双星方舟〜翠玉を渡る詩〜   作:青瑠璃

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調査団

 

「ここが緑の海か……」

 ロドス・ラズハ・アイランドのトップの一人が、金属の塊にも見える子艦から降りて俺たちの前でそう呟いた。彼の姿は黒い防護服で包まれ、一見怪しい人物に見て取れたが、彼こそがドクターで、鉱石病研究者で、医者でもあるのだから侮れない。

「お前が直接来るとはな」

 俺が声を掛けると、黒い防護ヘルメットからドクターが愛想よく笑ったのが見えた気がした。

「驚いたよ、ソーンズ。ツルギを見送りに出して何日もしない内に、海らしきものを発見したなんて連絡がくるものだから」

「想定外だった」

 ドクターに俺がそう答えると、あのあとすぐにはこっちに来られない事情があって、と殲滅作戦の依頼があった話をしてくれた。今もロドスは忙しくしているようだ。ドクターと話していると、あのロドスの賑やかさを思い出して不思議と心が和む。

「それで、そっちの様子は?」

 とドクターが聞いてきたので、ここでテントを張って雨を待つがてら、緑の海を飲み水に出来ないか研究をしたり、辺りの調査などをしていたと俺は話した。この辺りの地中にも、かつての黄金時代にあっただろう宝物が埋もれたりしていたのだ。ここまで商人は来ないだろうから、すぐに取り引きには使えないのだが。

 ひとしきり話し終え、俺はロドスの子艦から出てきて緑の海を調査し始めた研究者たちを目で追った。顔馴染みもいれば全然知らない研究者たちもいる。ロドスは今も、進歩を続けているのだと関心する。

「ママを探してるんでしょ」

 そんな俺に声を掛けてきたのはナギだった。ナギは小さく笑って俺のことを見抜いているかのようにこちらを覗き込んでいる。

「……ああ、そうだな」

 嘘で誤魔化す理由もなかったので、俺は素直に認めることにした。レッドは研究者でもないのだから、ここに連れて来るはずがない。分かっていても探してしまうのは、俺が本当に彼女と夫婦だったからなのだろう。

「あー、ごめんね、ソーンズ。調査だと思って、レッドは連れて来ていないんだよ」

 それからドクターは、自分の後ろにいる護衛の二人を振り向いた。その黒髪のコータスの男たちのことは俺も知っていた。エアースカーペとスノーグラウスだ。二人は親子で、顔がよく似ている。

「レッドはついさっきまで殲滅作戦に参加して貰っていてね、休んでもらうために本艦にいるんだ」

「会うために連絡を取った訳じゃないからな」

 ドクターの言葉に俺はそう返したが、それはまるで自分に言い聞かせているみたいだった。……まぁいい。ドクターはおおよそ分かっているだろう。

「それで、緑の海は飲み水には出来たのかい?」

 ドクターは本題の質問を投げてきた。俺はココットと作った浄水機に向かうと、すでにそこにはロドスの研究者たちが何人か集まっていた。使い方や緑の海の成分については、そこにいるココットが説明している。

「緑の海っていうより、ここは大きな水溜まりってことが分かったんだ。何より全然塩っぱくない。で、ここにこの緑の液体の成分が書いてあるよ」とココットが成分表を書いた布を何人かの研究者たちに配った。「そこに書いてある通り、ミネラル分が多い水でな。塵みたいなのを除去して、液体を緑にしている成分と分離させたら飲み水に使える。……あ、まだ長期的な実験はしていないから、舐めるくらいにしてくれよ?」

 そうしてココットは、鱗獣の骨で作ったコップに緑の液体から取り出した水を注いで研究者たちに配る。その浄水機から出てきた水はどこからどう見ても透明な飲み水と変わらず、心相原質を使って調べても問題はなさそうだが、長期的に飲み続けた時の害の有無までは分かってはいなかった。

「すごいね。海賊が浄水機を作るなんて、誰もが思わなかっただろうなぁ」

 とドクターは横で呟いたが、錬金術師がもっと沢山いた黄金時代では、そういったものはあちこちにあったというのは敢えて言わないで置いとこう。恐らくドクターは、そんなことを言いたい訳ではないのだろう。

「地下の塩の川よりは浄水が簡単だった。何より塩っぱくないからな」

 と俺は言い、ココットから浄水した緑の液体を受け取る。何度も確認した液体だったが、無味無臭の水そのものだ。なぜこの湖が緑色になっているのか、この焦げている葉の塵がなんなのか気になるのは俺の中でくすぶる研究者魂という奴だろう。

「フィリオプシス、これどう思う?」

「過去のデータを検索してみましたが、緑色の海、または緑の湖という情報はどこにもありませんでした」

 緑色の湖畔には、二人のリーベリの女性たちが並んでそんな会話をしていた。あの二人も俺は見かけたことがある。研究室エリアでよく見かけた、サイレンスとフィリオプシスだ。どうやらドクターは、かなり本気で調査をするために彼女たちを連れて来たようである。

「ドクター」

 俺がドクターに呼び掛けると、よく聞き慣れたなんだい、という言葉が返ってくる。俺はドクターに、思っていることを話した。

「この辺りは塩海とおかしな点が一つあるんだ。……鱗獣が一切近寄らない」

「鱗獣って、ソーンズたちがいつも食料にしている生き物だよね」

「ああ」

 それどころか、この緑の湖を飲み水としてやって来る他の生き物も、ここ一週間、一種類も見なかった。この水は緑ではあるがそこまで汚染された液体ではないので、ある程度耐性のあるなんらかの生き物は立ち寄る可能性もあったのだ。だがそれらを、一つも見ていない。

「うーん、もしかしたら、この湖を渡ってみたら分かることもあるかもね……」

 ドクターは緑の湖へ視線を投げたので俺も眺めてみた。緑の湖から鱗獣が襲ってきたこともないが、この先に何があるのか、向こうの岸までどのくらいかはまだ未調査であった。

「色々と準備は必要そうだな」

 俺はそう言いながら必要なものを考え始めた。だがその時、そこまで遠くにいない船員たちが騒ぎ出した。

「あ、おい、ファビアン、何してんだよ!」

「え、これはここじゃなかったっけ?」

「それは船長の失敗作だぞ! 早く置いてこいって!」

「ええっ!?」

 ドドォン……!

 ……どうやらトラブルが発生したみたいだ。片付けに行くとしよう。

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