因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

31 / 49
蠱毒の壺
雪やこんこん


 鵺との戦いから、一年と数ヶ月。小六の冬が訪れていた。

 

 水静村は山奥にあって、冬はしんしんと雪が降り積もる。だから駆り出される使用人たちはため息を吐き、逆に術士たちはまぶしそうに雪を見つめていた。

 

 さて、俺はというと。

 

「さむ……」

 

 早朝。厳しい冷え込みに耐えかねて、俺は布団を顔まで被って縮こまる。

 

 そんな俺の布団を、剥がす者が二人いた。

 

「朔斗様、起きてくださいまし。あら、寒さのあまり朔斗様が芋虫になってらっしゃるわ」

 

「アハハハハッ! 朔斗様、寒さによわよわ~! よ~しっ! 行けイヌコ~!」

 

「きゅんっ! きゅんきゅんきゅん!」

 

「ぐああぁぁあ~~~!」

 

 イヌコに顔をべろんべろん舐められ、俺はたまらず起き出す。すると、和服の双子が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「おはようございますわ、朔斗様。本日も惰眠を貪ってらして何よりでございます」

 

「おはよ朔斗様っ! ほら~! 雛見様がまだかなって待ってるんだから、早く準備~!」

 

 白髪おかっぱに黒メッシュの少女、宵子。

 黒髪おかっぱに白メッシュの少女、暁子。

 

 俺は二人に身ぐるみを剥がされながら、イヌコを湯たんぽ代わりに抱きかかえる。

 

 鵺の一件以来、双子は、雛見がいない場所では俺に気安く接してくるようになっていた。

 

 朝に起こしに来るのはもはや日課。暇なときはダル絡みされるし、それも放っておくと悪戯してくるので、定期的に構う必要がある。

 

 雛見ではないが、生意気な妹が二人出来たような気分だった。

 

「おはよう二人とも……人がせっかく気持ちよく寝てたのに」

 

「そうですか。しかしワタシどもは雛見様の使用人ですので」

 

「朔斗様の意思とかはあんまり尊重する気はないのでした~! 残念~!」

 

 とか言いながら、あれよあれよという間に、俺は寝間着から普段着に着替えさせられる。

 

「まったく、朔斗様はだらしがないですね。ほら、使い終わったダンベルもちゃんとお片付けなさいまし」

 

「そーそー! まったく朔斗様ったら~! こんな体バキバキで……うわ、ホントすごい体してるよね~……。……ゴクっ」

 

「暁子、ちゃんと着替えさせて」

 

「うっ、うん。ほら、朔斗様お手々伸ばして~!」

 

 世話も終われば、俺は二人に両手を取られて連れていかれ、いくらか廊下を渡らされる。

 

 到着すると、雛見は縁側の襖を開け、和服で厚着して、降りしきる雪を眺めていた。

 

「……」

 

 雪、静寂、白い肌をした、長い黒髪の大和撫子。

 

 その、あまりに絵になる姿に、俺はじっと見つめてしまう。

 

 すると雛見は俺に気付いて、雪解けのするような笑みを浮かべた。

 

「おはようございます、お兄様」

 

「……ああ、おはよう、雛見」

 

 俺は雛見の隣に座る。すると、腕の中のイヌコが飛び出し、そのまま降り積もる雪の中を駆け始める。

 

「うふふふっ。イヌコは今日も元気ですね」

 

「元気すぎるくらいだ。今朝なんか、俺の顔を舐め回して起こしてきたんだぞ」

 

「ふふっ。それはそれは、元気すぎて困ってしまいますね」

 

「ま、双子が俺にけしかけたんだけどな。二人には困ったもんだ」

 

 俺が後ろに視線をやると、すでに双子は朝食の準備に取り掛かっている。二人も十一歳になって、仕事をするのに熟練の風格が出つつある。

 

 雛見は、俺の肩に頭を乗せ、目をつむって呟く。雛見の匂いが香って、少しドキリとする。

 

「宵子と暁子も、お兄様に随分懐きましたね。元はわたくしとキキ様だけのお兄様でしたのに、寂しいです」

 

「だけってことはないだろ。何だかんだ天征とはずっと仲いいし」

 

「天征様は……わたくしは苦手ですから」

 

「まぁ、それはな」

 

 天征は御陵宮の大半に好かれているが、雛見や双子には嫌われている。他方、天征は俺の周りの人間にさほど興味がないらしく、雛見などに絡んでいる姿を見たことがない。

 

「そういえば、お兄様。キキ様は?」

 

「ああ、朝だから寝てるよ。用事があるなら起こそうか?」

 

「いえ、居ない方が思い切りお兄様に甘えられるので、しばらくはこのままで」

 

「そうは問屋が卸さぬぞ雛見……」

 

 眠そうにしながらも、俺の影から出現したキキが、雛見の肩に手を置いた。雛見はふふっと笑って、キキに流し目を送る。

 

「あら、もう起きてきてしまったのですか? もう少しくらいゆっくりしていても構いませんのに」

 

「生憎とな、最近は少しずつ生活習慣を調節して、なるべく朝に起きれるように頑張っておるのよ……! 油断すると夜型に戻ってしまうがな!」

 

「油断していただいても構いませんよ?」

 

「油断も隙もない奴が言うておるわ」

 

「はいはい、ケンカはそこまで」

 

 バチバチやり合う二人の間に俺が割り込むと、キキは「主様~!」と俺の背中にもたれかかってくる。

 

 すると、背中に柔らかい感触が。俺は虚無の顔で目を細める。

 

 キキは俺の成長に合わせるように力を取り戻していて、身長は雛見よりも少し高いくらいになった。一方で、身長がぐんぐん伸びる俺とは差がつき始めている。

 

 見た目も、出会った頃からずっと女の子らしくなったと思う。身体にメリハリが出てきて、丸みに帯びた体の柔らかさにハッとさせられることも多い。

 

 ……いや、だから何だって話だけど。何でもないけどさ。うん。

 

「む。お兄様? わたくしのことも意識してください」

 

 対抗して、雛見が俺の腕を抱きしめてくる。

 

 肉感ある体つきになっていくキキに対して、雛見は華奢というかガーリーな体つきだった。線が細く可愛らしい一方で、やはり女性らしい柔らかさのある成長が感じられた。

 

 雛見は結構小柄なタイプで、人形のような可愛らしさがあった。分かりやすく容姿が整っていて、年々愛らしさを増しているように感じる。

 

 ……まぁ、うん。成長したねっていうか。みんな違ってみんな良いねっていうか。

 

「……反応的に互角か。主様の助平め」

 

「お兄様は浮気者で困ってしまいます」

 

「色仕掛けして俺の反応で決着付けようとするの止めろ」

 

「何でじゃ。一番核心を突いておろう」

 

「そうです。これ以上の手はありません」

 

「離れろ」

 

 言うが、二人は全く離れる気配がない。俺はため息を吐いて、そのままにさせておく。

 

 庭先では、イヌコが元気に雪の中を走り回っている。かと思いきや、俺の懐に戻ってきて、ブルブルと体を回転させて、雪を俺たちに向けてまき散らした。

 

「うぉっ?」「ぬわっ!」「キャッ」

 

 俺たち三人を雪まみれにしてから、イヌコは軽い足取りでこたつの中に潜り込んだ。

 

 俺は渋面でこたつに近づき布団をめくると、イヌコはぬくぬくと丸くなっている。

 

「……こいつの行動、童謡すぎるだろ」

 

 犬は喜び庭駆けまわり、猫はこたつで丸くなる。

 

 どっちもするイヌコは、変わらず犬と猫の間のようなすねこすりだ。

 

「はぁ~……ちょっと着替えてくる」

 

 一番被害の大きい俺は、イヌコのブルブルで全身雪まみれ。一方俺の背にいたキキや隣の雛見は、そこまでの被害はない。

 

 俺は立ち上がり、名残惜しそうな二人を置いて部屋を出る。朝食を抱えた双子と通りすがって「朔斗様、雪だるまになられたのですか?」「アッハハハ! 雪まみれで寒そ~!」とからかわれる。

 

 そして部屋で着替えて戻ると、途中で天征と遭遇した。

 

「お、朔斗じゃん。おはよーさん」

 

「おう、天征。おはよう。今から朝飯か?」

 

「ああ、大広間でな。そっちは雛見のところと見た」

 

「そうだな。結局数年単位で世話になってて、頭上がらないわ」

 

「相変わらず仲が良いな。何よりだ」

 

 ニッ、と笑う天征。相変わらず人たらしな奴だなと思いながら、俺は微笑みと共に肩を竦める。

 

 すると、天征は言った。

 

「そうだ、朔斗。ちょっと面倒な任務が回ってきてさ、手が空いてるなら放課後付き合ってくんね?」

 

「いいぞ。抱えてた任務はちょうど昨日でひと段落したし、手伝えると思う。内容は?」

 

 俺の問いに、天征は答えた。

 

「煤払い。キキが封じられてたお堂周りで、()()()()モノが溜まってるみたいでな。冬の終わりの大掃除ってワケだ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。