「おい、何するんだよ!」
港に再び戻ってくるなり、そこではなぜか、パリスグリーン色の鎧を纏った騎士に捕らえられているシャオトの姿があった。
「何があった!」
俺が声を張ると、真っ先にココットとナギが出てきた。
「分かんない……いきなり、王の騎士団が出てきて……」
「禁断の書の所持の疑いとかなんとかって……」
とココットは今にもシャオトを捕まえている騎士に飛びかかりそうな姿勢で、ナギは不安そうな顔をしていた。
禁断の書……?
俺はシャオトを捕らえている騎士団に近づいた。
「おい、シャオトを離せ」
と俺が強い口調で言うと、一人の騎士がこちらを向いた。
「なんだ、お前か、よそ者」
この声……昨日会ったパプアリアについていた騎士団長、エナレーンだ。兜に覆われて顔は見えないが、この騎士団を指揮しているのは彼女だと考えた。
「シャオトは何もしていない。もしこの船の修理が悪いことなら、俺を連れて行け。俺が直した」
と俺はシャオトを捕らえている騎士に割り込もうとしたが、エナレーンはそれを引き止めた。
「よそ者には分かるまい。この男は、ハルバラト様より命じられた島の規律を破った可能性がある以上、取り締まる必要があると王から判断が下りたのだ」
「ボクが、なんだって?」
強い口調のエナレーンに負けじと声を張って出てきたのは、ハルバラトだった。ハルバラトは先程まで突然騎士に捕らわれたシャオトに驚いている様子だったが、自分の名前が出てきたことで冷静になったようだ。
「ハ、ハルバラト様、ここにいらっしゃったのですね……」
思わぬ登場人物にエナレーンは驚愕し、周りの騎士団員たちは恭しく膝をついて頭を下げた。両手は水平に重ねてこの島独自の礼はするものの、シャオトを捕らえている縄を離す気はないらしい。
「シャオトは何も悪いことはしてないよ。もし悪いことをしたんだったら、このエリアに入ってるボクを捕まえて」とハルバラトはまさしく神様らしく強い態度を貫いた。「シャオトを離して、エナレーン」
「し、しかし……」さすがのエナレーンも気圧された様子だったが、すぐには背筋を伸ばして言い返した。「これは王様がお決めになられたことです。もしハルバラト様が反対なさるなら、王様と話し合って決定を変えて下さい。いくら守護神のあなたでも、正式な手続きが必要です」
そんな毅然とした態度のエナレーンにハルバラトを見やると。
「分かった。だったらボクもついて行くよ」
そこにいるのは、ただ無邪気な子どもの姿をした彼ではなくなっていた。真っ直ぐと、強い意志で自分の言葉を語るハルバラトは、もう守護神ではなくなっていたのだ。
「……分かりました」エナレーンは騎士団員を振り向いた。「ハルバラト様もお連れしろ! 獣車をもう一匹用意するんだ!」
「はっ!」
エナレーンの発言で騎士団員はバタバタと移動の用意を始めた。シャオトはハルバラトの言葉に驚いていたが、彼は大丈夫、必ず助けるからと言って俺の方を振り返った。
「船長さん、ちょっと王様のところに会ってくるから……スナタザの倒し方は、船長さんが探して来てくれる?」
そう言うスナタザの目は、最初に会った時より生き生きとしていた。
「分かった」
俺が頷くと、ハルバラトは安心したように微笑んだ。
「あ、そうだ! ボクが紹介しようとしていた宿屋さんの場所、教えるね!」
そう言って鞄から紙を取り出すと、ハルバラトはペンもないのに何かを描き始めた。拙い線が何本も引かれ、最後にはどこかに矢印を描いた。どうやら地図のようだが、文字がないので少し分かりづらかった。
「はい、これ! ここで休んで、明日にはまた会おう!」
そう言うなり、ハルバラトは俺に地図を渡してエナレーンとシャオトの方へ走って行った。俺は地図をもう一度見やる。絵を見る限り、花屋と食事屋の近くに、宿屋があるらしい。
「シャオト、すぐ解放されるといいよな……」
「大丈夫、だよね……」
後ろで、ココットとナギが心配そうに呟いた。俺は追いかけてもいいと思っていたが、ハルバラトに頼まれたことが優先だと考え、王の騎士団に連れて行かれるシャオトとハルバラトを見送ることにした。
そしてその騎士団の獣車が見えなくなると、俺はそこに立ち尽くしたままのリーナに目を向けた。
「シャオトが連れて行かれた理由を知っているのか、リーナ」
俺はリーナに問い詰めた。明らかに動揺の仕方が他の奴らとは違った様子だった彼女は、何か知っているのかと思った。
「それは……」
ザラックの特徴を持つ長く細いリーナの尻尾がさっきから忙しなく揺れている。ココットみたいに感情が体に現れるタイプみたいだ。
「ハルバラトはスナタザを倒すと言っている。俺は、ここを出て海を目指す。それには、ハルバラトの力が必要だ」
俺は事実と意志をリーナに伝えた。俺はドクターみたいに人を動かす力もなければ、あの隣にいるフェリーンの医師のような交渉術も持ち合わせてはいない。無論、俺はアーミヤでもないし。
彼女を動かすのは、俺ではない。
後ろのココットとナギは、静かにリーナの返答を待っていた。彼らはこの状況によく慣れているのだと思う。恐らく、ドクターの教育の賜物だろう。
一吹き、緑海から風が吹いた。周りには何人かの人々が通って去って行くというのに、風の音だけがハッキリと聞こえてくるみたいだ。
「…………分かった」リーナはとうとう口を開いた。「シャオトはいきなり来たよそ者のあなたたちを信じた。私も、信じるよ。あなたたちのこと」
ついて来て、とリーナはどこかへと歩き出した。俺はココットとナギへ目配せをして一緒に行こうとアイコンタクトを送る。まぁ、こうまでしなくても、彼らは勝手について来るだろう。
ただ、少し離れたところにいたファビアンだけは、状況が掴めずに立ち尽くしていた。ファビアンに渡した金属は、まだ失くさずに持ち歩いているようだ。彼にまだ赤子の揺り篭号にいる意思があるなら、命令を出して置こう。
「ファビアン」
「は、はい、船長……」
「船を守っていてくれ。俺はしばらく帰れない」
俺の指示に少し驚いたような顔はしていたが、最終的にはファビアンは海賊の敬礼をした。
「分かりました、船長! 赤子の揺り篭号で待ってますね!」
「ああ」
俺は、リーナの後について行った。