因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
俺は素早く全員の履物を回収しつつ、爆速で禁足の森の入り口に辿り着いていた。
「到着」
「に、人間に出せる速度ではございませんでしたわ……」
「宿業、や、やば~……」
「何だよ。お前らが吹っ飛ばされないように、結構加減して走ったのに」
文句を言いながら地面に手を突いてグロッキーになる双子に言うと、揃って顔を青ざめさせて「「あれで……?」」と言った。似てないようで似てるなこの二人。
二人に草履を渡しつつ、「ここか」と俺は呟く。
視線の先にあるのは、禁足の森。御陵宮が警戒する、妖怪の住処だ。
秋になり、紅葉した木々が赤く黄色く屹立している。これだけ見れば大変見栄えが良いが、枯れ葉に埋もれて平然と人骨が見え隠れする。
水静村の周辺では、一番人が死ぬ。そういう森だった。
村民が周辺の森から誤って禁足の森に入ってしまい、妖怪に食われる。術士の集団がある目標のために侵入し、半分がもう半分の亡骸と共に生還する。
そういう話は、枚挙にいとまがない。毎月のように骸が晒される。禁足の森は、そういう場所だ。
嫌がらせだらけの俺の任務でも、いまだに禁足の森に踏み込ませられる事はなかった。それだけ、ここは御陵宮でも特別な場所なのだ。
だが、こうなれば関係ない。俺は深呼吸の後、地面を見た。
一応足元を確認しながら走っていたが、注意して見ると、巨大すねこすりのものと思しき大きな肉球の足跡が発見できた。
双子の予想通り、すねこすりはここに入ったのだろう。そして恐らくは、まだ満たされない食欲を、妖怪で満たそうとしている。
「さっきよりもデカく、強くなってても不思議じゃないな」
俺が呟くと、やっと平静を取り戻した双子が、草履をはいて俺に近づいてくる。
「あら? 朔斗様、まさか怯えてらっしゃるの? いい子いい子と撫でて、慰めて差し上げましょうか?」
「え~!? 朔斗様、ビビってるの~!? 大きくなったすねこすり程度にビビるなんて、ザコザコ~!」
「よし、じゃあ二人とも小休憩できたことだし、もう一度抱えて禁足の森を爆走するぞ。次は時速150キロで」
「「お断りします」」
顔を引きつらせて断固拒否の構えの双子である。二人とも生意気だが、どうにもならないほどじゃないな。
俺は二人に言う。
「ま、今のは冗談として、二人とも、はぐれないように注意してくれ。すねこすりはあんまり攻撃的じゃないが、禁足の森自体は危険らしいからな」
「承知しました。朔斗様から離れなければ、朔斗様が責任をもって守ってくださるのですね」
「年下の女の子なんだから~、ちゃ~んと守ってよね~朔斗様~!」
二人が念押しするのに、俺は肩を竦めて答えた。
「当たり前だ。だから、俺が守りやすいように勝手な行動はしないでくれよ」
「「……」」
「何だよ」
双子は、目を丸くして視線を交わす。
それから、二人で俺を挟むように、腕に掴まってきた。
「朔斗様は、御陵宮では珍しいタイプの方なのですね」
「雛見様があれだけ入れ込む理由、ちょっと分かっちゃったかも~」
「本当に何だよ。あと、歩きにくいから離れろ」
俺たちは三人で禁足の森に入って行く。
禁足の森は、流石、禁足指定されるだけあって、妖怪がうじゃうじゃ湧いてきた。
「キシャー!」「ぐぎゃろべばがぎ」「キャッキャッキャッ」
不意に木の上から現れ、三方向から飛び掛かってくる、様々な種類の妖怪たち。
これらを俺は、鬼切丸を一閃させ、同時に切り払う。妖怪たちが血を流して吹っ飛ぶ。
「おぉ~! 朔斗様、カッコイ~!」
暁子が拍手しながら楽しそうに笑っている。宵子はというと、「ふぅん、この辺りはザコ妖が多いのね」と呟きながら、妖怪の亡骸を足で突いて物思わしげだ。
俺は思ったより戦力にならない二人を見て、渋面で問う。
「お前ら、術はどうしたんだよ」
「あら。術が使えるのと使うのは、まったく別ではないですかしら?」
「宵姉様の言う通り~! アタシたち、術を使うなんて言ってないで~す!」
「じゃあここから先は俺一人で進むわ。お前らは勝手に帰っといてくれ」
「お待ちになって、朔斗様。別に戦わないとも言ってませんわ」
「そっ、そうそう! も~朔斗様ったら、はっやとっちり~!」
ちょっと慌てて、二人は俺にすり寄ってくる。俺は二人を押し返しながら、「で」と問う。
「そもそもお前らの術って、戦えるのか? 術の腕はあるって言ってたけど」
「戦えましてございます。が、少々大仰な術になりますので」
「ザコ妖相手に術を使おうとすると、
機嫌? と俺は首をひねる。式神使いなのか? でも、悪行罰示ですら機嫌を気にするような使い手は、ほとんど見たことがないが。
そう思っていたところ、「あら。朔斗様、あちらを」と宵子が示す。
その先では、ザコ妖をぺろりと舌で舐めとって一口に食べてしまう、巨大すねこすりの姿が。
「見つけた」
俺は姿勢を低くする。深く呼吸する。鬼切丸を、腰だめに構える。
「今度は逃がさんッ!」
そして、渾身の力で駆け出した。
「きゃっ」「ひゃぁっ」
俺が駆け出した風圧で、双子が袖で顔を覆う。俺は風の抵抗を感じるほどの速度で駆け抜けた。