その後俺たちは、コンドゥアの唐揚げを食べ、まだ腹の減っているココットは皿にパンも追加して軽食を終えた。
「食べ過ぎて錬金術が使えないってことになるなよ」
と俺が言うと、ココットは明るく笑った。
「へへっ、大丈夫だって!」
そうして俺たちは、シャオトの言うツギハギだらけの船へと向かった。
「う〜ん……おおよそは出来てるけどなぁ」
船の中に入って中身まで調べているココットが呟く。ココットも見たら分かったようだ。何が足りないか。
「……わたしも手伝った方がいい?」
ナギが自信なさげに俺の顔を覗き込む。彼女の錬金術は副産物付きで、植物や花が咲くという特徴があることを気にしているのだろう。
「花が咲くことは気にするな。お前の錬金術は俺たちより頑丈で安定している」と俺は言った。「俺とココットの錬金術じゃ、緑海を渡る前に崩れるかもしれないからな」
「……分かった」
ナギが頷いたところで俺たちは作業を始める。ココットは船を降り、俺の横に並んで立った。反対側の隣にはナギが立つ。
「これくらいで足りると思うが」
俺が手中にある金属を二人に見せると、彼らはそうだねと頷いた。錬金術については十年掛けて双子たちに教えたが、しっかり要領が分かっているところ、本当に才能が溢れていると思う。
「見てて、シャオト、リーナ。船長さんたちは本当にすごいんだよ!」
ハルバラトはまるで自分のことかのように二人に説明している。そんな二人を一瞥するところ、錬金術師というもの自体存在を知らないのか、半信半疑といった顔をしていた。まぁいい。すぐ分かるだろうからな。
錬金術師がどういうことなのか。
「いくぞ」
「「うん!」」
俺の声に、双子たちは息ぴったりに返事をする。俺はそれを良しと見、手中にある金属を変化させながら宙に浮かべた。特にココットは金属を流体にするのが得意だから、変形させるのはおおかた彼に任せている。俺が周りに心相原質でおおよその形を示せば、ナギが気づいて金属を形成し始めた。あとからココットが金属を操りながら形作っていく。俺も力を使って船のエンジンを生成した。
「すごい……」
後ろで俺たちの錬金術を見守っていたリーナがそう呟いているのが聞こえた。
「ちょっとパフォーマンス過ぎたかな?」
と隣でココットが俺に耳打ちしてきたが、気にする程でもないだろう。
「あとはこれを取り付けるだけだよね?」
ナギが、出来たエンジンを両腕に抱えながら聞いてきた。そのエンジンを代わりに持ち、船に取り付けるのは俺がやると言おうとした時だった。
「おい、待ってくれよ、ミュエル!」
「ついて来るな、ファビアン!」
こんなところで聞き覚えのある声と名前が聞こえてきて俺は街を振り返る。そこには、見慣れた彼らの姿があった。
「あとは頼む」
「え、でもパパ」
エンジンをナギに返し、あとのことを双子たちに任せて俺は声がした方へ近づいた。
「こんなところで何してるんだ?」
「船長!」
「船長さん……」
俺が声を掛けると、ファビアンとミュエルが各々こちらを向いた。ファビアンは俺の顔を見るなり明るい顔となったが、ミュエルは気まずそうに目を逸らした。
「船長も何か言って下さいよ!」俺が何か聞くより早く、ファビアンが話し始める。「ミュエル、赤子の揺り篭号を降りるって言うんすよ」
「そうなのか?」
俺は真偽を確かめるためにミュエルを見やった。ミュエルは申し訳なさそうに、横を向いたまま小さく頷いた。
「ぼく、赤子の揺り篭号を降りるっす。ここにいたらもう、嵐を怖がらなくていいし。ハルバラト様を信仰していたら、もうずっと安全なんですから!」
そう言うミュエルは、この緑海を渡る前の暗い顔とは打って変わって、気が晴れたように明るくなっているように見えた。
「……そうか、分かった」
俺は頷いた。船員が唐突に船を降りることなんて、よくあることだ。
「え、船長、止めなくていいんですか!?」
とファビアンは慌てていたが、俺は他人の人生を無理に変えようとは思わない。だから俺は、ミュエルの意思を引き止める気は起きなかったのだ。
「ああ。降りたい奴は止めなくていい。それがミュエルの決めたことならな」
「船長がそう言うなら……」
俺の言葉にファビアンは渋々従ったように見えた。それを最後に、ミュエルは踵を返して俺たちの前を立ち去った。こうして船員たちを見送るのも一度や二度だけではないが、船を降りる誰かの背中を見送ることに、感情の揺れ動きを感じるファビアンの気持ちは、分からなくはなかった。
「おい、何するんだよ!」
そんな時、また別の方向から声が飛んできた。どうやらトラブルというものは、次々と起こるものらしい。