因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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鬼神の生贄
霊力ゼロ、判明


 俺の家は、辺境という言葉すら生ぬるい、山と深い森に囲まれたド田舎の集落にあった。

 

 人口は多分三百人を超えないくらい。田舎だからかみんな和装。小さな集落で、しかしやたらと人がいる、不思議な村だった。

 

 不思議と言えば村には様々な掟があって、例えばあのお堂には鬼神が祀られているから近づくなとか、森には妖怪がうろついているから行くなとか、そう言い聞かされて育った。

 

 まだ迷信が息づいている集落なのかな、なんて考えてから、当時三歳の俺は自分で(迷信なんて言葉、どこで覚えたんだったか)と他人事のように思った。

 

 だが、迷信ではなかった。村に妖怪が出て、家の人がそれを退治しているのを見たのだ。

 

 衝撃だった。顔がサル、胴体がタヌキ、手足がトラ、尻尾がヘビの、キメラめいた妖怪。大人たちは札を放ちながら、「(ぬえ)を討て!」と叫んでいた。

 

 それで興味をもって大人に聞いてみたら、俺の家、『御陵宮(みささぎのみや)』は、陰陽師の名家なのだ、と説明された。

 

「日本有数の異能者一族なのですよ。朔斗(さくと)様は、その次期当主のご嫡男。いずれはご当主になられるのですから、お勉強や訓練を頑張りましょうね」

 

 俺、御陵宮 朔斗(みささぎのみや さくと)は、そう言われて無邪気に「はい! 頑張ります!」とやる気を出した。

 

 言われてみれば、確かにウチは巨大だった。

 

 渡り廊下で無数につながり合う巨大な本家に、それを囲うように林立する分家の家々が、丘の上を占拠していた。

 

 そんな具合に、俺の住まう本家は大変広かったが、常に人にあふれていた。関係者が多い上に、丘の下の家々から大勢の使用人が、毎朝働きに来ているからだそうだ。

 

 なるほど。これは確かに、村の名家という奴だ、と気付いた。まるでこの村が、御陵宮のためにあるかのような有り様をしている。

 

 だが俺は幼心ながら、この狭い村でやたらと幅を利かせている我が家に、何とも言えず歪な印象を抱いていた。

 

 とはいえ、大きな問題がなければ子供はすくすく育つもの。俺は次期当主の息子として、甘やかされながら育った。

 

 俺は昔から小器用で、何をさせても上手かった。

 

 勉強をすれば、まるですでに知っているかのように、幼いながらに中高生相当の問題を解いて見せた。

 

 運動をすれば、まるでやったことがあるかのように、軽やかに同世代の子供たちを上回って見せた。

 

「朔斗様は天才でございますね! ああ、一安心でございます。宗厳(むねよし)様のご嫡男がこのご様子であれば、次期当主の座は揺らぐことはないでしょう」

 

 使用人や数人いる母親たちは、俺の様子を見て、そう口々に安堵した。

 

 宗厳とは、俺の父親にして、御陵宮の次期当主のことだ。

 

 親世代で、熾烈な当主争いを勝ち抜いた傑物。御陵宮の次の主。そう聞かされていた。いつもお勤めとやらに就いていて、ほとんど会う事のない相手。

 

 周りの人間は、全員父のことを絶対視していた。あまり思い出らしい記憶はなかったが、何となく立派な人なのだろう、と漠然と思っていた。

 

「あとは朔斗様の霊力測定さえ問題なければ、宗厳様の次期当主は不動のものとなり、朔斗様の当主継承も有力となるでしょう」

「素晴らしいこと! ああ、宗厳様にお仕えできたこの身が、誇らしくて仕方がありません」

 

 周囲の大人たちは、そんなことを言って憚らなかった。

 

 俺は照れ半分に苦笑していると、ふと少し離れた場所で、じっとこちらを見つめる目があることに気付いた。

 

 それは、叔父の関係者だった。叔父の妻や子供たち、使用人など。

 

 感情を殺した、冷たい目だった。俺はそれに気付いてゾッとすると、周囲の大人たちが「朔斗様、こちらへ」と案内した。

 

 長い廊下をぞろぞろと歩きながら、周囲の大人たちは口さがなく囁いた。

 

「ふ、当主争いの敗北者たちの末路は、悲惨でございますね」

「危険なお勤めを押し付けられて、従者も随分と減ったそうで」

「あらあら、可哀想なこと。次の贄……失礼しました、祭神の嫁君もあちらから?」

「そのように決められたと聞きますよ。また数が減ってしまいますね」

「うふふ」「ふふふふふっ」「うふふふふふふふっ」

 

 俺は手を引かれながら、今まで信じていた大人たちが、恐ろしい何かに見えた。

 

 

 

 

 

 七歳の誕生日を迎えた春先。俺は、霊力測定の儀に臨んでいた。

 

 霊力測定は七五三にあたる七歳で行うのが通常だそうで、判明した翌年から同い年全員で本格的な陰陽術訓練に入っていくのだと。

 

 周囲には老若男女問わず、父に付き従う者総出で、俺の霊力測定の儀に参列していた。

 

「ああ、楽しみでございますね。朔斗様はどれほどの霊力をお持ちなのでしょうか」

 

「朔斗様のご母堂は、霊力豊富な方でしたから、これは期待できますよ」

 

 参列者たちはすでにお祝いムードで、俺は緊張のあまりぶるぶると震えていた。

 

 何せ、今回の測定の儀には、ほとんど接する機会のない父すらも参列しているのだ。

 

 自然、重要な場なのだろう、と実感させられた。だからこそ、俺の緊張は限界ギリギリだった。

 

 そんな俺に、儀式の進行役は優しく微笑んだ。

 

「ご安心を、朔斗様。あなたは優れた血の持ち主でございますから、霊力が少ないなんてことはありえませんので」

 

「そ、そう、ですか……?」

 

「その通りでございますよ。では、お手を」

 

 俺が手を差し出すと、進行役は俺の指先を針で刺した。チクリとした痛みが走る。進行役が針を抜くと、先端には俺の血がついている。

 

 それを、巻物に落とした。すると巻物に梵字が走り、続いて俺の情報が浮かび上がる。

 

「浮かびました! では、発表いたします! 次期当主、御陵宮 宗厳様がご子息! 朔斗様の霊力は―――」

 

 進行役が声高に声を上げる。俺は何故だか、不安から逃れられない気持ちで言葉を待つ。

 

 思い出すのは、大学受験の合格発表だ。落ちれば浪人。あんな不安、二度と味わいたくないと思っていたのに―――

 

 ……ん? 大学受験? 何だこの記憶? 俺はまだ、七歳の少年のはず。

 

 そんな困惑を抱いていると、進行役が動揺に声を上ずらせて、言った。

 

「ぜっ、(ゼロ)で、ございま、す……!?」

 

 場の空気が、一気に冷える。何人かがキレ気味に「は?」「おい、つまらない冗談を抜かすな」と進行役を睨みつける。

 

「ちっ、ちがっ、ほ、本当で」

 

「本当な訳があるか! 朔斗様の霊力が(ゼロ)だと!? 宗厳様のご子息だぞ!」

「巻物を見せろ! 紛い物を使用したのではないのか!」

 

 何人かの大人が進行役に詰め寄るも、巻物に現れるのは、大きな『(ゼロ)』の一文字。

 

「やり直せ! 天才と名高い朔斗様の霊力だぞ!」

「こんなはずはない! やり直しだ! やり直しを始めるぞ!」

「はっ、放してください! やり直しますから! やり直しますから!」

 

 大人たちが動揺と怒りでもみ合う中で、俺は所在無く立ち尽くすばかり。

 

 そんなとき、ふいに視界の端で、立ち上がる影があった。

 

 父、宗厳。御陵宮における、絶対的な次期当主。

 

 父は立ち上がり、一度だけ俺を見てから、周囲に言った。

 

()()はもうよい。次の子を立てよ」

 

「そっ、そんな。宗厳様!」

 

 使用人が追いすがろうとするも、父は後ろ髪一つ引かれずに、その場を去っていく。

 

 俺がその様子に呆然としていると、もみ合いになる大人の巻き添えになって倒れこんだ。

 

「朔斗様っ?」「お気を確かに!」「あなた様は証明せねばならないのですよ!」「霊力がないなどという汚名が、間違いであることを―――」

 

 衝撃で意識が遠のく中で、俺が思い出したのは、とある絶望のこと。

 

 志望校の合格者番号の掲示に、自分の番号がなかった時の、膝から崩れ落ちるような、目の前が真っ暗になるようなそれ。

 

 そんな絶望を抱きながら、俺は気が遠くなっていく―――

 

 

 

 

 

 ……アレ? 俺これ、転生した感じか?

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