因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
近づいてきたのは、今朝雛見を虐めていたガキどもだった。
こうして改めて見ると、成長が早いのか、正面に立つガキ大将は俺よりも背が高い。俺も別に小柄というワケではないが、小学生の今は背丈で負けていた。
俺はため息を吐いて、ガキどもに言い返す。
「見てなかった? 先生にやれって言われたんだけど」
「は? 知るかよ! この人喰い鬼が! 霊力ゼロの癖に、陰陽術使おうとしてんじゃねぇよ!」
一人が俺に怒鳴りつけると、周りが「そうだそうだ!」「人を食うだけじゃなく、盗みもするのかー!」と騒ぎ立てる。どんだけ霊力ゼロって侮られる対象なんだ。
俺は眉間のシワを揉んで、渋面で問いかけた。
「一応俺、宗家嫡男だぞ? 親に何か言われねぇの?」
「人喰い鬼が当主になんてなるはずない! 絶対どこかで処分されるだろうからに気にしなくていいって、お母さんが言ってたぞ!」
「なるほど、親の教育がカスなワケね……」
「はぁ!? お母さんのことバカにすんなよ!」
「うるせぇバカ親子」
俺の返答に、ガキ大将は「はぁ!?」とブチギレているが、そんなのは無視無視。
となると、人喰い鬼って呼び方は親が言ってるのか。根が深いなぁこれ……。
しかも、都合が悪いことに、発言力のある天征は、雛見との五行符対決に夢中になっている。おーおー、的の周りがすごいことに。
「おいっ! 無視してんじゃねぇぞ!」
どんっ、と取り巻きのガキが俺を押してくる。それに俺は、口を尖らせて微動だにしない。
何故か? 俺とフィジカル勝負をするのは、悪手も良いところだからだ。
「っ! いっ、いってぇよぉ! びぇぇえええ!」
俺を突き飛ばそうと押してきたガキは、自分の力で腕を痛めてしまったらしく、右腕を抱えて泣き始める。
さもありなん、というところか。俺を突き飛ばそうとするなど、俺の体重の銅像を突き飛ばすのと同じ。力の入れ具合をミスれば、当然怪我もするだろう。
しかし、周りのガキはそれを、俺の所為だと判断する。
「てっ、テメェ! やりやがったな!?」
ガキ大将は俺を睨みつけ、五行符を構える。俺は「えぇ? それ、人に向けて撃っちゃダメだろ」と言うが、ガキ大将は止まらない。
「急々如律令!」
五行符が至近距離から放たれ、火の球に変わる。俺はため息を吐いて、腕を伸ばした。
握りつぶす。ジュッ、と音がして、五行符攻撃が鎮火する。
「……え?」
「満足したか?」
俺は火傷一つしていない手のひらを開いて、五行符攻撃の残滓を地面に落とした。
「お兄様! 天征様との勝負ですが、わたくしが勝ち、あら……?」
「ブフォッ! ハハハハハ! 朔斗、五行符を素手で握りつぶして、アッハハハハ!」
ちょうど勝負が終わったらしい雛見、天征の二人が、俺たちの様子に気付く。雛見はキョトンとしているが、天征はバカ笑いしている。お前。
「ちょっ、ちょっと! 何してるの!」
遅れて走ってくるのは先生だ。俺はげんなりしながら「何ていうか、そのですね……」と言葉を選んでいると、ガキどもはそこに機を見出した。
「いっ、今のは何かの間違いだ!」「そうだ! 今度は一斉にやるぞ!」「おう!」
「は?」
「「「急々如律令!」」」
ガキどもが三方向から俺に五行符を投げつけてくる。札はそれぞれ火、水、土に変化し、俺に襲い来る。
「っ!? 何をやってるんですか!」「お兄様っ!?」「うおぉ、ここでさらに行くかよ」
先生、雛見、天征が続けて困惑の声を上げる。先生も咄嗟のこととなると体が動かないのか、この五行符には対処できないでいた。
だから俺は、それを裏拳一つで全部弾き飛ばした。
火の球は消え、水は弾け、土くれは砕けて地面に落ちる。
「……ぇ……?」
ガキどもの、困惑の声。俺は拳を振って汚れを落としてから、ガキどもに近づく。
「うっ、うわぁ!」「やめっ、近づくなよ!」「何する気だよぉ!」
ガキどもは涙目になって俺から遠ざかる。だが途中で足をもつれさせ、一人、また一人とその場に固まって倒れていく。
そんな連中のすぐそばにまで、俺は近寄った。ガキどもは歯を食いしばり、涙を目に溜めて、震えながら俺を見上げている。周りも固唾を飲んで、俺を見つめるばかり。
……いや、何か大事な雰囲気出てるけど、別にぶん殴ったりする気はないんだけどな。
どうしたもんか、と少し悩む。罰が軽すぎてもイジメが再発しそうだし、かといって子供を徹底的にしばき回すこともやりたくないし。
そんな風に思っていると、透明状態のキキが、チョロチョロとこちらに歩いてくるのに気が付いた。それから、「お? 主様の下に戻ってきてしまった」と目を丸くする。
それで、俺は良いことを思いついた。懐から、先ほど回収した札を取り出す。
「そ、それは」
ガキどもには心当たりがあったのか、バツが悪そうに呟く。ロッカーの悪戯の犯人で確定だ、と思いながら、俺は札をガキどもの額に、気持ち強めに貼り付けた。
「悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散!」
「あてっ」「いたっ」「ぎゃっ」
ベシッ、ベシッ、ベシッ! と一人ずつガキどもの額に札を貼り付けると、ガキどもがキョンシーみたいな間抜けな姿になる。
そんな奴らに、俺はニヤリと笑って、こう言った。
「返してやるよ。子供に入り込んで悪戯する悪霊を、退治してやらなきゃな」
「は……?」
困惑するガキ大将。俺はガキ大将に顔を寄せ、最後に一言付け加える。
「もし、この札で退治できないような悪霊だったら―――次は、可哀想だが、子供ごと
「――――ッ」
ガキ大将は震えあがり、慌てて立ち上がった。それから「ひっ、たっ、助けてぇええええ!」と情けない悲鳴を上げながら、校庭から走り去っていく。