因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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因習村の双子

 宵子と暁子の双子について、俺が抱いていた感情は、『正直接しづらい』というものだった。

 

 何せ、関わっても何の感情も見せない。話しかけても冷静な態度で最低限の対応。笑う姿なんて見たこともない。

 

 だから、こんな場面とはいえ、二人が笑っている姿を見て、俺は驚きに目を丸くしていた。

 

「あら、朔斗様? 何を固まってらっしゃるの? そんな情けない姿を晒すほどのことがあったのでしょう? 事情を説明してくださらないの?」

 

「それとも~っ! 説明できないくらいの大失態をやらかしちゃったんですか~っ!? アハハハッ! 大丈夫ですか~っ?」

 

「い、いや……。え? お前ら、宵子に暁子だよな? 何だその感じ。それが素なのか?」

 

 俺が戸惑いに問いかけると、双子はお互いの顔を見合わせて、再びクスクスと笑いだす。

 

「仕事中に、自我を出すことはありません。召使としては、当然ではございませんか?」

 

「自我」

 

「小学生でも、アタシたちはプロだも~ん! 誇りをもって仕事してるんですからね~!」

 

「誇り」

 

 とワケらしい。まだ九歳のはずだが、やはり過剰なほど受け答えが大人びている。プロ意識感じたもん今の受け答え。

 

「じゃあ今は仕事中じゃない、と」

 

「雛見様はいらっしゃいませんでしょう? ワタシどもが仕えているのは雛見様ですから」

 

「雛ちゃん様いない場所では、アタシたちこんな感じだよ~!」

 

「雛ちゃん様……」

 

 全然どういう扱いなのか分からないが、この二人が思ったより緩いのは分かった。

 

 俺はひとまずの納得をしてから、「ええと」と立ち上がる。

 

「罠に嵌められたんだよ。掃除任務だと思ったら、そこの階段の先にある闇室……懲罰っていうか処刑部屋に誘い込まれてさ。で、中の妖怪を一匹逃がした」

 

「あらまぁ。聞いた? 暁子。朔斗様の被害の話を聞いていたつもりが、気付けば朔斗様が獲物を取り逃がした話になっていたわ」

 

「聞いたよ、宵姉様~! やっぱり朔斗様は暗殺されるののプロだよね~! よっ! 日本一!」

 

「賞賛が何も嬉しくない」

 

 俺は渋面になると、双子はキャッキャと楽しそうに笑い合う。

 

 こいつら……と思いつつも、俺は段々、二人の性格を把握し始めた。

 

 白髪黒メッシュの宵子は、大人びた皮肉屋。

 黒髪白メッシュの暁子は、メスガキ。

 

 因習村の双子と言えば、クスクス笑いと不吉な言葉が定番だが……。

 

「でも、失態は失態ですものね。収拾責任を果たせなければ、御陵宮では致命的」

 

「かわいそ~! このままだと朔斗様、死んじゃうね~!」

 

 宵子、暁子の順で話しては、二人して袖で口元を隠して、クスクスと笑う。

 

 ……すごいな、定番通りの立ち振る舞いだ。いらだちを越えて感心してきた。

 

 とはいえ、だ。二人の言う事は事実その通り。俺はさっきの逃げ出した妖怪を捕まえてどうにかしないと、責任を問われてマズいことになる。

 

 ため息を一つ。それから、俺は二人に言った。

 

「なぁ、俺が出てくる前に妖怪がここを通らなかったか? そいつを対処できれば、俺は無事で済むんだが」

 

「あらあら、まぁまぁ、対価もなしに情報をよこせとおっしゃるの? 朔斗様も横暴な方ね」

 

「ん~思い出せないな~。何か甘いもの食べたら、思い出せる気がするんだけどな~!」

 

 二人して、チラチラと俺を見る。俺は半目でしばらく沈黙してから、ポツリと言った。

 

「雛見に二人に嫌がらせされたって言うか……」

 

「お待ちになって、朔斗様。ちょっとした冗談じゃない」

 

「そっ、そうだよ~! 朔斗様ってば、頭固いな~!」

 

 予想よりだいぶ雛見と双子の主従関係はしっかりしているらしく、軽い脅しで二人は慌てふためく。

 

 雛見って実は怖いのか……? とか思いながら、再度問う。

 

「で、見たのか?」

 

「見ましたわ。すねこすりでしょう?」

 

「犬と猫の間みたいな奴だよね~! でも何か大きくなかった~?」

 

「それだ。すねこすりっていうのかあいつ」

 

「ええ。本来は子犬サイズで、すねに体を擦りつけてくるだけの妖怪なのですけれど」

 

「廊下が縦にも横にも埋まるくらい大きかったよね~!」

 

 二人の説明に確信する。二人は確かに、あの妖怪、すねこすりを見たのだろう。

 

「すねこすりはどっちに行った?」

 

「この廊下を一直線に走っていきましたわ。そのまま外に出られますし、この先をまっすぐに進んだのなら……」

 

「禁足の森があるね~! 森の中に入って行っちゃったんじゃな~い?」

 

 俺は脳内に、水静村の地図を思い浮かべる。

 

 水静村には、御陵宮が定めた無数の禁足地がある。鬼神が封じられているから近づくな。妖怪の住処だから入るな。そういう場所ばかりだ。

 

 禁足の森とは、その代表例の一つだった。下級から上級まで妖怪が跳梁跋扈し、術士でも入りたがらない場所。

 

 だが、収拾を付けなければならない俺は、避けようがない。

 

「分かった。二人とも、ありがとな」

 

 俺は厳しい顔で、廊下の先を見据える。

 

 キキは妖力切れで、まともに立ち上がれないくらい消耗中。雛見も、時間がない今は呼びに行くのも時間が惜しい。天征は確か、俺と同じく任務中だ。

 

 となれば、今回は俺一人で当たるべきだろう。

 

 そう俺が走り出そうとした瞬間、双子がふわりと俺の両脇に触れてきた。

 

「え、何?」

 

「あら、他人行儀な人。旅は道連れ世は情け。せっかくですから巻き込まれて差し上げようと思いましたのに」

 

「そ~だよ~! こんな楽しい遊び、コホン、大変な事態、見過ごせないよ~!」

 

 状況に対して、あまりに緩い考えの二人に、俺は問う。

 

「……お前ら分かってるのか? 禁足の森だぞ? 人死にがたくさん出てる場所なんだぞ」

 

「はい、存じておりますよ」

 

「うんうん、ちゃんと分かってるよ~!」

 

 俺の確認に、二人は頷いて、それぞれこう答えた。

 

「朔斗様への献身が雛見様の耳に入れば、お小遣い二倍も夢ではございませんので」

 

「朔斗様強いんでしょ~!? 今ちょうど禁足の森の辺りが紅葉してるから、みんなで楽しくピクニック~!」

 

「あまりにも舐めてる」

 

 しょうもねぇ~、と俺は頭を抱えたくなる。

 

 こいつら、考えが浅はかすぎる。お小遣いと紅葉目的で危険地域について行こうとするな。

 

 だがそこで、こんな風に油断できるだけの実力があるのではないか、と俺は気付く。

 

「お前ら、術の腕は?」

 

「侮らないでくださいまし。これでもワタシたちは、祭神様の御使いでございますよ?」

 

「御使いは宗家筋にもできないような術が使えるんだから~! バカにしないでよね~!」

 

 大言壮語。だが、根拠は力強い。

 

 祭神の御使い。一族に一組だけ選ばれる双子。宗家筋にも並ぶというのなら、足手まといではないだろう。

 

「分かった。なら、一緒に行こう」

 

「きゃっ」「ひゃんっ」

 

 俺は双子を抱えあげ、「急ぐぞ! しっかり掴まれ! あと、舌を噛まないように気を付けろ!」と告げて、駆け出す。

 

「えっ、ちょっ、は、速――――!?」「きゃぁあああっ! 朔斗様速っ、速すぎぃいいい!」

 

 二人は軽くGに負けて首を後ろに流しながら、時速100キロで走る俺にしがみつく。

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