因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
御陵宮には、本家にまつわる怪談がいくつかある。
その中でも有名なのが、闇室、という怪談だ。
これは御陵宮の暗部の一つと言われるもので、闇に包まれる地下深くには、無数の下級妖怪を封じているのだという。
何故かと言えば、この闇室は、懲罰部屋であるのだという。
下級妖怪は、その大抵が人間を殺すほどには至らない。術士であればなおさらだ。
だが、人間は鉄壁にはなれないし、下級妖怪でも無数の数襲い掛かれば、どこかで無理が来る。
そうなれば、後は嬲り者にされるだけだ。
羽虫のような、あるいは取るに足らない小動物のような下級妖怪たちが、極限まで飢えて、闇の中に襲い来る。術士は驚きに光を点すこともできず、闇の中で妖怪に半殺しにされると。
さて、そんな怪談『闇室』だが、実際にそれを目の当たりにした俺から言わせてもらうなら。
「半殺しで済むかぁッ、こんな量の妖怪がァッ!」
鬼切丸を振りかぶる。そして、素早く振るった。
「ぎゃ「ぎ「ごぎゃ「げ「あが「きっ「もぎょ「ぎぢゃぁ!」
無数に連鎖する妖怪たちの悲鳴。だが、噴出する妖怪の量は変わらない。下級妖怪が無数に噴出し、増えに増え、どんどんと闇室を満たしていく。
俺は思う。線攻撃じゃダメだ。面、範囲攻撃でなければ、こいつらを倒しきるのは不可能に近い。
しかし、俺には面攻撃の手段がない。となれば、となれば―――
「ここまでで噴出した分の妖怪は、
俺は素早く噴出口に駆け寄り、そして刃を下に向けて鬼切丸を設置した。
するとどうなるか。
狭い噴出口。その出口に、妖怪絶対切り殺す刀が置かれているのだ。
出てくる妖怪、全部真っ二つになっていくに決まっている!
「ハハハハハハッ! 置いとくだけで皆殺しだぁぁああああっ!」
妖怪が悲鳴を上げながら、下からの後押しもあって止まることもできず、真っ二つになりながら噴出する。
すでに飛び出ていた妖怪は、最初は俺を狙って動こうとしていたようだったが、途中で周囲にあふれる妖怪の死骸に気付いて、そちらに釣られた。
お蔭で、俺は邪魔もされないままに刀を構えることができる。
が、これは応急処置に過ぎない。
「で、この隙に杭を拾って――――おらぁっ!」
杭で噴出口を塞ぐ。膨大な圧力が杭の下から上がってくるが、そこは宿業のバカ力で押し込む。
「おおおぉぉっ、おおぉぉぉおおおお!」
漏れ出た妖怪は大太刀の餌食にしながら、俺は噴出を押さえ込む。
そして最後には、再び杭で封じることができた。
ぐじゅり、と嫌な音を立てて、噴出が終わる。
「――――ふぅっ、あっぶねぇ!」
とんでもない目に遭うところだった。だが、安心も油断も、まだできない。
俺は振り返り、周囲に生き残る下級妖怪たちの軍団に向かう。
こいつらを倒して、発注者を告発する。そこまでが今日の俺の任務らしい。まったく、任務そのものが罠とは、やっていられない。
そう思って振り返ったところ、俺は意外なものを目の当たりにした。
「……ん、あ……?」
そこにいたのは、巨大な、犬だか猫だか分からない、ずんぐりむっくりした妖怪だった。
少なくとも、下級妖怪の出で立ちではない。下級妖怪は総じて人間より小さく弱い。
だが、この妖怪は俺よりも大きく、もしゃもしゃと貪欲に、他の妖怪の死骸を食い漁っている。
「……」
俺が無言で見つめていると、その妖怪は俺に視線を軽くやってから、興味なさそうにそらし、再び他の妖怪の死骸に寄っていく。
そして、先ほどはもしゃもしゃと食べていたのが、今度は軽く丸のみにしてしまい、ごくりと飲み下すようになった。
それで、気付く。食べ方の変化。つまり……。
「俺が解放してからの短時間で、他の妖怪を食べまくって、ここまで大きくなったのか……?」
考える間にも、妖怪はさらに大きくなり、真っ二つの半分ずつ食べていたのが、今では一舐めに複数の妖怪を食らっていく。
そうして、妖怪は、自分以外のすべての妖怪を食いつくした。「けぷっ」と小さなげっぷをして、じっと俺を見つめている。
「……そうだよな。これだけ食って、まだ足らないなら、最後は俺だよな」
チャキ、と大太刀を構える。俺は呼吸を深くし、妖怪に向かって――――
と思って居た瞬間、妖怪は素早く反転して、階段を駆け上がった。
「えっ!? はぁっ!?」
俺はその妖怪の動きが予想外過ぎて、慌てて追いかけるばかり。
何だこいつ。何だこいつ!? ここに至って逃げだすとは!
「だが、惜しかったな妖怪! この上は鍵付きの扉が……」
言いながら、思い出す。
最初、単なる掃除任務だと思っていた俺は、階段を閉ざしていた扉を開けっ放しにしていたことを―――
「まずいぃぃいいいいいいいい!」
俺は急いで駆け上がる。
このままだと、このずんぐり妖怪に逃げられる。だが、宿業の足でもっても、四足歩行のデカい獣には敵わない。
「くっ、ぐっ、あぁあああっ!」
ダッシュ。ただ必死にダッシュ。だがそれでも妖怪の背が遠くなっていく。
そして俺は、結局捕まえられないまま地上に飛び出し、姿がもう見えないことに愕然とした。
ゼェゼェと荒い息を吐きながら、俺はその場に崩れ落ち、地面に手を突く。
「や、ヤバい。嵌められたとはいえ、この展開は流石に俺の責任になる……!」
そして責任を問われる流れで、死ぬような目に遭わされるのが御陵宮。何せ術士の殉職率は、年間驚異の5%。毎年20人に1人が死んでいる。何故滅んでいない御陵宮。
ともかく、俺は絶対に今日中に、あの妖怪の始末を付けなければならない。
そう歯噛みしていると、不意にクスクスという笑い声が聞こえてきて、俺は視線をやる。
「ふふふ。見て、暁子。あの朔斗様が、息を荒げて地に手を突いてらっしゃるわ」
「アハハハッ! そうですね、宵姉様~っ! 朔斗様、どうしたんですか~?」
俺は、パチクリとまばたきして、話しかけてきた人物を見る。
一人は、白髪のおかっぱに黒いメッシュを入れ、皮肉気に笑う少女。
もう一人は、黒髪のおかっぱに白メッシュを入れ、にや~っと意地悪く笑う少女。
いつも感情を隠して仕事に当たっていた、雛見付きの謎の多い『御使い』の双子の使用人。
宵子と暁子の二人が、俺の姿を見つめていた。