双星方舟〜翠玉を渡る詩〜   作:青瑠璃

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シャオト

 

「あ、ありがとうッス……」

 手当てを終えると、シャオトは戸惑いながらも感謝の言葉を述べた。見るとココットとナギも何か言ってくる様子はないし、俺の唐突な行動は見慣れているのだと思う。

「それより、なぜ俺たちをつけていたんだ」

 俺はもう一度シャオトに訊ねた。怪我人に追い討ちを掛けるようなことはしたくないが、もし俺たちを襲うつもりならとっくに攻撃をされていたはずなので、しばらく彼を泳がせていたのだ。

「それは……」

 シャオトは俺たちから目を逸らし、きょとんと立ち尽くしているハルバラトの顔を伺った。

「ハルバラト、コイツが何か失礼なことを言ったら怒るか?」

 俺はシャオトの思考を読み、ハルバラトにそう聞いた。ハルバラトは、えっ! と分かりやすく驚いた。

「怒らないよ! どうして怒るの?」

 想定通りの回答が返ってきて俺は安心した。ハルバラトはいつだってそうだったのだろう。何回か交流している内に俺も分かってきたことだ。

「そういうことだ。話してくれ」

 俺はもう一度シャオトへ視線を戻す。シャオトは俯いた。

「ええっと、ハルバラト様の前でこんなことを言うのは失礼だと思うんスけど……」シャオトは遠慮がちにぽつりぽつりと話す。「俺、シレモトスは変わるべきだと思ってるんスよ。なんでもかんでも、ハルバラト様に守ってもらうのはおかしいって。でも俺、緑海の外に出たことないから、ここと外って何がどう違うのか、知りたくて……」

 シャオトはようやく俺の目を見たが、なぜかすぐに慌てて逸らされた。逸らされた理由までは分からないが、この島国に違和感を持つ者は、どうやら俺たちよそ者だけではないようだ。

 口をつぐんだシャオトの前に誰よりも早く近づいたのはハルバラトだった。ハルバラトは俯くシャオトの手を取って、純粋な瞳で彼を見上げたのだ。

「ボクも、そう思う! この国は変わるんだよ!」ハルバラトは言った。「あのね、ボク、スナタザを倒すよ! さっきはずっと守ってばかりだったけど、今度は戦う!」

 無邪気そうな言い方だったが、ハルバラトの意志に揺らぎがないのならどんな言い方でも良かった。ココットとナギもそれに気づいたのか、互いに顔を見合い、それから俺の方に目を向けた。俺は頷きを返しただけにした。

 そして、そのハルバラトの決意はしっかり、シャオトにも伝わったみたいである。

「ありがとうございます、ハルバラト様」シャオトはハルバラトの手を握り返していた。「なら、俺からお願いしていいッスか……! あんたら、錬金術師なんスよね?」

 シャオトはそう言って俺たちへ目配せをした。俺は思わず「錬金術師」という言葉に過剰に反応をしそうになったがなんとか抑えた。

「錬金術師を知っているのか」

 俺が冷静になって訊ねると、シャオトはこちらが焦燥感を抱いていると気づく様子もなく頷いた。

「はい! 俺、じぃちゃんから色々聞いていたんスよ! 海が今よりもっとずっと広かった時、錬金術師がいっぱいいたんスよね?」

 そう聞いてくるシャオトは、ハルバラトと同じように悪意のない好奇心の目で俺を見つめていた。シャオトはココットとナギくらいの年齢に見えた。海がもっと広かった時代を考えると、シャオトの祖父母辺りが知っていても不思議ではない。

「……そうみたいだな」

 俺は警戒を緩めながら答えた。錬金術師について聞かれると警戒してしまうのは俺の悪い癖だ。俺があの人に……いや、今はそんなことを思い出している場合ではない。

「それで、錬金術師のオレたちに何か頼みたいことでもあるのか?」

「ちょっとココット、錬金術師の話をそう簡単にしたら……」

 堂々と聞くココットにナギは慌てて止めたが、別に錬金術師について話してはいけない決まりはない。ただ、錬金術師が希少な存在になった今、その能力を利用される可能性が高いから俺は……。

 そこまで考えが到達した時、俺はいつの間にかココットとナギを見つめ過ぎたらしい。双子たちがどうしたの、と聞いてくる。俺は目を伏せた。

「いや、別に錬金術師の話はしても構わない」

 俺はそう答えながら、ココットとナギの身を案じてこういう思考になったのかと気づく。俺はこれでも、ちゃんと二人の父親らしい。

「錬金術師が必要なのか」

 俺はシャオトに質問をした。シャオトは真っ直ぐと俺を見つめ返した。

「俺たち、この島を出たいんです」

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