因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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陰陽術授業

 遅ればせながらの情報だが、この村は水静(みしず)村という。

 

 御陵宮が治める小さな集落だが、何故か人の出入りが激しく(入ってくる人と死ぬ人)、田畑と森を除けば結構な過密地域だったりする。

 

 交通の便は最悪で、無論電車は通っていないし、バスもない。ほとんど陸の孤島だから、行き来の手段は車に限定されている。

 

 そんな因習村なので、水静村の人間関係は、それはもうごちゃごちゃしているワケで。

 

 少なくとも、良好とは言い難い。というのも本家、分家、従者それぞれで苛烈な競争が発生していて、順序が上でないとまともな扱いを受けられないから。

 

 御陵宮はもはや言うまでもないし、使用人の家系も実はごちゃついていると聞く。使用人頭の権力争いなんてのもあるとか何とか。

 

 そんなだから、小学校も同様。むしろ、村と違って御陵宮と使用人で明確に分かれていないからこそ、よりごちゃついている。

 

 要するに、どういうことか。

 

「御陵宮の御家騒動を、分かってるのかそうじゃないのか……」

 

 俺は、自分のロッカーにベタベタと貼り付けられた『悪霊退散』の手書きの札を見て、ため息を吐いた。

 

 いかにも小学生が書いたような、稚拙な札だ。ダルい嫌がらせだが、大量に貼ってあると、ぱっと見の絵面がホラー作品のそれになるのでやめて欲しい。

 

 俺は微妙な顔で頬を掻く。それから、「キキ」と呼ぶ。

 

 すると、俺の影からキキがうにょんと現れた。

 

「んん……? ふぁああ……、おはよう、主様よ……♡ 何じゃ? こんな昼間に呼んで。わらわとイチャイチャしたくなったか?」

 

「キキ、この札一気に剥がせるか? 手作業でやると、あとが残りそうでさ」

 

「無論よ。キレイにやれという話なら、こうして、こうじゃ!」

 

 キキは指先に込めた妖力で紙を遠隔で掴み、ペリリ、と一気に札を剥がした。それからそれぞれをばらけさせ、束に変える。

 

「ほれ、主様よ。ご所望のものじゃ。して、これはまた誰ぞ童の仕業かの。下手人を見つけて血祭に出る上げるかや?」

 

「血祭はダメだろ、こんな悪戯で」

 

「しかし、やり返さねば舐められるばかりよ。主様が動かぬなら、わらわが動くぞ」

 

 俺が諫めるも、キキは毅然とした態度で俺に言う。……確かに、一理あるな。うーん。

 

「……分かった。タイミングを見てやり返そう。ただし、やられた分だけだ」

 

「まったく、主様はお優しいことじゃ。ならばわらわは、下手人を炙り出しておこうかの」

 

 俺は透明化して、スンスン鼻を鳴らしながら出て行くキキを見送って、体操服を着る。

 

 すると「おーい!」と天征が顔を出した。

 

「朔斗、まだかー?」

 

「すぐ行くー!」

 

 身支度を整え、外に出る。するとそこには、天征に並んで雛見も居た。

 

 つまり、体操服―――ブルマを履いた雛見が。

 

「おっ、おおおお、お兄様……っ!? た、体操服なのですが、あっ、あのっ、ぱ、パンツみたいな……!」

 

「ああ、うん。ウチはブルマなんだよな」

 

 2030年とは思えないが、これも因習村のなせる技だろうか。他の女子もブルマである。中学に上がっても全員ブルマだ。

 

 前世の記憶がよみがえって初めての授業はちょっとワクワクしたものだが、周りの小学生のブルマには、流石にそういう感情は起こらなかった。中学に期待。高校は村にない。

 

「まぁ、みんな平気な顔してるから、気にしなくていいと思うぞ」

 

「そっ、そうですか……? あ、本当です。お兄様が涅槃に入ったような安らかなお顔を」

 

 というワケで俺たちは、三人で話しながら校庭に出る。校庭に出ると、ちょうど授業開始のチャイムが鳴った。

 

 陰陽術教師が、生徒たちの前に立って話し始める。

 

「おはようございます、みなさん。今日の陰陽術の授業では、五行符の扱いを教えますよ」

 

 教師を務める柔和な女性教師は、穏やかな口調で説明を始めた。ここ最近、外から来た遠縁の一族の者だそうだ。

 

「では、まず五行符について説明しますね」

 

 教師は懐から札を取り出した。五芒星を中心に模様と文字が書かれた、細長い紙だ。

 

「これは、五行符といいます。我が御陵宮で用いる呪符の一つで、基礎的な攻撃は大抵こちらを用います」

 

 教師は視線を、俺たちから横に移動させる。その先にあるのは、訓練用の的だ。

 

「急々如律令!」

 

 教師は呪文を叫びながら、札を投げた。すると札は瞬時に火の玉に変わり、的に当たる。

 

 子供たちが揃って感心に「おぉ~!」と声を上げるのを聞いて、教師は得意になって話す。

 

「このように呪文と共に投げると、五行符は望んだ属性に変化しながら、飛んでいきます。敵の弱点を見極めて、火の妖魔には水の攻撃を、水の妖魔には土の攻撃を飛ばすんです」

 

 非常にシンプルな話だ。五行。火、水、土、金、木。五つの属性。

 

 これらは属性によって生かし合い、属性によって潰し合う。だから弱点に刺さるように使え、というだけのこと。

 

 生憎と俺には関係ないが……と少し離れたとこにいる雛見を見ると、目をキラキラさせて説明を聞いていた。

 

 目が合う。雛見が、早くやりたいですっ、と言いたいのか、目を輝かせて腕をぶんぶん振っている。外見に似合わずお転婆娘かもしれない。

 

 一方で天征は、あくび交じりだった。そういえば以前、五行符の訓練をしていたのを見たことがある。予習範囲の授業は退屈、というところか。

 

「急々如律令、という呪文で霊力の門が開くので、慣れてきたらある程度は省略できます。でも、慣れない内はすぐ門が閉まってしまうので、ちゃんと繰り返し言ってくださいね」

 

 教師の説明も終わり、「では、早速皆さんやってみましょう!」という呼びかけに従って、子供たちは散っていく。

 

 俺に近づいてくるのは天征だ。

 

「うっし、やろうぜ。朔斗、今日こそ勝ってやるからな」

 

「いや、今日はなしだろ。霊力ゼロで呪符が使えるかって」

 

「はぁ~!? おいおい、自分が不利な時は勝負を受けないってのは卑怯だろ~!」

 

「勝負を受けないんじゃなく、勝負にならないの間違いだぞ」

 

 俺がデコピンをすると「あでっ! ハハハッ」と笑う天征だ。分かって言っているのだから、こいつもふざけている。

 

 すると、雛見が言った。

 

「では、わたくしと勝負いたしませんか? 天征様っ」

 

「おっ、いいぞ~! 何を賭ける?」

 

「かっ、賭けっ?」

 

「そりゃあ勝負するなら賭けだろ。オレはいつも朔斗とは、嫡男の座を賭けて争ってるぞ」

 

「そんな大勝負をいつも……!?」

 

「天征が嫡男の座をどうでもいいと思ってるだけだろ」

 

 ちなみに基本俺が圧勝する。たまに天征が勝って嫡男が一時的に天征になり、次にまた俺が勝って俺が嫡男に戻る。

 

 天征が適当すぎるな、と再確認。嫡男争いって人死に出てるんだけど分かってんのかな。

 

「でっ、では、ええと、その……」

 

 雛見がチラと俺を見る。何で俺、今見られたんだろう。

 

 すると、天征が言った。

 

「雛見が提案しないならオレがするぜ! 朔斗と一日遊ぶ権を賭けて勝負だ!」

 

「勝手に賭けるな。っていうかそんなのいつでも」

 

「そっ、その勝負乗りました!」

 

「乗っちゃったよ」

 

 勝手に賭けの対象にされる俺である。二人は並んで的の前に立ち、五行符を構えて放ち始める。

 

「「急々如律令!」」

 

 流石宗家筋だけあって、二人とも初手から呪符の遣い方が上手い。

 

 そんな元気な二人を眺めながら、俺は周りを観察した。

 

「急々如律令!」「きゅ、急々如律令!」

 

 他の子どもたちも、それぞれ火だったり水だったりと、思い思いに属性変化させながら札を投げつけていく。

 

 基本みんな初めてのはずだが、五行符は使えて当たり前、という雰囲気があった。子供が普通に使えるくらい、五行符は基礎に当たるらしい。

 

 一方で、差があるのは札を投げるにあたってのスタミナだ。

 

「きゅ、きゅうきゅう……、にょりつ、りょ……」

 

「急々如律令!」

 

 ある子は三枚投げた程度でへばりだし、ある子は何枚投げてもへこたれる様子がない。

 

 これが霊力の差か、と思う。と同時に、三枚でへばる子が周りからクスクス嘲笑されたり、「どけ。次は俺だ」と蹴飛ばされたりと、扱われ方に直結しているのを見る。

 

 なるほど、霊力が少ないだけでこれなら、ゼロの俺が贄扱いを受けるわけだ。

 

 俺は視線を戻す。雛見、天征の二人の様子を確認する。

 

「うふふふっ! 急々如律令!」

 

 雛見は、流石宗家筋だけあって、霊力にかなりの余裕があるようだった。一度に二枚、三枚と同時に投げてもケロッとしている。練度はないが、馬力があるイメージ。

 

「急々如律令っ! 木から火で、五行連鎖だっ!」

 

 一方天征は、霊力は雛見に比べればないものの、やはり分家とは比べ物にならないほど余裕感がある。そこに五行関係を使って威力向上を狙うなど、器用さが出ていた。

 

 そんな二人に、俺は少し羨ましさを感じてしまう。魔法チックというか、やはり見ていると『俺もやりたい!』という気分になるのだ。

 

 生憎、それは叶わぬ願いなのだが。

 

「さ、朔斗君? 君も、ちゃんと五行符の練習してね?」

 

 眺めていると新任教師から言われて、俺は口を曲げて聞き返す。

 

「……俺もですか?」

 

「うん、その、事情は分かってるけど……」

 

 申し訳なさそうな顔をする教師に、向こうにも事情があるのだろう、と察する。

 

「分かりました。一応形だけでもやります」

 

「ありがとう。……ごめんなさいね」

 

 俺は肩を竦めて、五行符が束になっておかれている台に近づいていく。

 

 そして符に手を伸ばそうとしたとき、横から手を掴まれた。

 

「おい、人喰い鬼。お前は五行符で祓われる側だろ~? なに五行符盗もうとしてんだよ!」

 

「……えぇ……?」

 

 ただでさえしたくない五行符練習をするのにも、邪魔が入るのかよ。

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