因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
鬼切丸で、先生の意識を狙って切った俺は、急いで備品の紐を持ってきて、先生のことを拘束していた。
「ふぅ、これでいいだろ、多分」
「主様よ、何で殺さぬのじゃ? 今の一撃で十分に殺せたじゃろうに」
「そりゃお前、録画録音できてないもん」
奇襲されることで一番困る原因だ。証拠がないから、なるべく殺さないように立ち回る必要がある。
だが、何か怪異と合体して紐で拘束されている先生の姿を見て、俺が一方的に悪いと断言される事はないだろう。
こちとら霊力ゼロで、社会的立ち位置が嫡男なのにすっごく低いからな。こういう動きは大事なのだ。複数で襲われたら必ず一人は生かすようにしている。
そこで、俺たちに雛見が近づいてくる。
「お疲れ様でした、お兄様、キキ様……! キキ様の妖術もすごかったですし、お兄様に置かれましては、相手の虚を突き、術を無効化し、最後の一合に至ってはもう感服の至りで」
「わらわの三倍くらい主様を褒めておる」
「きっ、キキ様もすごかったですよ!? 雷の、あの、こう」
キキに拗ねられ、雛見はわたわたとフォローしている。九歳にあやされる齢千歳越えかぁ、とか思いながら、俺は眺める。
そうしていると、天征が戻ってきた。「おーう」と手を上げ、近づいてくる。
「急にオレが戦ってた妖怪たちが死んだんだけどよ、これはアレか? オレの中に秘められたる不思議パワーが目覚めた的な」
「先生が式神たち自壊させてたから、それだな」
「カーッ! 何だよ期待したのによぉ! 漫画でこう、オーラで敵を倒しちゃうアレかと思ったのに!」
アレだけ卒のない陰陽術を披露して見せたのに、天征は相変わらずだ。
それから、先生の姿を見て、口笛を吹いて俺を見た。
「倒したか、朔斗。やっぱやるなぁ、お前」
「天征こそ、頼もしかったぜ」
パンッ、と男二人でハイタッチ。お互いの健闘をたたえ合う。
そうして四人集まって、俺たちは先生を囲った。さて、どうしたものか、と。
口を開いたのは、天征だった。
「こいつの処理だけど、オレがしとこうか?」
「え? マジ? いいのか?」
「いいぜ。っつーか朔斗がやると拗れるだろ? オレも襲われたんだし、それならオレが報告とか諸々やった方がスムーズだろうしな」
「天征……!」
俺は感動してしまう。天征良い奴すぎる。
「じゃ、適当に連絡飛ばして、任せるか」
天征は言って、スマホを取り出した。俺たちがその様子を見つめていたから、「ほれ、さっさと帰って寝ろガキども」と、手をシッシッとやる。
「お前もガキだろうがよ」
「はぁ~? オレのどこがガキなんだよ。誰がいつそんなこと言った? 何時何分何秒? 地球が何回まわった時?」
「小学生にしか許されないパンチライン使う奴が、ガキじゃないワケないだろ」
俺たちはいつものように言葉で殴り合ってから、「また明日な」「おう」と交わして、離れていく。
それから少しして、学校の中。
「ん、ぅ……」
教師が目を覚ますのに気付いて、天征は「お、目ぇ覚めた?」と声をかけた。
「アレ……? 私、は。天征、様……?」
「ああ、オレだよ。天征だ」
天征は先生の目覚めを待つために用意したのだろうか、椅子に座っていた。それから立ち上がり、先生に言う。
「
「……大変、強うございました。式神もそうですし、何より、宿業と大太刀一つで、終始圧倒されました」
「なるほどねぇ。いや、流石だよな。今まで
―――初めて間近に見たよ。と感動したように、天征は呟く。
それに、様々な感情が渦巻いて、教師は「その」と問いかけた。
「私は、ついに天征様が本気になって、朔斗様を私に殺させるつもりであるのだと、考えておりました。ですが、これは」
「ああ、うん。ごめんな、今回も小手調べだ」
それを聞いて、教師は絶望的な気持ちになる。
『術士殺し』。すなわち、御陵宮が誇る暗殺部隊。そのエースたる自分が、宗家の幼い少年に、捨て駒扱いされたのだ。
しかし、続く言葉が、教師の絶望を癒す。
「けど、小手調べの中じゃ、一番本気だった。オレから朔斗に差し向ける暗殺者は、お前で最後だよ」
教師は顔を上げる。天征は優しげな微笑みで、教師の両手を小さな手で包んだ。
「よく頑張ってくれた。アレだけの才覚を前に、よく全力を尽くしてくれた。ありがとう。お前は、オレに大きな情報をもたらしてくれた」
それを見て、教師は、震えた。ぎこちなく、教師は項垂れる。
そんな教師に、天征は札を取り出す。変哲もない、ただの五行符だ。
だが、それで教師は、己の最期を悟る。
「……お見逃しは、いただけないのですね」
「ごめんな」
「いいえ。それでこそ、御陵宮の術士でありましょう。下手に見逃すなどと甘言を囁かれたなら、私は天征様の首を切って逃げ出しました」
「はは、怖いな。下手なことを言わなくてよかった」
天征は、言いながら教師の額に札を貼り付ける。
教師は、己が死を実感して震えだす。ガチガチと歯を鳴らし、涙をにじませ、天征を見る。
「天征、様。お恨み、申し上げます。あなたは、私を捨て駒にしたのです。たかだか小手調べで、二十余年にいたる我が人生を無為にするのです」
「うん」
「ですから、どうか責任をお取りください。此度、あなたとご一緒して、分かりました。あなたこそ、嫡男の器」
教師は、札を貼り付ける天征の手を取る。
「その若さで、御陵宮のすべての術を修めるなど、尋常の才ではございません。ましてや
「……そうかな」
「そうでございます。ですから、ですからどうか」
教師は、天征の手を放す。その目から、涙が零れ落ちる。
「どうか、良き当主におなりください。あなたほどの才能が当主となるのなら、御陵宮は安泰にございます……!」
教師の手が地面をつく。それに天征は、優しい笑みを崩さないまま、答えた。
「……ごめんな、それは約束できない。でも、一番強い奴が当主になる。それだけは、約束するよ」
天征が、教師の額から手を引く。
そして優しい声色で、言うのだ。
「急々如律令」
ボッ、と教師の全身に火がついた。教師はもだえ苦しみながら、「天征様! 天征さまぁぁあああ!」と絶叫しながら、しかし目の前の天征に害することなく、その場で燃え尽きた。
その様子を、じっと天征は、その目に焼き付ける。火が消えるまで、じっと正面で、手を伸ばせば燃えてしまうほど近くで、天征は見続けた。
そして十分としない内に、教師がこと切れる。炎は消え、燃え残った炭が崩れ、風の中に灰となって流され、消えて行く。
明かりを失った暗い廊下で、天征は呟いた。
「終わりましたよ、お爺様」
「ひょっひょっひょっ。いやはや、処断にも堂が入ってきたのう、天征よ」
そんな言葉と共に、闇の中から、現当主、御陵宮