因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

32 / 49
雪山語り

 キキが封じられていたお堂は、水静村の近くにある『麻藤岳(まふじだけ)』という山の麓奥にある。

 

 麻藤岳はキキに限らずこういう封印が良くされる場所で、巨大な龍脈が通っており、封印を助けてくれるのだと。水静村に御陵宮が居を構えたのも、麻藤岳があるからとか。

 

 つまる話、麻藤岳とは魔封じ岳ということなのだそうだ。言葉遊びである。そう考えると水静村の由来とか考えたくないね。

 

 さて、そんな麻藤岳に、俺はキキを伴い、天征と共に向かっていた。

 

 放課後、夕方だ。傾き始めた夕方の光を、白銀の雪が照り返していて眩しい。

 

 とはいえ、俺たち三人はフィジカル組。ただでさえ峻険な山に雪が降り積もっても、えいさよいさとぐんぐん山を登っていた。

 

「いやぁ、助かったぜ朔斗、キキ。今日のはオレ一人だと、ちっと荷が重いと思っててな」

 

「ま、天征にはちょくちょく助けられてるからな。この前だって人手をかき集めてくれたし」

 

「主様に付き従う者は、一人一人は実力があっても、数が少ないからのう」

 

 当時の任務は、山奥に大量発生した妖蛾の討伐。妖蛾一匹一匹はザコだが、村を覆い尽くすような量となると手に負えなかった。

 

 そこで天征に泣きついたら、二つ返事で人をかき集めて動員してくれたのだ。かき集められた面々は、全員不満そうな顔をしていたが。

 

「それに、鵺の一件以来、完全に俺を狙った暗殺者も居なくなった。それを考えれば、このくらいの協力は朝飯前だ」

 

「へへっ、ありがとな。持つべきは弟か」

 

「弟はお前だ」

 

「あん? 何だとやろうってか!?」

 

「いいぞやってやんよ! 何すんだよおい!」

 

「じゃんけん」

 

「受けて立つ」

 

 俺たちはじゃんけんをする。俺は宿業の動体視力で、天征のじゃんけんの手を見破って勝利する。

 

「負けたぁ! クソ、嫡男はお前だ朔斗……!」

 

「ふっ、まだまだだな天征」

 

「これが、あれだけおぞましく力を蓄えてきた、御陵宮の次世代の姿か……」

 

 俺と天征のじゃれ合いを見て、キキが遠い目をしていた。面白い。

 

 そう思いつつも、俺は天征を見る。

 

 嫡男を廻ってこんなふざけていられる期間は、恐らくはそう長くない。俺たちに課される任務とその成果を吟味して、どちらがどう、という話を耳にする機会は増えている。

 

 ……だが、俺はまだ天征と仲のいい友人のような間柄で居たくて、本題に踏み込まない。

 

「にしても、自信過剰な天征がそんなことを言うのは珍しいな。荷が重いなんて」

 

 俺が聞くと、天征は肩を竦める。

 

「得意分野の差って奴だ。今回は少人数でいいから、精鋭が要る。普通の術士じゃ無駄に死なせるだけだ。でもオレと、朔斗たちなら対応できると思った」

 

「……そんなに危険なのか?」

 

「いや、朔斗とキキなら、多分余裕だ。オレ一人だと危ないくらいの温度感だな」

 

 天征は、皮肉っぽく笑う。

 

「朔斗。お前は鵺の一件を初めとして、実績を積み上げてきた。お前を不動の嫡男として推す人間は、お前が思うより多いんだぜ」

 

 俺は、口を閉ざす。天征が言っているのは、つまり()()()()()()

 

 『俺を推す陣営の人間が、天征への嫌がらせとして、無理難題を任務に課した』ということなのだ。

 

「……すまん」

 

「お前が謝ることじゃない。因果は廻るってだけのことだ。それに、朔斗はオレの頼みを二つ返事で受けてくれた。周りなんて関係ねぇよ」

 

 天征は、俺に拳を突きだしてくる。

 

「だろ? 兄弟」

 

「……そうだな」

 

 俺は天征と拳をぶつけ合った。それから、また雪をかき分けて山を登る。

 

 そうしてしばらく進むと、キキを封じていたお堂に辿り着く。「ふぅ、ここに来るだけでも疲れた」と天征が荷物を下ろす。

 

「朔斗達はどうだ? 疲れてないか?」

 

「俺はまだまだ余裕あるぞ」「わらわもじゃ」

 

「はーっ、流石は宿業と鬼ってか」

 

 天征は疲れからか、雪の上にひっくり返る。俺は「イヌコが今朝からずっと、こたつから出てこなくてな。出てきてくれたら乗せられたんだが」と苦笑。

 

 天征は起き上がってきて、ニッと笑う。

 

「ま、そういうこともある。じゃあオレは休憩がてら、二人に頼みたいことを説明するか」

 

 天征はお堂入り口の手すりに腰を下ろして、荷物をゴソゴソ漁りだす。

 

「まず、今回の任務概要な。元々ここは龍脈でも特に力が集まる場所で、それをキキの封印に転用してたんだが、数年前の事件でキキがここから脱出しちまった」

 

「わらわが脱出したことを、悪いことのように言うな」

 

 御陵宮的にはめちゃくちゃ悪いことだとは思う。俺的には起死回生の一手だったが。

 

 天征はカラカラ笑って続ける。

 

「はははっ、悪い悪い。でだ。そうなると龍脈から漏れ出る力が、このお堂の中に溢れちまうんだな。誰も使わず、用事もない力が、誰かに守られることなく放置される、と」

 

 話を聞いて、なるほど、確かによろしくない展開になりそうだ、と納得する。

 

「だから、力目的で寄ってきた妖怪とか、あるいは力そのものが妖怪化したものを処理する。それが今回の目的だ」

 

 天征の説明に、概ね納得する。一方で、疑問に思うことも。

 

「天征、質問いいか? 力が溢れるのは、予想の付く展開だったろ? 何で四年間も放置されたんだ」

 

 俺が言うと、天征は肩を竦めて答えた。

 

「権力争いで、誰も手が出せない状態が続いたんだよ。術士も活用できるデカい力だからな。そうしたら()が溜まってたことが判明して、それどころじゃなくなった。バカだよな」

 

「……なるほど」

 

 部屋の中にいるゾウという奴だ。誰が見ても明らかに問題なのに、誰も指摘できない奴。

 

 天征は呪具を取り出して雪の上に並べながら続ける。

 

「この煤払いに必要なのは、今後()が溜まらないように対応策を打てる術士と、危険な()を実力でねじ伏せられる武闘派。オレは前者、お前らは後者ってワケだ」

 

「天征も腕っぷしはあるだろ?」

 

「バカ言え。何の準備もなく大物は狩れねぇよ。オレは緻密に計算して滅茶苦茶に準備して、やっと大物狩りに挑めるくらいだ。期限が少ないなら、朔斗を頼るしかない」

 

 天征は言う。

 

「オレは万能型の術士だが、全能じゃない。不得意はなくとも、朔斗達ほど特別優れた何かを持つワケじゃないんだよ」

 

「……そんなこと、ないと思うけどな」

 

 俺は、思いの外卑下する天征に言う。

 

 しかしそれを無視して、天征は最後の呪具を雪の上においた。

 

「さ、与太話はしまいだ。仕事の時間だぜ、準備はできてるか?」

 

「―――おう」「うむ」

 

 俺とキキが頷く。それに天征は笑って、「じゃ、鉄火場は任せたぜ」と呪具を持ち上げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。