一週間、ロドスと合流するまで、俺たちは赤子の揺り篭号を岸辺に引き揚げ、テント街を広げて昼夜を過ごした。
その間緑の海の変化は何もなく、地下からの噴気孔に気をつけさえいれば穏やかな日々だった。だが船員たちの様子は波風が立っていた。
「もうこの海賊やめてやる! 早く街に戻してくれ!」
船酔いで嫌な思いをしたからだろう。主に新人船員たちが反抗の意思を示してきたのだ。
「帰りもあの壁のように渦を巻いている嵐を抜けることとなる。地図はこれだ。子船はアレを貸してやるから無事に抜けてくれ」
と俺が手早く書いた海図を反抗する船員たちに渡し、鱗獣を狩る時に使っている子船を指した。今、一つの子船を赤子の揺り篭号から出してココットとナギが丁度メンテナンスをしていたのだ。だが、俺がそう言った瞬間、彼らは途端に顔を青ざめた。
「あの嵐を俺たちだけで抜けるなんて無理だぞ……」
と船員たちが口々に言うのだ。
あまり海に慣れていない船員たちからすれば、あの高過ぎる断崖絶壁を乗り越えるのも、頻繁に嵐が発生しているエリアを切り抜けるのも苦労するかもしれない。俺が描いた地図は正確であるが、やがて船員たちは反抗をやめていった。
反抗を諦める船員たちを見渡し、そこから少し離れたところに座り込んでいるミュエルの姿を見た。あの様子だと彼も船を降りると言いそうなものだったが、と俺はミュエルに声を掛けた。
「お前も船を降りたいのかと思っていた」
「せ、船長さん……」ミュエルはバスクアラによく似た髪色をしていて、伸び過ぎた前髪から自信なさげな黒い目が覗いていた。「本当は、嫌っすよ。こんな思いする海賊なんて、今すぐにでも抜けたいっす」
それからミュエルは後ろを振り向いた。そこから断崖絶壁が見え、それより先には嵐のエリアがある。
「……本当は、海賊にならないで親に決められた安定したルートで生きる方が良かったんすよ。頭の中のどこかではそう思っていたのに、そうやって決められた未来に進むより、もっと違う何かになりたくて海賊になったんすけど、やっぱぼくには無理だったんす」
とミュエルが言い、俯く。
俺はミュエルのそんな隣に座り込み、肩に軽く触れた。
「お前がどうしたいかはお前が決めろ。お前も、自由に選択をする権利がある。お前が街に帰りたいというなら、俺は全力でサポートする」俺はそう言いながら、あの日の出来事を思い出していた。「俺たちは、自由な海賊だからな」
「船長さん……カッコイイっす」
「そうか?」
俺は当然なことを言葉にしただけだった。だが、この十何年かで色々と知った。ミュエルみたいに、当たり前に気づけない奴もいる。だから俺たちは、迷うのだろう。
俺は後方の崖を見やった。あの嵐と独特な地形をした山と崖を、果たしてロドスはどう乗り越えるのかなんて心配はしていなかった。あのロドス・ラズハには俺たちより遥かに発展した技術と優秀な人員を揃えている。もうじき見えてくるはずだ。
「え……あの山を越えて金属の塊がこっちに向かって飛んでくるぞ!」
船員の誰かが叫んだが、ココットとナギはその「金属の塊」がなんなのか知っている。
「ロドス・ラズハの子艦だ!」
「ドクター、ここだよ〜!」
ココットとナギが、小舟のメンテナンス作業を一旦やめて上空へ手を振っていた。