因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

24 / 49
禁足の森

 俺は素早く全員の履物を回収しつつ、爆速で禁足の森の入り口に辿り着いていた。

 

「到着」

 

「に、人間に出せる速度ではございませんでしたわ……」

 

「宿業、や、やば~……」

 

「何だよ。お前らが吹っ飛ばされないように、結構加減して走ったのに」

 

 文句を言いながら地面に手を突いてグロッキーになる双子に言うと、揃って顔を青ざめさせて「「あれで……?」」と言った。似てないようで似てるなこの二人。

 

 二人に草履を渡しつつ、「ここか」と俺は呟く。

 

 視線の先にあるのは、禁足の森。御陵宮が警戒する、妖怪の住処だ。

 

 秋になり、紅葉した木々が赤く黄色く屹立している。これだけ見れば大変見栄えが良いが、枯れ葉に埋もれて平然と人骨が見え隠れする。

 

 水静村の周辺では、一番人が死ぬ。そういう森だった。

 

 村民が周辺の森から誤って禁足の森に入ってしまい、妖怪に食われる。術士の集団がある目標のために侵入し、半分がもう半分の亡骸と共に生還する。

 

 そういう話は、枚挙にいとまがない。毎月のように骸が晒される。禁足の森は、そういう場所だ。

 

 嫌がらせだらけの俺の任務でも、いまだに禁足の森に踏み込ませられる事はなかった。それだけ、ここは御陵宮でも特別な場所なのだ。

 

 だが、こうなれば関係ない。俺は深呼吸の後、地面を見た。

 

 一応足元を確認しながら走っていたが、注意して見ると、巨大すねこすりのものと思しき大きな肉球の足跡が発見できた。

 

 双子の予想通り、すねこすりはここに入ったのだろう。そして恐らくは、まだ満たされない食欲を、妖怪で満たそうとしている。

 

「さっきよりもデカく、強くなってても不思議じゃないな」

 

 俺が呟くと、やっと平静を取り戻した双子が、草履をはいて俺に近づいてくる。

 

「あら? 朔斗様、まさか怯えてらっしゃるの? いい子いい子と撫でて、慰めて差し上げましょうか?」

 

「え~!? 朔斗様、ビビってるの~!? 大きくなったすねこすり程度にビビるなんて、ザコザコ~!」

 

「よし、じゃあ二人とも小休憩できたことだし、もう一度抱えて禁足の森を爆走するぞ。次は時速150キロで」

 

「「お断りします」」

 

 顔を引きつらせて断固拒否の構えの双子である。二人とも生意気だが、どうにもならないほどじゃないな。

 

 俺は二人に言う。

 

「ま、今のは冗談として、二人とも、はぐれないように注意してくれ。すねこすりはあんまり攻撃的じゃないが、禁足の森自体は危険らしいからな」

 

「承知しました。朔斗様から離れなければ、朔斗様が責任をもって守ってくださるのですね」

 

「年下の女の子なんだから~、ちゃ~んと守ってよね~朔斗様~!」

 

 二人が念押しするのに、俺は肩を竦めて答えた。

 

「当たり前だ。だから、俺が守りやすいように勝手な行動はしないでくれよ」

 

「「……」」

 

「何だよ」

 

 双子は、目を丸くして視線を交わす。

 

 それから、二人で俺を挟むように、腕に掴まってきた。

 

「朔斗様は、御陵宮では珍しいタイプの方なのですね」

 

「雛見様があれだけ入れ込む理由、ちょっと分かっちゃったかも~」

 

「本当に何だよ。あと、歩きにくいから離れろ」

 

 俺たちは三人で禁足の森に入って行く。

 

 

 

 

 

 禁足の森は、流石、禁足指定されるだけあって、妖怪がうじゃうじゃ湧いてきた。

 

「キシャー!」「ぐぎゃろべばがぎ」「キャッキャッキャッ」

 

 不意に木の上から現れ、三方向から飛び掛かってくる、様々な種類の妖怪たち。

 

 これらを俺は、鬼切丸を一閃させ、同時に切り払う。妖怪たちが血を流して吹っ飛ぶ。

 

「おぉ~! 朔斗様、カッコイ~!」

 

 暁子が拍手しながら楽しそうに笑っている。宵子はというと、「ふぅん、この辺りはザコ妖が多いのね」と呟きながら、妖怪の亡骸を足で突いて物思わしげだ。

 

 俺は思ったより戦力にならない二人を見て、渋面で問う。

 

「お前ら、術はどうしたんだよ」

 

「あら。術が使えるのと使うのは、まったく別ではないですかしら?」

 

「宵姉様の言う通り~! アタシたち、術を使うなんて言ってないで~す!」

 

「じゃあここから先は俺一人で進むわ。お前らは勝手に帰っといてくれ」

 

「お待ちになって、朔斗様。別に戦わないとも言ってませんわ」

 

「そっ、そうそう! も~朔斗様ったら、はっやとっちり~!」

 

 ちょっと慌てて、二人は俺にすり寄ってくる。俺は二人を押し返しながら、「で」と問う。

 

「そもそもお前らの術って、戦えるのか? 術の腕はあるって言ってたけど」

 

「戦えましてございます。が、少々大仰な術になりますので」

 

「ザコ妖相手に術を使おうとすると、()()()()()()()から温存してるんだよ~!」

 

 機嫌? と俺は首をひねる。式神使いなのか? でも、悪行罰示ですら機嫌を気にするような使い手は、ほとんど見たことがないが。

 

 そう思っていたところ、「あら。朔斗様、あちらを」と宵子が示す。

 

 その先では、ザコ妖をぺろりと舌で舐めとって一口に食べてしまう、巨大すねこすりの姿が。

 

「見つけた」

 

 俺は姿勢を低くする。深く呼吸する。鬼切丸を、腰だめに構える。

 

「今度は逃がさんッ!」

 

 そして、渾身の力で駆け出した。

 

「きゃっ」「ひゃぁっ」

 

 俺が駆け出した風圧で、双子が袖で顔を覆う。俺は風の抵抗を感じるほどの速度で駆け抜けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。