ある日のことだった。
俺たちがほんのわずか目を離している隙に、ドクターが行方不明になった。
まさか、この不可思議な緑の海の岸辺で不可解なことに巻き込まれたのでは……と俺たちだけでなく、ロドスの全員が不安に思っていたところ、その男はこちらの心配を気にも止めないかのようにひょっこり帰ってきた。
「ドクター、どこに行っていたんですか!」
間もなく見えてきた防護服の男に、アーミヤは叱るような口調で走り寄って行った。
「……お前たちの名付け親は自由過ぎるな」
俺が、両隣にいるココットとナギに言うと、二人は小さく笑った。
「ハハ、もしかしてパパがいるから、安心してどこかに散歩に行けるんじゃない?」
「パパには心相原質があるから」
とココットとナギは言うのだ。
とはいえドクターはやはり、警戒心が欠けている気がする。ドクターにピッタリくっついているあのコータス親子の護衛も、何か口出しをするようなタイプじゃないのは俺も知っているし、もし俺がそっち側でも何も言わなかっただろうが……あの隣にいる子どもは何者だろうか。
「……?」
ドクターの隣にいる子どもに目を向けた時、その背中に特徴的なものを目視したのだ。あれは……いや、まさか。あの子どもは、どう見ても……緑色の翼だ。
「パパ、どうしたの?」
ナギに顔を覗き込まれハッとする。心相原質ですぐに人の素性を調べようとするのがすでに癖みたいになっていた。俺は首を振った。
「いや、なんでもない」
間もなく、俺たちの前にドクターが護衛たちと共に、一人の小さな子どもを連れて来た。白い髪に緑の瞳をした、角や尾のないサルカズのような子どもだった。
「ソーンズたちにも紹介するよ。ついさっきそこの湖畔にいた、ハルバラト」
とドクターに紹介されると、白い髪の少年が、両手を前に出して水平に重ね、軽く頭を下げた。見たこともない挨拶の仕方だ。
「初めまして、ハルバラトです! ドクターさんから、この辺りのことを調べてるって聞きました!」
柔らかく、愛嬌の良さそうな声をした子どもだった。俺はもう一度彼をよく観察してみたが、さっき見えた気がした背中の翼は一つもなく、自分の勘違いだったのだろうかと思えてきた。
「初めまして。俺は……赤子の揺り篭号の船長だ」
ソーンズと名乗るべきかイシドロと名乗るべきか俺にはよく分からなくなっていて、俺はそう名乗ることが多くなっていた。そもそもドクターには未だソーンズと呼ばれているし、子どもを混乱させてしまいそうな考えもあった。
「初めまして! オレはココット!」
「初めまして、ナギだよ」
俺に続いてココットとナギも挨拶をし、その度にハルバラトという子どもはにこやかな笑みを浮かべて受け答えをしていた。
「船長さんに、ココットにナギだね! よろしくね!」
とハルバラトは楽しげに話していた。この笑顔、どこかで見たことがあると思ったが、そうだ。ココットとナギの笑っている顔によく似ている。二人がこの子どもくらいだった時、そんな顔をよくしたものだった。
「それでね、ハルバラトは、この湖の先から来たんだって」
とドクターは何気ない口調ですごいことを言ってのけた。
今、なんて言った?
「湖の先にはシレモトスと呼ぶ大きな国があるみたいでね。シレモトスはこの湖に囲まれるように広がっているみたいなんだよ。もしかしたら、そのシレモトスに行ったら、かつての海の話があるのかも……」
「湖の先に、人が住む街があるということか?」
ドクターが矢継ぎ早に話し続けるものだから、俺は遮るように質問を挟んだ。
ドクターはそれでも嫌な顔一つせず微笑んだ。
「うん、そうみたい。今さっきまでシレモトスの話をしていてね、ハルバラトがその国まで案内してくれるって!」
どうやら状況は、大きく展開していくようだ。
あとがき
実は、自分のミスでうっかりこの話の前に挟める章を消してしまいました。というのも、私は小説をオフラインのメモ帳で書き溜め、完結したらコピーしてここに貼り付ける作業をしていたものですから。
ただ、そのシーンはなくてもいいかな、と(何を書いていたか忘れてしまったのに)思い始め、次のお話をコピー&ペーストし、辻褄が合うように直してこのような書き方になっています。何か妙な点があったらすみません。もう何を書いていたか思い出せないんです……()
ではでは続きをどうぞ