双星方舟〜翠玉を渡る詩〜   作:青瑠璃

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ハルバラト

 

 ドクターが連れて来たハルバラトのおかげで、ロドスの方も大忙しに動き始めていた。

 これから途方もない船出になると思っていたロドスの人間たちは、まずはハルバラトから湖やシレモトスという国についての情報を聞き出し、どうやってそこまで辿り着けるのかという問答を繰り返したようだ。

 そのしつこいような質問に、ハルバラトは嫌がる素振りすらせず全て答えてくれたようである。ハルバラトは、湖から取った水から緑の成分を取り出し、染料として使っている建造物や織物があること、農村地帯では小麦畑が広がっていること、そして、その国を統治する王、パナディガンという人間がいることも、ハルバラトは淀みなく答えたらしい。

 ただ、一つ不穏なことを口にした。

「でも、シレモトスの周りにはいつもスナタザがいるから、お兄さんたちは攻撃されちゃうかも……」

 異国の文化や風習の違いはよく理解はしているつもりだが、ハルバラトのその発言に関しては誰もが不穏さを感じた。

「スナタザって、誰なんだい?」

 とドクターが聞くと、ハルバラトはこう答えた。

 

「悪魔だよ」

 

「悪魔……」

 ドクターはハルバラトの言葉を聞くや眉間に険しい皺が寄った。ドクターが「悪魔」という言葉に酷い嫌悪感を抱いているのは、ロドス・ラズハにいる人間なら誰もが知っていることだった。特に、そこにいるココットとナギは……。

「でも大丈夫! ボクがみんなのことを守りながら、シレモトスに案内するよ!」しかしハルバラトは、ドクターの表情に気づいていないのかなんなのか、明るい笑顔でそう言ったのだ。「ボクは何百年も昔から、シレモトスをスナタザから守ってきたからね! スナタザの嵐くらい吹き飛ばしてあげる!」

「え、ちょっと待って……何百年って、ハルバラトは今いくつなんだい?」

 とドクターが動揺していることから、どうやらハルバラトの素性に気づいていないみたいだった。まぁ俺も、一目見た時はリーベリかエーギルの子どもかとは思ったが……。

 だが、何百年も生きている話をしたハルバラトは、子どものやるソレみたいに両手を広げて指を折り曲げ始めた。何百年も生きているとは思えないくらい、それは幼い行動のように見えた。

「えーっと、ボク今何歳なんだろ? 数えたことなかったけど……五百歳くらいかな?」とハルバラトはなんてことはないというかのようにそう答えていた。「自分が何歳かなんて気にしたことなかったなぁ……あ、ねぇねぇ、ドクターは今何歳なの〜?」

「えっと……」

 助けて、と言いたげにドクターが俺の方に目を向けてきた。ドクターは本名どころか、その重要な指揮官という役割のせいで年齢も非公開だった。とはいえ自分の撒いた種だろうが、と俺は思いながらも、ドクターとハルバラトの間に割り込んだ。

「それよりハルバラト。そんなに長生きをしているなら、俺たちみたいな海賊や錬金術師を見掛けたりはしなかったのか?」

 それはドクターを助けるというよりかは、俺の知的欲求のための質問であった。百年以上前は海賊も錬金術師も多くいたはずだ。俺はその話について、他の人からも聞いてみたいと思っていたのだ。

「かいぞく……? うーん、どうだったかなぁ。ボク、忘れっぽいから覚えていないこともあるんだよね」とハルバラトは途中で話を遮られたにも関わらず、嫌な顔一つせずに答えようとした。「それに、レンキンジュツシってなぁに? 魔法使いみたいな感じ?」

「それは……」

「ハルバラト! オレの錬金術、見てみるか?!」

 俺が答えるより早く、お喋りなココットが会話に入ってきた。

「うん、見てみたーい!」

 ココットの言葉にバンザイをしながら即答したハルバラト。どう見ても子どもだ。あのドゥリンと似たような感じだろうか。成人しても幼い子どものように振る舞う……。

「わぁ、すごいすごい!」

 その内、ココットが俺たちの頭上で錬金術で流体物質になった金属を乱雑に広げたり小さくしたりして見せた。それらを眺めて楽しそうに跳ねるハルバラトを見ていると、六歳だった時の子どもたちを思い出してなんだか胸がざわつく。

「ボクもやってみてもいいー?」

 すると、ハルバラトが予想外のことを言い出した。まさか、コイツも錬金術師なのか……? 俺はココットが固体に戻した金属をハルバラトに渡したのをよく観察しようとした。

「あれ、上手く出来ないなぁ……へぇ、ボクにも出来ないことがあるみたい」

 ハルバラトは、錬金術師ではないようだ。

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