因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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 地を割り立つ鬼切丸に力を入れると、ビキキキキキッ! と闇室全体にひびが走った。一気に部屋全体が不安的になり、地震のようにガタガタと揺れる。

 

「なっ、朔斗、お前何を」

 

「昔、キキに教わったんだよ。人間は家を壊せないものだと思い込んでるが―――そんなことはないってよぉッ!」

 

 さらに力を籠める。俺の宿業の力が、テコの原理に乗っかって、破壊的な効果をもたらす。

 

 それすなわち、キキが、鬼が認めた剛腕の技。壊れえぬという幻想と共に、大規模に地形を破壊する技。

 

「名付けて、家砕き(やくだき)。――――ぶっ壊、れろォッ!」

 

 言葉と共に、渾身の力で俺は、鬼切丸を倒しきった。

 

 闇室が、崩壊する。

 

「ッ!?」「何だ!」「瓦礫が落ちて」「ぎゃぁっ!」

 

 ガラガラと天井が落ちてくる。地面の地盤がずれ込んだのか、揺れに乗じて足元が砕ける。イヌコが守っている雛見たち以外の従者たちが、落ちる瓦礫に押しつぶされる。

 

 だが、仕事はこれで終わりじゃない。

 

「……、……?」

 

 硬直の抜けたキキは、状況の大幅な変化に混乱していた。狙いに定めた天征の従者たちは、すでに壊滅状態。周囲には瓦礫が降り注ぎ、ダメージはなくとも翻弄される。

 

 そこを、俺は狙った。

 

 俺は鬼切丸を地面から抜き放ち、そのまま素早く駆け抜けた。一閃。キキの胴を斬った鬼切丸は、そのままキキの意識を奪う。肉体ではなく、キキの意識を斬ったのだ。

 

 そして俺は反転し、鬼切丸を肩に担いだ。天征は一瞬の内にすべてを失い、瞠目している。

 

「これで、お前は丸裸だぜ、天征。従者を失い、キキも気絶、大仰な仕掛けも失った」

 

「……、~~~っ!」

 

 天征が、よろめく足取りで後ずさる。歯を食いしばり、俺を睨みつけている。

 

 俺は、そんな姿に目を細め、唇を噛んで、天征を見た。

 

「天征……何でなんだ。何でいきなり、こんな風に襲い掛かってきた」

 

「……!」

 

 天征は、答えない。懐から札を取り出し、まだ一人でも抵抗の意思を見せている。

 

 だが俺は、諦めずに言葉を紡いだ。

 

「今日風呂場で、俺は嫡男を譲るって言っただろ。何でそれじゃダメなんだ。何だよ、血を流さなきゃならないって。誰が、そんなこと言ったんだ」

 

「っ……」

 

「教えてくれよ、天征! 俺の部屋に来る前、お前を殴ったのは誰だ! お前の意志を変えさせたのは! 俺とお前で、そいつを倒しに行くんじゃダメなのかよ!」

 

「―――――ッ」

 

 天征は、札を地面に放り投げた。それを素早く踏みつける。

 

 それを俺は、授業で習って知っていた。方位に根差した占術が転じて移動術に変わった、術士の移動手段。ほとんどの術士が使えないような、高位の術式。

 

「遁甲符か!」

 

 瞬間、天征の姿が消えた。だが、俺には気配で分かった。素早くキキの下に駆けると、俺の眼前に天征が現れる。

 

 だから俺は、天征の襟首を掴み、そのまま柔道の要領で地面に叩きつけた。

 

「がぁッ!」

 

「天征! お前もう分かってんだろ!? ここからお前の勝ち筋はねぇよ! 何でそんなに頑ななんだよ! せめてワケを話してくれよ!」

 

「……!」

 

 天征は、震える手で俺の腕を掴み、血走った目で俺を見上げていた。

 

 そこにあるのは、恐怖だった。俺を見ながら、俺でない何かを見つめて、天征は恐怖していた。

 

 俺は、ギリ、と歯ぎしりをする。風呂場で分かり合えた気がした天征が、今はこんなにも分からない。どんな理由があれば、こんなことをするのかと。

 

 俺は、それでも言葉を絞り出す。

 

「理由を聞くまで、放さないからな。お前は、もう俺の身内なんだ。敵だろうと、殺してなんかやらねぇぞ。分かったら、観念して――――」

 

 その時、ゾワリと背筋に怖気が走った。

 

『許サヌ……』

 

 気づけば、天征を拘束する俺の手に、ムカデが巻き付いていた。全長一メートルを超えるような、巨大なサイズのムカデが俺に巻き付き伸びあがっていた。

 

「はっ? うわっ!」

 

 思わず俺は、腕を振ってそのムカデを振り払っていた。ムカデは地面に投げ出され、蠢きのたうっている。

 

「なっ、何だ? いつの間に? 何だアレ」

 

 と、ハッとして俺は天征に視線を戻した。しかし天征にとっても予想外の出来ことだったのか、呆気に取られてムカデを見ている。

 

 いや―――それどころではなかった。

 

 天征は、顔を蒼白にして、ムカデを見つめていた。まるで半信半疑だった怪物が、実在していたことを知ったかのような顔で、ムカデを見つめていた。

 

 天征は、全身を震わせて、ポツリと呟く。

 

「蠱毒……」

 

「……何だよ。天征、あのムカデのこと、知ってるのか? 蠱毒って、授業でも習う虫の術」

 

『許サヌ……』

 

 また先ほどの声が聞こえて、俺は口を閉ざした。声の元を見ると、先ほどのムカデが蠢いている。

 

『血ヲ流サヌ、命ヲ費ヤサヌ嫡男争イナド、許サヌ……。我ラガ呪イヲ、力ヲ継ゲ……。御陵宮ニ、相応シキ嫡男ヲ……』

 

 それでやっと、俺はムカデが呻いているのだと理解した。事態の異様さに、俺は動けなくなる。

 

 ムカデは、キチキチと音を立ててゆっくりと部屋を睥睨した。それから、倒れているキキに目を付け、うぞりと身じろぎをして呟く。

 

『大嶽丸カ……。チョウドイイ……』

 

「ッ! 待」

 

 俺が制止するよりも早く、ムカデは気絶したキキの小さく開いた口から、キキの中に侵入した。俺は絶句し、少し離れた場所で、雛見が「ひっ」と息を飲む。

 

 直後、キキが立ち上がった。

 

 ひどく、不自然な立ち上がり方だった。まるで倒れる映像を逆再生にしたかのような、全身をピンと張った状態で、足だけを起点に起き上がる。

 

 虚ろな目が開く。かと思った途端、キキの両目がギョロリと両方独自に蠢いた。両まぶたを閉ざし、そして開く。

 

 そこにあったのは、ギラギラとした、ひどく好戦的な目だった。

 

「おぉ、おぉ……! 何と目に良い有り様じゃ。御陵宮が、一、二、三……、はは、大勢死んでおるわ!」

 

 ゲラゲラとキキが笑いだす。その異様な様子に、俺たちは全員固唾を飲んで見守るしかない。

 

 いつもと、丸きり雰囲気が違っていた。普段のキキは、こんな攻撃的な笑い方はしなかったはずだった。

 

 思い出すのは、鵺。在野で人を食らう、術士を歯牙にもかけない大妖怪のような、そんな。

 

 そうしていると、キキがついに俺たちを見つけた。

 

「おお、何じゃ。まだ生き残りがいるではないか。しかも、まだ童ではあるが―――ひひ、宗家筋も揃うておるわ」

 

 べろり、とキキが舌なめずりをする。

 

「ならば五人、骨までしゃぶり尽くしてやらんとのう」

 

 直後、俺の足元にいた天征が、キキに蹴飛ばされ、壁に叩きつけられていた。

 

「ガハ……ッ」

 

 バリィッ、と電気がキキの周囲に走る。そのいくつかが激しい電撃となり、瓦礫の下の従者たちにトドメを刺す。天征が壁から剥がれ、ドサッと地面に落ちる。

 

 天征が懐に秘めていた札が、俺の周りで舞う。その内の一つをキキが掴み、俺を覗き込む。

 

「にしても、ふむ。お主は男前よのう。御陵宮というのか業腹じゃが……気に入った。殺して鬼にし、我が伴侶としてやろう!」

 

 ニィイイ、と口端を限界まで吊り上げさせ、恐ろしくキキは笑う。

 

 それから、キキは掴む札を見て「遁甲符か、悪くない」と呟く。

 

 キキが札を放る。それから足を上げ、強く踏みつける。

 

 すると五芒星の描かれた陣が、光と共に床全面に広がった。

 

「暴れるには、ちとこの場は狭苦しい。場を変えるぞ―――水静村、紙詩高原」

 

 景色が、一変する。

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