因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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わらべ歌の儀式陰陽術

 双子が声を揃えて、歌を口にし始めた。

 

 ―――通りゃんせ、通りゃんせ。ここはどこの細道じゃ―――

 

 歌には、聞き覚えがあった。『通りゃんせ』。有名なわらべ歌だ。

 

 わらべ歌。子供たちが遊びの中で、自然発生的に歌い出し、引き継いできた歌。遥か昔にまで起源をさかのぼれたりするものもある一方で、不気味とする声もある。

 

 『通りゃんせ』も、その一つだった。何のつもりだ、と思いつつ、二人を守れるように俺は刀を構える。

 

 だが、続くフレーズが、俺の記憶と違っていた。

 

 ―――祭神さまの細道じゃ、ちっとお出ましくだしゃんせ―――

 

 宵子が、笛を吹く。暁子が、シャンシャンと鈴を鳴らす。

 

 すると、どこからともなく、雅楽の甲高い音が響き始めた。太鼓の音が、多種多様な笛の音が、琵琶の、琴の音が聞こえる。紅葉に染まるこの場に、神前の清浄な空気が満ち始める。

 

 宵子の笛の音が高らかに響く。暁子の円を描くような動きで、鈴の音が、シャンシャンと区切りをつける。

 

 それは、足音だった。暁子の鈴の音が、何者かの足音となって、近づいてくる。

 

 シャン、シャン、シャン、シャン、シャンシャンシャン―――シャシャン。

 

 何かが、確実にそこにいた。敵対する黒づくめの暗殺者も、震え、双子の儀式に割り込むことができなかった。

 

「「『神祇祭祀・遊戯舞(ゆうぎまい)』。開幕でございます」」

 

 双子が、ほの暗い笑みを湛えて、術の名を口にする。

 

 神祇祭祀。そう聞いて、俺はなるほどと納得した。

 

 神祇祭祀とは、陰陽術の中でも儀式性の高いものだ。直接的な戦闘とは別領域の術になる。

 

 だが、この場でそれを披露したという事は、戦闘にも使えるのだろう。

 

 そして類推するに―――この場には、神が、居る。

 

 御陵宮が家を上げて祀る、祭神が。

 

 直後、黒づくめは人差指と中指を揃えて立てて、俺たちに向けてきた。

 

「穿て! カラスたちよ!」

 

 上空を飛び回るカラスたちの渦。そこから、一匹、二匹、三匹と、急降下してくる個体が現れる。

 

「御使いがどうしたというのか! 私の勝利は、生還ではない! 朔斗様! あなたのお命なのですから!」

 

 双子に、カラスたちが殺到する。俺は双子に問う。

 

「で? 実際のところ、お前らアレ防げるか?」

 

「ふふふ、朔斗様、おかしなことをおっしゃいますね」

 

「遊戯舞は、どっちかというとバフデバフ系の術なんだよね~。だから、朔斗様頼み~」

 

「何でさっき、お前ら俺の前に出たんだよ!」

 

「だって目立ちたいし~!」

 

 俺が前に出る。すると、「とはいえ」と宵子が言った。

 

「効果は無類でございますよ。その効力を、実感させて差し上げましょう」

 

 宵子が、歌い出す。

 

 ―――一つ、人より影黒し。二つ、踏まれて動けない。泥の御足で沈みなさい―――

 

 宵子が、釘を手の内に構える。そして素早く地面に放てば、カラスたちの動きが一斉に止まった。

 

 地面を見る。カラスたちの影に、釘が刺さっている。

 

「かげふみ遊びでございます。影を踏まれれば、止まる」

 

「逆に、札を貼り付けて、歌えば~?」

 

 ―――三つ、水より影淡し。四つ、夜明けに逃げていく、風の御足で踊りなさい―――

 

 暁子が俺の背中に札を貼り付ける。同時、体が軽くなった。「おお」と俺が声を漏らしてしまうくらい。

 

「行ってらっしゃい、朔斗様~! 風の御足で、踊ってきて~!」

 

「任せろ! これから、空も飛べそうだ!」

 

 飛び出す。そしてカラスの大軍目がけて、俺は跳躍した。

 

 剣閃。

 

 鬼切丸が幾重にも走る。鬼切丸を振るう腕すら軽い。

 

 俺はカラスを斬りながら、停止したカラスを踏みつけ駆け上がっていく。

 

 上空、十メートル。すねこすりの上に立つ黒づくめの真上。俺は数秒と数えることもなく、またたく間にそこまで駆け上がる。

 

 からの飛び降り。急襲。

 

 黒づくめの術士目がけて、俺は刃を逆手に急降下する。

 

「なっ、そんな速度で―――」

 

 黒づくめは、俺の動きに対応できない。そりゃあそうだ。元から常人の何倍も速い俺が、更に加速しているのだから、常人には目でも追えるわけがない。

 

 だから、俺に対応できるのは、この場にはたった一匹しかいなかった。

 

 ガギィンッ、という、甲高い音が響く。

 

「――――そうだよな、お前が防いでくると思ってたよ!」

 

「グルルルルルゥ……!」

 

 凶暴化したすねこすり。奴が俺の大太刀を噛んで、止めていた。

 

「オラァッ!」

 

「ギャンッ!」

 

 俺はすねこすりの顔を蹴り飛ばして、すねこすりの拘束から抜け出す。

 

 すねこすりに一撃入れたが、通りとしてはよくない。すねこすりを通り抜けるように鬼切丸を調節してもいいが、その場合すねこすりからの攻撃の防御に使えない。

 

「ふぅ―――――」

 

「グルルルルル……!」

 

 俺は大太刀を構え、すねこすりは姿勢を低く唸り、お互いに睨み合う。

 

 バフを掛けられた俺と、凶化を入れられたすねこすり。速度はおおむね五分のようだった。黒づくめよりも、双子の腕が上ということか。

 

 そして、互角の相手とそのまま戦うのは、怪我や敗北のリスクとなる。

 

「宵子、暁子! 黒づくめの術士はともかく、すねこすりが厄介だ! 策はないか!」

 

「あらあら、欲張りな人。では、献策して差し上げましょう」

 

「見た感じ、すねこすりが朔斗様と互角なのは、速度だけだよね~。なら」

 

「ええ、そうね。暁子」

 

「だよね、宵姉様」

 

 クスクスと二人は笑い合い、不敵に囁く。

 

「「隙を、突けばいい」」

 

 宵子が前に出る。暁子が俺のそばに立つ。

 

「朔斗様、アタシ朔斗様の傍を離れないから、アタシのことを守って~?」

 

「暁子を守るのはいいが、宵子は!?」

 

「宵姉様は、大丈夫だよ~! だって~」

 

 暁子が、親指と人差し指で丸を作り、宵子を覗き込む。

 

「アタシが、守るから」

 

 宵子は裾を持ち上げて、とっとっとっ、と和服の少女らしい、遅い足取りで駆けていく。

 

 それを黙って見逃すほど、黒づくめは甘くない。指で指し示し、「舐めた真似を。穿てよカラス!」と命じる。

 

 再びカラスが、上空から襲い来る。宵子は身体能力的にも術的にも、対処する方法がない。

 

 そんな宵子に、暁子が動いた。

 

 ―――かごめ、かごめ。籠の中の鳥は、いついつ出やる―――

 

 暁子の歌が響くと共に、宵子の姿が空気に溶ける。

 

「ッ!? 何、どこに行った!」

 

 黒づくめが慌てだす。暁子がクスクスと笑う。

 

「朔斗様、見て?」

 

 暁子に言われて指の丸を覗くと、その先には宵子がいた。だが、普通にその場を見ても、何も見えない。

 

 襲い来るカラスが、宵子をすり抜けていく。暁子が説明する。

 

「結界遊び:かごめかごめ。アタシが指で覗いて歌うと、その相手は誰にも見えないし、干渉も受けない。代わりに―――」

 

「チィッ! 何が目的化は分からぬが、どうせそちらを潰せばいいだけのこと!」

 

 黒づくめは暁子を指し示す。無数のカラスが暁子目がけて降り注ぐ。

 

「アタシ丸見えだから、集中砲火されちゃうんだよね。朔斗様、守ってくれる~?」

 

「っはは! ああ、任せろッ!」

 

 暁子を背後に隠す。大太刀を構え、大きく息をする。思い切り腕に力を込める。

 

 そして一息に、薙ぎ払った。

 

 カラスの大軍がバラバラになって落ちていく。だが、俺の剣は止まらない。無数に振るう刃で、無尽蔵に襲い来るカラスを片っ端から切り落としていく。

 

「クッ! 朔斗様にはカラスでは効かぬか。ならば、行けすねこすり!」

 

「グギャウ!」

 

 すねこすりが躍動し、俺たちの下へと駆けてくる。逃げようにも、カラスの連撃が止まらないから、俺は覚悟を決めて待ち構えるしかない。

 

「暁子! 俺の背中にしがみつけ!」

 

「うんっ! 信じるからね~、朔斗様っ!」

 

 背中に飛び乗ってくる感触。同時に俺は、すねこすりの正面突撃を大太刀で受け止めた。

 

 衝撃。だが、俺は吹っ飛ばされなかった。地面を強く足で掴み、すねこすりに対して壁として立ち塞がる。

 

「なァッ! このサイズの妖怪を前に、正面から受けとめる、だと……ッ!?」

 

 黒づくめが、すねこすりの背の上で動揺している。俺は「ハハッ!」と強がって笑った。

 

「俺の体もそこそこ出来上がってきたからなぁッ! すねこすりに負けるのは、それこそ、スピードだけだッ!」

 

 足を一歩前に踏み出す。すねこすりの全身が、僅かに後退する。

 

「~~~ッ! 退け! 退くのだすねこすり!」

 

 弾かれるように後退するすねこすり。俺は刀を下ろしながら、「とはいえ」と呟く。

 

「こうして距離を取られたら、こっちから攻める手がないのが嫌なところなんだがな」

 

「でも、宵姉様は準備が終わったみたいよ~?」

 

「何?」

 

 暁子が言うと共に、どこからともなく、歌が聞こえ始める。

 

 ―――夜明けの晩に。鶴と亀が滑った―――

 

 暁子が、ぱっと俺から離れる。それから指を解くと、宵子の姿が現れた。

 

 宵子は、人型の紙を人間大に巨大化させた擬人式たち十数と手をつないで、すねこすりたちを囲い、回っていた。

 

 まるで、かごめ遊びのように。

 

「なっ、いつの間に―――いや、だから何だというのか! この至近距離、すねこすりのいい的だ!」

 

 黒づくめがすねこすりを叩く。すねこすりが命じられるままに、宵子目がけて爪を振るおうとする。

 

 だが、外れた。

 

 いや、そもそも、すねこすりはまともに移動ができていなかった。

 

 飛び出そうとして、カシュッ、と足元を滑らせ、無様に足踏みをしていただけだ。だからその爪は宵子には届かない。攻撃は当たらないし、そもそも出られない。

 

「暁子の『かごめかごめ』が守りの鎧ならば、ワタシの『かごめかごめ』は閉じ込める檻になります」

 

 宵子は語る。語りながら、擬人式と手を取って、くるくるとすねこすりの周りを踊る。

 

「この通り展開するには面倒ですけれど、展開してしまえばそれまで。鶴と亀のように滑り、感覚は狂い、前に出ようとしても動けない。まさに籠の中の鳥も同然」

 

「で、最後の仕上げ~! いっくよ~、朔斗様!」

 

 暁子が、俺に向けて指の輪を作り覗き込む。すると、俺の体に、宵子を守ったのと同じ効果が現れたと理解する。

 

 そして双子は、声を揃えて歌うのだ。

 

 ―――後ろの正面、だぁれ?―――

 

 直後、俺はすねこすりの背の上。すねこすりをおかしくする札の目の前にワープしていた。

 

「なっ、なァッ!?」

 

 黒づくめが目を剥く。すねこすりが「ウギャウッ!?」と背後に俺を見つけて瞠目する。

 

 それに、俺はすべて理解して、笑った。

 

「なるほどねぇ。歌がそのまま、現象となるのか」

 

 俺は鬼切丸を振りかぶる。黒づくめが手を伸ばしてくるから、それを後ろ足に蹴り飛ばす。

 

「ぎゃっ」

 

「邪魔はさせねぇよ!」

 

 ここまでお膳立てされて、成果を上げられませんでしたでは済ませない。俺は腕に力を込める。

 

「すねこすり! 洗脳を解かれる準備は出来てるかッ!? 行くぞォッ!」

 

 俺は鬼切丸を一閃する。首筋の札が真っ二つになり、すねこすりが無傷のままに吹っ飛んだ。

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