心相原質を使えば、船員の何気ない会話も手に取るように聞こえてくる。
「今日から来るロドスの人、正式に赤子の揺り篭号の船員になるんだってな」
「ってことは、今日は一時派遣って訳じゃないんだな」
「それがさ、その船員ってのが赤子の揺り篭号の医者を希望しているらしくて……」
「おお、それはいいじゃないか! この船には医者がいないからなぁ、船長の荒治療を受けなくても済むぞ!」
「だが気をつけろよ〜? その医者希望のロドスの人間ってのは、船長の女って噂だぜ」
「え、あの船長に彼女が……?」
「あんたは、ちょいちょい会ってるだろうから分かるはずだぜ。よくロドスから派遣されてたんだ。かなりのべっぴんさんでさぁ」
「もしかして、その子って……」
「こんにちは! 今日からお世話になります、ナギです!」
あの時から、もう十年以上は経った。
赤子の揺り篭号はだいぶ賑やかになり、ある理由でこの船は至る所に草や花が咲くようになった。俺はこの赤子の揺り篭号の船長……ソーンズだった人間だ。
そしてたった今自己紹介をした彼女は、俺の娘のナギだ。彼女がこの船の正式な船員になるのは、他の奴らにはもう伝わっていることだろう。
「ようこそ、赤子の揺り篭号に」
俺がいつもの言葉をナギに向けて言うと、彼女はお茶目そうに笑った。
「ふふ、船長、こうして会うのは今日が初めてじゃないのに」
とナギが言うように、彼女はロドスと接触する度に赤子の揺り篭号の一時派遣船員として船に乗っていた一人であった。彼女はもう十年前とは違い、体つきはより女性らしさを極めたようにしなやかだった。だいぶ、レッドに似てきたかもしれない。
「本当にいいのか、今日からここの正式な船員になっても」
俺は念の為に彼女の意志を確認する。十年前、彼女はこの船には乗らないと断っていたから……こうして聞いた時点で、俺はあの時からずっとショックを引きずっているみたいだ。
「うん! ロドスからいっぱい、医療の勉強はしてきたからね!」
そう。ナギは十年間、ロドスで特殊オペレーターを務める傍ら、医療の勉強をしているとよく彼女自身から聞かされていた。心相原質で見てみても彼女の成長は見違える程で、健康状態も良好。いつでも出航出来るだろう。
「おーい、ナギ!」
その時、茶髪の青年が船の奥から駆けてきた。ナギが彼の姿を見るや否や、赤子の揺り篭号の隙間に生えているまだ蕾だった花が一気に咲き始めた。
「あ、ココット!」
ナギは自分に呼びかけてきた人物をココットと呼んで彼の元へ駆け寄る。ナギとココットの仲の良さは今も変わらず、互いの両手を握り合いながら何気ない会話を始めた。
俺は一旦二人から目を逸らして空の向こうを見やった。今日は快晴で見晴らしがよく、遠くまで目視出来る。彼女の船出にはピッタリな天気だ。
「な、船長、そろそろ出航か?」
先程までナギと話していたはずのココットが、俺のところにやって来ては顔を覗き込んでいた。ココットの接近には気づいてはいたが、こうして改めて彼の顔を観察すると、どんどんと俺の容姿に似てきたんじゃないかと思えてくる。
「ああ、出航の準備をしてくれ」
「イエッサー!」
俺が答えると、ココットは嬉々とした声を上げて錨を上げに行った。その時、船縁に身を乗り出したナギが一つの声をあげた。
「あ、ドクターがお見送りに来てるよ!」
そうしてナギは、港にいるらしいドクターに手を振った。
俺も船縁に近づくと、港には護衛と共にこちらに手を振っている、防護服に身を包んだドクターがいた。俺も手をあげて振り返してみる。ドクターがますます早く手を振り出した。
彼を連れ出したいと思うようになったくらいには、俺はドクターに愛着を抱いているのは気づいていた。ドクターは、前に海の調査として、一ヶ月程赤子の揺り篭号に滞在していた。最初は船酔いやら鱗獣の群れやらで大変そうにしていたが、解けた髪を纏めてくれるドクターの手は嫌いじゃない。ロドスにいた時を思い出して俺が安らぎを感じているのは、確かだった。
俺はそんなことを思っては目を伏せて、船員たちを振り向いた。
「野郎共、帆を広げろ! 出航だ!!」
「「おー!!!!」」
俺の声で船員たちは威勢よく返事をした。足元でネネも返事をするかのように跳ねたのが俺の視界に映った。
あとがき
イベリアや海賊たちの方言はよく分かりませんが、なんとなく「べっぴんさん」(方言)を使ってみました。イベリアがそもそも西にあるのかすら分かりませんけどね、解釈違いだったらすみません
「べっぴんさん」と使うことで、標準語(世界共通語)とは違う異国な雰囲気を出せたらいいな、と思いながら
海賊の返事って「イエッサー」なんですかね?
かなり捏造だらけですが、このまま読んで下さると嬉しいです
では続きを、どうぞ