双星方舟〜翠玉を渡る詩〜   作:青瑠璃

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宿屋

 

 俺たちがシャオトの家を出ると、日はかなり傾いていた。

「今日の宿屋、どうするんだ?」

 とココットが聞いてきたから、俺はハルバラトから渡された手書きの地図を見てみるも、文字もない線と矢印だけでは、宿屋を探すのは到底無理そうだった。

(アイツなら読み解けたのかもな)

 と赤いメッシュのあるリーベリ男を思い浮かんだが、いない奴のことを頼るのも仕方がないので、俺は心相原質でそれらしいところを見つけるしかなかった。

「ね、ねぇ」

 宿屋へ向かおうと歩き出したところで、リーナが俺たちを引き止めた。

 振り向くと、俯き加減のリーナがそこに立っている。

「スナタザ……倒せる、よね?」リーナが黒い瞳で俺たちを真っ直ぐ見据えた。「私は、この島を出て行くとかどうするかとか考えたことないけど……シャオトの願いは、叶って欲しいって思ってるの」

「……」

 俺は何も答えずにリーナを見つめ返した。不安そうに揺れるその眼差しを、俺は別の誰かにも見たことがあった。俺はココットとナギを見やり、それが作戦に出発するオペレーターたちを見送るドクターの眼差しと同じだと思い出した。

「作戦は考えてある。出来る限りのことはしよう」

 俺が答えると、リーナは静かに頷いた。俺はココットとナギの方へ向き直り、歩き出した。

 リーナの視線を背中で感じながら、まずはココットが話し出した。

「作戦って何? オレたちもやるのか?」

「ああ、そうだな」

「どういう作戦なの?」

 と聞いてきたのはナギだ。

「明日、ハルバラトが帰って来なかった場合の作戦だ」

 そう俺が答えると、二人は気を引き締めたように口を固く閉ざした。俺はすでに、最悪な状況を想定していた。この考えは否定的に反発されることもあったが、ココットとナギは何か言ってることが今までもなかった。恐らく、ドクターの元にいた経験があるからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルバラトが教えてくれた宿屋をなんとか見つけた俺たちは、守護神の地図があるならば、と無料で部屋を借りることが出来た。

「はぁ〜、やっと着いたな〜」

 ココットはさすがに疲れたのか、ベットで仰向けに寝転がっている。

「着替えたよ」

 そこにナギが後ろから声を掛けてきて振り向く。ナギは宿屋にあった部屋着に着替えたようだ。

「本当に俺たちと同じ部屋でいいのか?」

 俺は念の為、もう一度ナギに訊いた。昔は同じ部屋で寝ることもあったが、成人してからは別々の部屋だった。だが今日は、同じ部屋がいいとナギが言ってきたのだ。

「うん。パパと一緒に寝たい」

 とナギは頷く。

 俺はどういう心境の変化なんだとココットに解説を頼もうとしたが、いくら双子とはいえ女性の心までは解読出来ないらしい。ココットもなんでだろうな? と言いたげに首を傾けるだけだ。

「俺は構わないが……」

 俺がそう答えると、じゃあ今日は一緒に寝よう、とナギが微笑んでこちら側にあるベットに腰掛けた。俺とココットが座っているベットでもあった。

 俺は窓から外を見やった。もういつの間にか暗くなっていて、明日のことを思うと早めに寝た方がいいだろう。

「パパ、今更緊張してるのか?」

 ココットが揶揄うように言ってきた。何を緊張するんだ、とココットの頭をクシャクシャに撫でると、ナギもやって欲しそうにじっと見つめられた。

「分かったから」

 俺はナギの頭を撫で、満足そうに笑ってるのを見守る。俺はしばらく二人の頭を撫で、頃合を見てベットに入った。

「へへ、昔はこうやってよく寝たよな」

 俺の左腕を枕にしているココットが楽しげにそう言う。

「狭くないか?」

 ダブルベットではないこの寝具に、三人で寝るには狭い気がした。だがナギはぐっと顔を俺の肩に寄せてきて返事をした。

「ううん、狭くない」

 こうして、俺が二人に両腕を乗せるのは昔はよくやっていた。ずっと前はロドスの自室だったから、このベットよりもっと狭かったか。もっとも、こうして寝る時はコイツらはもっと小さかったのだが。

 錬金術でベットを大きくすることも出来るが、ココットもナギも不満を言わないのでこのまま寝ることにした。まぁ、この二人が不満を言っているのを聞いたことがないが。少なくとも俺には。

 俺は宿屋の天井を眺めながら物思いに耽った。ドクターには、この双子のことをよく受け入れたな、と言われたものだった。俺もその理由をハッキリと答えることはしなかったが、遅かれ早かれ、コイツらに慈しみを感じていたのは本当だと思う。

 ……自分の気持ちすら、客観視して考えるようになったのは俺の悪いことだとは思っている。

 ココット、ナギ。俺は時々疑問に……いや、不安に思うんだ。仕方なかったとはいえ、俺にはお前たちと一緒にいるはずだった六年間の空白がある。俺をどうして親として慕うことが出来るのだろう。よくある本にいるような、優しい親ではないだろうに。

「パパ……」

 ナギがわずかに動いた。起きたのだろうかと様子を伺ったが、どうやら寝言だったらしい。

「ん〜……」

 一方のココットは、寝返りを打ってベットから落ちそうだったので素早く支えてこちらに引き寄せた。本当、大きくなったんだな。俺は自分の子どもたちに感慨深く思った。

 そして、ずっと子どもの姿のままのハルバラトのことを想った。なぜ子どもの姿なのかまでは分からないが、俺は彼の正体におおよそ検討をつけていた。だがそれを言葉にするにはまだ判断材料が少ない……。

 俺は次の行動を想定しながら、眠りについた。

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