因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
授業後、先生に呼び出されてお叱りを受けるのは、何故か俺一人だった。何で?
「何でも何も、あんなになるまでやり返す必要がありますか! 手加減というものを知らないの!?」
「えぇ……? 俺、軽く札を貼り付けただけですけど」
「でも、あの子たち泣きじゃくってたじゃない! あんな傷つけて……悪いとは思わないの!?」
「……」
俺は渋面で先生の言葉を受け流す。アレだ。話の通じない教師って奴だ、これは。
前世でもこういう教師はいた。謎の尺度があって、そこから反した生徒は無条件で悪い、と判断する奴。一般常識からズレたジャッジが発生するのだ。
こういう手合いには、何を言い訳しても意味がない。何故ならその尺度が絶対であって、一般常識はその下にあるからだ。法律で憲法殴るようなもん。ノーダメだ。
となれば、俺の対応はただ一つ。
「すいませーん、反省してまーす」
必殺、反省した振りである。いわゆる処世術というものだ。ムカツクがこの手に限る。
といいつつ、今のはやる気が抜けすぎてたが。余計怒られそう、と俺は虚無の顔になる。
「分かればよろしい」
アレ、何故か許された。演技とか見抜く能力皆無か?
「どちらにせよ、罰則は受けてもらいます。朔斗君には、罰掃除を命じます。いいですね」
「……トイレ掃除とかですか?」
「いえ、朔斗君には深夜に学校に来てもらい、学内に湧いた下級妖魔を掃除してもらいます」
その言葉に、俺は目を丸くする。
「罰掃除ってそういう話ですか……?」
「トイレ掃除は使用人の家の者がやればいいことですので。本家の人間にふさわしい罰と言えば、これでしょう」
「な、なるほど……?」
理に適っているといえばいいのか、何というのか。ともかく俺は、深夜に罰(下級妖怪)掃除をすることに決った。
問題なのは、そこで満を持して登場した者たちがいたことだ。
「はいはーい! オレも! オレも朔斗の罰掃除に協力しまーす!」
「わ、わたくしもご一緒して、よろしいでしょうか……?」
「てっ、天征!? 雛見まで……」
俺が驚くと、天征はニヤと得意げに笑う。
「話は聞かせてもらったぜ。そんな楽しい話からオレをハブろうだなんて、朔斗の癖に生意気だぞ?」
「罰掃除って話聞こえてなかったのお前?」
「おっ、お兄様と一緒に、大冒険……! わっ、わたくしも行きたいです!」
「確かに小学生にとっては、深夜の学校は大冒険だけども」
俺は先生を見る。先生は非常に苦々しい顔をしていたが「まぁ、たった一人で行くよりは、安全でしょうし……?」と怪しい納得で、俺たち三人による罰掃除が決定したのだった。
さて、深夜である。
丑三つ時。俺たちは任務に適した儀礼用の和装を身に纏って、学校前に訪れていた。
「うふふっ、初登校日に任務だなんて、わたくしワクワクしてしまいますっ! お兄様見てください! 今回の準備に、たくさん五行符を持ってきたんですよ!」
「辞書?」
一抱えというか、シンプルに辞書みたいな量の五行符を抱えて、雛見は目を輝かせている。
おかしいな……昼とか、五行符数枚で動けなくなってるような生徒もいたんだが。雛見は昼の手応え的にこのくらい投げれると思ったのかな。やばいね。
「ちなみに天征はどのくらい持ってきたんだ?」
「んー? ボチボチ。百枚あれば足りんだろ。足りないような相手なら逃げた方がいい」
天征は俺たちに、分厚い冊子くらいの枚数の札を取り出して見せた。多分これが適正なんだろうな。
「お兄様は、あ、符は使えませんものね」
「俺は、キキが影の中に刀を仕舞っといてくれてるからな。俺自身は手ぶらで良いんだよ」
「影にしまう妖術ガチで羨ましい……。オレも早く収納系の術極めよ」
天征は相変わらず俺を羨ましがっている。確かにこれは便利だし、羨ましがる気持ちも分かる。
「よし。じゃあ改めて、任務内容を確認するぞ」
俺が言うと、雛見、天征の二人が頷いた。夜になって起き出してきたキキが、大あくびをしている。
「俺たちの記念すべき初任務だが、学校に湧くザコ妖怪を一掃することだ。一か月に一回行う定期任務で、怠ると日中に影響が出るらしい」
「重要任務、ですね、お兄様……!」
「ま、肩慣らしにはちょうどいいな。サクッと終わらせて度肝抜いてやろうぜ」
真逆のことを言う雛見と天征。だが、お互いに気にした様子はなく、やる気に満ちていた。
俺としては、天征と同じスタンスだ。難易度は高くない。油断せずしっかりやろう、くらいのところ。
そんな風にしていると、キキが俺に抱き着いてきた。
「主様よぉ~……眠いぞぉ~……」
「お前夜型なのか朝型なのかどっちだよ」
「主様が昼に呼び出すから、意外に寝れておらぬのじゃ~」
ぐでーっ、とするキキに、俺は「はいはい、頑張ってな」と頭を撫でる。キキは頭を撫でられ、ちょっと嬉しそうに「仕方ないゆえ頑張るぞぉ~……」と目を擦る。
すると、雛見が俺に近づいてきた。
「あっ、あのっ! わ、わたくしもが、頑張りますっ!」
「え、う、うん。そうだな、頑張ろうな」
いきなり来た雛見に、俺はまばたきをする。しかし雛見は不満そうに、俺を見つめている。
「……あの、お、お兄様ぁ……」
「え、何?」
雛見の意図が見えず、俺は首を傾げる。すると雛見は夜闇の中で顔を赤くしてぷるぷる震えだし、最後にはへそを曲げてしまった。
「~~~っ! お兄様のいじわるっ! 先に行きますからねっ!」
「えっ? 何っ!? ちょっ、待て待て雛見!」
一人怒って先に行ってしまう雛見。それを見て、天征が「朔斗、お前鈍感だなぁ」とカラカラ笑っている。
「何だよ鈍感って……」
「いいや、朔斗の鈍感っぷりが面白いから教えない」
「おい」
俺が睨むと、「おーこわ。退散退散」と天征も駆け足で学校に入っていってしまう。
「ああ、お前も一人で先に行くなって。っと、おお、どうしたキキ」
目を覚ましてきた様子のキキが、学校を見て、「ん~……?」と首を傾げる。傾げるついでに俺の肩に頭を乗せる。
「主様よ。先ほどの説明、もう一度言ってはくれぬか」
「え? 説明って、任務の?」
「そうじゃ。わらわの記憶では、ごくごく簡単なもの、と言っていたような気がしたが」
「ああ、うん。そうだけど」
俺が頷くと、「ではマズいな」とキキが言った。
「は?」
「話と学び舎の妖気が釣り合っておらぬ。ザコの妖気ではないぞ、これは」
「……何だと」
俺は慌てて「二人とも、待て! 様子がおかしいってキキが言ってる!」と大声を出す。
が、声が返ってこない。
数メートル先、校門をくぐったくらいのところにいたはずの二人が、すでに見えない。
「おっ、おい。二人とも、どこだ! 雛見! 天征!」
「異界化しておるのか? 主様よ、二人がよほどの使い手でなければ、急いだ方が良い」
キキが俺に目配せする。
「異界を作れる妖魔は、相当に力を蓄えている。生半可な腕ならば、すぐに食われてしまうぞ」
「―――クソッ!」
俺は駆けだし、校門をくぐる。同時に異様な雰囲気が、俺たちを包み込んだ。