第1話 先生ナンバーワン!《前編》
……我々は覚えている、ジェリコの古則を。
ガタンゴトンと、一定のリズムで揺れる電車の車内。
昇ったばかりの日差しは、窓から車内に対面になるよう座っている2人を照らす。
「……私のミスでした」
朝日に背を向け、淡い水色髪の少女は、俯き座っている男性の大人に語り掛ける。
「私の選択、そしてそれによって招かれた全ての状況。結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……」
ゆっくりと、そしてどこか心地よい声で話す彼女。
だが、その声とは裏腹に、彼女の綺麗な頬や真っ白な制服には赤い血が滲み、足元には血溜まりが出来ていた。
「……いまさら図々しいですが、お願いします。先生」
彼女は、最後まで通していた誇り、意地、プライド、その全てを捨てて、先生に懇願した。
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……………ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしか出来ない選択の数々」
少女の言葉を聞き、先生の瞼裏に浮かぶのは、存在しないはずの大量の記憶。
心身を蝕む疫病。
混沌と化した戦禍。
尽きることのない飢餓。
大量の死。
厄災に包まれたキヴォトス。
存在しないはずの記憶だったはずなのに、先生にはその選択を見届けた記憶がある。そして、その選択の行きついた先を2人で見届けたことも…
「だから先生、どうか――」
先生の右手に着けられた深紅の指輪が日に照らされて赤く輝く中、彼女は先生に言葉をかけた。
「………い……先生、起きて下さい。」
意識がはっきりとしない哮に、鋭い声で誰かが呼びかけてくる。
「哮先生!」
「…っ!」
名前を言われ、哮は目を開いて勢いよく身体を起こした。
意識がはっきりとした彼の視界に入ってくるのは、たわわな胸に尖った耳が特徴的な黒髪の女性だった。
「……」
「少々待っていて下さいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほどに熟睡されるとは」
思考が上手くまとまらず、哮が少し混乱している中、女性は話を続ける。
「……七神…リンだっけ?」
ようやく思考が纏まって来た哮は、再確認のために記憶の中にあった女性の名前を言う。
「はい、七神リンです。念のために聞きますが…哮先生、今の状況は把握しておられますか?」
「…ああ、大体はな…」
意識がはっきりとしたことで、哮はリンが言う今の状況について、思い出して来た。
今、自分が居る場所は、数千の学園が集まってできた学園都市「キヴォトス」にある連邦生徒会の建物の一室。そして自分は、連邦生徒会に呼び出された先生であるということを。
「それで哮先生、その…テーブルに置いてあるそれは…?」
リンの視線がテーブルの方に移ったため、哮は首を傾げながら視線の先へと顔を向ける。
視線の先には、赤い狼の意匠をした頭部に、右腕には短剣のような物がある、22センチ程度の大きさがある金色のロボが、テーブルの上に立っていた。
知らない者が見れば、子供向けの玩具かと思ってしまうことだろう。
「あー…まぁ、なんだ。お守り人形のような物だ」
「…そう、ですか……」
少し嘘くさい言い訳を言われたリンは、疑いの眼差しで哮を見つめる。
「それで、俺は何をすればいい? 先生として来たのは良いが、具体的な業務内容は伝えられてなくてな」
「それでは、場所を移動しましょう。そこで、現在のキヴォトスについて、そして…哮先生にやっていただくことをご説明いたします」
「…分かった」
哮はテーブルの上に置いてあったロボを手に取ってソファーから立ちあがり、リンの後をついてエレベーターに乗り込む。リンがボタンを押したことにより、エレベーターの扉は閉まり、上へと昇り始める。
「……」
エレベーターが昇っていく中、哮はガラス越しにキヴォトスの街並みを眺める。
キヴォトスの街並みは、初めて見るはずなのに、何処か懐かしさがあり、その懐かしさの正体を掴むため、哮はじっと見つめ続けた。
その様子を黙って見ていたリンは、エレベーターが着くと同時に彼に言葉を投げかけた。
「キヴォトスにようこそ。先生」
「ちょっと待って、代行! 見つけた、待っていたわよ! 連邦生徒会長を呼んで来て!」
「首席行政官。お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
2人がレセプションルームに入るや否や、4人の生徒がリンへと詰め寄り、次々と話しかける。
「ああ……面倒な人達たちに捕まってしまいましたね」
隣に要る哮の耳に、少し鬱陶しいそうに呟くリンの言葉が聞こえてくる。
「こんにちわ。各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
冷たい目をして話に皮肉を混ぜつつ、詰め寄って来た4人を見るリンに、哮は
(女性って怖いな……)
と他人事のようなことを思っており、それと同時にリンにはなるべく逆らわないようにしようと心の中で決心した。
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
「……」
菫色の髪をツーサイドアップしている少女を皮切りに、他の者達が次々と今キヴォトス全体や各学園で起きている事件について言い始め、リンはそれを黙って聞いていた。
そして哮は、何となく自分が呼ばれた理由が分かった気がしてきた。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐに会わせて!」
「………連邦生徒会長は今、席におりません…いえ、正直に言いますと、行方不明となりました」
「え!?」
溜息を吐いた後、菫色髪の少女の質問に答えたリンの言葉に、その場は騒然となる。
「結論から言うと、サンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は、行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
「その方法…
大きな黒い翼が生えている黒髪ロングの少女の質問に、今まで黙って話を聞いていた哮がリンの代わりに答える。
「誰がリンちゃんですか……ですが、その通りです。こちらの哮先生が、これからフィクサーになってくれる方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
哮にちゃん付けで名前を呼ばれたリンは、少し不服そうな表情を浮かべるが、哮がフィクサーであるということは認めた。
「どうもこんにちは。連邦生徒会長に呼ばれた豊夜哮という者だ。気軽に哮先生って呼んでくれ…!」
今がタイミングだと思い、哮は皆に挨拶をした。
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの――い、いや! 挨拶なんて今はどうでもよくて……!」
哮の挨拶に吊られて、菫色髪の少女は名前をしそうになるが、緊急事態だということを思い出し、名前を言うのをやめる。
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ! 覚えておいてください、先生!」
「ああ、よろしく。ユウカ」
怖い顔をしていたリンの言葉に噛みついたユウカは、そのまま哮に自己紹介をした。
そして、それに続くように、黒縁の眼鏡をかけたゲヘナ学園の風紀委員「火宮チナツ」、黒く大きな翼が生えたトリニティ総合学園正義実現委員会の副委員長「羽川ハスミ」、同じくトリニティ総合学園トリニティ自警団「守月スズミ」が、哮に自己紹介をした。
「……それでは、話を戻します。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として、こちらに来ることになりました」
皆の自己紹介が終わり、リンは話を再開した。
「連邦捜査部シャーレ。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制限無しに戦闘活動を行うことも可能です」
「つまり俺は、そのシャーレっていう所に行けばいいんだな?」
「その通りです。連邦生徒会長の命令で、そこの地下に
リンは手元の端末を操作し、何処へ連絡を入れる。すると、桃色髪の少女の姿が、ホログラムとして投影された。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
『シャーレの部室? ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ…?」
モモカと言われた桃色髪の少女の発言に、リンは首を傾げて復唱する。
『矯正局を脱走した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になっているよ』
「……はい?」
モモカの報告に、リンの表情が少し険しい物になる。
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしているみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ? それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしているらしいの。まるで、そこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど? まあでも、とっくに滅茶苦茶な場所なんだから、別に大した事は……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
そう言い残し、モモカは一方的に通信を切った。
「……」
後輩の自分勝手な動きに、リンは無言ではあるが、明らか怒りで身体を震わせており、他の4人はいつの間にかリンとの距離を置いていた。
「……大丈夫?」
「…だ、大丈夫です……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
哮に心配させたリンは大丈夫だと返すが、明らか怒りで震えているように見える。
その時、リンはユウカ達のことを見つめ、4人は何か嫌な予感を感じ始める。
「…ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!? ど、どこに行くのよ!?」
リンが言う行先について、ユウカが尋ねると、リンは笑みを浮かべて告げた。
「勿論、
五周年を期にブルアカに復帰したのですが、ずっと「ゴジュウジャー要素があったら面白そうだな~」っと思いながらストーリーを進めたので、書いちゃうことにしました!
他の人達との差別化のため、こっちはオリ主が変身することになりましたが…まぁ、その分生徒とのイチャイチャが書けるのでオッケーです。一部SSの概念で好きな物があるので、場合によってはその概念を反映するかもしれません。皆も好きな概念コメント欄に書いて行ってね☆
先生配信者は良い文化。
リンちゃんSS
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哮とリンちゃんの慰安旅行
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豊夜哮の配信(リンちゃん視点)
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床のトマトジュースを血だと思って焦るリン
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幼児退行リンちゃん
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哮とリンちゃんラジオ~脳破壊を添えて~