因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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五行戦

 まず俺は、先生の呼び出した七不思議たちを確認した。

 

 トイレの花子さん、二宮金次郎像、ベートーヴェンの肖像画、勝手に鳴るピアノ、大鏡。

 

 七不思議なのに、五つしかない。となると、隠しているか、あるいは俺たちには見えないか―――

 

 直後、先生は言った。

 

「惑わせ、十三階段」

 

 ガクン、と俺たちの足場が変化する。階段。足元が急に階段に変わり、俺たちはそろってたたらを踏む。

 

「――――ッ」

 

 そうか、十三階段か! 地面そのものが七不思議だったから、分からなかったのか!

 

 俺は身体能力一つで踏ん張る。キキは雛見をつかさずフォローに走り、「先ほどは主様をありがとうのう」と告げている。

 

 反転して、読んでいたかのように前に出たのは、天征だった。

 

「急々如律令」

 

 天征は手元の札を立てにスライドさせて伸ばし、棒のようにする。かと思いきや呪文に応じて、五行符は金棒に変化する。

 

「おっ、ラァッ!」

 

 天征が、金棒で地面を突く。すると足場が再び揺らぎ、元の廊下に戻る。

 

「はっ? どうやって」

 

「朔斗! 五行思想くらいは頭に叩き込んどけ! 金剋木! 木は金に弱いんだぜ!」

 

 そしてッ! と言いながら、天征は金棒に五行符に滑らせる。

 

 五行符は消え、代りに金棒が水浸しになる。そして天征は、水浸しの金棒を振るった。

 

「五行連鎖:水刃」

 

 金棒から、水の刃が放たれる。

 

「くっ! 天征様は引っ込んでいてください! 金次郎!」

 

 先生は天征の水刃を、金次郎像で受けた。水の刃が金次郎に吸われる。それを見て、俺はやり取りの内容を察する。

 

 五行思想。五行符の基本知識だ。火の敵には水の攻撃が効くというような、弱点を突く相克関係。木は燃えて火を生むというような、相手を高める相生関係。

 

 天征がやったのは、まず金棒に水を纏わせ増殖、からの攻撃転用だろう。金は水を生むが故。それを先生は、水を吸い取る土属性の金次郎像で防いだのだ。

 

 とするなら、ここから天征が挽回するのなら―――

 

「五行連鎖:根槍」

 

 放った水刃に、天征は追って五行符を投げつける。金次郎像に吸われ切っていない水に、五行符が沈み、種に変わる。

 

 水生木。水の力を得て、木の力が走り出す。

 

 種から槍のような根っこが、幾重にも派生して金次郎像に襲い掛かった。根っこの槍は金次郎像を貫き、カラカラに干からびさせていく。

 

「木剋土。木は土を剋する。おっとぉ? 早くもオレは、先生の手札の二つを破っちまったようだなぁ!」

 

「~~~! 私がこうしているのは、あなたの為なのですよ、天征様!」

 

 先生がキレる。それを見て、天征はカラカラと笑う。

 

 それから、天征は言った。

 

「朔斗、オレは七不思議をいくつか引き付ける。朔斗たちは先生本人を叩け」

 

「天征、それだとお前の負担がデカすぎる」

 

「いいや、そうでもない。さっきの結界の中の二宮金次郎像と、今の二宮金次郎像。先生の操作下にあるかどうかだけでも、強さが違うんでな」

 

 俺はそれを聞いて、納得する。確かに苦戦具合が違った。戦力を分断する方が、お互いにとって楽なのだろう。

 

「分かった、任せる」

 

「おう! ってなワケだ! 髪、貰うぜ」

 

「いてっ」

 

 俺の髪の毛を素早く一本抜いた天征は、それを札に巻きつける。すると、トイレの花子さんとピアノが、天征に明らかに惹き付けられた。

 

「釣れたのは二体……いや、十三階段も反応して三体だな。じゃ、そっちは任せたぜ!」

 

 天征は踵を返し、この場から走り去っていく。すると、花子さんとピアノ(あと足元にいるのだろう十三階段)が、天征を追ってこの場から消えて行く。

 

「ああ、本当に芸達者な……! ですが、この程度で戦力が削れたなどとは思わないでください!」

 

 先生の身振りに応じて、ベートーヴェンの肖像画が宙に浮く。ぎょろりと目を動かして、俺たちを睨みつける。

 

「陰陽術は多岐にわたる。五行程度で分かった気にならないことですね。魔鏡!」

 

 先生の手の上に、大鏡、魔鏡が浮かぶ。その鏡面がキラリと光る。

 

 そこ目がけて、ベートーヴェンの目から、光線が放たれた。

 

 光線が魔鏡に反射して、俺に襲い掛かる。

 

「はっ!?」

 

 俺は咄嗟に鬼切丸で、光線を切り伏せる。だがあまりの威力に吹っ飛び、ギリギリで上手く着地する。

 

 魔鏡で反射した光線は、肖像画から放たれたものよりも遥かに威力が上がっていた。魔鏡に反射させることで、バフを付けて攻撃手段としているのか。

 

「角度調整完了。では、一気に薙ぎ払って差し上げます。ベートーヴェン」

 

 肖像画の目に、エネルギーが溜まっていく。今のは短い光線だったからどうにか切り払えたが、極太で長時間掃射されたらまずい。

 

 そこで、雛見が言った。

 

「お兄様、ここはわたくしが」

 

「雛見っ!?」

 

「わたくしは、天征様と違って陰陽術の熟練はございません。ですが、先ほどの一幕で確信いたしました。恐らくは――――」

 

 雛見は、懐から、再び辞書みたいな量の札を取り出す。まだあったのか、なんて思う。

 

「―――霊力量で、わたくしが負けることはございません」

 

 雛見は言いながら、大量の五行符を五つに分けていく。

 

「であれば、わたくしが前に出ましょう。先生は魔鏡による増幅がありますが、目算でも負けはないと感じました。あとは、正面から受けるだけ」

 

「いっ、いや! 雛見、お前今日が陰陽術初めてだろ!? なのに」

 

「ご安心ください、お兄様。分かるのです、見れば。先生の仰った通り、熟練の技術を持つ刺客を前にしても御せると確信するだけの才覚が、この身にあると」

 

 ―――宗家筋には、天才しかいない。

 

 雛見が、長く息を吐く。

 

「光線がどの属性か分からない以上、わたくしが考えるべきは自らの相生のみ。火が土を、土が金を、金が水を、水が木を、木が火を生む。ここにすべての意識と霊力を込めます」

 

 肖像画の目に溜まるエネルギーが、限界に達しようとしているのが分かる。一方で、雛見の見の内にある膨大な霊力が、すべて辞書のような量の札に込められていくのも。

 

 先生が言う。

 

「雛見様。無謀です。あなたにはこれは打ち破れません」

 

「やってみなければわかりません。でも、先生? あなたはご存じないでしょう」

 

 うふふっ、と雛見は笑う。

 

「今日、わたくしは人生で一番幸せなのですよ。お兄様と一緒に、こんな大冒険ができるのですから」

 

 それが、お互いの皮切りだった。

 

「っ、ならば朔斗様と一緒にお散りなさい! 急々如律令!」

 

「わたくしが勝ちます。急々如律令」

 

 肖像画の目から、光線が放たれる。魔鏡に反射して、何倍もの威力になって俺たちに向かってくる。

 

 その正面から、雛見は大量の五行符を放った。膨大な量の属性が相生しあい、最後には属性を失って、破壊の概念を纏っただけの、極太の光と化す。

 

 それは、圧巻の光線対決だった。光線同士がお互いのエネルギーをぶつけ合い、全力で押し合っている。

 

「くっ、ぐぬぬぬぬぬ……!」

 

「はぁぁああああああああ!」

 

 先生は唸り、雛見は声を張る。趨勢は明らかに雛見。天征以上の霊力とは思っていたが、ここまでとは、と俺は戦慄する。

 

 ぶつかり合った光線は、じりじりと勢力を変えていく。雛見の光線は先生の光線を圧していく。すぐさまとはいかないが、確実に先生に迫っていく。

 

 このままなら、確実に勝つ。だが、その場合は雛見に相当の消耗があるはずだ。

 

 だから、俺たちは動く。何せ状況はほとんど膠着状態。

 

 その隙を見逃す俺たちではなかった。

 

「キキッ、行くぞ!」「おうとも、主様よ!」

 

 光線の押し合いの最中、俺たちは駆けだした。先生はそれに、「しまっ」と歯噛みする。

 

 だが、先生は動けない。何故なら、光線の矛先を俺たちに変えれば、その瞬間雛見の光線が肖像画と魔鏡を打ち砕くことになるから。

 

 だから先生は、肖像画と魔鏡を投げ出して、俺たちと相対するしかない。

 

 七不思議の内、六つを失って!

 

 すると、先生は言うのだ。

 

「―――仕方ありません。まさか奥の手まで引き出されるとは」

 

 人差し指と中指を揃えて立てて、先生呪文を唱える。

 

「七不思議の六つ目までに命じます。今すぐの自死を」

 

 バキッ。と肖像画、魔鏡が自壊する。直後雛見の光線が、二つを消し飛ばす。

 

 まさかの展開に、雛見が目を丸くする。俺たちもそうだ。

 

 その、虚をつく動きによって、雛見の光線がしぼんでいく。あるいは、雛見自身が元より、先生を木っ端みじんに消し飛ばす覚悟を決められていなかったか。

 

 どちらにせよ、先生はこう呪文を結んだ。

 

「憑依術、七不思議:七不思議の七つ目、急々如律令」

 

 風が、吹く。

 

「七不思議の七つ目、という怪談をご存じですか? 七不思議をすべて知ってしまうと、呪われる、いうものだそうで。つまり内容は解釈にゆだねられるのですが」

 

 風が吹いた直後、先生の体は一変していた。

 

 肌は二宮金次郎像のように石めいて、右手には肖像画の目が浮かび、左手には鏡が張り付き、トイレの花子さんめいて水が周囲に走り、話すたびにピアノのような音が鳴り、両脚が階段の木材で出来たような見た目になっている。

 

「私はこれを、奥の手と定義し、調伏しました。すなわち、他の六つの怪談の集合体。そこに憑依術を用いることで、我が身を変容するものと」

 

 ニィ、と先生は笑う。

 

「可哀想に。あなたを守ろうと動いた、天征様、雛見様の努力は無為になってしまいましたね、朔斗様。天征様はこの場を離れ、雛見様も霊力が尽きてしまいました」

 

 雛見を見る。唇をかみしめながら、雛見は悲しげに、首を横に振る。

 

 先生は言った。

 

「では、最終局面と参りましょう! 朔斗様と、朔斗様の式。私と、私の式で!」

 

「お、お兄様ぁ……!」

 

 背後で、雛見が涙声になる。それに、俺は笑いかけた。

 

「大丈夫だ、安心してくれ。雛見も、ここに居ないけど天征も、頑張ってくれた。その努力を、無駄にはしないさ」

 

 何せ、先生は二人によって手札を丸裸にされている。手の内が分かれば、落ち着いて対処すればいいだけのこと。

 

 俺は、呼吸を深くする。キキが俺の横に並んで、「主様よ」と声をかけてくる。

 

「実はな、わらわはヒヤヒヤしておったのじゃ。二人に見せ場を奪われて、格好悪く勝ってしまうのではないか、とな」

 

「ああ。二人に感謝だ。情報を残してくれた上に、見せ場まで用意してくれた」

 

 俺は鬼切丸を、大太刀を下ろす。大太刀は地面に触れ、俺の意思で()()()()とぷんと刀身を潜らせた。

 

 キキは纏う和服を叩くと、模様だったはずの暗雲が実体化し、周囲に浮きあがる。ゴロゴロと雷鳴を唸らせ、チカチカと光る。

 

「ここからが、俺たちの本当の勝負だぜ」

 

 俺と先生は睨み合う。そして同時に、動き出した。

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