俺はドクターに言われ、ロドスで開発している鉱石病を緩和する薬を調合した。
というのも、シレモトスにはごく一部だが、ハルバラトを信仰していない者たちが追いやられるように過ごしている住居区があるのだそうだ。そこは治安が悪く、衛生状態も良くないスラム街となっていて、そこに鉱石病の住民たちが何人も確認出来たようである。
「……パプアリアがそんなことを?」
俺は船内にある研究室で薬を調合しながら、ドクターに獣車でのことを話した。研究室には、俺とドクターしかいない。
「ああ。ハルバラトを自由にしたいというパプアリアの意思は本当のように見えた」
「だからあの時、先に帰ってしまったんだね……」
ドクターは防護ヘルメットの奥で悲嘆な目をして俯いた。
「だが、なぜ俺に言ったのかは分からない。俺は子どもに好かれるようなタイプではないと思っていたが……」
と俺が言うと、ドクターは小さく笑った。
「だったらどうして、あの時パプアリアを連れて行きたいって言ったんだい?」
「それは……」
その時、俺は急速に、ココットとナギに初めて出会ったことを思い出した。俺は今でも、二人が赤ん坊だった時のことは覚えていない。だけど、あの日六歳だった双子の彼らは、不安げに、それでいて真っ直ぐと俺を見つめていた。それはずっと、俺の中では忘れられない記憶となっていた。
「マホガニーとツルギの姿が、パプアリアと重なったんじゃない?」どうやらドクターは、全てを見抜いているようだ。「パプアリアはそれに気づいたんだよ。君が、信頼の出来る大人だって。彼女は賢そうだし」
「実際賢い子どもだ」
獣車でのパプアリアの表情や目つきを見れば、心相原質を使わなくても分かることだった。
そんな会話をしている内に、俺は薬の調合をほとんど終えていた。見ればドクターの方の作業もそろそろ仕上げといったところだ。
「ところで、ソーンズ」
「なんだ」
ドクターは手元の薬瓶から目を上げずに声を掛けてきた。
「あの日……マホガニーとツルギを我が子として受け入れたのは、どうしてなんだい? 君は、今でも自分に子どもがいたことを思い出せていないだろう?」
そしてドクターは、俺の目を見た。
俺は考える素振りを見せながらも、答えは一つしかないというのも、自分の中では気づいていた。
「……パプアリアを連れ出そうと思ったのと、同じ理由だな」
俺は今まで、親切な人と出会ってここまで来られた。なら俺も、親切にするべきだと思っただけだ。
……あの時の双子たちの眼差しを見れば、なおのこと。
「そっか」
ドクターはそれだけ言って薬を完成させた。間もなく、研究室の扉が開く。
「ドクター、頼まれたものを持ってきたよ」
「使えそうな薬草や薬品の調達もして来ました」
と二人のリーベリの女性たちが研究室に入ってきた。
「ありがとう、サイレンス、フィリオプシス」
どうやらドクターは、鉱石病以外の薬も準備しているらしい。