因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
前世は学生、今世はまだ七歳児。そんな俺に、武術の心得なんてものは存在しない。
だが、刀を握ると、存在しない記憶が蘇る感覚があった。かつての持ち主が、この大太刀をどう手入れし、どう振るい、どう使いこなしたか。
そして最後に、どうキキを貫いたのか。
「そうか、お前、鬼切丸っていうのか」
俺は片手で、二メートル弱の大太刀を操る。キキが、まるでケダモノのように「グルルァァアア!」と吠える。
「血、血、血! 贄! 食ラウ! 血肉ヲヨコセェッ!」
「は、正気を失うってのは怖いね。あの美少女っぷりはどこに行ったんだ」
ふー……、と息を吐く。キキもまた四つ足で姿勢を深く沈め、ギラギラと目を光らせる。
そして、剣戟が始まった。
「グルルァァアア!」
「シッ」
キキが伸ばした爪、その剛腕で俺に襲い掛かる。
それを、俺は鬼切丸で捌いた。鬼切丸から蘇る記憶が、俺に取るべき対処を教えてくれる。
キィンッ! と甲高い音を立てて、俺たちは交差した。「記憶サポート、助かるわホント」と俺は笑う。
「グルルルル……、カハァァアアア……」
俺によって狙いを外されたキキは、その腕で地面を大きく砕いていた。
俺はそれを見て、口笛を吹く。
「流石、鬼神って呼ばれるだけはあるな。とんでもないバカ力だ」
と、そこまで言って、俺は首を傾げた。
「アレ、バカ力なのは俺もか」
「キシャァァアアア!」
再び襲い来るキキ。俺はそれを受け流しながら、考える。
「む……このままキキをいなすだけでいいのか? 何かこう、刀の毒を上手くねじ伏せる術っつーか」
呟くと同時、刀から記憶が流れ込んでくる。「そうか」と俺は笑う。
「鬼切丸は、鬼すら斬る妖刀。真に斬るべきモノを意識して振るえば、それ以外を斬らずに振るえる」
ならば、と俺は峰打ちを止める。息を吐き、切っ先をキキに向ける。
キキは、俺の気配の変化をかぎ取って、動きを変えた。
岩壁をぶん殴る。そこから力を入れて、巨岩を引っこ抜く。
「……そんなんアリか?」
「ギシャァアアアア!」
巨岩に爪を立て、まるで何でもないことのように、巨岩を俺に向かって、キキは投げつけてくる。
マズいか、と思う。だが、やはり鬼切丸からは、かつての記憶が流れ込んでくる。この程度は余裕だ、と刀が訴えかけてくる。
それに俺は、引きつり笑いを浮かべて、前に一歩踏み出した。
「――――らァッ!」
一閃。巨岩が大太刀によって、真っ二つに割られる。それをして、俺は「マジか! 鬼切丸! お前やるなぁ!」と笑った。
だが、それでは終わらなかった。
「グルルァァアア、ギシャァアアア!」
キキは続々と岩肌を殴っては巨岩を掘り出し、俺に向けて投げまくる。俺は歯を食いしばって、次々に巨岩を一刀両断にし続けた。
「はははっ、ははははははっ! 俺何でこんなに動けてんだ! ヤバすぎるははははっ!」
巨岩が、まるで豆腐のように切れていく。これがこの鬼切丸の力だというのか。凄まじいにも程がある。
そう、油断しかけた瞬間だった。
「アレ、キキはどこ、だ―――っ!?」
最後に飛び来た巨岩を断つ。その直後、巨岩の背後からキキが俺に襲い来る。
「ぐっ、この……!」
「グゥァアアア! ガァァアアアアア!」
キキが鬼切丸に食らいつく。俺とキキとで、鬼切丸を通して押し合いになる。
単なる腕力ではやはり純粋な鬼のキキに敵わないのか、少しずつ俺の体が圧され始める。俺は強く刀を握り締め、踏ん張った。
「キキッ! 正気を取り戻せ! 殺したくないんだろ!? なら、堪えろ! 踏みとどまれ!」
「ぐ、ぎ、ガァァアア、がぁぁああ……!」
獣同然に強張ったキキの目から、涙が流れる。俺は歯を食いしばり、「そうだ!」と叫んだ。
「堪えろ! 俺がすぐに、すぐにお前を助けてやる!」
「ガァッ!」
弾かれるように、キキは俺から離れた。再び岩壁を殴り、巨岩を作り出す。
それを、二発。両腕の連続で俺に投げつける。俺はそれを素早く切り伏せる。
その、背後。巨岩の背後から―――俺の背後に回って、キキは俺に襲い来た。
「――――ッ」
辛うじて鬼切丸で防ぐ。だが、体勢を崩して、俺は転がった。
そこにキキが畳みかけてくる。爪を伸ばし、俺に飛び掛かる。
だから俺は、笑った。
「隙を見せて誘い込むってのは、いつの時代でも強力だな」
素早く立ち直った俺は、立ち上がりざまにキキを一閃した。
「か……!」
キキの体を、鬼切丸がすり抜ける。と同時に、キキの正気を蝕む毒が抜け、キキは俺の腕の中に倒れこんできた。
「うぉっと」
俺は慌てて、キキの体を受け止める。キキは俺に抱き留められながら、パチパチとまばたきをする。
「ふぇっ? えっ? わ、わらわ、斬られたのに、斬られておらぬ……? どっ、どういうことじゃっ? 童よ、何をしたっ?」
「鬼切丸……この刀には、望んだものだけを斬るって力があるんだよ。それで、キキの中の毒だけを斬った」
「そ、そう、か……それでわらわは、正気を取り戻し、無事で……」
キキは呆気にとられながら、自分の体をしみじみ眺めた。
それから、ハッとして俺を見る。
「だっ、大丈夫か童よ! ああっ、こんな、擦り傷を負っているではないか。すまぬ、わらわが、毒に抗えぬばかりに……」
ポロポロと涙をこぼして、俺の擦り傷にキキは手を添える。涙もろいな、と思いながら、俺は「演技で吹っ飛ばされたかすり傷だよ」と肩を竦めた。
「しかしっ! わ、わらわは、わらわを助けようとした童を傷つけて、これでは気が済ま」
「朔斗、な」
「は……?」
「だから、朔斗だよ。俺の名前。これから、長い付き合いになるんだろ?」
「え? いや、その、話の流れが、分からぬというか」
「えー? 何だよ、俺ちょっと期待してたのに」
「な、何に、じゃ……?」
困惑するキキに、俺は冗談交じりに言った。
「刀が抜けたら、キキのすべてをくれるんだろ? 力強い仲間になってくれるんじゃないかって、期待してたのにさ」
「は……」
キキが、呆気に取られて沈黙する。
そして、ぼっと赤面した。
「そ、そうか。そうじゃな。い、言うたな。うん。わらわ、言うたな。約定を、結んだな」
「はははっ、なんてな。冗談だって。でも、俺もちょっと困ってるから、力を―――」
俺がそう言うと、キキが俺にそっと抱き着いてくる。
「……あの、キキ?」
「千年に渡り封印され、妖気もすり減り体幼く、このままあと数年の命と諦めていたこの身。大した価値もないが、欲しいというならすべて捧げよう」
うっとりした目で、キキは俺を至近距離で見上げてくる。
「我が身を、主様の式としてくれ。何、難しいことはない。我が真名をこの口から知り、忘れないでいてくれればいい」
「え、えと、キキ? さっきのは冗談で―――」
何だかマズい気がして、落ち着かせようとした俺の言葉を遮って、キキは言った。
「我が名は
ひく、と俺は口端を引きつらせる。
この村の一年生で教わるような、超ビッグネーム。酒呑童子、金毛白面九尾に並ぶ、日本最強の鬼神。
大嶽丸―――そう真名を俺に知らしめたキキは、俺を抱きしめる腕を、愛おしそうにきゅっと力を込めて、こう続けた。
「未来永劫の忠誠を、朔斗、主様に捧げよう。どうか末永く、可愛がってくりゃれ♡」
……俺、
生贄に捧げられて数十分。鬼の王を、式神にしちゃったようです。