因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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戦闘巧者

 御陵宮(みささぎのみや)という陰陽術の大名家は、実のところ、その大半が水静村にいない。

 

 理由は簡単で、御陵宮から派生する無数の分家が、日本全国に散らばって地位と財を成し、民を妖魔から守っているからである。

 

 では、水静村とは何なのか、といえば、それはつまり御陵宮の総本山であり、宗家と宗家に近い血筋のみで固められた、陰陽術の頂点の住まう場所となる。

 

 そして、そのまごうことなき頂点。宗家筋と相対して、朔斗暗殺に呼び出された『術士殺し』のエースたる教師は、奥の手を披露しながら、内心歯噛みしていた。

 

(……小学四年生の、十歳にもならない子たちの実力が、これ?)

 

 正当な嫡男と多くの人に推される天征は、すでに一人前どころか、一流に届くような陰陽術を使って見せた。

 

 次期当主の弟君のご息女である雛見は、人間とは思い難い霊力で、儀式が必要なレベルの大威力五行術を放った。

 

 だが、それでも教師は術士殺しのプロ。今まで通り多彩な術を使い、上手くいなした。

 

 そしてついに相対した本丸。宗家嫡男、御陵宮 朔斗と、その式、キキ。

 

 それを前にして、教師は思わず、ぶるりと震えていた。

 

(二人に隠れて、分からなかった。先手を取れたからと言って、油断して情報を渡すべきではなかった)

 

 天征と雛見。この二人も、極めて優秀な教師から見ても、隔世の感を抱くほどの天才である。

 

 しかし、朔斗は、そしてキキは、次元が違う。鬼神と、鬼神を調伏した宿業の子。

 

 相対して、初めて分かる。その、鬼気迫る殺意の濃さ、鋭さ。子供が放つものとは到底思えない、重圧を。

 

(最初の、あの油断していた一瞬で、強引にでも殺しておくべきだったんじゃ……!)

 

 そう思った時、二人の姿が、ブレた。

 

「っ!?」

 

「おい、どこ見てんだよ先生。隙だらけだぜ!」

 

 肉薄。朔斗が瞬時に自分の懐にいて、教師は瞠目する。

 

 しかし、教師もまた熟練。足を踏み鳴らし、対応する。

 

「来い、濁流!」

 

 トイレの花子さん、その異能を使用して足元から大量の水を発生させる。

 

 トイレの花子さんは、その知名度だけあって、現地分霊から本霊の力を引き出せれば、最も火力を出せる式神だった。お蔭で至近距離に迫られても、一撃で押し流すことができる。

 

「うわぷっ」

 

「主様!」

 

 押し流された朔斗を、式キキが受け止める。それから、ギロリと怖気のするような目で教師を睨みつけてくる。

 

「邪魔じゃのう。思えば、悪行罰示の中で唯一、能力を示さずこの場を離れた式じゃったか」

 

 キキは、周囲の暗雲が激しく鳴動、明滅する中心で、腕を振りかぶる。

 

「ならば、主様に示すべき見せ場というものじゃなあ! 新興妖怪の力ごときで楯突いたことを、後悔させてやるわ!」

 

 そしてキキは、腕を振るった。

 

「―――焼き払え、黒雷」

 

 赤黒い雷が、教師の放った洪水を焼き、蒸発させる。

 

「―――――――ッ!?」

 

 その、異常すぎる一撃に、教師は目を白黒させた。

 

 水が雷の障害にならない、というレベル感の攻撃ならば、分かる。水は雷を通すから。

 

 だが、威力のあまり水が一気に蒸発し、無くなってしまうなど―――埒外にも程がある!

 

「おまっ、キキ! こんなの撃てるなら、もっと早く勝てたろ!」

 

「ふーん、じゃ! わらわも雛見と同じくらい目立ちたかったんじゃもん。というか、妖力今のでほとんど吹っ飛んだからもう撃てん」

 

「キキー!」

 

 朔斗とキキが言い争っている裏で、教師は実態を把握して、顔面蒼白になる。

 

 焼き払われた洪水は、洪水を通り越して式の能力までもを無力化していた。

 

 ただ、洪水を打ち払ったのではない。

 

 洪水を起こす能力ごと、今の一撃で、いとも容易く打ち砕かれたのだ。

 

「まぁいい! 他の能力はもう分かってるからな。あとは、俺がやる!」

 

「っ!」

 

 朔斗が駆け出し、瞬時に接近してくる。振るわれるは日本刀。地面スレスレに低く持ち、振り上げる。

 

 だが、単なる日本刀ならば、二宮金次郎像を憑依した、教師の岩肌を斬ることはできまい。例え宿業の力があっても、切り落とすのには何度も切りつける必要があるはず。

 

 ならば、教師にもまだ勝ち目はある。教師は素早く両手を合わせて、肖像画の目と、魔鏡を起動する。

 

「もう一度吹き飛ばして差し上げますよ、朔斗さ、」

 

 ま……? と言いながら、教師は斬り飛ばされた、自分の両腕を見つめていた。

 

 今までついていたはずの、自らの両腕。岩肌で頑強。肖像画の目と魔鏡を装備し、両手を合わせるだけで光線を放てる優れた武器。

 

 何で、と思う。日本刀が届く距離にはいなかったはず。だから―――

 

 振るわれた日本刀が、自分の目算の倍以上ある大太刀だと気付いて、息を飲んだ。

 

「鬼切丸は、斬りたいものを斬る刀。逆に言えば、斬りたくないものは通り抜ける」

 

 地面スレスレに構えていたと思っていた。だが、違った。アレは刀のリーチを掴ませないために、刀身を地面にもぐらせて、見えなくしていた。

 

「名付けて、『地摺り』。鬼切丸のリーチを隠す、初見殺しだ」

 

 最大の武器を奪われ、教師は、ニンマリと笑う朔斗を見る。

 

 朔斗は、言った。

 

「吹き飛ばされたのは、先生の腕だったみたいだな?」

 

「――――ッ!」

 

 教師は絶句する。

 

 あまりに、戦闘思考がうますぎる。ささやかな小細工で、極めて小さいコストで、有利な戦況を作り出すその戦闘巧者ぶり。

 

 有しているのは、ただのバカ力と、妖刀の大太刀の二つでしかないというのに。このたった二つで、教師の情報を得ただけで、ここまで盤面をひっくり返すとは。

 

 だが、このままでは終わらない。教師とて術士殺しのエキスパート。いかに天才揃いの宗家とて、霊力もない小学生に負けては、名折れが過ぎる。

 

 故に、激昂。

 

 教師は、叫ぶ。

 

「〈ア―――――ッ!〉」

 

「っ」

 

 それは、単なる叫びではない。ピアノのスタン効果を用いた戦慄の絶叫。朔斗を一度窮地に陥らせた攻撃だ。

 

 しかし、朔斗は素早く舌を噛んで、スタンを無効化させていた。「ハハッ」と笑って、蹴りを放つ。

 

「二度も同じ技喰らうかよ!」

 

 小学四年生のキック。だが宿業の子の、骨肉の天稟の蹴撃。

 

「ごぁっ!?」

 

 全身が石のように重くなっているはずの教師の体が、軽々と吹っ飛ばされる。宙に浮き、身動きが取れなくなる。

 

 そこに、朔斗は思い切り、大太刀を振りかぶる。

 

「じゅっ、十三階だ――――」

 

「最後の悪あがきを潰して悪いな! せっかく地面を通らせてたんだ! 十三階段はすでに切り伏せてんだよ!」

 

 一閃が、走る。

 

 大太刀が、教師の胴体を横に通過した。教師は無力感の中に、意識を落とす。

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