因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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もふもふのすねこすり

 ずんぐりむっくりしたすねこすりと、食後に毛づくろいをしていた。だが途中で俺に気付き、目を丸くする。

 

「食らえッ、すねこすり!」

 

 肉薄。からの、一閃。

 

 サンッ、と素早く大太刀を振るう。

 

 だが、この一撃をすねこすりは避けていた。ひょいっと高らかに飛び上がり、紅葉する地面のモミジの上に着地している。

 

「くっ、速いなおい!」

 

 ちょっとプライドが揺らぐ俺だ。速度で負けたことがなかったので、ぐぬぬと歯噛みしてしまう。

 

 そこで、再びすねこすりは、高らかに跳び上がった。どこに行くつもりだ? と俺は追って駆け出す。

 

 そして、気付くのだ。すねこすりの行く先。そこには―――双子がいることに。

 

「マズイ」

 

 俺は必死になって走る。限界まで足を早め、前へ前へと進む。

 

 だが、それでもすねこすりの方が速い。四足歩行で図体が何倍もデカいのだから、当然と言えば当然だが、クソっ!

 

「宵子、暁子! 術を使え! 身を守っ」

 

 走りながら叫ぶ。すねこすりが双子に向かって跳んでいく。

 

 そこで俺は、あることに気付いて、まばたきをした。

 

「もしかして」

 

 俺は呟く。だが、双子には俺の気づきは届かない。

 

「さっ、さくっ、朔斗様。術はこんな短時間では使えませっ」

 

「ひゃぁああ~~~! 朔斗様ぁあ~~~! 仕掛けてスルーされちゃ意味ないよぉ~!」

 

 双子は身を寄せ合って震えている。

 

 そこで、背後に気配を感じたのだろう。二人はすねこすりを気にしながらも、背後に振り返った。

 

 そこには、ザコ妖怪が五匹、双子を狙って迫っていた。

 

「ひ」「わ」

 

「ぎゅるるヴぇがあぁぁあ」「がぎぎょるげげげ」「もひょーふひょーは!」

 

 双子に気付かれたと悟り、妖怪たちが一斉に襲いくる。

 

 その直後に、すねこすりが二人の目と鼻の先に着地する。

 

 すねこすりとザコ妖怪たち。挟まれた双子は絶体絶命、

 

「けっ、軽率に禁足の森になんかついてくるんじゃありませんでしたわ……!」

「もっ、もうダメだぁ~~~! しっ、死!」

 

 かに、見えた。

 

 だが、そうはならなかった。次の瞬間、すねこすりがぺろりと、双子に襲い掛かったザコ妖たちを全員纏めて食べてしまった。

 

「は……?」「ひゃわ……?」

 

 俺がやっとすねこすりに置いつく。それから大太刀を肩に担いで、双子に近づいていく。

 

「大丈夫だったか?」

 

「あ、え、は、はい……」「え、えー……? ど、どういうこと~……?」

 

 困惑する二人に、俺はすねこすりを見上げながら、言う。

 

「こいつは、どうやら人間を食う対象だと思ってないみたいだ。逆に妖怪は大好物らしいな」

 

「え、えぇ……?」「……そんなこと、ある~……?」

 

「実際そうなんだから、仕方ないだろ」

 

 もしかしたら、封じられている間にも他の妖怪を食っていたのかもしれない。そんな時期が長ければ、食べ慣れた妖怪を優先して食おうという事にもなるのだろう。

 

 すねこすりはまた一回り大きくなりながら、のんきに毛繕いを始める。先ほどと違って逃げ出さないのは、俺の殺意のあるなしが分かるからか。

 

「思ったより賢い奴なのかもな。討伐するつもりだったけど、惜しくなってきた」

 

「……確かに、ワタシたちを助けてもくれましたし、ただ祓うのも芸がございませんね」

 

「もふもふだしね~! えいっ!」

 

 暁子がすねこすりに飛びつくも、すねこすりは逃げる様子もなく、大あくびをしている。

 

「あ~、もふもふだぁ~……ふわふわぁ~……」

 

 暁子はご満悦だ。宵子も、毛並みをツンツン指先で突き、毛並みを撫で、暁子のように抱き着きたい様子。

 

「宵子、お前も恥ずかしがらずに抱き着いちゃえよ」

 

「なっ、わ、ワタシは暁子のように不用心ではございませんのでっ!」

 

「え~、宵姉様も一緒にもふもふ楽しもうよ~」

 

 暁子はすねこすりの毛並みを楽しみながら、宵子を誘っている。宵子は白髪の中に走る黒メッシュを指でいじりながら、赤面気味に「そういうのは、安全の確保した後よっ」と拒否。

 

 そこで、カァ、とカラスの鳴き声が聞こえた。

 

 俺はその鳴き声が妙に気になって、空を見上げる。

 

 カァ、カァ、と鳴き声を上げて飛び回るカラス。その数は上空でどんどん増えていく。

 

「朔斗様、この子、どうやって式にいたしましょうか。ワタシたちは、悪行罰示を持つことを許されておりませんので……朔斗様?」

 

「ねぇ~朔斗様~? カラスなんて見てないで、キキ様と同じ感じにこの子を式に」

 

「二人とも、警戒しろ」

 

「はい?」「えっ?」

 

 俺は、鬼切丸を下ろしながら、いつでも動けるように体勢を整える。

 

 上空で、カラスのうねりが大きくなる。カァカァカァカァと、カラスの鳴き声が連鎖しあい、継ぎ目がなくなっていく。

 

 その、カラスの渦から何かが飛び出したと思った瞬間、俺は双子を抱えて、すぐその場から飛び出した。

 

「きゃっ!」「わぁっ!」

 

 俺の激しい動きに反応して、すねこすりも顔を上げる。だがすねこすりは、走力はあっても、俺に比べて鈍感らしい。

 

 だから、間に合わなかった。

 

 すねこすりの背中に、降り立った者。それは術士だった。黒づくめの陰陽服を身に纏い、札を手にしている。

 

「急々如律令」

 

 術士はすねこすりの首に札を貼り付ける。するとすねこすりは「キュンッ、ぎゃっ、ぐぎゃ、げ……!」と悶え苦しみだす。

 

「なっ、あなたは何者ですか!」「はぁ~!? ちょっと、その子はいい子なんですけど~!」

 

 双子が抗議に声を上げる。だが、俺には分かっていた。

 

 黒づくめが、双子を無視して俺に話しかけてくる。

 

「天征様は、あなたのことを認め始めているようですね、朔斗様」

 

 うずくまるすねこすりの背中の上で、術士が立ち上がる。

 

「ですが、天征様の命に反してでも、天征様を嫡男に推す者は、まだ残っているのですよ」

 

「……お前が、今日、俺に依頼をよこした采配者か」

 

「左様にございます。かねてより術をかけ、強力に、凶悪に仕上げた闇室。まさか無傷で脱出され、しかも副産物にこのような気の抜ける妖怪が生まれるとは思いませんでしたが」

 

 黒づくめは、すねこすりに手をかざす。

 

「ことのほか、利用できそうで幸いでした。凶化符、始動」

 

「ギャインッ!」

 

 黒づくめの言葉と同時、すねこすりの首元に張り付けられた札が、黒く輝いた。バキバキと音を立てて、すねこすりの姿が変わっていく。

 

 今までの、ずんぐりむっくりした姿が一変。狼とも豹とも取れそうな、しなやかで屈強な、しかし獰猛そうな姿へと変貌した。

 

 黒づくめが、言う。

 

「朔斗様。その命、頂戴いたします」

 

「……ったく。ここ一年、ずっと暗殺騒ぎはないまま過ごせてたってのに……!」

 

 俺は鬼切丸を構える。

 

 その時、双子が並んで、俺の前に出た。

 

「……? 二人とも、危険だから下がっててくれ」

 

「ザコ妖だと微妙なんだけど、このくらい歯ごたえがありそうなら、アタシたちの術も使えそうだからさ~」

 

「は?」

 

「物わかりの悪い朔斗様。御使いたるワタシたちが、術をお見せして差し上げると言っているのですよ」

 

 双子は、懐から楽器を取り出す。暁子は巫女鈴を、宵子は神楽笛と呼ばれる横笛を。

 

 二人は、お互いに言葉を交わす。

 

「さぁ、始めましょうか、暁子」

 

「うん、宵姉様。あの人たち()、遊ぼっか~」

 

 双子が、クスクスと不敵に笑う。

 

 禁足の森、紅葉麗しい景色の中で、何かが起ころうとしていた。

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