ドーモ。ヴィランスレイヤーです。これはニンジャが来てヴィランを討つ物語。   作:白白明け

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職員体験編、完結ッ‼長くなってしまいましたが、切りの良いところまで投稿させて頂きます。
メインヒロインのポニー=サンに続くサブヒロインを出したい話でしたが、出せて満足です!
\(^_^)/

今後も皆様の暇つぶしになれば幸いですm(_ _)m




職場体験④

 

土俵型バトルフィールドの上で向かい合うチャレンジャー、コジュウタとチャンピオン、ラッパー。遂に本当のアングラファイトが始まった。

小型無線機越しにエッジショットの声が聞こえた。〈今までなにをしていた。もう少しで俺が割って入るところだったぞ〉

コジュウタが応える。「スミマセン。寝坊です」被我トミコにナイフで刺されたとは言えない為、準備していたエッジショットへの言い訳だ。完璧な偽装工作!〈直ぐにバレる嘘を吐くな〉「アイエエ・・・」嘘は直ぐにばれた。エッジショットの流石のニンジャ洞察力である。

〈だが、どうやら本物のようだな。ならば、今はなぜどうして等とは問わん。()れるか?〉「()れます」

コジュウタの即答にエッジショットは頷く。〈谷に突き落としたら本当に獅子が出た。油断はするなよ〉「ハイ!」

 

ジュー・ジツを構えたるコジュウタにラッパーが迫る!殺人的連打(ラッシュ)!「イヤーッ!」コンマ0.3秒。コジュウタは側転回避!「イヤーッ!」ラッパーは殺人的連打(ラッシュ)継続ッ!コンマ0.2秒「イヤーッ!」コジュウタは連続側転回避!「イヤーッ!」殺人的連打(ラッシュ)継続ッ!「イヤーッ!」コンマ0.1秒。連続側転継続ッ!「イヤーッ!」お互いにハヤイスギルッ‼

小型無線機越しにエッジショットの声!〈わかるか!奴は徐々に早くなっているッ!〉

 

リングネーム、KING(キング)THE()RAPPR(ラッパー)。ラッパーこと乱波(らっぱ)肩動(けんどう)の個性は『強肩』。2m近い身長と逆三角形型の鍛え上げられた肉体を持つ彼は丸太と見紛(みまご)うほどの剛腕を持つ!肩のすぐ横まで拳を引き、それを反動に拳を打ち込み続ける独特なパンチングスタイルは、一見すると未熟(ニュービー)めいた隙の大きいテレフォンパンチだが、『強肩』を持つ彼に疲労はなく、異常なスピードでの連打(ラッシュ)が可能!加えて使っている肩が温まっていくことで、連打(ラッシュ)速度は加速度的に上がっていくのだ‼

 

避け続けるだけではジリープアー。徐々に不利だ。エッジショットの的確な指示が飛ぶ!〈ブリッジ回避だ‼ラッシュに対して下は実際死角!お前が体育祭で見せたサマーソルトキックで迎え撃て!〉

エッジショットからの教育的指導(インストラクション)!しかし、コジュウタは連続側転を継続しながら首を振る!ナンデ?ドウシテ⁉エッジショット、一瞬の思考!そして、彼のニンジャ洞察力が意味を捉えたッ‼

コジュウタの腹部から服に滲む血ッ!そうだ‼コジュウタは腹部にナイフで刺された傷がある‼

〈本当にお前はいったいなにをしていたのだ〉腹部に傷がある状態でブリッジをすれば実際傷が開く。ナムアミダブツ!

〈なら前転回避だ‼ラッシュに対して下は実際死角!前転で下を抜けて背後を取れ‼〉

エッジショットからの再びの教育的指導(インストラクション)!決断的な状況判断‼

しかし、コジュウタはまた連続側転を継続しながら首を振る!ナンデ?ドウシテ⁉

コジュウタは言う!「エッジショット=サンの指示は実際正しい。しかし、今は正しさよりも譲れないものがアル」〈それはなんだ!〉

連続側転継続の合間にコジュウタのニンジャ動体視力が傷つき倒れた被我トミコを捕らえる。「女の子の顔を殴るような外道の股を潜るなんて嫌だ。ヒーローは誇り高くッ、顔を上げて戦わねばならない!」

〈・・・未熟者(ニュービー)め〉なぜアメリカにいるニンジャスレイヤーがコジュウタへの教育的指導(インストラクション)を頼んできたのか、いまわかった。コジュウタのカラテは実際申し分ない。心身共に精強。だが、甘い!(イクサ)において好き嫌いで攻略法を捨てるなど餡子(アンコ)のごとき甘さッ‼

〈だがッ、嫌いじゃないぞッ‼〉エッジショットは奥ゆかしく忍び笑い!コワイ!

〈ならば、とっておきの教育的指導(インストラクション)だ!まずは距離を取れッ‼〉「ハイヨロコンデー!」コジュウタは連続側転から連続バク転に流れるように切り替え、土俵際ギリギリに着地ッ!重力を無視した動き!ワザマエ!

ラッパーが迫る!「ノミめいた動き!嫌いだなそういうの!だから殺すッ‼」肩のすぐ横まで拳を引く構え!必殺のテレフォンパンチだ‼

()()()()()()ッ!〉エッジショットの致命的教育的指導(インストラクション)ッ!もしコジュウタがエッジショットを疑っていたなら、実際死ぬ!しかし、コジュウタは既にエッジショットの底知れぬニンジャ力に深い尊敬の念を覚えているので疑わない!眼前に迫る拳を前に全身の力を抜いた!

「イヤーッ!」致命的テレフォンパンチが炸裂ッ!痛い!「痛くない!被我=サンはもっと痛かったッ‼」

コジュウタの身体が倒れる!このまま相撲取り(スモウトリ)の巨体によって踏み固められた土俵型バトルフィールドの堅い土に頭をぶつけてしまえば、頭は熟れた柿めいて潰れてしまだろう!ナムアミダブツ!

「イヤーッ!」コジュウタは接触の瞬間、両手で地面を叩いた!土俵型バトルフィールドに蜘蛛の巣状の亀裂が走った!なにが起きたのか?これはチャドー奥義、グレータ・ウケミである!

物理的ダメージや熱エネルギーを地面に流す太古の暗殺拳チャドーの神秘的なワザで致命的テレフォンパンチを無効化したのだ‼ワザマエ!

〈“勝ったと勘違いする奴は弱い”‼残心を忘れた愚か者め〉エッジショットは奥ゆかしく忍び笑い!コワイ!

〈カウンターだ!〉コジュウタはグレータ・ウケミの反動を利用し、起き上がり小法師めいた無駄のない動きで身体を起こす!そして、ポン・パンチ!「イヤーッ!」「グワーッ!」

テレフォンパンチを決めて油断していたラッパーの腹部に直撃ッ!ラッパーの身体がくの字に曲がり吹き飛ぶ!普通なら決まり手だ!しかし、ラッパーの戦闘能力は実際高い!

くの字に曲がった姿勢から、起き上がり小法師めいた動きで復活!「そうだ‼こういうケンカがしたいんだ‼俺はお前を尊敬する‼」

ラッパーは吐血しながらに笑う。コワイ!コジュウタは鼻血を拭いカラテを構える。

実際2人のダメージは大きい。2人はジリジリと距離を詰める。土俵際から中央へ。お互いの拳が届く致命的必殺圏内。

ラッパーが言う。「俺は生を実感している。命を賭すことでしか生まれぬ活力!そのぶつけ合いが大好きだ‼つまりおまえが大好きだ‼だから殺す‼」

彼は両親から抑圧されて育った。その反動でケンカにのめり込み、ファイトクラブに入り浸った。そこは彼のやりたいことが思う存分できる場所。

 

「ファイトクラブには夢がある!いいセコンドが言っていた!その通りだ!此所は俺の夢を叶えてくれた場所ッ‼さあ、俺が満足するまで殺し合おう(ケンカしよう)‼」

 

コジュウタの目にラッパーと被我トミコの姿が重なって見えた。刺された腹部がズキズキと痛む。これは痛みが見せる幻覚か?否ッ、否である。()()()()()。己の“好き”の為に他者を傷つける。それをヨシとする(ヴィラン)的思考回路。ラッパーと被我トミコは同じ人間だ。それは認めなければならないと、コジュウタは大きく息を吸い、大きく吐いた。

・・・(ヴィラン)・・・討つべし。「それでも・・・」・・・(ヴィラン)・・・討つべし。「今だけは・・・」・・・(ヴィラン)・・・討つべし!「被我=さんの敵討ちダ‼」

 

〈次の教育的指導(インストラクション)はッ・・・〉南無三(ナムサン)ッ!エッジショットの通信よりラッパーの拳が早いッ!

ラッパーの決断的連打(ラッシュ)‼ハヤイスギルッ‼それは“右の頬を打ち、そのまま左の頬を殴れ”というミヤモトマサシの(コトワザ)を彷彿とさせる猛攻ッ‼ワザマエ!

コジュウタはどうする?再びグレータ・ウケミか⁉否、ラッパーを相手に同じ手が2度通じるとは思えない。決断的に状況判断ッ‼目には目を歯には歯を、ラッシュにはカラテを!連続カラテパンチで応戦ッ‼タツジン!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」〈止せッ!〉「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」〈殴り合いでは敵わない!〉「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」〈距離を取れ‼〉「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」〈聞いているのか⁉〉「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」〈止まれッ!〉「イヤーッ!」「イヤーッ!」

コジュウタはエッジショットの制止を聞かず。実際聞こえていないのだ。腹部の傷は深く、『穴熊』にやってきた時点でコジュウタは既に満身創痍であった。加えてラッパーとの戦いで流した血。腹部の傷も既に開いてしまっている。脳に送る血液が足らず思考は鈍化。いまのコジュウタは目の前の相手にパンチを繰り出すカラテマシーンと化していた!ヤバレカバレ!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

パンチとカラテの応酬継続時間はいまや何と5分を越えた!拮抗状態か⁉否、現実はエッジショットの予言どおりのジリープアー。徐々に不利だ。開いた腹部の傷口から、血がボタボタと垂れて土俵を汚す。このままではコジュウタは実際死ぬだろう。

 

しかし、その時だ。ブッタはその秘密めいたアルカイック・スマイルをコジュウタへと投げかけた・・・!

 

「・・・タロー・・・くん!コタロー・・・くん!」声が聞こえた。

被我トミコの声だ!「コタローくん!死んじゃヤだよ‼」

 

 

 

 

 

 

少し前、タイガーとバッファローの縄張り争いめいた声を聞いて、被我トミコは目を覚ましていた。目の前に居たのは見覚えのあるメキシコ系黒人の店員、ゴメス。「オヒメサマ。目覚めましたか。ヨカッタ。見てください。アレを」

被我トミコはゴメスの指さす先を見た。そこには土俵型バトルフィールドで戦う灰色髪の少年、コジュウタが居た。「・・・どう、して」少女は信じられないモノをみた表情を浮かべた。そして、胸の中に湧き上がる安堵。コジュウタは生きていた。どうして生きているのか彼女にはわからない。ゾンビ(ゾンビー)にでも成ってしまったのかと冗談のように思った。「・・・よかった」彼を殺したのは自分なのになんて身勝手な安心だろうか。

「コタローさんはファイトしています。オヒメサマの為にファイトしている」「・・・私の為に?・・・本当ですか?」「あのファイトを見ればワカル。アレはナイトのファイトです」

被我トミコは見る。コジュウタはボロボロになりながら戦っていた。狭い土俵型バトルフィールドの上で見上げるような大男と一歩も引くことなく殴り合いを演じていた。精細を欠いたカラテ。カラテ・シャウトとも呼べぬ獣じみた咆吼。普段の姿らしからぬ醜態を晒しながら血塗れで戦っている。

その姿を被我トミコは・・・「キレイ」・・・涙が流れるほど、そう思った。

キレイなモノに憧れた。キラキラが好きだった。女の子だった。

 

「・・・タロー・・・くん!コタロー・・・くん!」「イケマセン!動かないで!」「お願い。私を運んで、声の届くところまで」「・・・ワカッタ!」

 

被我トミコはゴメスの肩を借りて土俵型バトルフィールドへ近づく。「コタローくん!」

まだ声は届かない。代わりに頬に飛び散るコジュウタの血がかかる。熱い血だ。とてもキレイで宝石のように輝いてみえる。それはこれが彼の命だからだ。

被我トミコは血を浴びながら、恍惚の表情を浮かべる。「コタローくんの血ィ。温かいのです」

ゴメスはドン引きだ。「アイエエ・・・」

それを気にすることもなく、被我トミコはあまりにも身勝手な言葉を叫ぶ。「コタローくん!死んじゃヤだよ‼」ワガママ!

 

 

 

 

 

 

被我トミコの声が聞こえた。コジュウタの目に宿る鬼火めいた青い光が燃え上がる!そして、おおッ、見よ!流れた血流が、青黒いニンジャ装束を編む!面頬(メンポ)もブレーサーもない不完全なニンジャ装束!ニンジャ装束がコジュウタの身体をキツく締め付けて腹部の傷を止血!

それを見たラッパーが言う!「それがおまえの個性かッ!」

違う!これはニンジャスレイヤーが危惧したニンジャソウルの覚醒である!全てのニンジャソウルは実際邪悪!憑依後急激に、あるいは少しずつ・・・人間は大きすぎる力と狂気に魂を蝕まれる。他ならぬニンジャスレイヤーもそうであった。だが、ごく稀にニンジャソウルを宿しても善性を保ち続ける者も実際いる!コジュウタはどっちだ?聡明なる読者諸君は確信を持っていることだろう‼

 

「イィィヤァアアアッ‼」コジュウタのカラテが精彩を取り戻す!その目に狂気はない!

 

 

 

 

 

 

大五郎は涙を流していた。『穴熊』の歴史上、これほどのファイトを見たことがなかった。いや、彼の人生においてこれ以上のファイトはない。そう言い切れるファイトだった。

いまなら凶人めいたラッパーの言葉が少しだけ理解できる。命と命のぶつかり合い。本当のルール無用だからこそのファイト。見られることが()(がた)いファイト。飛び散る汗が、流れる血が、打たれる肉が、削り合う魂が、こんなにも美しいモノであることを知ってしまってはいけない。大五郎は古事記の伝説、容易な気持ちで開けてはならぬ(フスマ)を開け、鶴の機織りを見てしまった老人めいた気持ちを抱いて、両手を合わせていた。「『穴熊』は今日で廃業だ。俺はもうこれ以上の夢は見られない」

それは会場でファイトを見ていたアングラファイターたちも同じだった。ガトリング・鞣造とビッグウッド・大野木は互いに目配せをし、今まで戦って来た土俵型バトルフィールドに深くお辞儀をしていた。「仏門に入ろう。禅を学び坊主になろう。生きた方を変えよう。俺たちは本物のファイターにはなれない」どちらかともなくそう言った。

 

 

 

 

 

 

未熟者(ニュービー)めッ‼」土俵型バトルフィールドの側に紺と赤のニンジャ装束に身を包んだ男が腕を組んで立っている。コジュウタの暴走に痺れを切らしたエッジショットが遂に姿を現したのだ。沸き立つ観客はまだ彼の存在に気が付いていないだろう。だが、エッジショットが追っていた違法薬物の売人はそうではない。リスクヘッジ力の高い彼らはトップヒーローの出現に気が付き、今頃は店の外に逃げているだろう。

奥歯をギリと噛む。抱えていた案件は実際失敗した。コジュウタの暴走によりエッジショットが今まで費やした時間は、無駄になったのだ。だが、それでも死地を征くコジュウタを前にエッジショットの身体は“気が付けばそこにいた”。

「聞こえているかッ!聞こえているなら返事をしろッ‼」

暴走状態から意識を取り戻したコジュウタがラッパーの連打(ラッシュ)をカラテで受け流しながら応える。「ハイ!」

エッジショットは吐き捨てるように言った。「この、大馬鹿ものめッ!後1秒返事がなければ俺が割って入っていたぞ‼」「ハイ!」「今日限りでお前は破門だ!職場体験は最低評価を覚悟しておけよ!」「ハイ!」「(ヴィラン)を前に我を忘れるなど切腹ものの恥じと知れッ‼」「ハイ!」

厳しい言葉だ。だが、エッジショットの言葉は実際正しい。だから、コジュウタも素直に受け入れる。己の未熟さが捜査の失敗を招いたことを理解しているのだ。

エッジショットは大きく息を吸い、大きく息を吐いた。心の平衝(へいこう)を取り戻す茶道(チャドー)の呼吸だ。任務の失敗。失われる信頼。なにも、コジュウタが無駄にしたモノはエッジショットが費やしたモノだけではない。今回の違法薬物捜査の為に夜なべした警察関係者の努力も水疱と消えた。

それを()めて、その責任をコジュウタに負わせることをエッジショットはしない。己の監督責任。

明日からエッジショットの警察関係者各位への謝罪行脚は始まる。オトナだ!

「・・・良く聞け。これが俺からお前への最後の教育的指導(インストラクション)だ」

ラッパーは実際難敵。ファイトクラブという彼のフィールドで1対1で勝てるプロヒーローは実際少ない。ジリープアー。徐々に不利とはいえ、拮抗状態を成立させているコジュウタのカラテ力をエッジショットは認めている。()()()未熟者(ニュービー)

コジュウタのカラテを直接見た時から、なまじっかカラテの完成度が高いが故に殻を破れないのだとエッジショットは感じていた。

「師が偉大に過ぎたのだ」ヒーローの本場、アメリカで№2ヒーローをしているニンジャスレイヤーのカラテにコジュウタは(なら)っている。コジュウタの重力を無視した動きを可能とする個性が、それを可能にしていた。だが、完全ではない。当然だ。百戦錬磨のニンジャスレイヤーと同じ動きが、未熟者(ニュービー)ニンジャにできる訳が無い。

だから、できぬ必殺技(ヒサツ・ワザ)模倣(モホウ)に留まった。

 

エッジショットは確信を持って言う。「弟子の一番の仕事は師匠を超えることにある!ニンジャスレイヤーさんはお前に真似事をさせるために空手を教えたのではない!」

「越える?オレが、マスターを?」コジュウタは恐怖を覚えた。それはあまりにも高すぎる壁だ。

僅かに震えるコジュウタの身体をエッジショットのニンジャ洞察力が見抜く。此所で「ハイ!」と即答していれば、エッジショットはコジュウタを見限っていただろう。勇気と無謀は違う。

エッジショットは忍びらしく忍び笑い。「出来ない事を出来ないと言う判断力は実際大事ッ!だが、“()()”を常に心の中で付け加えろッ‼それがお前を成長させ続けるッ‼」

 

エッジショット、最後の教育的指導(インストラクション)。それは彼が大好きだった校訓だ。

「“PLUS ULTRA(プルスウルトラ)、更に向こうへ”。殻を破れ。個性『無重』。お前を押さえつける()()など、どこにも()()

 

 

 

 

 

 

「重しは無い?」コジュウタは困惑していた。師匠(マスター)から受けた教育的指導(インストラクション)、“強力な個性(ジツ)があるにこしたことはないが、(イクサ)の勝敗を決めるのは実際カラテ”。その教育的指導(インストラクション)は実際正しい。

しかし、それに囚われるあまり個性を軽視してはいなかったか。自問自答するコジュウタにラッパーの言葉が割って入る。「考え事か?嫌だなそういうのッ‼」

ラッパーは連打(ラッシュ)の速度が既に過去最高速を突破したことを自覚していた。温まった肩が燃える様に熱い。「これはいい」と彼は嗤った。この熱がきっと己を何処までも連れて行ってくれる。そんな気がしていた。

ラッパーは言う。「男の拳には言葉にはならない美学ッ、哲学ッ、信念ッ、諸々の全てがある‼魂の言葉だ‼わかるだろ?ゴチャゴチャ考えずに俺と殺し合えばいいと言うことだ‼そういうのがいいんだ!俺は‼」ワガママ!奥ゆかしさがない!バンゾク!実際ムラハチだッ‼

 

だが、生き生きとしている。

 

再び、ラッパーと被我トミコの姿が重なって見えた。「・・・ヤンナルネ」

“サクラの花を見ながらダンゴを食べる”。肉体と精神の両方の充足が人生で重要であると説いた平安時代の哲人剣士、ミヤモトマサシの(コトワザ)である。

彼らは好き勝手に生きる。肉体(身体)精神()も我慢しない。誰かを傷つけてでも自分の人生を充足させる。・・・犠牲となるのは、母のような人間だ。

「・・・タノシイか?」コジュウタが問う。「楽しい!」ラッパーは即答。「そうか。オレは、痛い。殴られれば、刺されれば、痛いんだよッ!」

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

誰もがそのクロスカウンターに、息を呑んだ。拮抗状態を一瞬で終わらせたコジュウタの周囲に立ちこめる威圧的雰囲気(アトモスフィア)。空気が蜃気楼めいて揺らいでいる。

ラッパーはスピンしながら吹き飛んでいた。コジュウタは振りきった右腕を引き、ゆっくりと円を描きながらジュー・ジツを構え直す。一瞬後にラッパーが地面に頭から突っ込み、うつ伏せに倒れた。

 

「何だ今のいいパンチ⁉」ラッパーは素早く起き上がり、満面の笑みを浮かべながら攻撃姿勢を取った。顔面に強烈なクロスカウンターを喰らったため、鼻血が吹き出している。「そういうのがいいんだ!わかってくれたか⁉」

 

拮抗状態が終わった。観客たちが固唾を呑んで見守る中、コジュウタは言う。「()()()()()の本質のほど、存分(ぞんぶん)にワカッタ」

苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら、敵意を込めてラッパーを見る。そして、おおッ、見よ。不完全だったニンジャ装束にブレーサーと面頬(メンポ)が形作られる。面頬(メンポ)に刻まれた伝説的(エンシェント)漢字(レリーフ)は『敵』『討』。

 

「ヴィラン・・・討つべし!」

 

「本気か?いいな!」ラッパーは笑っている。()りたいことを、やっているのだ。楽しいのだ。楽しく無いはずがない!

「正直に言う。実際腰が重かった。オマエの姿が、被我=サンと重なって見えたから。オマエを否定することは、彼女を否定することに繋がると思った。だが、チガッタ。オレは・・・最初から、否定するべきだった」

 

「イヤーッ!」コジュウタは手裏剣(スリケン)を投擲!カラテマンが飛び道具を使うなんて⁉虚を突かれたラッパーの両腕に手裏剣(スリケン)が深々と突き刺さる!「グワーッ!な、なんだその手裏剣。通販で買ったやつか。止めろよ。そういうのは」

「イヤーッ!」コジュウタは手裏剣(スリケン)を連続投擲!八発の手裏剣(スリケン)がラッパーの腕に深々と突き刺さる!「グワーッ!お、おまえはいい奴じゃないのか⁉」「ヤンナルネ。イヤーッ!」「イヤーッ!」ラッパーは連打(ラッシュ)手裏剣(スリケン)を弾こうとするが、「イヤーッ!」「グワーッ!」コジュウタの手裏剣(スリケン)がハヤイスギルッ‼個性『無重』により重さを無くした手裏剣(スリケン)は速度だけなら師匠(マスター)、ニンジャスレイヤーより実際ハヤイ!タツジンッ!

ラッパーの身体に次々と手裏剣(スリケン)が突き刺さる!「イヤーッ!」「グワーッ」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

コジュウタが投擲を止めた時、ラッパーはまるでハリネズミめいた有様になっていた。

「・・・タノシイか?」コジュウタが問う。「楽しいわけあるか!」ラッパーの即答。「そうか。オレもタノシクない。スポーツとしてのファイトはタノシイ。だが、一線を越えるなら忌避すべき。殺す為に殴る拳に美学も哲学も信念もナイ」

 

「嘘を吐くなよ。おまえのカラテは人を殺せる。殺す為に鍛え上げたはずだ!その力を振るう時、興奮するだろう!男なら、そうだ‼おまえは悪い嘘吐きだグワーッ!」

 

「そうだネ。オレのカラテは実際殺人術。オレもオマエも、所詮は同じ穴のラクーン()。やりたいことをやっているに過ぎない。単なるワガママ。だが、オレは理性の限り他人をワガママに付き合わせない。それがワガママに他人を巻き込む(ヴィラン)との違いだ。イヤーッ!」「グワーッ!」

 

コジュウタがラッパーに追い打ちをかける。・・・その時だ!「そこまで!」レフリーが高らかにコジュウタの勝利を宣言する!会場が沸いたッ‼大穴を当てた勝ち組(カチグミ)は狂喜乱舞!コジュウタの勝利に賭けなかった負け組(マケグミ)も惜しみない賞賛の拍手を送る!まさにワザマエの(イクサ)だったのだ!

万雷の拍手の中でコジュウタは寂しげに気絶したラッパーを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

試合終了。土俵型バトルフィールドを降りたコジュウタにエッジショットが声をかける。

「手裏剣があるなら最初から使え」エッジショットの苦言は実際正しい。コジュウタの拳でラッパーと(イクサ)をするという拘りが不必要な傷を負う結果となった。

「傷は大丈夫か?」「ハイ。ニンジャ装束が傷を塞いでくれています」「・・・装束(ソレ)がなんなのか、今は問わん。だが、腹の傷はなんだ?どこで負った」「痴話喧嘩デス」「くだらんな。清算してこい」「ハイ」

コジュウタはエッジショットにお辞儀(オジギ)。被我トミコの下へと向かう。

 

「コタローくん!」被我トミコは両手を挙げて嬉しさをアピールしていた。「生きていたのですね!嬉しいです!」言葉に裏は感じられない。彼女は本気で喜んでいる。「ギュッとしていいですか?するね!」返事を待たずに被我トミコはコジュウタの胸に飛び込んだ。

側に居たゴメスと大五郎が微笑ましいものを見る顔で抱き合う2人を見ている。

だが、実際は胸の中にいる被我トミコはおぞましい恍惚とした表情を浮かべているのだ。「エヘヘ。この服、コタローくんの血の味がするのです。はむはむ」コワイ!

はねのけられたなら、どんなに楽かとコジュウタは思った。実際そうするべきだ。しかし、コジュウタにはそれができなかった。「・・・やっぱりカワイイヤッター」

実際惰弱と罵られて仕方のない理由。コジュウタの呟きを聞いた被我トミコが顔を上げる。「私、カアイイ?」「実際カワイイ」「これでも?」被我トミコはコジュウタの鎖骨に噛みつく。そして、犬歯を立てて血を吸い始める。「ちぅちぅ」

微笑ましいものを見る顔で2人を見ていたゴメスと大五郎の表情が凍る。

血液嗜好症(ヘマトフィリア)という異常性癖。常人(モータル)には受け入れがたい光景だ。被我トミコは鎖骨の傷を舌で舐めた後、口元を血だらけにして笑った。「私、カアイイ?」おぞましいと思うのが普通。コジュウタは、自分の異常性癖(アブノーマル)を自覚した。被我トミコの背中に腕を回して力強く抱きしめる。

「あっ・・・エヘヘ」被我トミコも同じ強さで抱きしめ返してくる。コジュウタの胸板で被我トミコの胸がつぶれる。その胸は豊満であった。それを嬉しいと思うと同時に、泣きたくなる。

泣きそうな声で囁いた。「被我=サン。オレの後ろにいるニンジャはエッジショット。プロヒーローです」被我トミコの身体が震えた。

コジュウタは予想が当たっていたことで、更に泣きたくなった。被我トミコはやはり(ヴィラン)だった。

「オレは被我=サンが好きです。一目惚れでした。でも、一緒にはいられません。オレはヒーロー志望デス」被我トミコは顔を俯けたまま何も言わなかった。

コジュウタは身体を離す。そして、両手を合せて奥ゆかしく別れの挨拶(アイサツ)をした。「被我トミコ=サン。オタッシャデー」

被我トミコは顔を上げると、コジュウタが惚れたカワイイ笑顔で言った。「バイバイ。コタローくん」

 

 

 

『敵』『討』。ヴィラン討つべし、慈悲はない。そう掲げた少年は、この日、正しくないことをした。少年は己の拳を凝視する。この手で少女を討つべきだった。だが、彼にはそれができなかった。この場で取った行動を後悔する日が必ずくるだろう。それでもいまの少年には、よりよい正解が選べなかった。

 

 

 





職場体験編 登場人物紹介。


コタロー・モリタ(偽名)。本名コジュウタ・フジキド。
リングネーム。コタロー・風魔。
アングラファイトクラブ『穴熊』に現われたニュービーファイター。
衝撃の初戦、歴史的2連勝で全国アングラファイトチャンピオンに挑み、伝説的ファイターとなった自称二十歳の青年。ニンジャっぽい言動とカラテで人気を博した。
被我トミコと出会い、自身のアブノーマルを自覚して悶える。

被我トミコ(偽名)。本名渡我被身子。
ヴィラン名。トガヒミコ。
趣味でアングラファイトクラブ『穴熊』に入り浸っていた自称女子高生。路地裏でヨタモノに襲われかけて居たところをコタローに救われた。彼が現われなければ(ヨタモノの)命が実際危なかった。その後、『穴熊』でコタローと運命的な再会を果たす。カアイイ笑顔でコタローの純情を弄んだ魔性。

エッジショット。本名紙原伸也。
職場体験でコジュウタを受け入れたプロヒーロー。彼の師匠であるアメリカ№2ヒーロー、ニンジャスレイヤーとは全米ニンジャ協会で出会い交流がある。高いニンジャ力を誇り、全てにおいてコジュウタよりニンジャ力が高いといえる。抱えていた仕事の失敗を子供に押しつけない大人。職場体験終了後、コジュウタに愛用のニンジャ道具、フック付きロープを授けた。

グリズリー・大五郎。
アングラファイトクラブ『穴熊』のオーナー。一目でコタローの実力を見抜き、ファイトクラブに受け入れた器の大きい人物。口癖は「ファイトクラブには夢がある」。ギリギリ合法のファイトクラブ運営者だが、美学を持ち、女子供には優しい。
コタローの引退試合となった伝説的ファイト後、『穴熊』の運営から降りて隠居。
歌舞伎町で身寄りの無い子供たちに空手を教える道場『小熊の穴』を開いた。

ゴメス。本名、ゴメス・ロドリゲス。
アングラファイトクラブ『穴熊』の店員兼用心棒であるメキシコ系黒人の大男。大五郎の命令でコタローのセコンドになった。空手十八段の達人。大五郎から貰った独特のセンスのTシャツを愛用している。コタローとは短い間の付き合いだったが、ユウジョウを育むに至った。
コタローの引退試合となった伝説的ファイト後、『穴熊』を退職。
道場『小熊の穴』を開いた大五郎の手伝いをしている。

ガトリング・鞣造。
アングラファイトクラブ『穴熊』のファイター。広島の伝説的ファイター、ウサ耳ウサ子とも戦ったことのあるベテラン。個性で腕をガトリング銃に変えて戦うガトリング空手でコタローを追い詰めるも、敗北を喫した。
コタローの引退試合となった伝説的ファイト後、ファイターを引退。大野木と2人で京都に渡り坊主になった。

ビッグウッド・大野木。
アングラファイトクラブ『穴熊』のファイター。全国アングラファイトチャンピオンへの挑戦権を持っていた『穴熊』でのファインティングレートNo.1。見上げる程の巨体と個性により8本腕になるハチバイ空手でコタローを追い詰めるも、敗北を喫した。

ラッパー。本名乱波肩動。
リングネーム、KING・THE・RAPPR。
全国アングラファイトチャンピオン。ファイターとしては半ば引退した身だが、強いやつと戦える(ケンカ)できると聞くと現われる。現在はある暴力団の構成員となっているとの噂だが、定かではない。彼を知る者は口を揃えて、暴力団程度に飼い慣らせる猛獣ではないと言う。殺人的連打空手でコタローを追い詰めるも、敗北を喫する。
試合後、彼は観客席にいた黒ずくめの黒マスクをした男たちと共に姿を消したそうだ。


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