因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双 作:一森 一輝
朔斗とその式が出て行った後、御陵宮の長に当たる当主・玄魄斎宗矩、及び次期当主・宗厳、次期当主代理・宗和の三人は、裁定の間にて話を続けていた。
「して、どう見る? 我が子らよ」
当主たる玄魄斎は、「ひょっひょっひょっ」と意地の悪い笑いを上げながら、子供たる宗厳、宗和に問う。
まず答えるのは、朔斗の父、次期当主・宗厳だ。
「我が子が死なずに済んだようで、ホッとしております」
「ひっひ、心にもないことを。そもそも、聞かれているのはそう言う事ではないと分かっておろうに」
「さて、何のことやら」
宗厳は厳めしい顔に静かな面持ちを保ち、目を伏せて答える。
一方で、忌憚なく言うのは、次期当主代理、宗厳の弟にして朔斗の叔父にあたる宗和だ。
「宿業にして鬼神の主。たった一夜で随分な力を得たものですね。嫡男でなければ、御陵宮にとって脅威にもなったでしょう」
「ほう。宗和は随分なことを言うのう? その物言いは、まるで『何かの拍子で嫡男の座から外れたなら、即座に対処すべき脅威である』と言わんばかりよ」
「まさか。父上も人が悪い。いつもそうやって、身内同士で殺し合わせようとするのですから」
宗和が言い返すと、玄魄斎は笑いだす。
「ひょっひょっひょっ! 十人も居た兄弟たちを、二人になるまで殺し尽くしたお前が言うか? 宗和」
「殺したのは兄さんですよ。私はほとんど関わっていません」
「俺もお前も、身内殺しはほぼ同数だろうが」
玄魄斎は妖怪のようにゲタゲタと笑い、宗和は薄笑いではぐらかし、宗厳は静かに事実を口にする。
御陵宮は、陰陽師系の異能者の頂点たる家。権力争いは他の追随を許さず、本家から分家の末端に至るまで、無数の死者を出すことで知られている。
中でも今から十年前は、宗家筋での死者が多く、玄魄斎の子供はその多くが命を散らしている。公的には妖怪に襲われた、他異能者に敗れたという記録となっているが……。
宗和が言う。
「しかし、まさか鬼神を式神に従えてしまうとは。本人が宿業というのも中々ですね」
「アレは儂が生まれる前から恐れられていた鬼神だからのう。見たところ相当に弱っていたが、解き放たれた以上、少しずつ回復していくはずよ」
「となれば、今が一番弱い、ということですね。朔斗くん本人も、今後どんどん経験を積んで、宿業の体も成長し、強くなる……」
「そうだのう。あまりにも単純だが、単純にただ強い輩というのはいつでも度し難いものよ。それが今一番弱いというのは、狼にひな鳥を差し出すようなもの」
「突くとすれば、まず主従関係を構築する術の方でしょうね。霊力がないのなら、十中八九真名縛り。ならば―――」
話し合う玄魄斎に宗和。二人に、宗厳が言う。
「二人とも。息子をどう殺すか、という話を、親である私の前でしないでいただけるか」
沈黙。一拍おいて、玄魄斎と宗和は笑いだした。
「ひょっひょっひょっ! すまぬすまぬ、
「珍しい術士になりますからね、朔斗君は。戦うとしたらどうなるのか、と
カラカラ笑い、二人は飄々と受け流す。宗厳はそれを、黙して見つめる。
とはいえ、御陵宮でいえば、玄魄斎と宗和の言動は標準的なものだ。
脅威となりそうな術士がいれば、まず『どう殺すか』を考える。その後に可能ならばやってしまう。例えそれが身内でも関係ない。
強い術士ほど、意外にあっさり死ぬのが御陵宮だ。弱い術士は当然のように死ぬ。死なずにいられるのは、どんな手でも易々とは殺せないと判断される、本当の実力者のみ。
しかし、朔斗は嫡男。玄魄斎には殺す動機もないし、宗和も朔斗を殺すくらいなら、まず宗厳を殺すべきとなる。だから二人が朔斗を殺す事はない。―――表向きは。
となれば、宗和が考えるのは、懐柔策になる。
「にしても、やることをやりながら、式神には優しい子でしたね。思えば雛見も、彼を誉めていたような」
「雛見とは誰だったかのう」
「私の娘ですよ、父上。
「ああ、ああ。思い出したわい。儂直属の『御使い』を使用人に付けたのに忘れておったわ。ほれ、お前らの上の兄弟の子が数十人いるから、どれがどれだか、となってしまってな」
「確かに亡き兄上、姉上の子供たちは多いですからね。思い出してもらえて良かったです」
「年を取るのは嫌だのう。記憶力も年々衰えて、困るばかりよ」
ひっひ、と玄魄斎はおどけて見せる。宗和は苦笑気味に話を戻す。
「最近は雛見も体調も良くなってきたことですし、遊び相手に朔斗君を呼んだら喜びますかね」
宗和の言葉に、宗厳が「さて、どうだかな」と呟く。
「おや、兄さん。何か問題が?」
「今の騒動をもう忘れたか、宗和。我が子の内、弟の天征のために動いた術士が、嫡男の朔斗を襲ったのだぞ」
「……ああ、そういうことですか。となると、私から動かない方が無難ですね」
宗和が肩を竦めると、宗厳は頷く。
「昨日今日の一件は、嫡男争いの起こりと見るのが良いだろう。今後、より一層血が流れるはずだ。それこそ、俺たちの時のようにな」
「そうですね。どのくらい死人が出るでしょうか」
「鬼神が蘇ったのだ。相当に死ぬだろうな。朔斗本人が戦いを望まなくとも、宿業に鬼神の式となれば、周りが恐れ排除を望む」
「そして、それを退ける度に、朔斗君は動かぬ地位を獲得していく……」
宗和が、思わしげに呟く。宗厳は黙し、玄魄斎は「ひっひ」と笑う。
「宿業と鬼神の恐ろしき力を振るい、血にまみれ、嫡男の座を守るか。御陵宮らしいのう」
「しかし兄さん、対抗馬の天征君はどうなんです? 明るい子、と聞きますが」
「そうだな。天征だが……アレはアレで、御陵宮の申し子のような奴だぞ」
「そうなのですか? 霊力は宗家の平均くらいでしたが」
疑問を呈する宗和に、宗厳は答えた。
「アレは、とにかく器用なのだ。術理、人心把握に優れ、欠点がない。何より……御陵宮の
「これはこれは……兄さんにそこまで言わせるとは、朔斗君一強とはいかないようですね」
「ひょっひょっひょっ。次代はどうなるか……。我ら大人が、導いてやらねばのう」
御陵宮の長達が、くつくつと笑い合う。伏魔殿を生き延びてきた、陰陽師の皮を被った魔物たちは、それぞれの思惑に肩を揺らす。
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祝! 一章完結!
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