因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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御陵宮陰陽術塾

 その後俺たちは一度解散して、制服に着替えて再集合。二人で通学とあいなった。

 

 通学路は田舎らしく、田畑の間にあるあぜ道を歩いた。雛見は家の外に出ることそのものが少ないらしく、変哲もない草木一つ一つに、いたく感動した様子でいた。

 

「うふふっ、お外は暑いですね、お兄様っ」

 

 夏の暑さなど煩わしいばかりだろうに、雛見は心底楽しそうに笑うのだから、俺もつられて「そうだな」と同意していた。

 

 学校の時期としては七月の初め。少しすれば学校も夏休みに入ってしまうが……。

 

「俺が遊びに連れてけばいいか」

 

「? お兄様、何かおっしゃいました?」

 

「いいや。お、あそこが学校だぞ」

 

「あっ! あそこですか!」

 

 駆け足気味に前を進む雛見。しかしすぐに息を切らして立ち止ってしまう。病弱っ子め、と思いながら、俺はその手を引いた。

 

 校門に立って、俺は言う。

 

「雛見、御陵宮(みささぎのみや)陰陽塾にようこそ」

 

「は、はい……!」

 

「ははっ、学校なのに塾ってのも変だよな」

 

 実際の名前は御陵宮学校というそうだが、門構えに刻まれるのは『御陵宮陰陽塾』という名前だ。だからみんな、学校と言ったり塾と呼んだりする。

 

「とりあえず職員室に連れて行くのでいいな?」

 

「は、はい……っ。よろしく、お願い、します……」

 

 息切れの雛見を連れて学校に入る。職員室に行き、先生に引き渡す。

 

「じゃあ、先に行ってるな、雛見。俺たちの4、5、6年生は真ん中の教室だから」

 

「はい、ではまた後で」

 

 雛見に手を振って別れる。余談だが、この学校は小学123年生のクラス、456年生のクラス、中学123年生のクラスの三つがある。村の小さな学校だ。

 

 俺は一人廊下を渡り、自分のクラスへ。扉を開けると、クラス中の視線が俺に向く。

 

「おはよう」

 

 俺がニヤと笑うと、その大半が目を逸らし、残りはジロと睨みつけてきた。

 

 別に、ガキとなれ合いとも思わないが、と俺は席につく。

 

 すると、俺に話しかけてくる奴が、一人。

 

「よう、朔斗。今朝、オレの子分イジメたって聞いたけど、本当か?」

 

「そんなせせこましいこと、俺がすると思うか? 天征」

 

 俺が皮肉っぽい顔で見ると、そこにはどこか俺に似た、飄々とした面持ちの少年が立っていた。

 

 御陵宮(みささぎのみや) 天征(てんせい)。俺の腹違いの弟。俺と嫡男争いをする政敵筆頭。

 

 俺か天征か。そんな派閥争いで、親父の従者は真っ二つに割れている。人死にすら出すような熾烈な権力闘争を行なっている。

 

 そして、そんな影響を受けた天征は―――

 

 にっ、と笑って、俺に肩を組んできた。

 

「だよな。お前が本気で子分どもをイジメたなら、腕の一本は落とされてるはずだ」

 

「俺のこと裏で人喰い鬼って呼んでたりする? お前」

 

「陰口でちょこちょこ」

 

「天征!」

 

 俺が大声を出すと、天征は「ハハハッ」と悪戯っぽく笑った。それに俺は、「ったく」と頭を掻く。

 

 天征は、この通りの奴だった。オレたちは政敵。嫡男争いの相手。だが同時に、兄弟だと言ってはばからない。

 

「ま、子分たちがギャーギャー言ってる時点で分かってたからな。あいつらにはもう言って聞かせておいた。『オレの弟がそんな陰湿なことするワケねぇだろ!』ってよ」

 

「弟はお前だよ」

 

「は? 数日ごときで勝ち誇ってんじゃねぇぞ、霊力ゼロ野郎が」

 

「反撃強すぎだろビックリするわ」

 

「マジで霊力ゼロなの羨ましい。宿業、オレも欲しい……! 朔斗みたいに垂直三メートル跳びたい……!」

 

「もしかして霊力ゼロって褒め言葉だった?」

 

「よーこーせー!」

 

 天征は俺の肩を掴んで揺さぶる。俺は「やーめーろー!」と言いながらぐらつかされる。

 

 天征は、終始こんな具合だった。何をするにも冗談交じりの、軽妙な奴。

 

 俺にかつての従者を殺されたと知りながらも、しっかりと俺と話した上で『お前は悪くない。だから、オレは朔斗と仲良くしたい』と笑った豪胆な奴だ。

 

 俺は天征を押しのけながら、笑って言う。

 

「宿業はやれないけど、嫡男は多分お前になるよ。それでいいだろ?」

 

「嫡男なんぞ要らん! 宿業よこせ!」

 

 ささやかな俺の本音に、天征は俺に人差し指を突きつけてくる。ガキなんだか大物なんだか、分からん奴だ。

 

 ―――学校で、基本的に俺は遠巻きにされている。状況によっては、犯人の分からない嫌がらせに遭うこともある。

 

 霊力ゼロという蔑視の対象でありながら、宿業、鬼神の主で『危険な奴だ』とでも思われているのだろう。

 

 だが、天征はそれを本来牽引すべき立場でありながら、一人その輪から外れていた。だから天征がいるときは、俺はのんびりと過ごすことができた。

 

「にしてもさぁ、5、6年生は良いよなぁ。今日はみんな任務で出払ってんだぜ? オレたちはまだまだ陰陽術の授業だよ」

 

 俺にもたれかかりながら、天征は言う。それをどかしながら、俺は答える。

 

「言っても仕方ないだろ。四年生なんてガキができる任務なんて、おつかいくらいのもんだ」

 

「オレはちげーし~! 妖魔討伐訓練も先取りでやってるし~! ……ザコ相手だけど」

 

 どかしてももたれかかってくる天征に辟易しながら、俺は考える。

 

 任務。御陵宮では、教育課程から就かされる、妖怪退治や諸問題解決業務だ。これを任されるという事は、ある程度の実力を認められていることの証拠でもある。

 

 だが、これを任されるのは、早くとも小学校高学年からだ。暗殺者を自力で撃退できる俺も、実力が少なからずあるらしい天征も、任務に就かされた事はない。

 

 ……ま、ちょっと憧れがないでもないけどな。子供の体になると、大人の真似や仕事に、ワクワクしてしまうらしい。

 

 俺が物思いにふけっていると、天征は言う。

 

「そういえばさ、朔斗と一緒に来てた女の子、誰だ?」

 

「雛見だよ。ほら、昔行事とかで出てきて、病弱だからってすぐ引っ込んじゃった子いたろ」

 

「あー、はいはい。叔父さんの子な? 覚えてる覚えてる」

 

 適当な椅子を傾けながら座って、天征は頷く。

 

「特殊な体質の子だろ? 霊媒体質とかっていう。病弱ってのも、ザコ霊の悪影響を受けるから、ほとんど自室から出られないとかって」

 

「えっ? そうなのか?」

 

「噂だけどな。でも、登校したってことは多分成長して、その辺りも上手く制御できるようになったんだろうぜ」

 

 流石宗家でも人が最も集まる存在。俺がその手の話からほとんど隔離されているのに、天征は完璧に押さえているらしい。

 

「話変わるけどよ、今日の陰陽術の授業勝負しよーぜ」

 

「またかよ。いいけどさ、でも俺霊力ないし、内容次第な」

 

「やりぃ! 今日こそ勝ってやるからな」

 

 そこで、先生が「ホームルーム始めますよ~」と言いながら教室に入ってくる。俺は教室の外に雛見の影を見つけて、無事運んだらしいとホッとする。

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