セリカ奪還作戦が行われた翌日。
今日も今日とて、哮は対策委員会の部室にやって来ていた。
「これでよしっと…!」
薄れていたホワイトボードの文字を書き直したアヤネは、しっかりとボードマーカーの蓋を閉めて皆の方へ振り向く。
「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は、先生も参加してもらうので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが…」
「は~い☆」
「もちろん」
「分かってるわよ…!」
「うへ~、先生よろしくね~」
「ああ………ん?
アヤネの近くら辺に運んできたパイプ椅子に座り、会議を両腕を組みながら大人しく見届けようとした哮は、アヤネの発言が気になって、その言葉を小さく復唱する。
「早速議題に入りますね。本日は、私達にとって非常に重要な問題……学校の負債をどう返済するかについて、具体的な方法を議論します。ご意見がある方は、挙手をお願いします!」
「はい! はーい!」
真っ先に食いついたセリカは、勢いよく片手を上げてアピールする。
「はい、1年の黒見セリカさん!」
「対策委員会の会計担当としては、現在の我が校の財政状況は、破産寸前と言っていいわ!」
椅子から勢いよく立ったセリカは、身を前に乗り出しながらドンッと音を立てながら両手で机を叩く。
「これまで通り、指名手配を捕まえたり、苦情を解決したり、アルバイトじゃ限界がある。このままだと、埒が明かないから……なんかこう…でっかく一発狙わないと…!」
「でっかく? 例えばどういうの…?」
元気よく言うセリカに、話を聞いていた哮は首を傾げながら尋ねる。
「ふっふっふ…これよこれ!」
不敵に笑ったセリカは鞄から一枚のチラシを自慢げに皆に見せる。
そのチラシには、『健康と豊かさをその手に』というキャッチコピーと共に、『ゲルマニウムブレスレット』という言葉と白と黒の数珠つなぎの写真が張られていた。そして、写真の下には、『つながりで更なる幸せ』という言葉が書かれている。
そして、教室内は静まり返る。
「あ、あれ…? どうしたの…? 皆…?」
皆からの反応が無いことにセリカは、少し戸惑いながら皆の顔を見渡す。
「ちなみにセリカ…そのチラシ、どうしたの?」
「この前、声をかけられて、説明会に行ってもらったのよ! 運気を上げるゲルマニウムブレスレットというのを売ってるんだって! これを身に着けるだけで、運気を上げるんだって! で、これを周りの3人に売れば……何してるの?」
哮からの質問に、目を輝かせながら説明していたセリカだったが、哮が天井を見上げながら片手で顔を覆っていたため、不思議そうに首を傾げた。
「……セリカ…ゲルマニウムは、半金属に分類されている半導体の一種だ。そんな運気を上げる力なんてない」
「へっ…!?」
呆れ顔でセリカを見つめる哮から、ゲルマニウムについて簡単な説明を受けたセリカは、声を裏返しながら、驚きのあまり石のようにその場で固まる。
「あとな…周りに売ったら更に運気を上げるという文言はな、
「……」
哮からの容赦のない言葉の暴力を受け、セリカは絶句したまま椅子に座り込んだ。
「わ、私…2個も買っちゃった……」
ショックのあまり半泣きになりながら俯くセリカの右手首には、買ってしまったのであろうブレスレットが付けられていた。
そのブレスレットをよく見た哮は、それっぽく付けられている黒球が、本物のゲルマニウムなのか怪しく思えて来たが、絶望しているセリカに追い打ちをかけるのはやめておこうと思い、そのことを指摘するをやめた。
「セリカちゃん騙されちゃったんですね。可愛いです~☆」
「全く、セリカちゃんは世間知らずだね~。そんなのだと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうよ~」
落ち込むセリカに、ノノミは笑顔を浮かべながら優しくセリカの頭を撫で、ホシノは有名な詐欺の一例にまんまと引っかかったセリカに、軽く注意をする。
(セリカには、後で詐欺に騙されないための対策授業が必要かな~)
そんなことを哮が思っていると、
「それじゃあ、次におじさんでいいかな~」
ホシノが手を上げた。
「…嫌な予感しかしませんけど……はい、3年の小鳥遊ホシノ委員長…」
「よっこいしょ」
アヤネが少し嫌そうな表情を浮かべる中、ホシノはおっさんみたいなことを言いながら、椅子から立ち上がった。
「我が校の一番の問題は、生徒数がここに居る5人のみのこと…!」
ホシノの言葉に、机にうつ伏せて落ち込んでいるセリカ以外が頷く。
「生徒の数=学校の力…! だからまずは、生徒数を増やす!」
「鋭いご指摘ですが…どうやって増やすつもりなんですか…?」
「簡単だよ~、他校のスクールバスを乗っ取って、うちの学校への転入学書類にハンコを押すまで降りれないようにすればいいんだよ!」
「はい!?」
「はぁ…?」
途中まで真面目だったホシノから、バスジャックという他校が絶対認めるわけがない案が出され、アヤネは驚き、哮は内心呆れる。
「バスジャックなんかしたら、最悪他校との戦争になるぞ…」
「そうです! 数の暴力で、あっという間にやられてしまいます!」
「うへ~…やっぱそうだよね~?」
「…はあ……」
哮とアヤネに言われて、ホシノは自身が考えた案を諦め、アヤネは溜息を吐く。
「皆さん、もっと真面目に考えてください…」
「アヤネ…私にもいい考えがある」
「…はい、2年の砂狼シロコさん……」
愚痴を吐いたアヤネに声をかけたシロコは席から立ち上がると、
「銀行を襲うの」
ホシノと同じレベルのぶっ飛んだ発言をした。
「はいぃっ!?」
「…?」
アヤネは精神的な疲れを吹き飛ばして驚き、哮は本当に女子高校生が言う言葉なのか、自分が聞き間違えただけではないのかと思い、NowLoadingが表示されそうなフリーズの仕方をする。
「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行…金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから…あとこれ」
犯罪計画を説明しながら、シロコは鞄からピンク、青、緑、赤、黄色の計5枚の番号が書かれた手作り覆面をそれぞれの前に置いた。
「あらま、これ、シロコちゃんの手作り~? よくできてる~!」
「わあ、見てください! レスラーみたいです!」
覆面を受け取ったホシノとノノミはシロコ特製の覆面を褒める。
その一方、アヤネはシロコを見ながら引いており、哮は生徒が真面目に強盗計画を練っていることに理解が追い付かず、宇宙猫のような虚無顔で放心状態になっていた。
「いやー、いいねぇ…! やっぱ、人生一発でキメないと! ねぇ、セリカちゃん?」
「そんなわけあるかぁーーー!!」
「そうです却下です! 犯罪はいけません!!」
「むぅ……」
まともな1年生の2人は、暴走する上級生3名に対して叱る。
「皆さん、もうちょっとまともな提案をしてください……」
1つは悪徳商法、2つは犯罪への提案という結果に、アヤネは頭を抱える。
「はーい! 次は私が!」
「はい…2年生の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでお願いします…」
「勿論です! 犯罪でも、悪質商法でもない! とってもクリーンで確実な方法があります」
「っ! ノノミせんぱ~い…!」
ようやくまともな提案が出そうになり、アヤネは感激の涙を浮かべながら前のめりにノノミの提案を聞くことにした。
「アイドルです! 学園アイドル!」
「…えっ?」
ノノミの提案を聞いたアヤネの表情は、明るいものから一転、驚愕へと変わった。
「なんでアイドル…?」
「そうです! アニメで観たんですけど、学校復興の定番と言えばアイドル! 私達全員が、アイドルとしてデビューすれば……そうだ! 先生もアイドルデビューしましょう! その顔なら行けますって!」
質問をした哮の顔を見たノノミは、哮もアイドルデビューに巻き込もうと試みる。
「えっ? 何で俺? 顧問になったとはいえ、そこまでしないよ?」
「え~…先生、歌って踊って戦える俺様系アイドルとしてデビューすれば、きっとキヴォトスでアイドルナンバーワン! を取れますって~!」
「断固として反対するからな!」
椅子から立ち上がって、哮は自身がアイドルになることを猛反対する。
「先生がアイドル……面白そう」
「シロコ?」
「おじさんも、先生がアイドルになるのは良いと思うな~」
「ホシノ?」
「…まあ、私達がアイドルをやるよりは…いいわね…」
「セリカさん!?」
シロコやホシノがふざけ出し、自分は関係ないのであればと、セリカが揺さぶられ始めて、哮が危機感を持ち始めたその時、
「……い………いいわけないじゃないですかぁ!!!!」
怒りを爆発させたアヤネが、テーブルをちゃぶ台返しのようにひっくり返した。
「先生以外、私の前に正座してください!!」
「「「「はっ、はい!!」」」」
気迫にビビった4人は、アヤネの前に一列になるように正座し、その状態で、こっぴどく叱られることとなった。
時は少し遡り、セリカ奪還作戦が成功したその夜。
アビドスに建てられたとある高層ビルのオフィスでは、巨体に黒いスーツを身にまとった1体のロボが、街中を見下ろして考え事をしていた。
「……巡航戦車を渡したというのに、このザマとは……格下程度のチンピラごときでは、あれが限界か……」
ロボはタブレット端末で、自社がスケバン達に貸した戦車や車のカメラに収められた戦闘の一部始終の動画を見つめ、途中で止めて拡大する。
「…また面倒な相手が出て来たものだ………こうなれば、専門家に依頼を頼むとするか…」
タブレットの画面に映し出されている相手、ジュウオウイーグルとなってスケバン達を倒している哮の姿をしっかりと見たロボは、執務机に置いてある端末を手に取り、とある相手へ連絡を入れる。
『はい。こちら、便利屋68』
「…仕事を頼みたい。便利屋」
月の光がロボの身体を照らす中、新たな脅威がアビドスと哮に牙を向こうとしていた。
誠に申し訳ございません! アビドスと便利屋が初邂逅する紫関ラーメン屋でのくだりは、哮が話題にすら絡まないため、本編と丸々同じくだりになってしまうので、泣く泣くカットすることに致しました!! 次回では、邂逅があったということで進みます。本当に申し訳ございません!!!!
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