真面目新訳第二章 おてんば姫の望見 おまけ   作:赤色ねんね

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(47) エンドールにて

目立たぬよう今回もエンドールへは陸路と、旅の扉を使って。

途中野宿を一度挟み、昼に入る前にはエンドールに到着できた。

 

残念ながらここエンドールでは、王代行としての用事がある。

宿で束の間の休息を取り、正午には三人で城へ。表向きは、武術大会優勝の祝賀の参加。裏の目的は、サントハイムへの援助を依頼すること。その程度の概要は、すでに文で王とやり取りしている。

取り次がれ、城内の受付にカザフが現れた。

「ご苦労」

私をレナとして扱ってくれることに安堵する。

武術大会時は紺のローブを身につけていた彼だが、今は真紅であることが気になる。

大会スタッフの服装が赤だったため当時重複せぬように紺にしていた、あるいは?

「またお世話になります。それと、昇進、ですか?」

彼は武術大会の後に、執行部から外務部に転籍していた。

「悪夢だ」

と彼は吐き捨てる。昇進という点については否定はないようだ。エンドールで赤は意味のある色のはず。

彼は姿勢を正す。

「向サントハイム外務官のカザフだ。よろしく頼む」

えーっと、私の肩書きは、無いな。

「レナです。改めまして」

「早速だが。……レナには着替えて貰う」

着替え?

引っかかる。

「レナとしてってこと?」

カザフは目を細めた。

「そんなわけ、ないだろう?」

「な!? 文では、レナとしてという話だったはずです」

カザフは涼しい顔だった。

「無論その話は承知している。だがこちらとしては、王命だ。曲げるつもりはない」

……うーん、私としてはレナの方が気軽ではあるのだが、それ以上に、私が国を出たことが公になるのは、だめだ。

その逡巡はカザフにも伝わっていて、

「公にしない配慮はする。それも王命だ。安心しろ」

と言った。

私は了承した。クリフト、ブライとはそこで別れた。

 

まず私に一人のメイドが付いた。

30代後半と見える、落ち着いたにこやかな女性。名をローズと言った。

彼女にも、私の身分は明かさない方が良い、とのカザフの提案に従うことにする。

……となると、どういう立ち振る舞いを取るべきか非常に迷うのだが!

いやいや、私は商家の娘に過ぎないのだ。それに気づき、王家の色は引っ込め、ひたすらおどおどとしたレナのままで通すことにする。

次は仕立屋と面会、と言っても、一方的に私の姿勢をチェックされた程度。

すでにドレスは調整を残す程度らしい。

この仕立屋の男性、闘技場で見た記憶がある。会場に繋がる扉前で待機していたときだ。スタッフだろうか、こちらをずっと見ているな、とは思った。将来の私の即席ドレスを用意すべく私を見るためだったのかも。

しかし、あれから、一月も経っていない。きちんとした採寸も仮縫いも無しにこの短期間にドレス一着は、多分仕立てられない。つまり今回、私に大層なドレスはあてがわれないと言える。

過剰な待遇とはならない印象に、少し安心した。

その後は入浴。メイド一人とはいえ、素肌を晒すのはかなり抵抗があった。

でも多分それは姫だから! 私は商家の娘! 文字通り、歯を食いしばって耐えた。

振り返れば、それは人に体洗いを許すことに慣れていない仕草となるため、良い目くらましとなったのかもしれない。

涼んで、肌と髪を整える。

浴場もそうだったが、この入浴後の小休止スペース、サントハイム王城と比べて二倍は広い。日光がよく入り、余裕があり、隔世の雰囲気がある。

……こういう施設により、外部の客人に対し、交渉前に国力を知らしめる意図があるかも、なんて思った。

別に眉をひそめることではない。これも国家運営の基本。

さて、お次はドレス。

良かった、どう考えても王族のためのドレスではない。淡いイエローのシンプルなロングドレス。スカート部は、より淡い黄色でのシャドウストライプで多少の存在感を醸し。肩、パフスリーブの形は、長さといい陰といい、好みではある。

そこに白のストールを羽織る。……寸法をごまかしてる背中を隠すためだ。

後ろの、腰から背中、首元に至る左右の合わせは、着る人間に合わせて即席で縫い付けるという、かなりの荒手術だった。

そういったドレスの整形が完璧ではないため、例えば肋骨の前方が変に圧迫される。まあ、耐えるのみ。

そんな一連の用意に三時間ほどはかかったか、最終的にカザフの誘導で、とある部屋へ通された。

中には、エンドール王フィリップと、その娘モニカ。食堂だ、とてもコンパクトな。いや、会食としては小規模というだけで、プライベートに使うなら必要十分な広さ。

「三週間ぶりだな、アリーナ姫」

と王は立って迎える。私は礼を取った。

「お久しぶりです、王。この度は望外の会食、光栄にございます」

「まあそう言うな。そなたとは気兼ねなく、話をしたいと常々思っておった」

こちらとしては気疲れしかしないが。

カザフも部屋に入っている。部屋には合計四名。

「こちらへ」

と部屋中央のテーブル、その右への着席をカザフから促される。

その、椅子を引くのはあなたの仕事なの!?と一瞬言いたくなったが、王の前だ、それどころではない。

座る。正面やや左にモニカ姫、右手には王、一方左、テーブルからも離れた部屋隅の椅子に、カザフが座って、いや、立った。カザフが部屋の外から配膳台を持ってくる。

食事! いやでも、あなたの仕事なの?と、またカザフを凝視してしまう。カザフは涼しげに配膳作業をこなす。私の視線は王にばれていた。

「ここでの話は機密だ。部屋にはこの四人のみ。部屋に人が近づかぬよう兵も見張らせておる。遠慮はいらぬ」

話せることが増えたのはわかるが、それはそれで、王からのプレッシャーが……、とは口が裂けても言えない。

食事か。まずサラダ……、見たところ、新鮮な生魚も混じってる!?

こういうレベルの食事は、いつぶりだろう? 見ただけで、口の中が緩んでしまう。

いやいや、教会の食事だって、そんな質素なこともなくワイルドなところもあり、好きよ?

しかしこのクラスの食事となると、味は見た目で判断できなくなる。予想外の味の組み合わせが調和をもって攻めてくる。そういうものと思っている。なるほど、私はそれに飢えていたようだ。

楽しみで仕方が無い。

「では、食事を楽しむとしよう」

という王の合図で、ではまずサラダを。

ふ、ふふふ。ああ、食欲を刺激されているなぁと思う。

いったん、ブドウジュースで落ち着くことに。先ほどワインかジュースか聞かれ、選択していた。楽しみたいという意味ではワインに決まっている、しかし残念ながら今回は、楽しむために来たのではない。

王と目が合った。軽く鼻で笑われた!

「話は後にするか。建前とは言え、祝勝を兼ねておる。存分に楽しまれよ」

と王は、テーブルに載った皿達を手で示す。

だめだ、どうしても、表情に出てしまっていたようで。良くない良くないと思いつつ、カザフの運ぶ次の皿を目で追った。

 

メインの肉料理が終わるまでは一瞬だった。軽い雑談も挟みつつ。

しかし王も王女も、あえて深くは話を掘り下げて来なかったが、

「さて、そろそろ良いか」

ここから本題だ。

「援助という話だったな。認識合わせを行いたい。手紙でも一通りの説明もあり、噂もこちらに入ってきているが、改めて、サントハイムで何が起きたか説明を頼めるか」

「はい」

話す。

丁寧に話したつもりだったが漏れもあり、適宜、例えば、

「人が争った痕跡、乱れた痕も無いということか」

といった質問を適宜してもらえるおかげで、遠慮無く要点に絞って説明できた。あちらで興味のあるところが説明に漏れていれば、質問して補ってくれるという安心感だ。説明しやすい。

一通りの説明が終わり、王は大きく深呼吸した。

「そして、そなたはこれからエンドールを発って、どうするのだ」

もちろん、お父様の夢の話や、私が調査を続ける話は、今の説明で上手く避けてきた。

触れずに終わることもできる。しかし。血の繋がった王家同士だ。言えるところは言おう。そう思った。

……いえ、もちろんエンドールまで危険に巻き込みたくないので、その意味では言えることはほとんど無いのだが。

「内容をお話しするだけでエンドールを危険に晒してしまう可能性があり、多くは語れませんが、消えた人々を奪還すべく、国外を調査する予定です」

この程度だ、言えることは。罪悪感。王の眼光が険しくなる。

「我々にできることは?」

「とんでもないことでございます! ……いえ、国への援助は、お願いしたく」

「それはもちろんだが、もう少々その調査に直接的にだな……。私が把握している、各国地域の直近動向をまとめたものは役に立つか? 大したものはない印象だが、そなたにとってはどうか」

「それは、少し面白そうですね、是非」

「わかった。明日の朝で良いか? 10時までには、書類を宿に届けよう」

王の目配せにカザフは頷いた。

「では、本題の、援助の話と行こうか。資金と、人材というところか?」

「はい……」

私から、言うのだな?

「例えば、100万ゴールドと」

「良いぞ」

と、言い切る前に快諾された。

え?

「貸与ではない、譲渡でよいな?」

私は逆に聞き間違えているのだろうか? 貸与と譲渡。

「あとは人材、武官文官どれほどだ? 分野の指定はあるか?」

話がどんどん進む!

「武官です! 例えば、20名ほど」

現存しているオリオンは第二隊と若干名。業務を回すことにかなり苦労していた。隊がもうひとつあればどんなに楽か。

「20、良いぞ? 足りるか?」

「足ります」

もう一声上げたくなるが、国内の兵の中で他国の兵が多すぎるのも考え物だった。王はふと笑う。

「念のためだ、敬虔な兵を選ぼう」

「ありがとうございます。あの、武官の話、一名は指揮経験があると、嬉しく思います」

「そう、だな。だが役職者は付けない方が良いだろう。……指揮官候補をつけよう、それも有望な。そちらでも表向きは、指揮官では無く指揮補佐として使うと良い」

「ありがとうございます!」

「さて、文官はどうだ?」

兵士はお借りできればと思っていたが、それ以外の事務方については、国内で話を詰めてこなかった!

何か、何か無いかと脳内を回転させる。

「ええと、あの、サントハイム法に知見のある方、なんて?」

私が代行として指示し動く際、あらゆる行動が法に照らして問題無いか、調べることに苦労していた。

四人程で分担して既存法を調査し、対応していたが、一人の総合的横断的な視点があればどれほど良いかと、カイラス様は漏らしていた。

分担者としてクリフトも、最終確認者がいないことを懸念として上げていた。

「一名、良いぞ」

いるのか。……エンドール、なんと強大か。恐ろしくもある。

「他には」

「いえ、ございません」

考えると他にも出てくるかもしれないが、もう即答するしかなかった。

王は数秒間、斜め上を見た。

「うむ、そうだな。他に何かあればその時に、どんな手段でも良い、こちらに伝えるように。援助の話は、ひとまずこれくらいか」

「はい、非常に助かります」

王は一息つき、表情を和らげた。

「さて、では1つ、こちらからも報告がある」

「はい?」

悪い話、ではなさそうだが? 今まであまり話に入ってこなかったモニカ姫が姿勢を正す。王が言う。

「我が娘、モニカだが、結婚が決まってな」

「それは、おめでとうございます!」

この短期間で?

姫を見る。確か、思い人がいたという私の当時の見立てだ。

「願いは、叶いましたか?」

と聞いてみた。姫は小さく頷き、俯いた。表情が漏れる。

ふふ。それは、良かった。

「式の日取りは決まっているのですか?」

「それがな……」

おや、表情が暗い。

「六日後に、式を上げる」

「えっ!? ええと、それは、こちらに連絡、されていました?」

初耳だった。しかしこの類いは、正式にサントハイムに事前連絡が来なければいけない内容だろう。

「いや」

と王はかぶりを振った。

「武術大会の景品として姫を掲げたことは、国民の多くの反感を買ってしまってな、罪滅ぼしというわけでもないが、先に国内に周知することとした」

「そうですか」

正直その論理はよくわからない。不思議なことをするものだ。

「式は一週間執り行われる」

……。ん? んん? 一週間?

「一週間後、ではなく、一週間?」

そのまま声に出た。その期間ずっと、式? 姫は苦笑して王を見た。

「コロシアム、武術大会の会場だな、そこで連日式を挙げ、あまねく国民に見てもらおうと、そういうことだ」

え、ええ?

やっぱりよく分からないが、姫と目が合うと、恥ずかしそうに目を伏せ、ああ、よく分からないが、良いことなのだろうと思えた、

「面白そうな式ですね! 私は顔を出せそうにないことが、ただただ残念ですが」

「わかっておる。こういうことはやはり直接伝えなくてはとして、ここで報告とした」

それは助かる。文章での断るとなると、その文句は私ではすぐに思いつかなかっただろう。

その後は姫も交え、私の武術大会の話に移っていくのだった。

 

「王。そろそろ」

話のきりの良いところで、カザフが言う。

「そうか。では、仕舞いとするか」

王が立ち上がり、私の席まで回ってくる。

「今後も何かあれば、このエンドールを頼るように。まだまだ恩を返し切れていないのでな」

いえそんなことは、という私の言葉は、ポンと肩を叩かれて引っ込んだ。

立ち上がり、王の退出を礼で見送った。

姫も続く。

「またお話しできることを、楽しみにしています」

と声をかけられる。

「はい。どう結婚話が進んだのか、興味が尽きませんわ」

「そちらの話ですか……」

赤面する彼女は、幸せを体現した何かにしか見えなかった。

彼女も退出する。一息。

アリーナとしての最後の仕事を無事やり遂げた。

しかし、頼りになる国だ。

いや、外交言葉にいちいち喜ぶのは軽率。一般に、国と国の間はそんな暖かいものじゃない。そう教わってきた。

と同時に、国の長というのは孤独だ、とも思えた。私は今回、図らずもエンドールと縁を得た。今後、関係を暖かいものにしていければ、と思った。

「援助について詳細を決めたいのですが、これからよろしいでしょうか」

部屋には私とカザフだけになっていた。

そう、まだ終わりではなかった。

「ええ、お願いします」

「先にお着替えされますか?」

「……!」

まだこの格好か、と頭の中で丁度よぎったところだった。

苦笑する。

「では先に着替えを」

「承知しました」

 

ということで、いろいろ終わり、城を出たころには辺りは朱色で透過されていた。

クリフトが城門前まで迎えに来ていた。

「お疲れ様です」

「ええ、本当にね……」

クリフトを見た瞬間、目の前にありもしないベッドに上半身からダイブしたい欲が噴出する。

城内で途中、レナの元の服に着替えさせてもらいはしたが、かなりストレスな時間だった。

カザフとの打ち合わせは、城内通路横に置かれた机で行われた。要するに、オープンな打ち合わせ場所だ。よくあんな場でアリーナの署名をさせるものだ。

端から見ると単なる小娘に見えるように振る舞う必要があった。しかし会話内容のせいか、どうも脳は王女なのだ、口調は基本王女! 人が近づいてきたらレナ口調! つらい!

自分は今まで、意外と、アリーナとレナを綺麗に使い分けていたように思う。今回は頭を使いながらのこの二面対応は、疲れる!

クリフトの言う、お疲れというのは、私の表情に出ていたということだろう。相変わらず口の緩い表情だ、私のは。

「でも、話は良い方向に進めたと思う」

「それは何より」

宿へ二人歩く。

「長くかかってごめんね」

「いえ、こちらでも調査を進めることが出来ました。次の目的地、変更しても良いかも知れません」

「ほんと!? 私の方でも、明日の朝には何かの情報を得られる見込み。エンドールから書類を宿に届けてくれるって。まあ、そうね、その話は宿で」 

「はい」

エンドール城で私に何があったか他のことを、宿に着くまで話していた。

ベッドにダイブしたい欲は大分収まった。

そういえば夜に、以前泊っていると先生が言っていた宿イーストインに、クリフトと訪問してみた。

さすがに、すでに先生はその宿を離れていたことがわかった。残念。

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