因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
雪やこんこん
鵺との戦いから、一年と数ヶ月。小六の冬が訪れていた。
水静村は山奥にあって、冬はしんしんと雪が降り積もる。だから駆り出される使用人たちはため息を吐き、逆に術士たちはまぶしそうに雪を見つめていた。
さて、俺はというと。
「さむ……」
早朝。厳しい冷え込みに耐えかねて、俺は布団を顔まで被って縮こまる。
そんな俺の布団を、剥がす者が二人いた。
「朔斗様、起きてくださいまし。あら、寒さのあまり朔斗様が芋虫になってらっしゃるわ」
「アハハハハッ! 朔斗様、寒さによわよわ~! よ~しっ! 行けイヌコ~!」
「きゅんっ! きゅんきゅんきゅん!」
「ぐああぁぁあ~~~!」
イヌコに顔をべろんべろん舐められ、俺はたまらず起き出す。すると、和服の双子が俺の顔を覗き込んでいた。
「おはようございますわ、朔斗様。本日も惰眠を貪ってらして何よりでございます」
「おはよ朔斗様っ! ほら~! 雛見様がまだかなって待ってるんだから、早く準備~!」
白髪おかっぱに黒メッシュの少女、宵子。
黒髪おかっぱに白メッシュの少女、暁子。
俺は二人に身ぐるみを剥がされながら、イヌコを湯たんぽ代わりに抱きかかえる。
鵺の一件以来、双子は、雛見がいない場所では俺に気安く接してくるようになっていた。
朝に起こしに来るのはもはや日課。暇なときはダル絡みされるし、それも放っておくと悪戯してくるので、定期的に構う必要がある。
雛見ではないが、生意気な妹が二人出来たような気分だった。
「おはよう二人とも……人がせっかく気持ちよく寝てたのに」
「そうですか。しかしワタシどもは雛見様の使用人ですので」
「朔斗様の意思とかはあんまり尊重する気はないのでした~! 残念~!」
とか言いながら、あれよあれよという間に、俺は寝間着から普段着に着替えさせられる。
「まったく、朔斗様はだらしがないですね。ほら、使い終わったダンベルもちゃんとお片付けなさいまし」
「そーそー! まったく朔斗様ったら~! こんな体バキバキで……うわ、ホントすごい体してるよね~……。……ゴクっ」
「暁子、ちゃんと着替えさせて」
「うっ、うん。ほら、朔斗様お手々伸ばして~!」
世話も終われば、俺は二人に両手を取られて連れていかれ、いくらか廊下を渡らされる。
到着すると、雛見は縁側の襖を開け、和服で厚着して、降りしきる雪を眺めていた。
「……」
雪、静寂、白い肌をした、長い黒髪の大和撫子。
その、あまりに絵になる姿に、俺はじっと見つめてしまう。
すると雛見は俺に気付いて、雪解けのするような笑みを浮かべた。
「おはようございます、お兄様」
「……ああ、おはよう、雛見」
俺は雛見の隣に座る。すると、腕の中のイヌコが飛び出し、そのまま降り積もる雪の中を駆け始める。
「うふふふっ。イヌコは今日も元気ですね」
「元気すぎるくらいだ。今朝なんか、俺の顔を舐め回して起こしてきたんだぞ」
「ふふっ。それはそれは、元気すぎて困ってしまいますね」
「ま、双子が俺にけしかけたんだけどな。二人には困ったもんだ」
俺が後ろに視線をやると、すでに双子は朝食の準備に取り掛かっている。二人も十一歳になって、仕事をするのに熟練の風格が出つつある。
雛見は、俺の肩に頭を乗せ、目をつむって呟く。雛見の匂いが香って、少しドキリとする。
「宵子と暁子も、お兄様に随分懐きましたね。元はわたくしとキキ様だけのお兄様でしたのに、寂しいです」
「だけってことはないだろ。何だかんだ天征とはずっと仲いいし」
「天征様は……わたくしは苦手ですから」
「まぁ、それはな」
天征は御陵宮の大半に好かれているが、雛見や双子には嫌われている。他方、天征は俺の周りの人間にさほど興味がないらしく、雛見などに絡んでいる姿を見たことがない。
「そういえば、お兄様。キキ様は?」
「ああ、朝だから寝てるよ。用事があるなら起こそうか?」
「いえ、居ない方が思い切りお兄様に甘えられるので、しばらくはこのままで」
「そうは問屋が卸さぬぞ雛見……」
眠そうにしながらも、俺の影から出現したキキが、雛見の肩に手を置いた。雛見はふふっと笑って、キキに流し目を送る。
「あら、もう起きてきてしまったのですか? もう少しくらいゆっくりしていても構いませんのに」
「生憎とな、最近は少しずつ生活習慣を調節して、なるべく朝に起きれるように頑張っておるのよ……! 油断すると夜型に戻ってしまうがな!」
「油断していただいても構いませんよ?」
「油断も隙もない奴が言うておるわ」
「はいはい、ケンカはそこまで」
バチバチやり合う二人の間に俺が割り込むと、キキは「主様~!」と俺の背中にもたれかかってくる。
すると、背中に柔らかい感触が。俺は虚無の顔で目を細める。
キキは俺の成長に合わせるように力を取り戻していて、身長は雛見よりも少し高いくらいになった。一方で、身長がぐんぐん伸びる俺とは差がつき始めている。
見た目も、出会った頃からずっと女の子らしくなったと思う。身体にメリハリが出てきて、丸みに帯びた体の柔らかさにハッとさせられることも多い。
……いや、だから何だって話だけど。何でもないけどさ。うん。
「む。お兄様? わたくしのことも意識してください」
対抗して、雛見が俺の腕を抱きしめてくる。
肉感ある体つきになっていくキキに対して、雛見は華奢というかガーリーな体つきだった。線が細く可愛らしい一方で、やはり女性らしい柔らかさのある成長が感じられた。
雛見は結構小柄なタイプで、人形のような可愛らしさがあった。分かりやすく容姿が整っていて、年々愛らしさを増しているように感じる。
……まぁ、うん。成長したねっていうか。みんな違ってみんな良いねっていうか。
「……反応的に互角か。主様の助平め」
「お兄様は浮気者で困ってしまいます」
「色仕掛けして俺の反応で決着付けようとするの止めろ」
「何でじゃ。一番核心を突いておろう」
「そうです。これ以上の手はありません」
「離れろ」
言うが、二人は全く離れる気配がない。俺はため息を吐いて、そのままにさせておく。
庭先では、イヌコが元気に雪の中を走り回っている。かと思いきや、俺の懐に戻ってきて、ブルブルと体を回転させて、雪を俺たちに向けてまき散らした。
「うぉっ?」「ぬわっ!」「キャッ」
俺たち三人を雪まみれにしてから、イヌコは軽い足取りでこたつの中に潜り込んだ。
俺は渋面でこたつに近づき布団をめくると、イヌコはぬくぬくと丸くなっている。
「……こいつの行動、童謡すぎるだろ」
犬は喜び庭駆けまわり、猫はこたつで丸くなる。
どっちもするイヌコは、変わらず犬と猫の間のようなすねこすりだ。
「はぁ~……ちょっと着替えてくる」
一番被害の大きい俺は、イヌコのブルブルで全身雪まみれ。一方俺の背にいたキキや隣の雛見は、そこまでの被害はない。
俺は立ち上がり、名残惜しそうな二人を置いて部屋を出る。朝食を抱えた双子と通りすがって「朔斗様、雪だるまになられたのですか?」「アッハハハ! 雪まみれで寒そ~!」とからかわれる。
そして部屋で着替えて戻ると、途中で天征と遭遇した。
「お、朔斗じゃん。おはよーさん」
「おう、天征。おはよう。今から朝飯か?」
「ああ、大広間でな。そっちは雛見のところと見た」
「そうだな。結局数年単位で世話になってて、頭上がらないわ」
「相変わらず仲が良いな。何よりだ」
ニッ、と笑う天征。相変わらず人たらしな奴だなと思いながら、俺は微笑みと共に肩を竦める。
すると、天征は言った。
「そうだ、朔斗。ちょっと面倒な任務が回ってきてさ、手が空いてるなら放課後付き合ってくんね?」
「いいぞ。抱えてた任務はちょうど昨日でひと段落したし、手伝えると思う。内容は?」
俺の問いに、天征は答えた。
「煤払い。キキが封じられてたお堂周りで、