因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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生贄ドナドナ

 俺が意識を取り戻したのは、その日の夜のことだった。

 

「前世の記憶、全部取り戻した……」

 

 自室。布団の上。頭を抱えながら、俺は現状に頭を抱える。

 

 まず、状況を整理しよう。

 

 ―――俺、御陵宮 朔斗は、転生者だ。

 

 霊力ゼロが判明した昨日に、それを思い出した。前世は普通の学生。事故で死んで転生。で今は、霊力ゼロでこの騒ぎ。

 

 何だこの、前世今世連続ハードモードは。おいこらどうなってる。俺の転生を司った神とかいないんか。出てこいチートよこせ。

 

 と、そんな益体もないことを考えつつも、恐らくそんなうまい話はないだろうと諦めている。

 

 だって異世界って感じじゃないもん。日本って言ってたし。妖怪は普通にいる世界っぽいけど。並行世界的な何かだろうか。

 

 時代は、御陵宮が古風だから勘違いしそうになるが、西暦は2030年だった。ほぼ前世と同じ時代。何ならちょっと未来。

 

「で、問題は、この家―――御陵宮だよな」

 

 御陵宮は、正直めちゃくちゃきな臭い。人が定期的に消えては補充され、『贄』や『囮』なんて言葉が、含み笑いと共に行きかっている。

 

 俺の生家だから、悪し様には言いたくないが、……危険な役目の押し付け、体のいい殺人が横行している、と俺は推測している。

 

「……そういえば、当主になると御陵宮を守護する祭神と契約するんだったか……? おいおい、まさかこの家、因習村によくあるクソ名家だったりしないだろうな」

 

 はー……とため息を吐きながら、俺は布団の上で腕を組む。

 

 因習村とは、その名の通り、因習が根付いた村のことだ。

 

 よくホラーの題材にされる閉鎖空間の一つで、村ぐるみで秘密裏に人殺しがされていたり、来訪者が生贄に捧げられたりする。

 

 で、そういう村は、ヤバい邪神を祀っている名家みたいなのがあって、そいつらが強権を振るっていたりするのだ。

 

 ……うわぁ、御陵宮(みささぎのみや)、該当箇所が多すぎる。もしかして、俺も霊力がないなんて理由で殺されたりしないだろうな?

 

「嫌だぞ、そんな理由で死ぬの。そもそも俺は、もう二度と死にたくないんだ」

 

 思い出すのは前世の死に際のこと。変哲もない交通事故で俺は死んだ。

 

 だが、変哲のない交通事故も、しっかり悲惨だ。俺を含めた家族全員が車に乗っていて、トラックと正面衝突して死んだ。

 

 今でも覚えている。血まみれで目から光を失っていく家族たち。全身がひしゃげてまともに動けない中、このまま死ぬしかないんだと状況がつきつけてくる絶望感。

 

 二度と死なない、なんてことは生物である以上不可能ではあるが、それでも俺は死にたくない。ましてや因習村みたいに、生贄とかで死ぬなんて、まっぴらごめんだ。

 

「でも、あの騒ぎを思い出すに、何事もないままには終わらない気がするし……!」

 

 俺は自室の布団の上で、悩みに悩んで頭を回す。落ち着くために、握力を鍛えるボールをにぎにぎして落ち着く。そんな俺を、行灯がぼんやりと照らしている。

 

 外はすっかり日が暮れて、光源は行灯しかない。ちょっと未来なのに、何なんだろうこの文明レベルは、とか思う。去年の誕プレはスマホだったはずだが。

 

 そんな行灯のお蔭で、微妙な怖さがあった。光源がぼんやりしているから、障子越しに浮かび上がる影が曖昧で不気味……。

 

 ん? 障子越しに浮かび上がる、影?

 

「お目覚めになられましたか、朔斗様」

 

 障子の向こうから声をかけられ、俺は硬直する。

 

「は、はい……」

 

「では、失礼いたします」

 

 声と共に障子が開かれる。そこにいたのは、鬼の面を付けた五人の黒装束の男たちだった。

 

 男たちは俺の前に平伏し、言葉をかけてくる。

 

「この度は、霊力測定の儀、お疲れ様でございました」

 

「は、はい。お疲れ様でした……」

 

 慇懃な態度が、鬼の面の迫力もあって、ゾワゾワとした不可解さを醸している。俺は強張った顔で対応する。

 

 そんな俺に、鬼面の男は言った。

 

「この度、朔斗様の扱いについて合議がございました。その合議にて、朔斗様を鬼神に捧げる贄とすると決まりました」

 

「はっ?」

 

「よって朔斗様は今日付けで廃嫡とし、御身を鬼神の下にお連れすることと相成りましたので、ご承知ください」

 

「いっ、いや、そんなの承知できるワケ」

 

「思業式、クチナワ」

 

 鬼面の男たちが、揃って札を構える。俺は顔を引きつらせて立ち上がり、とっさに逃げようとして―――

 

「急々如律令」

 

 男たちが放った蛇の式神五匹に絡めとられ、瞬時に拘束された。

 

「もごっ、もごごー!」

 

「では、鬼神の下にお連れするぞ」「ハッ」

 

 鬼面の男たちが、俺に群がり抱えだす。俺は半ばパニックになりながら、全力で暴れる。

 

 マジかよっ、マジかよっ! もしかしたら俺の立場ヤバい? とは思ったけど、こんな爆速で生贄にされるほどなのかよ! クソが! クソの因習村が!

 

「くっ、うぉっ! ち、力つよっ」

 

「これが七歳の力かっ? くっ」

 

「クチナワが一匹引きちぎられたぞ! 拘束を増やせ!」

 

 俺は火事場のクソ力を発揮したのか、五人掛かりの拘束でも思った以上に困らせたらしかった。

 

 しかし籠の中に放り込まれ全身ぐるぐる巻きにされては、抵抗のしようもない。

 

「もごーっ! もががーっ!」

 

「急ぐぞ! クチナワが悲鳴を上げている!」

 

「霊力はないのではなかったか!? 何だこのバカ力は!」

 

 鬼面の男たちが、慌てた様子で走り出す。揺れに揺れる籠の中で、俺は酔いながらも「もがーっ!」と抵抗をあきらめなかった。

 

 

 

 

 

 俺が全身の拘束の六割がたを引き千切った辺りで、籠が停止した。

 

「畏み畏みも白す! 我は御陵宮の遣いなり! 御名高き鬼神、鬼の冠、破軍の巌に、我が一族の稚児を捧ぐ! これをもって約定の維持を示すものなり!」

 

 籠が地面に置かれる。俺はこれ幸いともがき、さらに拘束を抜け出していく。

 

「オン・エンマヤ・ソワカ、オン・バザラ・ヤキシャ・ウン、オン・マカキャラヤ・ソワカ」

 

 何やらわちゃわちゃと言っている。と思ったところで、俺が寝そべる籠が、一気に傾けられる。

 

「もがっ、もがーっ!」

 

 俺はまだ拘束を破り切れていなかったから、そのまま転がって籠の中から落とされた。かと思いきや、そのまま俺は妙な穴に落とされ、数メートルを落下する。

 

 衝撃。全身に数メートル分の落下の痛みが走り、俺は一時呼吸も苦しくなる。

 

「がっ、もがっ、が、がぁ……!」

 

 いっっってぇ! クソっ! ふざけんな! と俺は内心で毒づく。

 

 霊力がないって判明しただけで、この扱いか! 今朝までは蝶よ花よと持て囃してきて、いきなりこれか!

 

「もががが……もがーっ!」

 

 俺はついに胴体を縛る拘束のすべてを引き千切る。それから口の拘束を外し、ぜぇぜぇと荒く息を吐いた。

 

「何なんだマジで……! どうなってんだ、クソッ」

 

 立ち上がり、頭上を確認する。すると俺が落とされた穴が、上から塞がれていくのが分かる。塞ぐ音の重さを考えるに、岩を動かして穴を塞ごうとしている。

 

「ちょっ、おいおいおい! ゴメン謝るから! 謝るからそんなしなくても、あー!」

 

 そうして、頭上の穴が塞がれてしまう。俺は光源すらも失って、がっくりと地面に手を突いた。

 

「……クソの名家ぁぁぁああああ!」

 

 俺は号泣である。マジじゃん。マジで生贄じゃん。本気で殺しにかかってんじゃん。

 

 そこまで考えて、ハッとする。生贄。つまり、生贄を捧げる鬼神が、この場には居るということ。

 

 俺は慌てて周囲を確認する。俺の目はすぐに闇に慣れて、奥の方に何かいると気付く。

 

「ほう……? 此度の贄は、妙に血気盛んな童のようじゃな……?」

 

 弱々しい、鈴の鳴るような声。それに、俺は奇妙な顔をして、より注意深くその影を見る。

 

「ん……? なんじゃ、わらわの姿が気になるのか? ならば、見せてやろう……」

 

 ぽう、とその影の近くで、火が起こる。そして俺は、その姿に見入った。

 

 何故なら、そこにいたのは深紅の乱れ髪を長く伸ばした、派手な和服を着た美少女だったからだ。

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