双星方舟〜翠玉を渡る詩〜   作:青瑠璃

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「ここは……」

 シャオトに案内されて辿り着いたのはシレモトス島北側、ドクターから聞いていた「非信仰者エリア」であった。

 辺りには物やゴミが散乱していて、聞いていた通りスラム街と化していた。数々の戦場を切り抜けてきたココットとナギは平気だろうが、ハルバラトはこの地区のことを知っているのだろうか?

「あれ、ここ……」ハルバラトが口を開く。「ミーサに近寄るなって言われてたところだ。ここはボクのことを信じてないからって」

 すると、前を歩いていたシャオトがふと足を止めた。

「そ、そうでしたッス……ここはハルバラト様は立ち入り禁止地区、フーリィの街……」シャオトはハルバラトを振り向き、頭をさする。「す、すみません、ハルバラト様。こんなところに連れてくるべきではなかったッスよね……今すぐ帰り道を案内し……」

「ううん、シャオトについて行くよ」ハルバラトはシャオトの手を握って首を振った。「ボクも、シレモトスを変えるんだ。だから、今までダメだったところにも行くよ」

「ハルバラト様……」

 俺は、決意の固いハルバラトからシャオトへ視線を移し、考え込む。ここまで来たということは、シャオトは非信仰者ということなのだろうか。だとすると俺は不思議だと思ってしまうのだ。ハルバラトを信じない者たちが、なぜ今でも「様」をつけて尊敬を示すのか……。

 しかしそれは、すぐに分かることになる。

「ハルバラト様の寛容さは、フーリィの街の人たちはみんな知っているッス。一か月前、俺たちがやっと形にした古い船をスナタザに壊されそうになった時、ハルバラト様が守ってくれたのはみんな知ってるんスよ」

 とシャオトが言った時、ハルバラトはここで初めて慌てた顔をした。

「そ、それは秘密だって言ったでしょう? ボクがこの街の人たちも守ったっていうと、ミーサが悲しむから秘密なんだよ」

「そうでしたッス、すみませんっ」

 シャオトはすぐに謝ったが、ココットもナギも口が軽い訳ではない。大丈夫、秘密にするよ、とハルバラトたちに言って俺を振り向く。俺も頷いた。

「それじゃ行こっか」

 俺たちが秘密を守ると見るや、ハルバラトはそう言ってシャオトと共に歩き出す。俺はそんなハルバラトを眺め、彼にも慌てるという感情を出すものなのかと関心した。俺はてっきり、ハルバラトは平等に人々へ慈愛深いだけなのだと思っていたからだ。ナギの言う通り、ハルバラトも人間なのだろうと思う。

「それにしても、ハルバラトは自分のことを信仰していない奴らのことも守っているんだな」

 フーリィの街を歩きながらココットがそう言った。ココットはそうやってずけずけと物を言うところがあるが、もし彼が言わなければ俺が言っていただろうから、黙って会話に耳を傾けることにした。

「うん。シレモトスにいる人はみーんな守るの。ボクは守護神だから」ハルバラトはいつも通りの口調で続ける。「離れていても魔法は飛ばせるからね。ボクの魔法は緑色だから、誰が見てもボクの魔法のことは分かるみたい」

 緑……俺はハルバラトのその発言を聞き、彼の周りを浮遊している無数のミスト状を確認する。ハルバラトの周りに浮遊しているそれらは、全て緑色をしていた。カラクリはよく分からないが、アーツの使い手によってはそのように周りにミスト状の何かを纏っている者がおり、それはハルバラトだけでなく、ナギやレッドもそうであった。そして、スナタザにも……。

「お、緑海が見えてきた!」

 しばらく歩いたのち、ココットが声をあげる。見ると建物の隙間から緑海が広がっていた。そして、間もなく歪な形をした船も視界に入ってくる。

「あれは……?」

 口数の少ないナギが思わず疑問を声に出してしまう程、船は奇妙な形をしていた。ガラクタをツギハギに繋ぎ合わせただけでなく、なんと形容したらいいか分からない装飾がいくつもついていて、緑海に浮いていなければ船と思えないような形をしていたのだ。

「これは……」

 いくつか違いはあるものの、俺が昔叩き込まれた錬金術師についての書物の数々の中からある流派の錬金術に非常によく似ていると判断出来た。その船は、錬金術師が乗っていたものなのだろう。

「ほとんど出来ているようだが……」

 俺は心相原質で船を調べながら、なぜこの船が動かないのか即座に発見した。エンジンがない。オールはエンジンによる電力変換器に繋がるように固定されていて、外から手動で動かすのは不可能となっていた。あと、船首の切っ先が折れている。

 俺はシャオトを見やった。シャオトは平然とした様子で何が足りなくて動かない、と説明しているが、そもそもここに錬金術師の設計図があることが気になっていた。シャオトは恐らく錬金術師ではない。だが知っているということは、只者ではないのだろうと俺は推測した。俺はシャオトを気に掛けることにした。彼の知っていることが、何かしらの突破口になると考えたからだ。

「シャオト! また誰かを連れてきたの?」船付近で、女性の声が聞こえてきた。「アンタは一応信仰者なんだから、あまりここに来たらダメじゃない!」

「それを言うリーナこそ、ここに来たらマズイだろ!」

 そう言って船の前に近づいてきたのは茶髪のリーベリの女性、リーナに言い返すシャオト。リーナは、俺たちよりシャオトと手を繋いでいる子ども、ハルバラトに目を向けて酷く驚いた。

「その子は……って、その方はハルバラト様じゃない! も、もしかして今の会話聞かれてたってこと?!」リーナは慌てて膝をつき、この島特有の敬礼をする。「も、申し訳ございません、ハルバラト様! 先程の無礼を、どうかお許しください……」

 しかしハルバラトは、全く気にしていない様子だった。

「大丈夫! だから顔を上げて、リーナ!」

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