⚠️注意⚠️
引星ソーンズのネタバレがあります。
苦手な方は閲覧非推奨
翌朝。
昼間は地獄のように暑くなる塩海は、それよりもっと早くに活動を始めなければならない。
海賊たちの朝は早い。暗くなる前には掃除を終わらせなければ。
「う〜ん……」
そこにフラフラと、寝ぼけているのか一人の船員が甲板にやって来た。
「おい、大丈夫か……」
俺が声を掛けるや否や、その船員の身体が突然大きく傾き始めた。そのままじゃ船から落ちてしまう……と俺は急いで彼の背中を支えた。
「しっかりしろ、ファビアン」
「ふぁ……あ、せ、船長?!」
驚いたように目を見開く船員、ファビアン。どうやら本当に今まで寝ぼけたまま船に上がって来たらしい。
「おはよう、ファビアン」
もう朝だぞ、という意味を込めて俺がそう挨拶をすれば、ファビアンは慌てたように俺の手から離れた。
「す、すみませんっ。トイレに行くつもりだったんすがいつの間にか船に登っていたみたいで……」
とファビアンは言い訳をするが、寝ぼけて徘徊してしまうのなら健康管理の問題なのだろうかと俺は自分の周りにある心相原質で探りを入れてみる。……心音が早いのは、驚いただけだろう。
「にしても、船長いい顔してるすよねぇ」
「俺が?」
トイレに行く話はどうなったのか、ファビアンがそんなことを言い出した。男にそんなことを言われるとは、ドクター以来だ。
「俺もいつか、船長みたいにカッコよくてスマートで優しい男になるっすから! 見てて下さいよ!」
やや不器用で俺の次にトラブルメーカーになりがちなファビアンだが、その心意気はいいことだと自分は思っていた。きっとあんたならなれるんだろうな。
「なら、強化版健康体操からだな」
「え、またなんか苦情来たんすか?」
「いや、まだだが」
「まだって! これから言われるみたいな!」
よく喋る男は、嫌いじゃない。
俺は船の掃除を一区切り終え、船員たちが起きてきた頃合を見てまた船を出航させた。昨日狩った鱗獣はすでに保存食に加工済みだ。これなら何週間かは持ちそうである。
俺たちの向かう先は、海である。
この砂漠のように見える塩海は、かつては潮と呼ばれる水で満たされていたのだという。だがいつしか枯れ果ててしまい、更にはシーボーンという恐ろしい生物が本物の海を支配し、俺たちエーギルは海にある故郷に帰れなくなった、という話が脈々と続いているのが現代のテラである。
心相原質という名前のコンパスに呼びかければ、確かにそれは本物の海を指し示していた。本物の海は思っていた以上に静かで……かなりの危険地帯だった。
だからこそ俺はこの赤子の揺り篭号で本物の海と塩海を行き来し、取り残されたようにある集落との交流を細々と続けていた。
今回塩海に戻ってきたのは、そういった集落がないか確認するため、いつもとは違うルートで本物の海へ向かっている。
俺は船長室に向かい、鱗獣の皮で出来た一枚の海図を広げた。ここ最近この辺りの海域を何度も周回していたのは、ある方向への調査のためでもあった。
コンコン、と扉がノックされて返事をすれば、フアナが入って来た。フアナが船長室に来たということは、今頃ティーチが舵輪を操作していることだろう。
「そろそろ次の航行先を練っているのかと思ってね」とフアナは言った。「次はどこへ向かうんだい、船長?」
「海だ」
俺がそう答えると、フアナは豪快に笑った。
「アッハハ! そりゃあそうだろうけどさ……私の言い方が悪かったよ。次は、どのルートを通って海へ向かうんだい?」
そのフアナの問いに俺は手元の地図へ視線を落とし、ある海域に一筋の線を引いた。真っ直ぐとはいかないが、このルートなら切り抜けられるはずだ。
「嵐を抜ける」
「へぇ」
俺の発言に、フアナはそれだけしか言わなかった。俺のこの地図の描き方はフアナから教わったものだから、どこにルートを書いたか一目で分かっただろう。
「これから船は激しい波で揺れるだろう。船員たちにも伝えてくる」
心相原質が指し示す方向なら、嵐だって突っ込む。それが、俺の方針であり……赤子の揺り篭号のやり方だ。
「また新人たちが船酔いでダウンしそうだねぇ」
俺が席を立つとフアナが背中でそんなことを呟いた。嵐に突っ込む前に、バケツを用意した方が良さそうだ。
あとがき
引星ソーンズくんの資料にファビアンという名前だけが出ているので、恐らく男だろうという推測で男性として登場させました
女性だったらごめん……
色々解釈違いかもしれませんが、それでも大丈夫なら、続きをどうぞ