因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
キキが封じられていたお堂は、水静村の近くにある『
麻藤岳はキキに限らずこういう封印が良くされる場所で、巨大な龍脈が通っており、封印を助けてくれるのだと。水静村に御陵宮が居を構えたのも、麻藤岳があるからとか。
つまる話、麻藤岳とは魔封じ岳ということなのだそうだ。言葉遊びである。そう考えると水静村の由来とか考えたくないね。
さて、そんな麻藤岳に、俺はキキを伴い、天征と共に向かっていた。
放課後、夕方だ。傾き始めた夕方の光を、白銀の雪が照り返していて眩しい。
とはいえ、俺たち三人はフィジカル組。ただでさえ峻険な山に雪が降り積もっても、えいさよいさとぐんぐん山を登っていた。
「いやぁ、助かったぜ朔斗、キキ。今日のはオレ一人だと、ちっと荷が重いと思っててな」
「ま、天征にはちょくちょく助けられてるからな。この前だって人手をかき集めてくれたし」
「主様に付き従う者は、一人一人は実力があっても、数が少ないからのう」
当時の任務は、山奥に大量発生した妖蛾の討伐。妖蛾一匹一匹はザコだが、村を覆い尽くすような量となると手に負えなかった。
そこで天征に泣きついたら、二つ返事で人をかき集めて動員してくれたのだ。かき集められた面々は、全員不満そうな顔をしていたが。
「それに、鵺の一件以来、完全に俺を狙った暗殺者も居なくなった。それを考えれば、このくらいの協力は朝飯前だ」
「へへっ、ありがとな。持つべきは弟か」
「弟はお前だ」
「あん? 何だとやろうってか!?」
「いいぞやってやんよ! 何すんだよおい!」
「じゃんけん」
「受けて立つ」
俺たちはじゃんけんをする。俺は宿業の動体視力で、天征のじゃんけんの手を見破って勝利する。
「負けたぁ! クソ、嫡男はお前だ朔斗……!」
「ふっ、まだまだだな天征」
「これが、あれだけおぞましく力を蓄えてきた、御陵宮の次世代の姿か……」
俺と天征のじゃれ合いを見て、キキが遠い目をしていた。面白い。
そう思いつつも、俺は天征を見る。
嫡男を廻ってこんなふざけていられる期間は、恐らくはそう長くない。俺たちに課される任務とその成果を吟味して、どちらがどう、という話を耳にする機会は増えている。
……だが、俺はまだ天征と仲のいい友人のような間柄で居たくて、本題に踏み込まない。
「にしても、自信過剰な天征がそんなことを言うのは珍しいな。荷が重いなんて」
俺が聞くと、天征は肩を竦める。
「得意分野の差って奴だ。今回は少人数でいいから、精鋭が要る。普通の術士じゃ無駄に死なせるだけだ。でもオレと、朔斗たちなら対応できると思った」
「……そんなに危険なのか?」
「いや、朔斗とキキなら、多分余裕だ。オレ一人だと危ないくらいの温度感だな」
天征は、皮肉っぽく笑う。
「朔斗。お前は鵺の一件を初めとして、実績を積み上げてきた。お前を不動の嫡男として推す人間は、お前が思うより多いんだぜ」
俺は、口を閉ざす。天征が言っているのは、つまり
『俺を推す陣営の人間が、天征への嫌がらせとして、無理難題を任務に課した』ということなのだ。
「……すまん」
「お前が謝ることじゃない。因果は廻るってだけのことだ。それに、朔斗はオレの頼みを二つ返事で受けてくれた。周りなんて関係ねぇよ」
天征は、俺に拳を突きだしてくる。
「だろ? 兄弟」
「……そうだな」
俺は天征と拳をぶつけ合った。それから、また雪をかき分けて山を登る。
そうしてしばらく進むと、キキを封じていたお堂に辿り着く。「ふぅ、ここに来るだけでも疲れた」と天征が荷物を下ろす。
「朔斗達はどうだ? 疲れてないか?」
「俺はまだまだ余裕あるぞ」「わらわもじゃ」
「はーっ、流石は宿業と鬼ってか」
天征は疲れからか、雪の上にひっくり返る。俺は「イヌコが今朝からずっと、こたつから出てこなくてな。出てきてくれたら乗せられたんだが」と苦笑。
天征は起き上がってきて、ニッと笑う。
「ま、そういうこともある。じゃあオレは休憩がてら、二人に頼みたいことを説明するか」
天征はお堂入り口の手すりに腰を下ろして、荷物をゴソゴソ漁りだす。
「まず、今回の任務概要な。元々ここは龍脈でも特に力が集まる場所で、それをキキの封印に転用してたんだが、数年前の事件でキキがここから脱出しちまった」
「わらわが脱出したことを、悪いことのように言うな」
御陵宮的にはめちゃくちゃ悪いことだとは思う。俺的には起死回生の一手だったが。
天征はカラカラ笑って続ける。
「はははっ、悪い悪い。でだ。そうなると龍脈から漏れ出る力が、このお堂の中に溢れちまうんだな。誰も使わず、用事もない力が、誰かに守られることなく放置される、と」
話を聞いて、なるほど、確かによろしくない展開になりそうだ、と納得する。
「だから、力目的で寄ってきた妖怪とか、あるいは力そのものが妖怪化したものを処理する。それが今回の目的だ」
天征の説明に、概ね納得する。一方で、疑問に思うことも。
「天征、質問いいか? 力が溢れるのは、予想の付く展開だったろ? 何で四年間も放置されたんだ」
俺が言うと、天征は肩を竦めて答えた。
「権力争いで、誰も手が出せない状態が続いたんだよ。術士も活用できるデカい力だからな。そうしたら
「……なるほど」
部屋の中にいるゾウという奴だ。誰が見ても明らかに問題なのに、誰も指摘できない奴。
天征は呪具を取り出して雪の上に並べながら続ける。
「この煤払いに必要なのは、今後
「天征も腕っぷしはあるだろ?」
「バカ言え。何の準備もなく大物は狩れねぇよ。オレは緻密に計算して滅茶苦茶に準備して、やっと大物狩りに挑めるくらいだ。期限が少ないなら、朔斗を頼るしかない」
天征は言う。
「オレは万能型の術士だが、全能じゃない。不得意はなくとも、朔斗達ほど特別優れた何かを持つワケじゃないんだよ」
「……そんなこと、ないと思うけどな」
俺は、思いの外卑下する天征に言う。
しかしそれを無視して、天征は最後の呪具を雪の上においた。
「さ、与太話はしまいだ。仕事の時間だぜ、準備はできてるか?」
「―――おう」「うむ」
俺とキキが頷く。それに天征は笑って、「じゃ、鉄火場は任せたぜ」と呪具を持ち上げた。