因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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殺虫会議

 天征の口からすべてを聞いた俺は、絶句してしばらく何も言えなかった。

 

 同時に、すべてがつながったように感じていた。天征が俺に挑む理由も、キキがああして暴れる理由も、あのムカデの正体も。

 

 天征は言う。

 

「キキが暴れてるのは、宗家を蝕む蟲が、そうしてるからだ。朔斗はオレに、二回勝った。その一回目。あの闇室の勝利で、オレを生かそうとしたから、蟲が這い出てきたんだ」

 

 蠱毒だというのに、食われる()がいないなど許さない。

 

 血を流せ、命を費やせ。そんな宗家の死者たちの呪いが、今キキに宿っているのだと。

 

「分かるだろ……? オレがお前、どっちかが死ぬまで、キキは正気を取り戻さない。……これしか、解決の方法はないんだ」

 

 乾いた唇で、天征は言う。震える手で、鬼切丸の刀身に触れる。

 

「もう、いい。二度も負けたんだ。決心は、ついた。……朔斗、お前が嫡男だ」

 

 天征は、俺を見る。諦めたような笑みで。

 

 俺は、唸るように言う。

 

「……何で、だよ。何で、諦めたようなこと言うんだよ……! ―――じゃあ、何でお前はあんなに必死に戦ったんだ! お前だって生きたかったんじゃないのか、天征!」

 

「生きたかったに、決まってるだろ!!!」

 

 俺が問いをぶつけると、天征は叫び返してくる。

 

 それから顔をくしゃりと歪めて、「生きたかったさ、オレだって……!」と涙をこぼす。

 

「だから、戦ったんだ。必死に。でも、同じくらい、朔斗を殺したくなかった……! 殺すつもりで戦っても、殺す覚悟は決まらなかった……」

 

 天征の顔から、力が抜ける。また、柔らかな笑みを宿す。

 

「だから、もう良いんだ。諦めが、ついた。劣ったオレが死ぬ。それが、正しいんだ」

 

「天征が死ぬのが正解だなんて、俺は認めねぇぞ! 俺は、身内を誰も死なせない! お前もその一人なんだぞ、天征!」

 

 脳裏に、前世のトラウマがよぎる。家族の死。あんな胸糞の悪い思いは、もう二度としたくない。

 

 しかし、天征は言うのだ。

 

「じゃあ、どうするんだよ。見たろ、キキ。オレの施した儀式以上に、蟲で強くなってる」

 

 俺たちの視線が、揃って横に向く。少し離れた場所で、一方的に攻撃しているはずの雛見相手に、キキは高笑いを上げて雷を操っている。

 

「腕が斬り飛ばされても、一瞬で再生してた。殺そうとしても殺せない。遥か格上の今のキキを、朔斗は無傷で倒せるのかよ」

 

「……それは」

 

 俺は、歯噛みする。

 

 今のキキは、すさまじい。もしここにいたのが普通の術士なら、とっくに全滅。俺たちでも、一歩間違えれば何人か死んでいてもおかしくなかった。

 

「……でも」

 

 現実的に考えるなら、手立てはない。見つからない。

 

「だけど……!」

 

 それでも俺は、歯を食いしばって、天征の両肩を掴んで訴える。

 

「それでも! それでも俺は、諦めたくない! 誰のことも、諦めたくないんだよ! お前のことも、キキのことも! 他のみんなのことも、全員!」

 

「―――ワガママばっかり言ってんじゃねぇよ! 手がないんなら、諦めるしかないんだよ! それは、朔斗が選ばなきゃならないんだよ! 嫡男になった、朔斗が!」

 

 天征は吠える。俺の顔をがっしりと掴んで、言う。

 

「オレとキキを天秤に掛けろ! 朔斗にとって大切なのは、キキだろ!? それを間違えるな! お前は、嫡男なんだから!」

 

「嫌だ! 手がないんなら、探す! 見つけ出す! 俺は、お前のことも諦めない!」

 

「だから!」

 

 その時だった。

 

「手はございます、朔斗様、天征様」

 

「「っ!?」」

 

 俺たちは同時に振り返る。そこには、吹雪の中に暁子を連れ、宵子が立っていた。

 

「宵子……? 今、何て」

 

「手はございます、朔斗様。キキ様を蟲から解放し、全員で生還する術は、ございます」

 

「―――本当かッ」

 

 俺は天征の上から立ち上がり、宵子に近づく。宵子は寒さに体を震わせながら、俺の手に触れた。

 

「はい、本当にございます。もちろん、困難な策ではございますが……それでもよければ、献策いたしましょう」

 

 噛みつくのは、天征だ。

 

「嘘を吐くなッ! アレは、宗家を蝕む蠱毒だぞ! 一体どれだけの恨み辛みの怨念だと思ってる!」

 

「怨念を踏み倒し、神すら飼い慣らすが御陵宮でございます。あの蟲すら、元は宗家が飼い慣らしていたもの。用済みならば、〆てしまえばよいのです」

 

「っ……!」

 

 宵子に言い返され、天征は言葉を失う。

 

 俺は、宵子に尋ねた。

 

「何をすればいい」

 

「朔斗様は、キキ様の腕の入れ墨を、ご覧になりましたね?」

 

「ああ、見た」

 

 俺が頷くと、宵子は説明を始めた。

 

「キキ様は現在、大嶽丸として振る舞っておられますが、その実力は全盛期に遠く及びません。再生能力も同様。あの程度では本来、あの規模の再生は不可能なのです」

 

「はっ? でも、キキは再生したぞ。どういう事なんだ」

 

「蟲、特にムカデは生命力に優れます。代々御陵宮の宗家の怨念の結晶ともなれば、不死性にもなりましょう」

 

 しかし、と宵子は言った。

 

「決して無制限ではありません。いかに足の多いムカデとて、すべての足が折られれば、その力も潰えるはず。事実、キキ様の腕に、ムカデの入れ墨はありました」

 

「……じゃあ、つまり」

 

 俺は、恐ろしい考えに至り、口を閉ざす。

 

 だが宵子は、ハッキリと口にした。

 

「考えられている通りです。キキ様の四肢を、同時にすべて落とす。そうすることで蟲は足のすべてを失い、堪らず外に這い出るはずでございます」

 

「……!」

 

 俺は、絶句する。作戦の難易度もそうだが、達成目標がむごすぎる。

 

 そこに、天征は問いかけた。

 

「四肢をすべて落として、蟲が這い出たとして、キキはどうなる。正気に戻っても両手両足なしじゃあダメだろ」

 

「ご安心を。そこは鬼の王でございますので、天征様が浴で注入した力の分で、ちょうど四肢程度は戻るはずでございます」

 

「大前提、確証がない。四肢を落として、キキの中から蠱が出てこなかったらどうする」

 

「いえ、確証はございます。祭神様は、『これでよい』と仰せになりました」

 

「……そうか。祭神様にお伺いを立ててるなら、いい」

 

 俺は、天征を見る。天征はそっぽを向いているが、天征なりにキキを案じてくれたらしい。

 

 一呼吸入れる。みんなを見ると、全員が俺を見つめていた。決定権は、俺にある、と言いたいのだろう。

 

 俺は、口を開く。

 

「俺は、死が嫌いだ。自分も死にたくないし、みんなも死なせたくない」

 

 天征を見る。天征は俺と目が合って、僅かに目を伏せる。

 

「それは、天征、お前も同じだ。お前は、俺のたった一人の兄弟なんだ。このまま、むざむざ死なせるつもりはない」

 

「……」

 

「もちろん、キキもだ。キキは俺の大切な式神。だから―――」

 

 俺は、みんなに宣言する。

 

「全員で、蟲を殺すぞ。宗家の呪いに、終止符を打ってやる」

 

 俺が言うと、宵子は満足げに頷き、天征はむず痒そうに頭を掻き、かごめかごめで雛見を補佐し続ける暁子は「それでこそ朔斗様~っ!」と言葉だけで賑やかす。

 

「朔斗様。雛見様への連絡は、ワタシどもの言の葉飛ばしにお任せください。献策ですが、どのような方針にいたしましょう」

 

「俺と天征がキキの正面を抑える。雛見は暁子のかごめで隠してイヌコで移動しつつの移動砲台を継続。宵子は周辺情報を集めつつ指揮にあたってくれ」

 

「概ね承知いたしました。ですが一点、朔斗様のお耳に入れたいことが」

 

「何だ?」

 

 宵子は、真顔でこう言った。

 

「ワタシたち御使いの術、『遊戯舞』には、詠唱が完了した際、無条件で対象の体の一部を奪う、というものがございます」

 

「! それは」

 

 俺は目を剥く。宵子は、真剣な目で言った。

 

「名を、『花いちもんめ』。遊戯舞でも詠唱がもっとも長く、しかし高い致死性を持ちます」

 

 宵子は目を伏せる。

 

「同時にキキ様の四肢を奪うのは、至難を極めるでしょう。どうか選択肢の一つに、お添えください」

 

 そんな無法な技があったとは。しかし、それくらいないと、今のキキには勝てまい。

 

「分かった。それも込みで作戦を立ててくれ」

 

「承知いたしました。では再び、暁子と共に潜伏いたします」

 

 宵子が暁子の手を取って、吹雪の中に消えて行く。

 

 二人を見送った俺を、天征はバツが悪そうに睨んで、文句を垂れた。

 

「勝手に全部決めやがって」

 

「当然だろ? お前が言ったんだぞ、天征。『お前は嫡男なんだからお前が決めろ』ってな」

 

「……あ゛ー! クソッ! 分かったよ、負けた弱みだ! お前に従ってやるよ!」

 

 だから、と天征は、俺に拳を差し出してくる。

 

「生きて帰るぞ、朔斗」

 

「……ああ! みんなで、生還だ!」

 

 俺は笑顔で答え、天征と拳をぶつけ合う。

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