因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

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裁きを繰って

 その後、大人たちに引っ立てられた俺たちは、抵抗することになく連れていかれた。

 

「あ? 何を主様を拘束しておるか。皆殺しにしてくれようか?」

 

「キキ、ダメだぞ。俺たちは自分の身を守っただけなんだ。これからそれを証明することになる。だから堪えて」

 

「むぅ……あい分かった」

 

 俺が言うと、不承不承キキは我慢する。キキの威嚇があったからか、ぞんざいに扱われる事はなかった。

 

 俺たちは一瞬座敷牢の中に入れられ、すぐに出されて奥の部屋に連れられた。

 

 そこには、次期当主たる父に、その弟たる叔父さん、そして我らが御陵宮、現当主の爺様が揃っていた。

 

 ……なるほど、御陵宮の権力者三人が総出ということらしい。

 

 俺はアルカイックスマイルを湛えながら、身内裁判の場に臨む。

 

「ふむ? 鬼神に乗っ取られた宗厳の息子が、分家の者を殺したと聞いていたが、違うようだのう?」

 

 真っ先に口を開いたのは、現当主の爺様だ。

 

 御陵宮(みささぎのみや) 玄魄斎(げんぱくさい)宗矩(むねのり)。御陵宮の最も位の高い人物。第一線こそ退いているものの、御陵宮の最強の術士にして、最高権力者だ。

 

 容姿は禿げ上がった妖怪ジジイという感じだが、この場で味方につけなければ俺は処されて終わり。八割くらいは爺様の機嫌を取るのが、この場のすべきことになってくる。

 

 そんな玄魄斎の爺様が続ける。

 

「ふ、くく、ははははっ! おい、見てみよ! あの鬼の冠が、式にされておるぞ! どういう了見だこれは! ふはははははっ!」

 

 爺様の高笑いに、キキが「外道の御陵宮がぁ……!」とブチギレている。

 

 そんなキキの頭を押さえて下げさせ、俺はにこやかに答えた。

 

「はい、おじい様。この通り、キキは僕の式になります。紆余曲折ありましたが、無事調伏した次第です」

 

「ほう! そなた、たしか昨日に霊力がないと判明した孫だったな? 名前は何だったか」

 

「朔斗と申します、おじい様」

 

「ふむふむ、そうかそうか。覚えておこう」

 

 爺様は、上機嫌で頷く。

 

 血縁とは思えない会話だ。だが、膨大に人間の入る御陵宮においては、仕方ない面もある。爺様とか、孫だけで数十人いるらしいし。

 

「して、事件のあらましを一度聞かせてもらおうか」

 

 話を元に戻したのは、俺の父、次期当主宗厳だ。

 

「連れてきなさい」

 

 父の言葉を受けて、使用人に命じたのは、叔父の宗和だった。丸眼鏡に糸目の、柔和な姿をした人物である。

 

 連れてこられたのは、俺が撃退した男たちの一人だった。逃げ出したのを見逃した奴だ。

 

「ひぃっ!」

 

 男は俺を見るなり、悲鳴を上げた。それから逃げ出そうとするのを、使用人によって捕らえられる。

 

「はっ、放せ! 助けてくれ! こっ、ころっ、殺される!」

 

「……と、その従者は言っているが。朔斗よ」

 

「え、この場で殺すわけなくないですか?」

 

 俺が淡々と答えると、「ほう……? 随分と冷静だの」「なるほど……」と爺様、叔父さんが、それぞれ感心の声を上げる。

 

 父は、パニック状態の男に言った。

 

「おい、そこの。事件のあらましを話せ。何故貴様らは、朔斗によって殺されるに至った」

 

「ばっ、化け物! 宗厳様! さっ、朔斗様は、朔斗様は化け物にございます! はっ、早く! 早く捕縛してください!」

 

「……と、言っているが、朔斗」

 

「では僕から、簡単な事件の全貌をお話します」

 

 俺は努めて冷静に語った。感情を込めたりせず、公正に。自分に有利に働くようにという意図は、決して込めないように。

 

 霊力ゼロが判明した夜、俺が拘束され贄に運ばれたこと。贄としてキキと相対し、調伏したこと。それから怪しい人たちを見つけて追ったら、バレて襲われたこと。

 

 話を進めている内に、男のパニックも収まってきて、騒ぐことはなくなった。奴はただ顔を青ざめさせて、震えながら俯いている。

 

「……ということだが、そこの。朔斗の話に、嘘はないのか」

 

「わっ、私は、ちがっ、きゅ、急に襲われて」

 

「あ、スマホで録音してたので、聞きますか?」

 

「ぐっ」

 

 俺は自分のスマホを取り出して操作し、使用人に渡す。使用人が、部屋の全員に聞こえるように録音を流す。

 

 再生されるのは、事件の全容。俺を知り、攻撃に動く男たちの動きの音。そして俺の『正当防衛成立』宣言。からの、戦闘音。

 

「……巧者よのう」

 

 くっく、と爺様が笑う。叔父さんも、肩を竦めて「あまり裁定の余地がなさそうだ」と呟く。

 

 父が、俺に聞いてきた。

 

「朔斗、お前に一つ聞く。どうやってその鬼神を調伏せしめた」

 

「キキは、とある刀が刺さってる所為で正気を失い、子供を食らっていたんだそうです。だから、その刀を抜いて助けました。それで、式になってくれる、と」

 

「……あの鬼神に刺さった刀となると、鬼切丸だな」

 

 父の特定に、爺様が解説を挟む。

 

「霊力に反応して、正気を蝕む妖刀だのう。七歳の小僧に抜けるような重さでは決してない。となれば」

 

「――――宿業、か」

 

 父が言うと、爺様、叔父さんが揃って頷く。

 

 俺は聞いた。

 

「あの、僕のことで度々『宿業』という言葉を聞くんですが、結局なんなんですか?」

 

「宿業というのはね、生まれながらの呪いだよ」

 

 教えてくれるのは、叔父さんだ。

 

「術士の技術の一つに、『約定』というものがある。これは『何かを差し出し、別の何かを得るという約束』だ。霊力を捧げて術を放つのもそうだし、生贄で鬼神を抑えるのもそう」

 

 約定を結び、それを履行することで術士は力を得る。叔父さんはそう語る。

 

「宿業は、生まれながらの約定なんだ。性質上破ることもできず、その分、単なる約定とは桁違いの代価を得る」

 

 俺は、自分の手のひらを見る。昨日今日と、前世からは考えられない力を出せるとは思っていたが……。

 

「君の場合、『霊力のすべて』を捧げるという宿業だろう。考えるに君は―――宿業により、骨肉の天稟を得ている」

 

「骨肉の、てん……?」

 

「要するに、極めて体が丈夫、ということだよ。病毒に負けず、七歳児でありながら大人を圧倒する身体能力。運が良かったね」

 

 叔父さんが俺に笑いかけてくる。俺は何度かまばたきして、話を整理する。

 

 何となく察してはいたが、割と知られた用語らしい。

 

 宿業。骨肉の天稟。俺だけの、制約と力。

 

「では、裁きを下す」

 

 爺様が口を開く。

 

「そこの従者。そちの行いだがのう、仮にも次期当主の嫡男を独断で贄に捧げた行為は、万死に値する。のみならず逆上して襲い掛かかる振る舞いは、当主として許してはおけぬ」

 

「ひっ、な、何で、何で私の裁きに」

 

「よって、そちには別の妖魔の贄になってもらおう。連れていけい」

 

 使用人に男が連れられて行く。「いやだぁあああ! 助け、たすけてぇぇええ!」と叫んでこの場からいなくなる。「ひっひ」と意地悪く爺様が笑う。

 

「次に、朔斗よ」

 

「はいっ」

 

 爺様が俺を見る。俺は背筋を正して傾聴する。

 

「お前は贄に捧げられながらも無事帰還し、それだけでなく贄を要する鬼神を調伏して帰ってきた。となれば、霊力のあるなしは些末なもの」

 

 爺様が、告げる。

 

「よって、次期当主嫡男の座を、現当主として安堵する。今後とも弛まぬよう努めるのだぞ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 俺は深くお辞儀をする。「ひょっひょっひょっ。これにて一件落着か」と爺様が頷く。

 

 そこまで事が無事に運んで、やっと俺は一息ついた。

 

 と思ったら、父が言う。

 

「では、そこの二人を身ぎれいにしろ。鉄臭くてかなわん」

 

「朔斗様、こちらへ」

 

 命を受けた使用人が、うやうやしく俺を外に案内する。そのまま風呂場に案内され、各々がされるがままに、血まみれの体を丸洗いされた。

 

 そうして、俺たちはやっと解放された。俺はキキを伴って人気のない場所まで移動する。

 

 それから、拳を握りこんだ。

 

「っしゃあ! 何とかなった! かなり派手にやったけど許された! っしゃあ!」

 

 俺は解放感でしばらくはしゃぐ。そんな俺の様子を見て、キキが言った。

 

「元気よのう、主様よ……。あんな伏魔殿の後に、たくましい限りじゃ」

 

「え? だって、これでひとまずの悩みは消えたし」

 

「……ああ、そうか。気付いておらぬのか。なるほどのう」

 

「何だよ」

 

 俺はキキに渋面になる。キキは肩を竦め、念話でこう言った。

 

『あの場にいた御陵宮の重役の内、主様に殺意を向けていないのは、父親だけであったぞ』

 

「……は?」

 

 呆気にとられる。慌てて俺は、口ではなく念話で返す。

 

『ど、どういうことだよ、それ』

 

『事態は知らぬ。が、事情はどうあれ、主様は武力を強く示した。そこに価値を見出したか、邪魔と思うたか、御陵宮のクソジジイとヒョロメガネは主様を狙っておる』

 

『……』

 

 俺は硬直する。キキは続ける。

 

『それに、父方ならば安全とはいくまい? 仮にもお付きを殺したのじゃ。お付きを殺された主様の弟御が、どう思い、どう行動するかも想像に容易かろう』

 

『……あー、そりゃ、そうか……』

 

 どうしよう。身内に諸問題がありすぎる。と俺は頭が真っ白になる感覚を抱く。

 

 そこで、ふふっとキキが笑った。

 

「じゃが、安心してくりゃれ♡ 主様の身は、わらわがこの身に代えても守り抜くぞ♡」

 

 キキはそう言って、俺の腕をきゅっと抱きしめてくる。

 

 ……が、俺は首を振った。

 

「キキがもし全盛期だったら甘えたかもしれないけど、かなり弱ってるんだろ。なら、俺だってサボってるワケには行かない」

 

 大太刀があればある程度は勝てるが、あれだけの巨大な武器だ。瞬時に即応は難しい。

 

 それでなくとも、俺たちはまだ七歳児相当の背丈しかない。成長に伴って強くはなるだろうが、それだけではきっとどうにもならない時が来る。

 

「強くならなきゃな。もっと、強く」

 

 俺は拳を握り締める。

 

 そんな俺に、キキは「主様がカッコイイ……!」と、何でか顔をくしゃっとさせながら呟くのだった。

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