」

「ああ、いや、大したことなさそうだ。いやぁ、離しちゃうもんだな」

と笑いながら、立ち上がって、服についた砂を払っていた。

周囲を確認する。これは、通路の途中の天井がぽっかりと開いていて、そこから二人で落ちてきた格好になる。

そして私達の左右に通路が続いていて、光、え? 誰!? クラトスかリフィルが別ルートで下ってきた?

「おやおや、まさかレナさん?」

とその光の、松明の主が言う。

「あれ? ……トルネコさん!?」

「いやぁ、奇遇ですなぁ! こんなところで!」

「それはこちらの台詞、です……!」

彼はもう一人を連れていて、誰?と思いながら、その向こうの同行者も、誰?と言っていて私は、

「彼はロイド。今、共に旅をしている仲間です。あと上に二人、合計四名でここを探索しているところです」

「ははぁ。こちら、彼女は、」

「マーニャ。よろしく。強いの?」

彼女は不機嫌そうで、最後の問いはトルネコに向けてのものだった。

「ええもちろん! 私なんかよりもよっぽど強いですよ!」

「マジでぇ!? よかった~~……」

と彼女は、両膝に手を当てて屈み、溜息を吐いていた。

ピンクストレートの明るい長髪が、この洞窟の中でも映える。ボリュームある毛皮のポンチョで上半身をしっかり包み、しかしその、下半身、何か履いているんだよねと心配になる、ポンチョから長い脚がスラリと伸びていた。

あ、ロイドが脚を凝視している。やっぱり心配になるよね?

俯いていた彼女が頭を上げたタイミングで、ロイドは視線を逸らした。私も。

「あなたたちも、まさかパデキアを?」

とトルネコに聞いてみる。

「ええ! ちょっとした人助けで、はい。まさか先に入った冒険者がレナさんたちだとは!」

ああ、クリフトやブライと一緒じゃないことは後で言っておかないと。

「あなたたちは、二人で?」

「まさかまさか。私達は五名です。途中、私達二人が滑り落ちてしまって別れてしまい、合流できないかと模索していたところです」

なるほど。

しかし2パーティーがここを探索していて、ここまでお互いに気付かないとは。

「この穴の上に仲間がいます。仲間と相談次第ですが、そちらの仲間の三人に会うまで、なんでしたらご一緒しましょうか?」

「ありがとうございます! 大変助かりますが、代わりに、保管庫入口まで送ってもらうというのは良いでしょうか? そこを、分断された際の集合場所にしていまして」

合流場所か、それは面白い。一度パーティーが分断されて反省でもしないと至らない発想に思えた。私達もそれは決めておいた方が良い、なるほど。

「わかりました、でしたら、そうしましょう」

としていると、上の穴からリフィルが下りてきた。

「……どちら様?」

さらに下りてきたクラトスと合わせ、自己紹介や入り口まで送り届けることの共有を済ませた。

そして入口へ。穴を登ることにマーニャからは不満が出たが、知らない道に賭けるよりはと、我慢してもらった。

保管庫である洞窟を出た。時刻は正午近く。明るさに目を慣らす。そういえば、洞窟に一泊というのは今まで無かったなと初めて気付いた。塔での一泊とは別の、地上の開放感だ。

外には馬車が留まっていて、トルネコらの所有物と聞く。なるほど、馬車か。外を進むとき、数名を休ませながら道中を進むことができそうだ、などと考えたが、いけない、私ひとりならいざ知らず、複数人で動くとなればもっと真面目に休憩を考えなくては。

久々の外ということで、私達も休憩を取るには良いタイミングではあったのだが、寝袋などは洞窟内の小部屋に置いてきてしまっている。次の目標地をその小部屋として、二人を残し、すぐに、再び私達は洞窟に潜った。

 

部屋での小休憩の後は、ロイドが先程落ちた縦穴の先を探索した。掘削された通路が若干複雑に分岐し、小部屋に繋がる。室温の低い場所を探した試行錯誤の掘削跡なのかも知れない。

三つの部屋を見つけて、トルネコの言っていた行き止まりも一応確認しつつ、しかしまだこの階に未踏破エリアが残っている。上階はトルネコの話と合わせてもまだ未踏破の場所はあったが、この今の階、下層は温度もさらに冷え、この層に探索を集中すべく、いっそ拠点をここの小部屋にしようと、いったん荷物を取りに、上層の小部屋に戻ったときだった。

「ふぃー、おつ、おや?」

とは入室先行したロイドの声。

彼は部屋の床に置かれた1枚のメモを見つけた。

「パデキアの種を見つけた、ソレッタ国に帰還する、トルネコ、って」

おお?

皆で顔を見合わせる。

そうか、先に、見つかったのか。この可能性はあまり考えていなかった。

トルネコの言葉は信用できた。

これは、ハードルを一つクリアしたということ。着実に。

息が一つ出た。

「では、戻りますか」

と私は言った。

 

逸る気持ちを抑えながら、すぐにソレッタへ向かう。

「ちょっと俺、先に走って行っていいか?」

と、ソレッタに近づいた時にロイドが提案してきた。

それ、私が提案しようとしてずっと迷っていた台詞だ!

「いや、」

とクラトスが否定する。

「皆で走れば良いだろう」

それ、私が思いつかなかった展開! 悔しい。

そうしてソレッタに到着した。

王の家への道中に、利用した宿の小屋がある。

走るスピードが上がる、ロイドのせいだろう。

彼女は宿の前にいた。

「コレット!」

「ロイド~~!!」

二人は両腕で抱きしめ合う、あ、ロイドが倒された。

「いて、痛ぇ! ちょ、ちょっと重たいって!」

「すぐ治ったよ! ありがとう~!!」

どうやら、彼らは大丈夫そうだ。そうか、良かった。

もういいかな。

「では私はここで」

「待て」

クラトスだ。

「ここまで来れたのはあなたのおかげだと認識している。感謝する」

リフィルが何度も頷く。

「いや、私は何も」

「そんなことはありません! 保管庫の扉を開けたのは貴方、あの五人パーティーを助けたのは私達、つまりあなたです。あなたがいなければどうなっていたか」

そう、なのかな? よくわからない。

私は別に、先にパデキアを取得されて、それほどショックは受けていない。今は、一刻も早くクリフトに届けたいと思うだけだ。ただそれが終わった後、私はできることをやったのだと、自分が自信を持てれば良いとは思う。そのための材料を今もらっている。

「ありがとう」

クラトスと目が合う。

「あなた、意外とパーティのことを気にかけているのね?」

彼は30度視線をずらした。

「私の仕事がやりやすくなる分には良いだろう」

「そうね」

ふふ。これ以上の言及はやめておこう。

「では、私はこれで!」

と、ロイド、コレットにも聞こえるように言った。

ロイドは下敷きになりながらも、手を振って、

「ありがとう! すげー楽しかった!」

と答えた。

コレットは立ち上がって、私にお辞儀をし、

「ありがとうございました!」

と言った。

私は何もしてない、という気持ちが強くなったが、それもやめておこう。

私はロイド、コレットの方を向きながら、手を振りながら、走り抜けた。

 

ソレッタ王の家にて。

「無事でなによりだ。話は聞いたか?」

「別の冒険者が種を入手したということは!」

「ああ。薬となる根もすでに取れている。持って行くだろう?」

「はい」

「これだ。飲み方の書いたメモも入っている」

小さい袋を受け取り、中を見る。

確かに、根と、紙。

紙に目を通す。

「漬かるよう切り刻むのは問題無い?」

「ああ」

「飲ませる煮汁の温度は?」

「飲める温度ならば熱くても、冷めていても良い」

「なるほど、ありがとうございます」

紙と袋をカバンにしまった。

「こちらこそ、感謝する。扉を開けたのはあなただろう。冒険者は貴方に助けられたとも言っていた」

「いえ、王も含めた、皆の協力あってのことです。その、冒険者は今?」

「根を得次第、すぐに出ていった。そうか、足止めしておけば良かったか」

「いえ、それには及びません」

「まず、ミントスまでの道を北上しているだろう。あなたならば追いつくのでは」

「そうだと良いです」

可能ならば彼らに一言、お礼がしたい。

「あとは、あなたにとってもそれに価値があればと、願っている」

彼は私がパデキアを入れたカバンを指した。いや、そこは揺らがない。

「ありがとうございます」

と、私はカバンを撫でた。

「謝礼は受け取ってもらえないとのことだったが、一人二日分の物資くらいは良いだろう?」

と、袋をくれた。

「ありがとうございます!」

これは、お願いしておけば良かったと道中気付いた事項だった。

「あとは、もう、あなたを引き留めるのは罪だな」

「申し訳ありませんが、お礼はまた後日ということで!」

「いらん。私の趣味の範囲内だ」

と彼は笑いながら、奥の部屋に消えていった。

私は一礼して、家を後に、駆けた。

逸るな逸るな、確実に、行こう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。