因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

15 / 49
夜の学校の怪異

 学校の校門をくぐると、気付けば周囲の空間が、学校の廊下に切り変わっていた。

 

「っ!?」

 

「ほう、中はこうなっておったか」

 

 まるで一瞬意識を失っていたのかと疑うほど、環境が変化している。

 

 しかも確認するに、廊下は奥を見通せないほど長くなっている。異界。なるほど、キキの見立ては正しかったらしい。

 

「出口はない、か」

 

「妖魔を払うまでは出られぬじゃろうな」

 

「その前に合流だ。天征はともかく、雛見が心配だし」

 

 俺は目を閉じ、耳を澄ませる。宿業を抱くこの体は、感覚にも優れている。

 

 そうしていると、離れた場所で雛見の声が聞こえた気がした。俺はそちらに視線を向ける。

 

「下の階、あっちの方だ。走るぞ、キキ」

 

「うむ、行こうか主様」

 

 同時に駆けだす。俺とキキの身体能力はほぼ互角。少なくとも、走力は完全に同じだ。

 

 廊下を素早く駆けていると、不意に道の先で、教室の扉が開いた。そこから、人体模型が歩みだしてくる。

 

「ニセモノの体はやだよぉぉおお……本物の体が欲しいよぉぉおお……」

 

 内蔵と筋肉を露出させたデザインの人体模型が、不気味に俺たちを見た。そして目をギラつかせ、走り出す。

 

「いいなぁぁぁああ本物の体ぁぁああ! ちょうだいぃぃいちょうだいぃぃいいい!」

 

 俺たちに襲い掛かってくる人体模型。それに俺たちは―――

 

「本物になったからって、どうにもならんだろお前ッ」

 

「ザコ妖怪が。襲う相手を考えよッ!」

 

 俺の拳が、キキの跳躍キックが放たれ、瞬時に人体模型はバラバラに砕け散った。

 

 俺たちは速度を下げずに駆け抜ける。そうしながら、言葉を交わす。

 

「キキ! 今のは!」

 

「少なくとも、この異界の主ではないはずじゃ!」

 

 それだけ分かれば十分。俺たちはそのままの速度でひた走る。

 

 問題は、廊下をいくら走っても、下の階に繋がる階段が現れないことだった。延々と出口のない廊下が続くばかり。

 

「ここだっ!」

 

 俺がズザザと立ち止ると、キキも同様に足を止めた。耳を澄ませる。この下で、雛見の声が聞こえる。

 

「クソ! 雛見はこの下だ! でも階段もなかったぞ、どうすれば……ッ!」

 

 俺は歯噛みする。脳裏によぎるのは、前世の死に際のこと。

 

 俺は死にたくない。死ぬのはとてもつらいことだと知っているから。

 

 だが同時に、身内が死ぬのもまっぴらごめんだ。

 

 死にゆく中で眺めた、家族たちの死に様。生き残ってもみんなはもういないんだ、と実感させられたあの時間を、俺は二度と味わいたくない。

 

 だから俺は、必死になって考える。下り階段はない。だが確実に雛見は下にいる。どうすれば雛見の下に駆けつけられる!

 

 すると、キキはニヤリと笑い、「主様は人間の思考に囚われておるな」と腕を回す。

 

「っ? どういうことだよ、キキ」

 

「人間は、特にここ最近の人間は、建物を頑強で絶対的で、到底壊せないものと思うておる。実際、家というのは最も身近な結界で、強い妖魔でも侵せないことも多い」

 

 じゃがな、とキキは笑う。

 

「じゃがな、主様よ。その考えは間違いじゃ。古くより我ら鬼は――――」

 

 キキの腕に、バチバチと電気が走る。ブルブルと腕は震え、力が蓄えられていく。

 

「家々をなぎ倒し、人と争っていたのじゃからなァッ!」

 

 キキが、拳を振り下ろす。そして、紫電が走った。

 

「うぉぉおおおっ!?」

 

 キキの拳が、紫電が、俺たちの足元を、地面を打ち砕く。

 

 木材が弾け飛び、紫電の中に黒焦げ、朽ちていく。骨組みがバラバラになって破綻する。俺たちは地面を失って落ちる。

 

 その、下。

 

 そこには、今にも複数の妖魔に襲われそうな雛見が、涙ながらに身を固めていた。

 

「主様ッ!」

 

「おう!」

 

 キキが投げ渡してきた大太刀を受けとる。俺はその柄を握って、妖怪目がけて振りかぶる。

 

「吹き、飛べぇッ!」

 

 一閃。

 

 忍び寄っていた妖魔たちが、瞬時に全員、胴を一薙ぎにされて倒れ伏す。

 

「おっ、お兄様っ」

 

 雛見が震えながら俺に抱き着いてくる。俺はそれを抱きとめて、「よしよし、よく無事でいてくれた」とその背中を撫でた。

 

「わっ、わたくしっ、こ、校門に入った途端、ここにいてっ。だ、誰も来なくて……っ」

 

「ああ、分かってる。俺たちも同じだ」

 

 雛見は全身震えていて、相当の恐怖の中にいたらしい。落ち着くまでは、こうしていてやろう。

 

 俺が倒し漏らした妖怪をキキが素早く片付け、俺に抱き留められる雛見を見て「むぅ……」と頬を膨らませている。俺は苦笑だ。

 

 そこで、上から「おっ?」と声がして見上げると、そこには俺たちが作った穴を見下ろす、天征の姿があった。

 

「ほぉ~流石だな、床をぶち破って移動したか。やるなぁ朔斗」

 

 よっ、と軽い調子で、天征は飛び降りてくる。宿業もなしにこのくらいの身体能力を見せるのは、流石の才能というところか。

 

「俺じゃねぇよ、キキがやったんだ」

 

「ふぅん? ま、どっちでもいいけどよ」

 

 天征は伸びをして、飄々と言った。

 

「いやぁ、罰掃除にしては中々ハードな展開になってきたな」

 

「平気な顔しやがってよ」

 

「いやいや、オレだってちゃんと焦ってんだぜ? 見るか? もう脇汗びっしょり」

 

「乾いてるぞ」

 

「ほれほれ」

 

「押し付けてくるな」

 

 乾いた脇を押し付けようとしてくる天征を押しのける。すると天征は俺と肩を組み、「で、どうするよ」と俺に聞いてきた。

 

「あのなぁ……まぁいいか。じゃあ一回整理しよう。キキ、ここまでで分かってることについて、みんなに解説してやってくれ」

 

「うむ。では僭越ながら、わらわが掴んだ情報を開陳するぞ」

 

 キキが適当な机に腰掛け、話し出す。

 

「まず、ここは異界じゃろう。人間の結界術に似た妖術に、そういうものがある。そして異界の中には、必ず主がおるものよ。とはいえ、異界にしては妙じゃが……」

 

「つまり、ここには犯人がいるってことか?」

 

 俺の問いに、「うむ」とキキは頷いた。

 

「異界は、主を破ることで開かれる。であれば、探し出し滅ぼすまで」

 

「あるいは結界術を修めてれば違うがな。この中で結界術を使える人~」

 

 天征が手を上げて促すも、俺はもちろん無理だし、雛見も困惑の表情だ。

 

「とまぁ、こんな具合だ。大人しく主を探して倒すのが良いだろうな」

 

 天征は結論を出し、俺に肩組みしていた腕を外して教室の入り口に向かった。

 

「問題は、その主探しをどうするかってとこか? 朔斗、何か良い案ないか? 雛見を見つけたのはお前だろ」

 

「俺だけど……耳を澄ませただけだぞ」

 

「宿業、知っちゃいたがすげーな……」

 

 天征がドン引きしている。何だか理不尽な気持ちになる。

 

 その時、気付いた。

 

「天征! 後ろ!」

 

「お?」

 

 天征の背後。そこに、妖怪が立っていた。二宮金次郎像のような奴が、腕を振りかぶっている。

 

 だが、天征は隙だらけ。このままでは天征がやられる。そう、とっさに飛び出しかけた。

 

 次の瞬間、天征は無数の札を手に持ち、自分の背後にばらまいた。

 

「急々如律令」

 

 天征の背後に木の壁が出来上がる。金次郎像の攻撃は木の壁に阻まれる。

 

 その木の壁に、天征は一枚、札を、五行符を貼りつけ、余裕そうに言った。

 

「もいっちょ、ほいっ」

 

 火。

 

 木壁が、火を宿して爆発的に燃え上がる。放たれた爆風の衝撃が金次郎像を吹き飛ばし、バラバラに砕いてしまう。

 

「ふぅー焦った焦った。朔斗、教えてくれてサンキューな」

 

 天征はニッと笑う。俺たちは目を丸くして、天征を見つめる。

 

「……天征、多分そうだろうなって思ってたけど、お前結構強いな?」

 

「そんなこたねぇさ。だが、ちょっとばかし器用かもな」

 

 天征はそう言って、やはり飄々としているのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。