因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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深窓の令嬢と朝ごはん

 雛見の個室で、俺は久しぶりにまともな食事を取り、満たされた気持ちで一息ついていた。

 

「ごちそうさまでした。満腹だぁ……」

 

「ふふっ、お兄、こほん、朔斗様ったら」

 

 俺がご満悦なのを見て、雛見はクスクス笑っている。

 

 にしても、と俺は雛見のために用意された六畳ほどの和室を見た。

 

 御陵宮ではみんなでの食事になるのが普通だが、雛見のように個人で食事する者もいる。

 

 その辺りの詳しい事情は知らないのだが、そういう人は色々と特別扱いを受けているのだ。お付きの使用人が、わがままを大目に聞いてくれたりだとか。

 

 雛見もその一人で、病弱なのも相まって、いかにも深窓のご令嬢という具合になっていた。

 

 ちなみにだが、キキは基本夜型で、訓練後は俺の影の中で寝るのが通例。雛見への挨拶もそこそこに、今は眠りこけている。

 

 まったく、鬼らしいというか、自由な奴である。

 

「でも、そんな大変でしたら、もっと早く来てくださればよかったのに」

 

「ついさっきで数年ぶりだっただろ? 思いついても、そんな不躾な真似できないって」

 

「うふふっ、そうですか? おに、こほん。朔斗様なら構いませんでしたのに」

 

 そう穏やかに笑う雛見。スルーしてたけど、俺の呼び方の言い間違いが多いな。

 

「……昔の呼び方の方がしっくりくるなら、それでいいんだぞ?」

 

「いえ、雛見ももう九歳でございますから。いつまでも子供のような呼び方はできません」

 

 九歳は全然子供だろうに、と同じ九歳の身で思う。まぁ俺は前世持ちだけど。

 

「でも、悪いな。ご飯食べさせてもらって。人目につかないように、こっそり出てくから」

 

「はい? 何故でしょう」

 

「俺がここで食うって知られれば、ここの食事にも毒が盛られたりするかもしれないだろ」

 

 俺が毒を食うのはいい。ちょっと腹痛になるくらいだ。だが、他の人がまかり間違って食ったりすると、人死に騒動になりかねない。

 

 だから、こういう形で世話になれるとしても、ノーマークの初回だけ。今後はナシだ。

 

 そんな考えで言ったのだが、雛見は首を横に振った。

 

「毒殺騒ぎのことでしたら、わたくしには起こりませんよ。そういう事が起こらない、特別な従者が世話をしてくれていますから」

 

「……特別な従者?」

 

 にこ、と雛見が微笑む。すると、合図もなしに、二人の使用人が入ってきた。

 

 俺たちよりも背丈の小さい、恐らくは小学三年生くらいの少女たちが、入室してくる。

 

 特徴的なのは、その外見だ。

 

 双子だった。だが、髪の色がそれぞれ、真っ黒なおかっぱに白のメッシュ、真っ白なおかっぱに黒のメッシュが入っている。

 

 この世俗離れした御陵宮で、メッシュを入れられるような美容院はない。ということは、この髪は地毛ということなのだろう。

 

「ごちょうしょくを、かたづけさせていただきます」「いただきます」

 

 幼く舌っ足らずな物言いで言って、俺たちの飯を下げていく双子。俺はそれを見送ってから、雛見を見た。

 

 雛見は、双子について説明する。

 

「今代の御使いだそうです。祭神の御使いは、御陵宮の分家のどこかに双子として生まれ、当主の命に従い本家に奉仕する、と」

 

「あの二人が朝食を? 小さいのにすごいな……。二人の名前は?」

 

宵子(よいこ)と、暁子(あきこ)です。どちらも当主のお爺様の直属。次期当主の嫡男騒ぎに加担する余地のない、信頼のおける従者になります」

 

 ―――二人とも少し不愛想ですけれど、機会があれば可愛がってあげてください。

 

 およそ小学四年生とは思えない大人びた物言いで、雛見は俺に微笑む。

 

 俺は笑い返して、「二人とも、よろしくな」と双子が入れてくれたお茶をすすった。

 

「はい、さくとさま」「よろしくおねがいいたします」

 

「……うん」

 

 小三の背格好でこの堅苦しさだと、とっつきにくさがすごい。

 

 ……因習村、双子。で、祭神の御使い……。

 

 ちょっとメタ的に思うところはあるが、ひとまずおいておくとして。

 

 そう思っていたら、不意に俺の背後で、ガタン、と音がした。

 

「ん?」

 

 振り返る。そこにあったのは、設置型の、両開き型の神棚だ。

 

 御陵宮は祭神を祀り立てているだけあって、こういう神棚は至る所にある。だが両開きのものは珍しい、と思い見つめる。

 

「今、中で何か落ちたか?」

 

 その衝撃か、両開きの扉が少し開いている。俺は中を確認しようと手を伸ばし―――

 

 直後、ものすごい速度で駆けつけた雛見が、スライディング正座で神棚の戸を閉めた。

 

「……雛見?」

 

「何でございましょう?」

 

「いやその、それ……」

 

「こちらはただの神棚でございますよ?」

 

 冷や汗を流しながら、強張った笑みを浮かべ、頑なに言い張る雛見。

 

 ……まぁ、わざわざ触れられたくないところに触れるほど、俺も意地悪ではない。

 

「あー、えっと、そうだな」

 

 話題を探す。それから思いついて、助け船ではないが、こう問いかけた。

 

「そういえば、雛見、さっき『めでたい日』って言ってたけど、何かあるのか?」

 

 俺が姿勢を崩し、お茶片手に聞くと、雛見は安心半分、嬉しさ半分に話し始める。

 

「あ、はいっ。最近体調がよくて、実は今日から、学校に通えるようになりまして」

 

「おぉー! それは確かにめでたい」

 

 そうか。今まで見かけなかったのには、学校に通っていないというのもあったようだ。

 

「でも、やはりその、人生初めての登校というのは、少し不安でございまして……」

 

 目を伏せて、心細そうな顔をする雛見。

 

「そうなのか? 双子が付き添ってくれるものだと思ってたけど」

 

「宵子、暁子は通学が許可されていないのです。御使いは人に混じると神力を損なうとかで」

 

「お、おぉ……」

 

 俺は双子をいたわしい目で見るが、双子は淡々と朝食を片付けて出て行ってしまう。確かに、従者なのに特別感あるなあの二人。

 

 俺は、雛見に言った。

 

「なら、俺が付き添おうか? 少なくとも、身分差も分からんバカなワルガキは寄ってこないと思うし」

 

「本当ですかっ?」

 

 パァアアッ、と輝くような笑みを浮かべる雛見。大和撫子のような外見の割に、表情豊かだよなぁ、なんて思う。

 

「嬉しいですっ。お兄様と一緒に通学できるなんて……! うふふっ、登校できるだけでも嬉しいのに、雛見は飛び上がってしまいそうですっ」

 

 満面の笑みでニコニコしている雛見。その微笑ましさに、俺は肩を竦めるばかり。

 

 そこで、雛見が盛り上がり始めた。

 

「じゃっ、じゃあ、お返しっ。お返ししませんとっ。ええと、じゃあ、ううん……そうですっ。お兄様、お食事にお困りなら、こちらで召し上がりませんか?」

 

「えっ?」

 

「毎日付き添っていただけるのでしたら、毎日お返ししませんと! それに、せっかく朝一緒に通学するのでしたら、朝食もご一緒した方が効率的ですっ」

 

「お、おう……?」

 

「では、そういたしましょうっ。ああ、うふふっ、夢のようです。これから毎日、朝から夜までお兄様とご一緒できるなんて!」

 

「夜まで? ああ、同い年だから、放課後一緒に帰れば夜までか……」

 

「うふふっ。よろしくお願いいたしますねっ。お兄様」

 

 雛見は子供らしい舞い上がり方で、身振り激しく喜んでいる。

 

 それを見て、俺は一言。

 

「すっかり『お兄様』呼びだな」

 

「あっ」

 

 俺がくつくつと笑うと、雛見は袖で顔を覆ってから、隙間から赤い顔で俺を覗くのだった。

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