その後、俺たちは祭壇から離れ、ハルバラトは儀式の一種だと言って街の人たちと挨拶回りをしに行った。
俺たちはそんな彼と一旦別れ、ドクターと共に船へと戻ってきていた。船が荒らされた様子もなく、船員たちの健康も良好だった。とりあえず今は、ハルバラトの御加護とやらがあって何かしらの厄災に遭っている訳ではなさそうだ。
「緑海の外で待機している人たちに今の状況を報告してくるよ」
と言い、ドクターはアーミヤと共に船内の連絡室へと向かった。俺は獣車でパプアリアから聞いたことを、せめてココットとナギには話そうと思ったが、あの双子たちは人当たりがいいので大体船員たちに囲まれていて話すタイミングがなかった。パプアリアとの話は、あとで聞かせることにしよう。
なら、ドクターになら今は話せるかもしれない。俺はそう判断して船の連絡室へ向かうと、ドクターの話し声が聞こえてきた。
「うん、そういうことだから、私たちの方は無事だよ」とドクターが通信機に向かって言う。「それで、補給の依頼をしたいんだけど……え? 嵐が起きていてこっちには来られない?」
「また嵐が起きているのか」
俺は通信が終わるまで外で待っていようと思っていたが、嵐という言葉が聞こえたものだから割り込まずにはいられなかった。俺が連絡室に急に入って来ても、ドクターもアーミヤも特段驚いている様子はなかった。
「ああ、ソーンズ、聞いていたんだね」ドクターは通信中の画面から少し離れて俺を振り向いた。「そうなんだよ……今、グレイに補給をお願いしたんだけど、行く手を阻むように嵐が発生しているみたいでね」
そうドクターが説明しているように、通信画面の奥には困った顔をしたペッローの青年……グレイが映っていた。俺がロドスにいた時に何度か見かけた顔だったが、十年以上会っていないとこうも顔つきが変わるものかと、俺はあの双子たちが子どもだった時のことを思い出していた。
「困りましたね……食料などはなんとかなりますが、シレモトスには電気を発生させる技術も、源石の販売もないみたいですし、もしもの時に船が動かなくなる可能性があります」とドクターの横にいるアーミヤが言った。「行く手を阻む嵐……これも、スナタザや、あの石碑に書いてあったような厄災と関係しているのでしょうか?」
俺はなんとも言えずに黙りこくった。パプアリアから聞いた話をいつ言うべきだろうか。俺が思案していると、画面奥から別の声が飛んできた。
「その通信機、坊やと繋がっているのかい?」
これはよく聞いた声だった。
「フアナか」
俺は画面にエーギルの女性、フアナが映り込んだのを目視した。グレイは慌ててフアナのために画面の横にズレた。
「そっちは元気そうだね。ま、あなたがいるのならみんな無事なんだろうけど」とフアナは話し続ける。「こっちで色々調べていたんだけどさ、緑の海域について思い出したことがあるんだよ」
「なんだ?」
俺はフアナの声をよく聞こうと一歩画面に近づいた。フアナの顔は決して明るくはない。
「緑の海域に囲まれた島には、独特な信仰があってね。聞いた話だけど、その島には神様が住んでいたそうだよ」とフアナは言う。「神様の力で島の平和を守っていたみたいだけど……ある日力が暴走したとかで、その神様は島を壊滅状態にしたっておとぎ話があって」
「おとぎ話?」
俺が聞き返すと、フアナは真剣な眼差しで更に言葉を続けた。
「ああ、だけどおとぎ話だからって嘘と決めつけるのはよくないだろう?」そこまで話して、途端にフアナの顔は曇った。「……その暴走した神様を、残った島民たちで海に沈めたらしいのよ。どうやったのかは知らないけど、神様の足に重い枷をつけてね」
「海に……」
俺はその話を聞き終えて、ある一点の推測に繋がろうとしていた。そんな俺の思考回路に気づいたのか、ドクターが意味深な目をこちらに向けてきた。
「何かに気づいたのかい」
ドクターが問い掛けると、アーミヤだけでなく、画面の向こうにいるグレイとフアナも俺に注目し始めた。
俺は自分の推測を言葉にした。
「もしかして、海に沈められた神は……スナタザ?」
俺の発言にしては不確定過ぎる推測だった。だがそうなれば、色々と辻褄が合うのだ。嵐で緑海の行く手を阻んでいるのも、シレモトスの住民を島に閉じ込めているのも。
ハルバラトが自由の身じゃないのも……?
「うん、私もそう思ったんだよね」やはりドクターも薄々気づいていたようだ。「でも確証はない……それに、まだスナタザという者にも会っていないからね。そもそもスナタザは人間なのかどうか……」
「人間、だと思います」
凛とした声でハッキリとそう言ったのは、アーミヤだった。アーミヤはそのアーツのおかげで人の感情等に敏感であった。
「この島に来てから、誰かの感情が……ずっと感じるです」とアーミヤは話す。「島を覆う誰かの感情、までは気づいていたんですが、それがなんなのかまでは分かっていなかったんです。でも、フアナさんの話を聞いて確信しました。この島を覆う誰かの感情は……悲しんでいますし、憎んでもいます」
そしてアーミヤは、俺に目を向けてきた。アーミヤの真っ直ぐな眼差しを見ると、だからこそ彼女は俺より歳下なのにロドスのトップで居続けられるのだろうと関心する。
「ソーンズさんも、それには気づいていたんですよね?」
「……」
俺は言葉を返さなかった。俺の心相原質だけでなく、アーミヤのように心に干渉するアーツは未だ解明されていないことが多い。俺も心相原質の分かることなら伝えられるが、それが他の心と干渉するアーツと同じかと聞かれるとそうではない。
だが、ドクターは沈黙は答えになると判断したようだ。
「ふむ……やはり、こちらもこちらで大きく行動した方がいいかもしれないね」
とドクターは言ったのだ。
「何か考えてあるのか」
俺はドクターを見やる。
「調査団たちにこの周辺のことを調べてもらっていたからね。次の行動案を考えてはいたんだよ」とドクターは話し続けた。「非信仰者エリアに行く。そこで、ソーンズにも協力してもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ああ、分かった」
俺は頷いた。