因習村の名家に転生し忌み子と捨てられた、異形の剣士の物理無双   作:一森 一輝

8 / 49
皮を被った魔物たち

 朔斗とその式が出て行った後、御陵宮の長に当たる当主・玄魄斎宗矩、及び次期当主・宗厳、次期当主代理・宗和の三人は、裁定の間にて話を続けていた。

 

「して、どう見る? 我が子らよ」

 

 当主たる玄魄斎は、「ひょっひょっひょっ」と意地の悪い笑いを上げながら、子供たる宗厳、宗和に問う。

 

 まず答えるのは、朔斗の父、次期当主・宗厳だ。

 

「我が子が死なずに済んだようで、ホッとしております」

 

「ひっひ、心にもないことを。そもそも、聞かれているのはそう言う事ではないと分かっておろうに」

 

「さて、何のことやら」

 

 宗厳は厳めしい顔に静かな面持ちを保ち、目を伏せて答える。

 

 一方で、忌憚なく言うのは、次期当主代理、宗厳の弟にして朔斗の叔父にあたる宗和だ。

 

「宿業にして鬼神の主。たった一夜で随分な力を得たものですね。嫡男でなければ、御陵宮にとって脅威にもなったでしょう」

 

「ほう。宗和は随分なことを言うのう? その物言いは、まるで『何かの拍子で嫡男の座から外れたなら、即座に対処すべき脅威である』と言わんばかりよ」

 

「まさか。父上も人が悪い。いつもそうやって、身内同士で殺し合わせようとするのですから」

 

 宗和が言い返すと、玄魄斎は笑いだす。

 

「ひょっひょっひょっ! 十人も居た兄弟たちを、二人になるまで殺し尽くしたお前が言うか? 宗和」

 

「殺したのは兄さんですよ。私はほとんど関わっていません」

 

「俺もお前も、身内殺しはほぼ同数だろうが」

 

 玄魄斎は妖怪のようにゲタゲタと笑い、宗和は薄笑いではぐらかし、宗厳は静かに事実を口にする。

 

 御陵宮は、陰陽師系の異能者の頂点たる家。権力争いは他の追随を許さず、本家から分家の末端に至るまで、無数の死者を出すことで知られている。

 

 中でも今から十年前は、宗家筋での死者が多く、玄魄斎の子供はその多くが命を散らしている。公的には妖怪に襲われた、他異能者に敗れたという記録となっているが……。

 

 宗和が言う。

 

「しかし、まさか鬼神を式神に従えてしまうとは。本人が宿業というのも中々ですね」

 

「アレは儂が生まれる前から恐れられていた鬼神だからのう。見たところ相当に弱っていたが、解き放たれた以上、少しずつ回復していくはずよ」

 

「となれば、今が一番弱い、ということですね。朔斗くん本人も、今後どんどん経験を積んで、宿業の体も成長し、強くなる……」

 

「そうだのう。あまりにも単純だが、単純にただ強い輩というのはいつでも度し難いものよ。それが今一番弱いというのは、狼にひな鳥を差し出すようなもの」

 

「突くとすれば、まず主従関係を構築する術の方でしょうね。霊力がないのなら、十中八九真名縛り。ならば―――」

 

 話し合う玄魄斎に宗和。二人に、宗厳が言う。

 

「二人とも。息子をどう殺すか、という話を、親である私の前でしないでいただけるか」

 

 沈黙。一拍おいて、玄魄斎と宗和は笑いだした。

 

「ひょっひょっひょっ! すまぬすまぬ、()()な」

 

「珍しい術士になりますからね、朔斗君は。戦うとしたらどうなるのか、と()()考えてしまった」

 

 カラカラ笑い、二人は飄々と受け流す。宗厳はそれを、黙して見つめる。

 

 とはいえ、御陵宮でいえば、玄魄斎と宗和の言動は標準的なものだ。

 

 脅威となりそうな術士がいれば、まず『どう殺すか』を考える。その後に可能ならばやってしまう。例えそれが身内でも関係ない。

 

 強い術士ほど、意外にあっさり死ぬのが御陵宮だ。弱い術士は当然のように死ぬ。死なずにいられるのは、どんな手でも易々とは殺せないと判断される、本当の実力者のみ。

 

 しかし、朔斗は嫡男。玄魄斎には殺す動機もないし、宗和も朔斗を殺すくらいなら、まず宗厳を殺すべきとなる。だから二人が朔斗を殺す事はない。―――表向きは。

 

 となれば、宗和が考えるのは、懐柔策になる。

 

「にしても、やることをやりながら、式神には優しい子でしたね。思えば雛見も、彼を誉めていたような」

 

「雛見とは誰だったかのう」

 

「私の娘ですよ、父上。()()()()()だというのに、お忘れですか」

 

「ああ、ああ。思い出したわい。儂直属の『御使い』を使用人に付けたのに忘れておったわ。ほれ、お前らの上の兄弟の子が数十人いるから、どれがどれだか、となってしまってな」

 

「確かに亡き兄上、姉上の子供たちは多いですからね。思い出してもらえて良かったです」

 

「年を取るのは嫌だのう。記憶力も年々衰えて、困るばかりよ」

 

 ひっひ、と玄魄斎はおどけて見せる。宗和は苦笑気味に話を戻す。

 

「最近は雛見も体調も良くなってきたことですし、遊び相手に朔斗君を呼んだら喜びますかね」

 

 宗和の言葉に、宗厳が「さて、どうだかな」と呟く。

 

「おや、兄さん。何か問題が?」

 

「今の騒動をもう忘れたか、宗和。我が子の内、弟の天征のために動いた術士が、嫡男の朔斗を襲ったのだぞ」

 

「……ああ、そういうことですか。となると、私から動かない方が無難ですね」

 

 宗和が肩を竦めると、宗厳は頷く。

 

「昨日今日の一件は、嫡男争いの起こりと見るのが良いだろう。今後、より一層血が流れるはずだ。それこそ、俺たちの時のようにな」

 

「そうですね。どのくらい死人が出るでしょうか」

 

「鬼神が蘇ったのだ。相当に死ぬだろうな。朔斗本人が戦いを望まなくとも、宿業に鬼神の式となれば、周りが恐れ排除を望む」

 

「そして、それを退ける度に、朔斗君は動かぬ地位を獲得していく……」

 

 宗和が、思わしげに呟く。宗厳は黙し、玄魄斎は「ひっひ」と笑う。

 

「宿業と鬼神の恐ろしき力を振るい、血にまみれ、嫡男の座を守るか。御陵宮らしいのう」

 

「しかし兄さん、対抗馬の天征君はどうなんです? 明るい子、と聞きますが」

 

「そうだな。天征だが……アレはアレで、御陵宮の申し子のような奴だぞ」

 

「そうなのですか? 霊力は宗家の平均くらいでしたが」

 

 疑問を呈する宗和に、宗厳は答えた。

 

「アレは、とにかく器用なのだ。術理、人心把握に優れ、欠点がない。何より……御陵宮の()()()を、あの幼さで理解しつつある。育て甲斐があるのは天征だろう」

 

「これはこれは……兄さんにそこまで言わせるとは、朔斗君一強とはいかないようですね」

 

「ひょっひょっひょっ。次代はどうなるか……。我ら大人が、導いてやらねばのう」

 

 御陵宮の長達が、くつくつと笑い合う。伏魔殿を生き延びてきた、陰陽師の皮を被った魔物たちは、それぞれの思惑に肩を揺らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

祝! 一章完結!

フォロー、♡、☆、いつもありがとうございます!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。