ドーモ。ヴィランスレイヤーです。これはニンジャが来てヴィランを討つ物語。   作:白白明け

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今後も皆様の暇つぶしになれば幸いです!




事前準備

 

 

期末テストの演習試験翌日のホームルームにて、どんよりとしたアトモスフィアを出す灰色髪の少年がいた。コジュウタである。コジュウタは腕を組み、ボーッと教室の天井を見上げている。その眼は虚ろであり、ブッダの禅問答(ゼンモンドー)に悩む修行僧のようでもあった。

コジュウタの様子を見かねた回原旋が肩を叩く。「そう落ち込むなって。赤点でも林間合宿は行けるんだしさ」「でも、オールマイト=サンに勝てなかったよ・・・」「マジで勝とうとするのがコジュウタのスゲーところだよ」「アイエエ・・・、マスターに会わせる顔がない・・・」「許してくれるって」「・・・オレは、サンシタだ。アイエエ・・・」

慰めてみるが情けない返事ばかり帰って来る。回原旋は仕方がないのでカンフル剤を処方する。効果は覿面(てきめん)の筈だ。

バッグから取り出したのは一冊の雑誌。『週刊ヒーローマガジン』だ。

「今週号はもう見たか?」「アイエエ・・・見てない」「今週のグラビアページ、プッシーキャッツだったぞ」「アイエエエ⁉プッシーキャッツ⁉プッシーキャッツナンデ⁉」

コジュウタは電撃を受けたかのように身体を跳ねさせた。回原旋はグラビアページを広げる。そこにはヒーローコシュチュームに身を包む4人グループのヒーローがポーズを決めていた。

「コジュウタはプッシーキャッツ好きだよな」「ネコネコカワイイヤッター」「誰派だっけ?俺はマンダレイ」「トニカクカワイイヤッター」

綺麗で強い女性ヒーローのグラビアを見て盛り上がる男子高校生2人。実に健全で青少年めいた光景だ。

そこにポニーと取蔭切奈がやってきた。「楽しそうデスね。なにを見ているのデスか?」

2人は慌てて『週刊ヒーローマガジン』を隠そうとする。『週刊ヒーローマガジン』は全年齢対象の雑誌なので実際やましくないが、グラビアページを見ているのをクラスメイトの女子に見られるのは気恥ずかしいと思う奥ゆかしさが2人にはあった。オノコオノコ!

回原旋が鞄に『週刊ヒーローマガジン』を素早くしまう!代わりにコジュウタが机から私物の書籍を素早く取り出した!目にも留まらぬ連携である!ユウジョウ!

取蔭切奈がケタケタと笑いながら、ポニーの後ろから覗きこむ。「イヤらしいモノでも見てんのかー?」「NO(ノー)。コジュウタはエッチな雑誌なんて見ません。ネー」

応えるコジュウタに一切の動揺はない。「ハイ。コレを読んでいました」

日頃の坐禅(ザゼン)修行が成せる平常心である。

回原旋も真剣な口調で言う。「ああ、実に興味深い内容だ」

ポニーと取蔭切奈の2人は机の上に広げられた書籍を見て目を丸くした。

 

『古事記 超解説 中編 ヤマト・タケル爆誕編』

 

「まさかヤマト・タケル=サンの出生が後のマッポーカリプスの暗示だったとは・・・」「ああ、実に興味深い内容だ」

真剣な顔でマイナーオカルト雑誌に付いて談義する男子2人に女子2人は少し引いた。

「「・・・面白い?」」「ハイ」「実に興味深い内容だ」「「アイエエ・・・」」

顔を見合わせて、突っ込まないことにしたポニーと取蔭切奈の2人が此所に来た本題を切り出す。

「コジュウタ!明日、お買い物に行きまショー!」「林間合宿に向けて買いたいモノあるからさ、付き合ってよ」

 

季節は初夏。全国の学生諸君が待ち望む夏休みは直ぐそこだ。雄英では毎年、夏休み期間を利用して林間合宿が行われている。楽しげなイベントだが、普段とは違う環境で生徒たちの成長を促す学習の場でもある。特に期末テストの演習試験で赤点となったコジュウタには、補習が課されてツライものになるだろう。しかし、コジュウタは楽しみだった。

「ハイヨロコンデー」「俺もいいよ。そうだ!鉄哲とか物間も誘ってみんなで・・・」

他の友人も誘おうと提案した回原旋の肩を取蔭切奈がガッシリと掴んで止めた。

「んーん。4人で行こうよ」「え?なんで?他の女子も誘っていいしさ、みんなで行った方が楽しい・・・」「んーん!4人で行くの!」「な、なんで・・・ちょっと怖いぞ」

取蔭切奈は溜息を吐き、コジュウタに見られないように回原旋を手招きする。そして、コソコソと話した。

「実はさ。今、ポニーと唯の間がちょっと微妙なんだよね」「え、なに、ケンカしてんの?珍しーな」「喧嘩っていうか、唯がポニーに宣戦布告したっていうか・・・」「・・・わかんねぇんだけど、なに?」

取蔭切奈はコジュウタと楽しげにポニーを見る。あれは昨日の放課後のことだ。

普段は口数が少ない小大唯がコジュウタへの好意を口にした。

『コジュウタって、本当にかっこいいよね』

込めた恋心は女子なら容易に察することが出来た。

ポニーは前からコジュウタにアプローチを続けている。それを小大唯も知っていたが、自分の心に嘘はつけなかったのだろう。仕方ないことだと取蔭切奈は思う。

むしろ、恋心(それ)を隠さずポニーに伝えた小大唯に取蔭切奈は天晴れ(アッパレ)とサムズアップ。奥ゆかしい彼女自分の胸の内をさらけ出す。とても勇気を出したはずだ。

ポニーもそれをわかっているから、『アイエエエ⁉』と驚いていたが、小大唯を責めることなく『I won`t lose(負けまセン)!』と直ぐに返事をしていた。気持ちのいい対決だ。

取蔭切奈は両方を応援したいと思っている。

ポニーは前々から林間合宿の前にコジュウタを買い物デートに誘うのだと息巻いていた。それを知っていた小大唯は今回、ライバルであるポニーに譲ったのだ。

それを回原旋に伝えるか迷って、止めた。回原旋が吹聴するとは思わないが、乙女心とは秘めておくモノだ。

「いいから、今回は4人で行くのよ。別にいいでしょ?」「そうかよ。まあ、俺はコジュウタがいれば文句はないけどさ」

こうして明日、4人で出かけることが決まった。ダブルデート!

 

 

 

 

翌日、雲ひとつない快晴。県内最多店舗数を誇る木椰区(きやしく)ショッピングモールに灰色髪の少年がいた。コジュウタである。此所は学校ではないので、コジュウタは制服を着ていない。コジュウタの私服は実際レアであった。コジュウタが着ているのは甚平(ジンベイ)と呼ばれる日本古来の夏服である。紺色の甚平姿のコジュウタの横には、此方も私服姿の回原旋がいた。回原旋はTシャツにジーパンというシンプルな格好だ。どんな格好をしていても回原旋は実際イケメンであった。

現在時刻は午前10時。待ち合わせ時間丁度である。

回原旋が訪ねた。「コジュウタはどうしてポニーと一緒に来なかったんだ?一緒に暮らしてんのに」

実際フシギだ。コジュウタはポニーの実家にホームステイしているのだから、一緒に来ればよかったという回原旋の言葉は正しい。

コジュウタは首を振った。「ポニー=サンに先に行けと言われマシタ。なんでもデートとは、待ち合わせをするモノらしいデス」「そーなん?面倒なだけな気がするけど」「ソだね」

男子2人が乙女心に首をかしげているとポニーが走ってやってきた。

ポニーの私服はTシャツにオーバーオールというアメリカンなモノであった。元気な彼女によく似合っているとコジュウタは思った。

「スミマセーン。待った?」息を切らせたポニーが上目遣いで訪ねる。2人は頷いた。「マッタ」「ギリギリだぞ」

その瞬間、2人の後頭部が背後から(はた)かれる。「ていっ!」「「グワーッ!」」ナムサン!

取蔭切奈によるアンブッシュである。見事なアンブッシュを2人に決めた取蔭切奈は呆れたように言う。「あんたたち、なんもわかってない」「そーです。コジュウタは乙女心がわかってマセン。ヤバいね」ポニーもプリプリと怒っている。「「アイエエ・・・」」待ち合わせ時間より前に待っていた男子が、遅刻してきた女子に怒られる。一見すると不可解に思われる方もいるだろう。しかし、日本のデートの待ち合わせとはそういうモノなのだ。

女子は男子を待たせて、「待ったか?」と問う。この場合、男子の返答は「いま来たところだよ」以外に許されないのだ。

これは詫び(ワビ)寂び(サビ)に通じる日本古来の様式美(ヨウシキビ)と呼ばれる風習のひとつである。実際、これは古事記全編を暗記しているコジュウタのウカツであった。

「ゴメンナサイ」コジュウタは様式美(ヨウシキビ)を思い出して頭を下げる。スナオ!

ポニーは笑顔で言う。「OK!借りは後で返してもらいマース!」

そういってポニーは自然な動作でコジュウタと腕を組んで歩き出す。「では、行きまショー。私、まずは靴を見たいデス。コジュウタもアウトドア用のないよね?」「ハイ。見にいきましょう」

腕を組むことでポニーの胸が時折、コジュウタの肘に当たっている。その胸は豊満であった。

しかし、コジュウタに動揺はない。内心、ドキドキしていたが表には出さない。日頃の坐禅(ザゼン)修行によって培われた平常心の成せるワザマエだ。

それを後ろから見ていた回原旋は腕を組みながらなぜか得意げだ。「流石はコジュウタだな」

取蔭切奈が呆れたように言う。「あんたはコジュウタのなんなのさ」溜息を吐きながら、チラチラと回原旋の様子を(うかが)う。(やっぱりイケメン)正直、タイプだった。

「ねえ、どーする?私たちも手ぐらい繋ごうか?」揶揄うように言いながら、勇気を出してみた。「はあ?」回原旋の視線が取蔭切奈に向けられた。ビクリと身体が小さく跳ねた。

「ごめん。今のなし・・・」「取蔭がいいなら、繋ぐか」「え・・・なんで?」「なんでって、男子なら可愛い子と手は繋ぎたいだろ。当然」

再びビクリと身体が小さく跳ねた。「か、かわ・・・」取蔭切奈の顔が真っ赤に染まった。しかし、回原旋はそれを見ていない!先に行ってしまったコジュウタとポニーを追いかける為、取蔭切奈の手を取り小走りする。「ほら、コジュウタたち行っちゃうぞ。急げよ」「う、うん」

そうして2人は手を繋いで、コジュウタたちを追いかける。

これぞ回原旋の無自覚イケメンムーブである。駆け引きにおいて、回原旋の方が上手であった。

 

 

 

 

〈ナウでヤングな最先端!ナウでヤングな最先端!腕が6本のあなたにも!ふくらはぎ激ゴツのあなたにも!きっと見つかるオンリーワン!〉

 

木椰区ショッピングモールの軽快なBGMが流れる中、人混みを避けるように道の端を歩く黒パーカーを羽織った男がいた。「ヘラヘラと・・・笑ってやがる・・・」ブツブツとなにか呟きながら歩く男のアトモスフィアは濁っていた。

男の名は死柄木(しがらき)(とむら)。今をときめく(ヴィラン)連合のリーダーだ。

ゴミゴミとした人混み。駆け回る子供たち(ガキども)。それを注意しない親たち(ゴミども)。誰かが蹴飛ばした炭酸飲料『ヒーローパワー』の空き缶が足元を転がる。「やや!空き缶発見!ポイ捨てはダメだぞ!」どこぞのヒーローくずれが空き缶を拾って去って行く。その全てが死柄木弔を苛立たせる。

その時、死柄木弔の肩がぶつかった。ぶつけた相手はニヤニヤと笑いながら言う。

「グワーッ。イテテ、骨が折れたっぽいね?」「アニキ。大丈夫か?」死柄木弔の前に、男が2人立ちはだかる。どこにでもいるカツアゲ目当ての与太者(ヨタモノ)といったところか。

「おいおい、にいちゃん。非道いじゃん」背後からも2人。死柄木弔はあっという間に4人に囲まれていた。ナムサン!治安が良い昼間のショッピングモールとはいえ、暇を持て余した与太者(ヨタモノ)はどこにでもいる。見るからに顔色の悪い死柄木弔が道の端を歩いていれば、目をつけられるのは当然と言えた。

「・・・面倒くせぇな。失せろよ」「にいちゃん。強がっちゃって、ビビってんじゃん」「取りあえず慰謝料。財布あるよね?」「俺たちとアッチでお話しようぜ」「へいへいへーい」

与太者(ヨタモノ)たちが死柄木弔を人通りのない場所へ連れて行こうとする。通行人の中には絡まれている死柄木弔に気が付く者もいたが、見て見ぬ振りだ。

誰か(ヒーロー)が助けるだろう”。ヒーロー飽和社会が産んだ悪しきリンゲルマン効果である。

死柄木弔は心底、呆れた様子で与太者(ヨタモノ)4人を見た後、大人しく彼らの言うとおりにする。

「やっぱビビってんじゃん」「・・・死体が出ようと、関係ねぇからな」「あん?なんか言ったか?」「なんでもねぇよ」

 

連れて来られたのはスタッフ用トイレに続く、人通りのない通路。与太者(ヨタモノ)4人は、死柄木弔を壁際に追い詰めてニヤニヤと笑った。「いくら出せる?にいちゃんが決めていいよ。こういうのは誠意だから」「誠意が足りなかったら殴るけどね」「ぎゃはは」「ビビってるビビってる!たのしー」

死柄木弔はパーカーのポケットに手を突っ込む。そして、財布を取り出さないまま手を出すと与太者(ヨタモノ)たちの顔の前で手を開いて笑う。「悪ぃ。財布忘れた?」

「は?」「は?」「は?」「は?舐めてんね」一番背が高い与太者(ヨタモノ)の拳が、死柄木弔の顔の前で握られる。死柄木弔が開いた手を振るおうとする。

次の瞬間、ドオン!一番背の高い与太者(ヨタモノ)が吹き飛んだ。もがきながら宙を泳いだ一番背の高い与太者(ヨタモノ)は、なぜか扉が開いていた男性スタッフ用トイレに突入し、男子便器に顔から突っ込む。そして、動かなくなった。ストライク!

「・・・え?」「・・・え?」「アニキ、どうしたの?」与太者(ヨタモノ)3人は突然のことに混乱していた。

死柄木弔もわけがわからずポカンとしている。

「ドーモ。ヨタモノの皆=サン。通りがかりの親切な人です」「え?」「え?」「え?」

その時だ。挨拶(アイサツ)が聞こえた。死柄木弔が顔を向けると、そこには甚平を着たマスクの少年が立っていた。甚平の少年は与太者(ヨタモノ)2人の肩を掴むと、大きく息を吸い、大きく吐いた。「イヤーッ!」そのまま与太者(ヨタモノ)2人を投げ飛ばす。

「「グワーッ!」」投げ飛ばされた与太者(ヨタモノ)2人は扉が開いていた男性スタッフ用トイレに突入し、男子便器に顔から突っ込む!そして、動かなくなった。2ストライク!

「ナンデ!いきなりナンデ⁉」残る与太者(ヨタモノ)1人が叫びながら、逃げ出す。しかし、死柄木弔が足を引っかけた。「・・・逃げんなよ」

転んだ与太者(ヨタモノ)が顔を上げると、目の前に甚平の少年の顔があった。コワイ!

「アイエエエ⁉ゴメンナサイ!ゆるして!」ブザマ。命乞いだ。

甚平の少年が死柄木弔に訪ねてきた。「ダッテ。ドーします?」「いや、無いだろ」「デスね」

甚平の少年は倒れる与太者(ヨタモノ)の襟首を掴んで持ち上げると、ピッチャーめいた動作で投げる!「イヤーッ!」「グワーッ!」投げ飛ばされた残り1人の与太者(ヨタモノ)は扉が開いていた男性スタッフ用トイレに突入し、空いていた最後の男子便器に顔から突っ込む!そして、動かなくなった。ゲームセット!

 

パンパン。甚平の少年が手を払う。そこで死柄木弔は甚平の少年の正体に気が付いた。「お前、雄英の体育祭で同率1位だった奴だろ」「アイエエ・・・まだ覚えている人がいるのか。バレちゃった」

雄英ヒーロー科の生徒なら、その格闘能力は一般成人男性を実際上回る。心身ともに精強でなければ、ヒーロー科最難関校に合格などできないからだ。だが、死柄木弔は不審がる。

ヒーロー科の生徒が一般人に危害を加えるなど、通常はありえない。いくら絡まれている死柄木弔を助ける為とはいえ、甚平の少年が与太者(ヨタモノ)相手にやった行為(暴力)はやりすぎだ。

「お前、なんでこんな真似したんだ?」目の前で展開した出来事は、()()()()()()()あるという前提と矛盾する。

甚平の少年が憧れたヒーローが、自己責任論が根強いアメリカで活躍するニンジャスレイヤーというヒーローだからだろうか?内に潜む邪悪なるニンジャソウルが行動に影響を与えているからか?あるいは、その両方?死柄木弔の目には、目の前の少年が、ツギハギに見えた。

「ヒーローの卵が、暴力沙汰はまずいだろ」柄にもなく甚平の少年をあんじる死柄木弔。しかし、甚平の少年はすたすたと死柄木弔の前に歩み寄り、胸を張った。

「ダイジョブダッテ!」「・・・俺が通報しちゃったら?」「アイエエ・・・助けてあげたのに」「助けてなんて、頼んでねーだろ」

甚平の少年が張った胸が萎む。萎れた姿で死柄木弔を見上げた。「ダイ・・・ダイジョブ・・・?」「ハハッ、お前、おもしれー奴だな。通報なんかしねーよ」

死柄木弔は笑った。(俺が捕まるからな)。甚平の少年は両手を合せてお辞儀(オジギ)。「ドーモ。ドーモ。アリガトウございます」

「その代わりにちょっと話に付き合えよ」「人を待たせています。少しだけなら」

2人は通路を出て、大通りにあるベンチに腰掛けた。

「人混みがウゼえ」「多いデスね」「いつ誰が“個性(凶器)”を振りかざしてもおかしくないってのに、なんで笑って群れてられるんだろうな?」

死柄木弔は暗い瞳に人々を映す。親の手を引く少女。手を繋いで歩くカップル。泣く子供をあやす父親。その隣を歩く妊婦。それらに指を開いた手を向けながら、暗く嗤う。

「例えば俺が、個性で暴れたとする。“するわけがねぇ”と思い込んでる奴らの平和を崩壊させる。・・・お前は、俺を止めるだろ?」「ハイ」「さっきみたいに投げるか?」

甚平の少年は座ったままの姿勢で前に向かって正拳突き(カラテパンチ)。「その時はカラテです」「いいね。素直だ。素直な奴は好きだよ」

死柄木弔は開いていた手を閉じて、降ろす。

「お前はさっき、アイツらに暴力を振るったわけだが、それは連中が俺に振るおうとした暴力となにが違うと思う?」「・・・」「俺は、助けなんて求めてなかった。なのにお前は、連中を殴った。それは身勝手な暴力だよな?」「・・・そうですね」

なんと意地悪な質問だろう。しかし、真理でもある。求められていない救いを与えることは、時として暴力になる。

「お前と連中の違いはなんだ?ヒーローと(ヴィラン)の違いと言い換えてもいい。どう思う?」

甚平の少年は少し悩んだ後、答えた。「違いは、ありませんでした。アナタが助けて欲しくなかったなら、助ける資格もオレにはなかったデス。でも、身体が勝手に動いてしまった」

 

「オレは利己的な暴力を肯定する輩に過ぎないのかも。目の前で誰かが傷つけられるのが許せない。だから、殴ってしまう。それだけです」

 

(ヴィラン)めいてるな」「ハイ。ですが、オレの暴力には理由があります。()()()()という、感傷デス」

目の前で誰かが傷つけられるのが許せない。だから、誰かを殴ってでも止める。

死柄木弔は嘲笑う。「理由があれば人を殴ってもいいってか?」「ダメですよ。けど、この世には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

嘲笑は自然と消えた。甚平の少年が瞳に宿す鬼火めいた青い光。底にあるのは、ああ、見慣れた地獄だった。

「“狂人の真似をしたら実際狂人”。ミヤモト・マサシのコトワザどおり、オレは実際ヴィランと同じ穴のラクーンなのでしょう」

甚平の少年は立ち上がる。少しの時間は既に過ぎていた。「オレはそれを知る者。ヴィランはそれを知らぬでしょう。それが、オレと彼らの違いです」

 

「では、オタッシャデー」

 

甚平の少年は去って行った。残された死柄木弔はその背中が人混みに紛れて消えるまで、ジッと見ていた。

揶揄うつもりの質問だった。ヒーローの卵を困らせるだけのつもりだったが、意図せず彼は、最近感じていた苛立ちに対する、ある種の答えめいたモノを得た。

「理由ある暴力、か」甚平の少年が言った言葉。

「あいつの名前、何だったかな」帰ったら、調べよう。瞳の底に地獄を見た少年。アレは逸材だと、死柄木弔のアトモスフィアが告げている。ガキは嫌いだが、礼儀正しい素直なガキは嫌いじゃなかった。上手くやれば、此方側へ引き込める気がした。

 

ニヤける死柄木弔の目が、地味目の緑髪の少年を捕らえる。今日は運がいい。死柄木弔は腰を上げて、歩き出すのだった。

 

 





死柄木=サンはこの後、原作どおり緑谷=サンに絡みました。
コジュウタ=サンは今まで死柄木=サンとエンカウントしていないので、正体に実際気づかなかったワケです。
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