因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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百足の足斬り

 俺たちが向かった時、キキは落雷を落とすのをやめ、静かに雪積もる岩の上に腰掛けていた。

 

 場は大荒れ。土はめくれて散らばり、残った雪も汚れて点在するばかり。さきほどまで処女雪で覆われていたと言われても、信じられない有り様だ。

 

 だが、そんな荒れた地面の上にも、吹雪は薄く雪で覆い始めている。

 

 キキは、ゆったりとした雰囲気で言った。

 

「待っておったよ。わらわを倒すために、皆で結託しようというのじゃろう? 愛い企みじゃ。これを邪魔立てしては、興ざめというもの」

 

 キキの視線が、俺たちを捉える。残酷な微笑みが、その顔に満ちる。

 

「御陵宮とは、我ら妖怪にとっては不倶戴天の敵」

 

 ひょい、とキキは立ち上がる。袖を払うと、もうもうと黒雲が立ち上る。

 

「あらゆる手を使い、身内の命すら軽々に消費して、わらわを含む多くの大妖怪の首を落として回った。呪わしき、悍ましき、陰陽師ども」

 

 キキは漆黒の刀、大通連を振るい、(かざ)す。

 

「いかに本調子でないと言えど、童どもだけでわらわを翻弄するとは、末恐ろしい奴らじゃ。故に――――わらわ手ずから、撫で斬りにしてやらんとな?」

 

 バチィッ! と黒雷が爆ぜる。俺は深呼吸して、傍に立つ天征に言った。

 

「よし、やるぞ。作戦通りな」

 

「分かってるっつの、朔斗。兄貴だからって兄貴面してんなよ」

 

「兄貴なんだから兄貴面してもいいだろ」

 

「は? 認めてないが?」

 

 言い合いながら、俺は鬼切丸を構え、天征は札を手にした。

 

 膠着。睨み合い。

 

 お互いタイミングをはかり合っている。不用意に飛び出せば、考えなしに動けば、負けるのは自分だと悟っているのだ。

 

 俺は、長く呼吸を吸う。キキの目を見る。キキは俺を見、天征を見、再び俺を見た。

 

 目が合う。僅かに、お互いに体勢を前傾させる。

 

 それが、予兆だった。

 

 完全に同時に、俺とキキは飛び出した。地面が弾ける。俺とキキが激突―――しなかった。

 

 キキは真っ先に、天征に迫る。

 

「ハハハハッ! そなたとぶつかれば、いい勝負になってしまうからのう! 先に他の童から引き裂いてくれるわ!」

 

「―――ッ! 天征!」

 

「分かってる!」

 

 天征は冷や汗を掻きながら、札を構える。そして言うのだ。

 

「ったく、()()()()とはいえ、スリル満点ってなァ!」

 

 天征が遁甲符を投げ、キキとの激突寸前で踏む。

 

 直後、俺と天征は入れ替わった。キキは目を剥き、俺はキキに鬼切丸を振り下ろす。

 

「おいおい! 俺をほっぽって天征に行くなんて、傷つくぜ、キキ!」

 

「ッ! くははははははっ! 本当に油断ならぬ童どもよ!」

 

 キキが俺の大太刀を受ける。鍔迫り合い。約定の効果で、今の俺はキキにも勝る力を持つ。

 

 だから、至近距離戦となると、状況は俺の優勢に傾く。キキの刀からは雷が不定期に弾けるが、今の俺の肉体にとっては、斬られたり刀を通して直接流されない限りは意味がない!

 

「ぐっ、本当に、厄介な童よ……! 鬼にする前に、惚れてしまいそうじゃ……!」

 

「俺はキキがこんなに強かったんだって知って、惚れ直しそう、だッ!」

 

「ぐっ!」

 

 キキの刀を押しのけ、蹴りを放つ。キキは防御しつつも吹っ飛び、雪と土をまき散らして着地する。

 

 そこで俺は、冷静に告げるのだ。

 

「今だ、雛見」

 

「五華崩界」

 

 中空。キキの頭上斜め上から、イヌコに乗った雛見が、純白の光線を放つ。

 

「ッ! 舐めるなァッ! 薙ぎ払え、黒雷!」

 

 キキが大通連を振るうと、雛見の五華崩界に対抗するように、赤黒い雷が幾重にも走った。

 

 威力は拮抗。撃ち合った二つの奥義は相殺しあい、消失する。しかし雛見はすぐに暁子のかごめかごめに隠されて消え、キキは舌打ちした。

 

「だが、この程度ではわらわは殺せぬぞ! 今の隙に攻め込んでこなくてよかったの、か……?」

 

 キキが強がりを言う途中で、俺たちの様子に気付き、戸惑いを示す。

 

 何故か。

 

 それは、天征の目の前に、五行連鎖が作り出されていたからだ。

 

「我が求めに応じ奥義を成せ」

 

「キキ、お前の言う通りだよ。隙を作ったからには、そこにつけ込むのが定石だ」

 

 俺は鬼切丸を肩に担ぎ、にっと笑う。

 

「ここまでは遊びだよ。天征、ぶちかませ」

 

「円環五行連鎖:濁河奔流」

 

 天征の手元から、五行のすべてを含んだ濁流が、キキに向かって殺到する。

 

「―――――ッ!」

 

 至近距離からの濁河奔流には、さしものキキも対応できずに飲み込まれた。狙い通りだ。

 

 濁河奔流は、雛見の五華崩界に比べると、威力は見劣りする。だが十分な攻撃力があるし、何より飲み込まれた場合のスタン効果が高い。

 

 そう。俺たちが欲しかったのは、時間だ。キキと対面しながら得られる、時間。

 

「全員! 第一フェーズ完了だ! 第二フェーズに移るぞ!」

 

 俺は叫ぶ。すると「おう!」「かしこまりました!」と方々から声が返ってくる。

 

 直後この場に、歌が響いた。

 

 ―――勝ってうれしい、花いちもんめ―――

 ―――負けてくやしい、花いちもんめ―――

 

 始まった。歌い終わりに問答無用で敵の肉体を奪う、遊戯舞の奥の手。『花いちもんめ』。

 

 強力な技だ。確実にキキの四肢を一つ奪うことができる。これの歌い終わりに向けて、俺たちは動き出す必要がある。

 

 だが、花いちもんめにも、弱点があった。それは、他の遊戯舞と同時に使えないこと。

 

 雛見のかごめの守りが、解かれる。

 

「雛見! なるべく俺たちの後ろ側に回れ! キキは強い! いつ濁河奔流を破ってくるか分からな―――」

 

 それは、俺が言い終わるよりも、前に起こった。

 

(つんざ)け、大通連」

 

 濁河奔流が、黒雷の嵐に吹き飛ばされ、蒸発する。

 

「はっ!?」

 

「じゃから言っておろう。全盛に比べればどれだけ衰えようとも、わらわは鬼の王」

 

 キキが、僅かにしゃがみ、脚を溜める。居合のように、大通連を腰だめに構える。

 

「舐めるなよ、餓鬼ども」

 

 一閃。

 

 電撃が俺、天征、キキの全員を焼き払う。

 

「――――ッ!」

 

 ギリギリで対応できたのは、俺だけだった。鬼切丸で、黒雷を切り伏せる。

 

 だが、天征は札の防御を貫通した黒雷に焼かれ、絶叫と共に崩れ落ちた。雛見はイヌコと一緒に焼かれ、イヌコから落ちて雪上に沈む。

 

「っ、クソ、クソっ!」

 

 俺は鬼切丸を構えながら、毒づくしかない。

 

 強すぎる。五華崩界に次ぐ濁河奔流でスタンをとっても、一発で全部ひっくり返された。

 

 しかし、と思う。

 

「く、そぉ……、体が、まともにうごか、な……」

 

 天征の様子を見る。死んではいない。痺れて痙攣こそしているものの、目の闘志は死んでいない。

 

「お兄、様……! お兄様は、無事、ですか……?」

 

「きゅ、ん……」

 

 雛見、イヌコも同様だった。破れかぶれの一閃だったから、どうにか耐えられたのか。あるいは、丈夫なイヌコが雛見の盾になってくれたか。

 

 ともかく、まだ希望はあった。だから―――

 

「この希望を、俺が守り抜かなきゃならない」

 

 キキが歩き出す。その正面に、俺が立ち塞がる。

 

 ―――祭神様よちょっと来ておくれ―――

 ―――姉が邪魔して行かれない―――

 

「……不快なわらべ歌が聞こえるのう。それに、うっすらと神の気配がする。御陵宮の祭神か? 歌と舞いによる儀式術か。小賢しい」

 

 体に付着する泥を小さな電撃で蒸発させながら、キキは呟く。

 

「となれば、御使いじゃろうな。連中もよう御陵宮に尽くすものじゃ。となれば、引き裂くべきは四人。御陵宮の男児女児が一人ずつ。そして御使い二人」

 

 キキが、刀を掲げる。すると森の方に、無作為な落雷が落ちた。

 

 詠唱が止まる。キキが、意地悪く笑う。

 

「はははっ、当たるかどうかは八卦も良いところじゃが、十分な邪魔にはなるじゃろうて。本格的に潰すのは、目の前の障害を乗り越えた後」

 

 キキが、刀を構える。

 

「まずは落とした二匹の童のトドメ刺しと行こう。守り切れるか? 童よ」

 

 次の瞬間、キキの姿がブレ、消えた。

 

「ッ」

 

 だが、俺の目は確実に動きを捉えていた。キキは目にもとまらぬ速度で俺の横を駆け抜けようとする。

 

 だから俺は、地摺りで捕らえた。

 

「むッ?」

 

「オラァァアアアアッ!」

 

 キキを迎え撃つように鬼切丸を振るう。地摺りは鬼切丸のリーチを地面に隠す。だから情報量の多い混戦中ほど引っかかる。

 

 キキは刀でそれを受けるも、俺の一閃に耐えかね、ギィイイイン! と重い金属音と共に跳ね返された。そこに、俺は前進。距離を詰める。

 

「ふはっ、本当に見どころしかない男子(おのこ)じゃのう! だが、わらわにも矜持というものがある」

 

 キキは大通連を地面に突き刺し着地。直後、バチバチと雷を放ちだす。

 

「小手先の術でも、負けはせぬよ」

 

 雪が、雷によって蒸発する。爆発的に、その場に霧が満ちた。

 

「ッ」

 

「また後でゆっくりと相手をしてやるから、いい子に待っておれ!」

 

 霧に乗じて、キキが俺の真横を通り過ぎた。俺は一拍遅れて反転し、キキの後を追う。

 

 向かう先は雛見。雛見を真っ先に落とすべき対象と見定めたか。

 

 ―――お布団かぶってちょっと来ておくれ―――

 ―――お布団ぼろぼろ行かれない―――

 

 双子は体勢を立て直したのか。歌を聞きながら、俺は思考を加速させる。

 

 キキの背中は眼前に、しかし鬼切丸でも届かない距離にある。無用に振れば距離が開くばかり。狙うとしてもタイミングを見計らう必要がある。

 

 空裂きならば届くだろうが、せっかく知られないでいる技なのだ。ここではまだ隠しておきたい。来たるトドメ刺しに備えて。

 

 ならば、どうする。俺は必死にキキを追いながら考える。ここで取るべきは――――

 

「んなもん、決まってんだろ」

 

 気づけば俺の足元に這いずって、『隠形』と書かれた札を額に張り付けた天征が、俺の足元に遁甲符を投げ出す。

 

「オレを頼れよ、朔斗」

 

「天征!」

 

 札を踏む。俺の視界が切り替わる。雛見と入れ替わった俺に、キキが目を剥いて走りくる。

 

「な―――本当に抜け目ない術士じゃな、御陵宮ぁッ」

 

 激突。助走の分威力の増した一振りを受け止め、俺は強い衝撃に地面を踏みしめる。

 

 だがキキは、俺とのつばぜり合いが美味くないと学んだか、すぐに距離を取った。しかし俺は、それを許さず前に出る。

 

「キキッ! いい加減正気に戻れ!」

 

「くっ、本当に、厄介な、者どもよッ!」

 

 剣戟を交わす。鋭い金属音が、寒空を裂く。吹雪よりも激しく得物を交わし、俺たちは刀で逢瀬を深めていく。

 

 ―――お釜かぶってちょっと来ておくれ―――

 ―――お釜底抜け行かれない―――

 

「っ、これでどうじゃ!」

 

「二度同じ技は効かないって、言わなかったか!」

 

 キキの黒雷が吹雪を蒸発させるが、来ると分かっている霧に、今更俺が惑うわけない。俺はさらにさらに前に出て、キキに切り込んでいく。

 

 ―――鉄砲かついでちょっと来ておくれ―――

 ―――鉄砲あるけど弾がない―――

 

 キキの邪魔がなくなったからか、双子の詠唱が加速する。俺はただ鬼切丸を振るい続ける。

 

 天征が自身と雛見を札で回復させたのが、気配で分かった。あとはこのまま、詠唱完了までキキを引き付けるだけ―――

 

 そう思った時、不意にキキが、防御を緩めた。

 

 鬼切丸がキキの腕を斬り飛ばす。俺は僅かに動揺するが、二度目ともなれば動けなくなったりはしない。

 

 だが今回は、事情が違った。

 

「は?」

 

 キキの腕の断面。そこから、ムカデが顔を出す。

 

 その光景から作られた、俺の衝撃、意識の間隙。

 

 それを、キキは、蟲は、巧みに突いた。

 

「キシャー!」

 

 蟲が俺の体に巻き付く。キキがそれを見て、ニヤリと笑う。

 

「童、褒めてやろう。黒雷が届かぬほどの固い防御を。褒美に、わらわの腕をくれてやる」

 

 直後、蟲を伝って電流が俺に流れた。

 

「がぁぁああああああああああっ、あぁぁあああああああ!」

 

「もっとも、腕はすぐに再生するのじゃがな」

 

 俺は全身を黒雷に焼かれ、その場に崩れ落ちる。キキが再生した腕で大通連を大きく振りかぶり、俺に近づく。

 

「うむ、黒雷で少し見てくれは悪くなったが、それ以外はキレイなものよ。あとは一刀で、首を落としてやるからな」

 

 そしてキキは、刀を。

 

「円環五行連鎖:五華崩界」

「円環五行連鎖:濁河奔流」

 

「っ!? チッ」

 

 雛見と天征。二人の円環五行連鎖が、キキに向かって爆ぜた。キキはすかさず跳んで避け、すぐにイヌコが跳んできて、俺を回収して二人の下に立ち戻る。

 

「大丈夫ですかっ、お兄様!」

 

「呼吸はある! 意識も、多分! 待ってろ、すぐに治す!」

 

 天征が俺に治療符を張り、そこに雛見が霊力を流しこんだ。膨大な霊力で一気に治癒され、俺は「っはぁ!」と息を吹き返す。

 

「助かった! 流石にアレは、自然治癒じゃ双子の術に間に合いそうになかったからな」

 

「あっ、お兄様、結構余裕ございましたか……?」

 

「朔斗ホント、体の丈夫さイカレてんな」

 

「それより、キキは! 双子の詠唱はそろそろ終わるぞ!」

 

 俺が鋭く言うと、二人の視線が一方を指し示した。その先では、キキが俺たちに背を向け、どんどんと遠ざかっていく。

 

 今更、キキが逃げ出す? それに、俺は深い疑問を抱いた。キキの向かう先は森。なら。

 

 俺は、叫ぶ。

 

「キキ、双子を潰しに行ったんだ! 追いかけるぞ! みんな!」

 

「っ」「マジかよ」

 

「イヌコ! 乗せてくれ!」

 

 イヌコが屈む。俺たちは一斉に飛び乗り、すかさずイヌコは駆けだした。

 

「ふはははっ! 気づいたか童らよ! 御使いをそろそろ潰しておこうと思うてな!」

 

 駆ける先で、キキが笑う。俺は歯噛みして、雛見に問う。

 

「双子はどこに隠れてるか分かるか?」

 

「細かい場所は分かりませんが、森にあるのは確かです! キキ様も、戦闘の途中で二人を捕捉したのかと!」

 

「チッ、抜け目ない敵だぜ、連中は!」

 

 天征が歯噛みする。俺は鬼切丸を握り締め、正面のキキを見据える。俺たちは全員で森に突入する。

 

 ―――あの子が欲しい―――

 ―――あの子じゃわからん―――

 

 森の木々が、俺たちの前から後ろに抜けていく。双子の詠唱が、佳境に入る。もはや一刻の猶予もない。

 

「全員! 双子を守りつつ、一気に片を付けるぞ! 準備しとけ!」

 

 ―――この子が欲しい―――

 ―――この子じゃわからん―――

 

「はい! お任せください、お兄様!」

 

「分かってらぁ! お前こそ気張れよ、朔斗!」

 

 ―――相談しよう―――

 ―――そうしよう―――

 

 森の闇。視界の先に、双子の姿が現れる。少し開けた場所で、汗をかきながら舞を踊っている。

 

「見つけたぞッ、御使い! 何を企んでいたのか知らぬが、これで仕舞よ!」

 

「全員、行くぞ! 天征!」

 

「おう!」

 

 天征が遁甲符を踏み、俺と天征が双子の前に移動する。キキの大通連を俺が受け止め、走る電撃を天征が即席の結界で二人を守る。

 

 ―――大嶽丸の右腕が欲しい―――

 ―――大嶽丸の左腕が欲しい―――

 

 双子が向かい合う。袖をまくり、生白い腕をのぞかせる。

 

 そして、『花いちもんめ』が炸裂した。

 

 ―――最初はグー、じゃんけんぽんっ―――

 

 暁子が、ジャンケンで宵子に勝つ。

 

 直後、暁子が望んだ左腕が、キキの腕から落ちた。

 

「な」

 

「ここだッ! みんな、かかれ!」

 

 俺が叫ぶ。同時に、俺の横を天征が駆け抜ける。

 

 天征が拾ったのは、腕を失ったキキが取りこぼした、大通連だった。

 

「オレには速攻の火力がないんでね。借りるぜ、キキ」

 

 一閃。キキの右足が斬り飛ばされる。キキは目を剥いて、地面の上でくるりと回る。

 

 まったく同時、雛見が言った。

 

「キキ様、またお兄様を取り合いましょう? ですから、正気に戻ってください―――五華崩界」

 

 純白の光線が、キキの右腕を消し飛ばす。キキはワケも分からないまま、四肢から血を流し倒れようとする。

 

 そこで、俺は鬼切丸を振るった。

 

「そうだぞ、キキ。みんな、お前を待ってるんだ」

 

 空裂き。鬼切丸が割った空間のヒビがキキに届き、空間ごとキキの左足が切り離される。

 

 ついに、キキの四肢がすべて落ちる。直後キキの口から、もんどりうって蟲が飛び出した。

 

「だから―――ッ」

 

 俺は、飛び出す。蟲は破れかぶれに、俺に襲い掛かってくる。

 

「帰ってこい、大嶽丸! お前は俺の、式だろうが!」

 

 蟲にすれ違いざま、一閃。

 

 直後、蟲の断面から、瘴気が吹き出した。

 

『ギシャァァアアアアアアアアアアギャァアアアアアアアアアア!』

 

 無数の人間の断末魔が混ざり合って、蠱毒の叫びと共に噴出する。怨嗟が真っ黒な煙に、瘴気になって空気に散っていく。

 

『許さぬ! 許さぬ! 嫡男争いで誰も死なぬなど! そんなものが御陵宮であるものか! 高潔にして孤高たる、御陵宮宗家であるものか!』

 

 鮮明な声が、嘆きが聞こえてくる。蟲は胴体を二つに分かたれてなお、呪いを振りまき雪の上にのたうった。

 

 だから俺は、その頭に鬼切丸を突き刺す。

 

『ぎゃぁあああっ!』

 

「うるせー怨霊だな。知ってるか? 御陵宮ってよ、お前みたいなクソの怨霊とか、妖怪とか、そういうのの駆除で稼いでんだぜ。ミイラ取りがミイラ取りになってんなよ」

 

『ゆる、さぬ……! ゆる、さ……?』

 

 そこで、蟲は何かに気付いて、言葉を止めた。俺たちが振り返ると、そこには怒り心頭の、しかし五体満足で、両手両足の袖ばかり失ったキキが立っていた。

 

「……細かい事情も、記憶も、全部残っておる。こやつが下手人じゃな」

 

「~~~っ、ははっ! ああ、そうだ。怒りの丈、全部ぶつけてやれ!」

 

 俺は滲む涙を拭って、満面の笑みで頷いた。

 

 キキは、刀を掲げる。力を失っても、大通連だけは残ったらしい。漆黒の刀に、バチバチと雷が走り出す。よく見たらその後ろで天征が雪に沈められている。

 

『キシャ……ま、まて、待ってくれ――――』

 

「待つか戯けが! 貴様のようなのが幅を利かせておるから! 御陵宮はクソなんじゃぁあああああ!」

 

 キキが刀を振るう。雷が落ちる。蟲は完全に炭化して、見る見る内に朽ち果てた。

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