因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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鬼面の五人を見つけ出せ

 朝、俺は「うわぁぁあああっ!?」という絶叫と共に起き上がった。

 

 それから、急いで体を触って確かめる。何も異常はない。

 

 それから、荒い息を吐きながら周囲を見回した。変わらない俺の部屋。晴れやかな朝日。俺は何度かまばたきして、ほっと息を吐いた。

 

「何だ、夢か……。そうだよな。霊力ゼロって判明して、即鬼神の生贄にされて、そのまま流れで鬼神を式神にする、なんてそんなこと起こるワケ」

 

「あっ♡ 主様、おはようなのじゃ♡ 良き目覚めは迎えられたかの?」

 

「うぉぉおわぁぁあああ!?」

 

 突如目の前に現れたキキに、俺はもんどりうって転がった。そんな俺の様子を見て、キキがキョトンとする。

 

「主様? 何ぞ悪い夢でも見たかや?」

 

「い、いや、夢っていうか、夢じゃなかったって言うか」

 

「? よう分からぬが、今日も愛い主様じゃ♡」

 

 キキはとろけるような笑みを浮かべて、俺の頭をよしよしと撫でる。うーん全肯定キキ。

 

 だが、事態はこれでは終わらない。

 

「……まずい。考えもなく、普通に帰ってきてしまった」

 

 頭を抱える。それから、昨日あの後、何があったのかを思い出す。

 

 昨日は戦闘直後に全身筋肉痛が起きて、もう限界過ぎてそのまま家に帰って寝てしまったのだ。

 

 が、冷静に考えて、その選択肢は非常にマズイ。考えるに最悪に近い。

 

 冷や汗をかいていると、キキが「主様? 何か悩みでもあるのか?」と問いかけてくる。

 

 俺は呻いた。

 

「いや、考えなしに家帰ってきちゃったけど、詰んでないか、これ……? 霊力ゼロの奴が生贄に出されて、鬼神従えて帰ってきましたとか、信じてもらえるわけ……」

 

 確実に討伐対象だ。大人たちがこぞって俺を殺しに来るに違いない。

 

 そうと決まれば、俺は立ち上がり、必要なものを取り出していく。

 

「ええと、何が必要だ? スマホと充電器。服数着とそれを入れるバッグ。あとは、ええと」

 

 俺が大慌てでいると、キキは「なるほど、あい分かった。じゃが一度落ち着くのじゃ」と、優しく俺の肩を掴んで、布団の上に座らせた。

 

「……あ、あの。キキさん。落ち着いてる場合じゃないと思うんですけど」

 

「そう急かずとも良い。本当にまずいなら、わらわが主様を背負ってわざわざ御陵宮まで送らぬよ」

 

 アレ? 俺って昨日、キキに家に連れてきてもらったっけ? と思いながら、キキを見る。

 

 キキは、訳知り顔で笑った。

 

「主様よ、昨日は何もなかった、という顔で朝食の場に出よ。さすれば、わらわの落ち着きようにも納得がいくじゃろうて」

 

 ―――なぁに、万一マズければ、わらわが全力で守ってやるとも。

 

 キキはそう言って、俺の背中をそっと押す。

 

 

 

 

 

 そんなワケで、俺はキキの言う通りに朝食の列に加わった。

 

 驚くことに、俺の姿を見ても、明らかな騒動は起こらなかった。『何故生贄がここにいる!』とか騒ぐ人は、一人も居なかった。

 

 代わりに待っていたのは、意地の悪い冷遇だ。

 

「……あの、朝ごはん、これだけですか?」

 

「ええ、そうですよ。霊力ゼロの落ちこぼれには、ちょうどいいでしょう?」

 

 給仕の使用人が俺を嘲り、嫌らしい笑みと共に去っていく。その背中を、俺は渋面で見つめていた。

 

 御陵宮、東棟大広間。広く長い和室でのことだった。

 

 御陵宮は大勢で朝食をとる習慣がある。いつもは温かな習慣だと思っていたが、冷遇される立場になって、印象ががらりと変わった。

 

 周囲の大人たちが、俺を見て口々に言い合う。

 

「皆をアレだけ期待させて、霊力ゼロとはねぇ……」

「勉強と運動が少しできたから何だというのか。霊力がなければ、何の価値もない」

「陰陽術のほとんどが使えませんもの。どうしようもありませんね」

 

 周囲から向けられる冷たい目は、いつかの叔父一派に向けられるものと同じそれ。

 

 俺は、なるほど、と思いながら、茶碗に盛られた十粒ほどの米を口に放った。

 

『のう、言ったじゃろう? 主様よ』

 

 ふわり、と俺の背後からキキが躍り出る。

 

 だが、それを見咎める人は誰もいない。

 

 キキを見えるのは、今はこの俺だけだ。キキを自分の影に入れている、俺一人。

 

 何でも、俺の目の中にいるから、霊視できても姿が見えないとか何とか。「瞳を覗かれたらバレる故、それは警戒するのじゃぞ」と言っていた。

 

 それをいいことに、俺の視界で、キキは大広間の中心に飛び出て、くるりと回る。

 

『主がいて、ことさらに騒ぎ立てる者はいない。わらわの考えた通りじゃったな。もっとも……変わらない外道ぶりに、吐き気がするがのう』

 

 よくも主様にこのような待遇を……! とキキが燃えている。

 

 俺はそれに『落ち着け』と言いつつ、問いかけた。

 

『……結果は分かったけど、理屈を聞いてないぞ。何で俺は、無事に飯を食えてるんだ』

 

『育ち盛りの男子(おのこ)が、その程度で満足に食えているとは言わぬ!』

 

『襲われてないって意味だよ』

 

 俺は、寸前にキキに教わった念話とやらで、言葉もなくキキと会話する。(俺の思考をキキが読み取っているだけとも言う)

 

 キキは、頬を膨らませながら答えた。

 

『そんなものは決まっておる。如何に御陵宮といえども、即座に贄送りの決定が下せるような非情さは持ち合わせておらぬ、という事じゃ』

 

「は?」

 

 つい声に出してしまって、周囲の目が俺に集まる。俺は神妙な顔をしてやり過ごす。

 

『どういうことだ?』

 

『早すぎるのじゃ。昨日聞いたが、主様は次期当主の嫡男なのじゃろう?』

 

 問われ、頷く。キキは続ける。

 

『仮にも次期当主の嫡男が、霊力ゼロとはいえすぐさま贄に選ばれるとは思えぬ。であれば、必然思い至るのは、一つ』

 

 キキは俺の前に、顔をずいと近づける。暴力的な魅力を放つ美貌が、俺の眼前にくる。

 

『主様の政敵による、独断専行じゃ』

 

『―――――』

 

『これ、あまりキョロキョロするでない。怪しまれてしまう』

 

 俺の動揺を見透かして、キキは釘を刺す。

 

『……政敵って、何だよ』

 

『御陵宮は昔から当主争いが激しい。それは主も知っておろう?』

 

『……』

 

 知っている。当主争いに敗北した叔父さんの勢力が、ひどい扱いを受けていることも。

 

『そして、それは当然次代にも発生するものじゃ。であれば、敵勢力は早々に主様を亡き者にしてしまいたい。普段なら守りも固くできぬところが、霊力がないと分かれば、な?』

 

『その隙を突いたってことか』

 

『然り』

 

 俺はやっと思考がまとまってきて、考えこむ。

 

 敵対勢力。そんなものこの人生で考えたこともなかったが、いるとすれば一人だ。

 

『―――天征』

 

『何?』

 

『敵勢力候補だよ。御陵宮 天征(てんせい)。俺の数日遅れで生まれた、腹違いの弟だ』

 

 あまりちゃんと接したことはないが、当主争いが発生するとすれば、天征だろう。

 

 七歳という若さを考えれば、本人の意思は微妙だが、周りが動くのは想像に難くない。

 

『ふむ……有力候補じゃな。では、早速』

 

『待て待て待て』

 

 キキが両手をバキバキに強化し始めたので、俺は慌てて止める。

 

『む、主様よ、何故止める。敵は素早く膾にするのが適切ぞ? それ以前に、主様の命を狙うものが生きているのが我慢ならぬ』

 

『目の血走りどうにかなんないか』

 

 いかん。昨日好感度を稼ぎ過ぎたのか、キキが俺のことになると暴走傾向にある。

 

 俺は急いで、余計な被害が出ないように策を練る。このままだとキキは、天征陣営を丸ごと殺しかねない。

 

 とはいえ、独断専行で俺を殺そう、などと考える奴が生きているのは、俺も怖い。キキがすっかり殺す気でいるし、俺もそのつもりで動いた方が良いだろう。

 

 俺はため息を吐いてから、キキに言った。

 

『分かった。でも、余計な被害は出したくない。だから、ちょっと待て』

 

『むぅ……仕方ない。主様の命に従おう』

 

 不承不承、矛を収めたキキに安心して、俺は視線を巡らせる。それで、俺はこの場で中々注目を集めているのだと知る。

 

 表立って俺の陰口を叩く連中は、思ったより下級の使用人で固まっている。恐らくは風見鶏。無視で良い。

 

 俺のことをいたわしい目で見ているのは、今まで俺の囲いをしていた人たち。母親亡き俺の乳母や世話係、護衛の術士達だ。立場が弱くなり、表立って動けないのか。

 

 陰口はなく、しかし上機嫌そうにしているのは、天征陣営。その中心の幼子―――天征本人は事態をよく分かっていないままに、周りの上機嫌に釣られて笑っている。

 

 そしてその中に、頑なに俺に視線を向けない異物が、きっかり五人。

 

 俺は、わざとお茶碗を落とした。

 

「あ! やっちゃった」

 

 努めて子供らしい振る舞いで、俺は騒ぐ。それに、面倒そうに舌打ちをした風見鶏の使用人が、俺の下に駆けてくる。

 

「何をやっているのですか、朔斗様! 霊力ゼロの落ちこぼれが、今度はマナーすら満足に」

 

「ねぇ給仕さん、質問していいですか?」

 

「はっ? え、いや、わたくしは叱って差し上げているところで」

 

 俺は困惑する使用人の言葉に被せるようにして、問いかけた。

 

「御陵宮がこの村で鎮魂している鬼神って、どんなのがいるんですか? 一つは知ってるんですけど、他にいるのかなって」

 

「は、はい? 何を言って」

 

 その時、俺から離れた先、天征の周囲の五人が、ガタッと立ち上がった。

 

「……失礼。急用がありまして、ここで」

 

 気配を消してコソコソと去る五人。俺は気付かない振りをしつつ、少し遅れて立ち上がる。

 

「厠に行ってきます」

 

「あのっ! 朔斗様!? お話は終わっておりませ、ちょっ!」

 

 俺は引き留めに掴んでくる給仕の手を強引に振り払い、ツカツカと歩き出す。

 

 その背後から、キキの幻影が俺の背後から追ってきた。

 

『なんと、こんな僅かな時間で、下手人を突き止めるとは……! 流石は我が主様よ、すっかり惚れ直してしまったぞ♡』

 

「はいはい、ありがとな。けど、ここからは気を引き締めてくれ」

 

 俺は深呼吸する。それから、言った。

 

「ここからは、殺し合いだ。サポート頼むぞ、キキ」

 

『うむっ! 任せてくりゃれ、主様。主様に触れるもの、すべてこの爪で引き裂いてくれるわ……!』

 

「敵だけにしてくれな?」

 

 悪い笑みになるキキに釘を刺す。

 

 そうして俺たちは、前を進む数人の足音を追って、気配を殺し追いかけた。

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