哮が先生となり、白が基調で裏地は夜空を連想させる青という七神リンと少し似ているシャーレ専用のロングコートに袖を通してから1週間程経過した。
「……し、死ぬ…」
書類の山ができているデスクに、哮は顔をうつ伏せてそう呟く。
「連邦生徒会長が居なくなって、大量に出てきた仕事の一部が、この量ってどうなってんだこれ……」
エネルギー補給のため、キャラメルを1つ口の中に放り込みながら、哮は目の前にある仕事に疑問しか出てこなかった。
「厄災の動きもないし…特にこれと言ったキヴォトス内の学校の問題もないし…」
コロコロと口の中でキャラメルを転がしながら、哮は寝不足で半分しか動かない脳で、目の前にある書類の山から逃げる方法を必死に考える。
「……ここ1週間、働き詰めだし…気分転換で、外にでも出るか…」
独り言を呟きながら哮が考えていると、誰かが扉をノックする音が聞こえてきた。
「…はぁーい……」
重たい腰を上げて立った哮は、少しフラつきながらも扉の方へと向かい、鍵を開けて来訪者を招き入れることにした。
「おはようございます。先生! 早瀬ユウカです! 中々ミレニアムに来てくださらないので、様子見のために来てみました」
「あー、ユウカか…ごめんな。こんな格好で……」
寝不足でちゃんとした格好で向かい入れることができなかったことをユウカに謝りつつ、哮は目線をユウカの後ろに向けた。
「それでユウカ。後ろの子は…?」
哮の目線の先には、ユウカと似た制服を来た白みがかかった銀髪を脚辺まで伸ばした少女が居た。
「初めまして、先生。ミレニアムサイエンススクールセミナーの生塩ノアと申します」
「なるほど、ノアか…俺は豊夜哮。気安く哮先生って呼んでくれ、よろしくな…!」
「はい。よろしくお願いします」
ノアはニッコリと笑みを浮かべ、哮は少し欠伸をしそうになりながらも、無理矢理抑えながら自己紹介をした。
「それで、2人はどうしてシャーレに来たんだ? なんか学校で問題でも起きたか?」
「いえ、そういう訳では無く。哮先生が忙しいとお聞きしたので、少し手伝おうと思いまして…目の下にクマも出来ますし」
「い、いや…生徒にさせる訳には…!」
「いいからやらせてください! そして、哮先生は少し休んでください!!」
「だから、生徒にやらせる訳には…」
「先生? 私達でやっとくのでお休み下さい。先生が倒れたら、元も子もないのですので」
「…………」
哮はユウカとノアの圧を受けて、苦虫を噛み潰したような表情を少しした後、
「分かったよ…仮眠室で少し寝てくる…」
と言って、渋々書類の処理を2人に任せ、自分は仮眠室で寝ることにした。
「……それじゃあ、張り切りましょうね! ノア!」
「ふふっ…ユウカちゃんったら、やる気満々ですね。そんなに、先生が好きになったんですか?」
「なっ…! そ、そんなわけないじゃない!」
「ふふふっ…」
そして、哮が仮眠室に眠りに行った所を見届けた2人は、部屋の中へと入って行き、デスクの上に置かれている書類を哮の代わりに片付け始めた。
哮が仮眠室で寝ている中、ユウカとノアは2人で分担して、淡々と作業を進めていた。
「…何よこの量…! 連邦生徒会は、新人の先生にいきなりこんな量を任せているの?」
一段落がついたタイミングで、ユウカはドンッと勢いよく机を叩いて、仕事が多いことに愚痴を吐く。
「内容的には、請求書が多めですね…連邦生徒会が麻痺してしまった結果…というべきでしょう」
終わった仕事の一部を手に取って、ノアは仕事の山ができた理由について考える。
その時、
「先生、失礼します…申し訳ありませんが、追加の仕事が…」
扉を軽くノックして、ファイルを手に持ったリンが部屋に入ってくる。そして、リンは部屋の中に居たユウカとノアと目が合う。
「……なんで、貴女達が居るのですか?」
眼鏡が光を反射して目元が見えなくなったが、リンは2人を見つめる。
「連邦生徒会が、先生に異様なまでの量を押し付けているので、手伝いに来たんですよ…!」
先日リンに戦闘させられたことに不満を抱いていたユウカは、皮肉を込めつつリンの質問に答える。
「それで、先生はどこに?」
「仮眠室でお休みされてますよ。要件があるようでしたら、私達で良ければ対応しますよ」
「…機密文書ですので、お断りします。ですが、急を要する案件ですので、先生には悪いですが、起こさせてもらいます…」
微笑んでいるノアから哮の居場所を聞いたリンは溜息を吐いた後、仮眠室の方へと身体を向けて歩き始めた。
「待ちなさいよ! 寝不足の先生に無理でも仕事をさせるつもり!?」
「連邦生徒会の方でも、仕事が溜まっています。先生には申し訳ありませんが、今しばらく頑張っていただかないといけないので…」
「貴女達の杜撰な仕事の結果が、こうして来ているのでしょ! それに先生を巻き込むなんて!!」
「……貴女方とは違って、こちらは暇ではないので…」
ユウカとリンはバチバチと火花を散らして、口頭での喧嘩を始める。
そんな中、ノアは淡々と仕事を続ける。
部屋で一種の地獄が形成されつつあったその時、
「…おっ、やっぱりリンちゃん居た」
仮眠室で寝ているはずの哮が、何かが入ったレジ袋片手に部屋に入って来た。
「誰がリンちゃんですか!」
ユウカと口論をしていたリンは、いつもよりも強い口調で哮のちゃん付け呼びを否定する。
「ははっ、まあまあ…疲れているリンのために、珈琲とケーキ買って来たから…あっ、ユウカとノアの分もあるよ」
哮がレジ袋からユウカとノアの分のペットボトルの珈琲とショートケーキを机に出し、リンの分は袋に入れたまま渡す。
「先生、まだ寝ていてください! 1時間しか経ってませんよ!」
「いやー…疲れていると逆に寝れなくて…そろそろリンが来るぐらいの時間だったから、ユウカとノアの分も含めて、労い用のデザート買って来たんだよ」
怒るユウカを宥めながら、哮は買って来た理由を答えつつ、デスクの上に置いてあった飲みかけのカフェオレが入ったペットボトルを手に取り、口に含む。
「…ああ、それとリン。こっちの仕事もう少し増やしても大丈夫だよ」
「っ!?」
「先生!? 何を言っているんですか!?」
突拍子のなく仕事量についての話をした哮に、リンは目を見開いて驚き、ユウカは驚きのあまり椅子から立ち上がった。
「いやー…化粧で少し分かりずらいけど、リンの目の下。クマが出来てるでしょ? だから、リンの負担を少しでも減らすために、こっちに仕事を回して欲しいな~って思ってね」
開けたペットボトルのキャップを締めながら、哮は先程の発言についての理由を述べた。
「……そう、ですか…それであれば、少しそのお言葉に甘えさせていただきます。それと、デザートありがとうございます。では、これで失礼します」
リンは澄ました顔で哮に礼を述べて一礼した後、そのまま部屋から出て行った。
「本当にいけ好かないわね…」
出て行ったリンに対して、ユウカは小さく愚痴を零す。
「リンちゃんも疲れが溜まっているんだよ。あまり言わないであげてくれ」
「…先生が、そういうのであれば……まあ……」
ユウカの愚痴に、哮は笑みを浮かべながら宥め、ユウカはまんざらでもなさそうに少し微笑む。
「あらあら、今のユウカちゃんをしっかりと記録しないとですね~」
ノアはユウカの反応を面白く思い、隠れて自分の手帳に今のユウカの様子をメモに取る。
「それじゃあ、2人には悪いけど…俺はもう少し寝かせて貰うよ……また仕事が来るからね」
「しっかりと休んでくださいね!」
「ユウカちゃんと頑張らせてもらいますね!」
少し動いたことで眠気がやって来た哮は欠伸を少しして、後のことをユウカ達に任せて仮眠室で数時間ほど寝ることにした。
キヴォトスの一角にある廃ビル。
建設途中で放置され壁や内部に植物が生えているその建物は、時間経過によって半壊しかけており、今にでも建物全体が崩れる危険がある。そのため、一般人どころかチンピラや浮浪者ですら近寄らず、更に夜になれば周りに人が通ることはない。
そんな危険な場所で、黒い無機質で身体が構成され、右目にあたる箇所から顔全体に亀裂が走っている黒いスーツをきっちりと着込んだ男は、黒いローブで全身を包みフードを被った者と対面していた。
「クックックッ…まさか、貴方から協力を申し出てくださるとは…想定外でしたよ」
身体の亀裂がある箇所からモヤを漂わせながら黒スーツの男は両手を広げ、フードの者に親しそうに話しかける。
「生徒達の力は、我々とって少々厄介なのだ。生徒達をどうしようが貴様らの勝手だが…豊夜哮が持つ指輪は全て貰うぞ」
「クックックッ…そればかりは約束はできませんね。我々…特に私は、先生と彼が持つ力ついて少々興味があるので…」
「…指輪に手出ししなければどうでもいい。だが、これだけは覚えて置け。指輪に手を出した瞬間、我々は貴様らを敵と見なし殲滅する」
フードの者は、吐き気を催しそうな紫と黒のオーラを出しながら、黒スーツの男に警告という名の脅しをする。
しかし、黒スーツの男はその脅しに怯えることなく胸を張って、
「他の者達にも手出しはさせないというのは無理ですが…少なくとも私は指輪の力に手に出さないと契約いたしましょう」
警告に従うことを宣言した。
「…なら、指輪に手を出した者をこっちで処分しても文句はないな?」
「ええ勿論です。仲間達には事前忠告はしておきますので…」
「それならば、契約成立だ。我々と貴様らはこれで協力関係、良き友になれることを期待しているぞ」
「……そうですね。我々としても、そうなれることを期待しております」
「では、さらばだ」
互いに心から思っていないことを言い合い、フードの者は足音を出しながらそのまま廃ビルの暗闇へと消えて行った。
「……別世界から来たという
1人その場に残った黒スーツの男は、建物の亀裂から差し込む月光に照らされながら、独り笑った。
その後、廃ビルは一夜のうちに全壊し、瓦礫と化した。
第5話のご精読ありがとうございました! 第5話どうでしたか? 当番制度の下地となる話が欲しいな~と思って、頑張って書いて見ました。まぁ、文字数が少なめだったので、もう少し後にする予定だった敵側の話を書いたのですが……いやー、それにしても、クックックッ…って笑う黒スーツの男と一体誰なんでしょうね!! 後、フードの奴。
まあ、そんなことはどうでもよくて…次回からは対策委員会編となります! 早くホシノを曇らせなきゃ(使命感)……
折角なので、ゴジュウジャー風の予告でもしましょうか。
Next! ナンバーワン、バトォル!!
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
――廃坑寸前の学園からの依頼!?
「さあ、ハンティングタイムだ!」
――本格的に動き出すシャーレ!
第1章 対策委員会編【星が掴んだ願い】
Ready Go!
リンちゃんSS
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哮とリンちゃんの慰安旅行
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豊夜哮の配信(リンちゃん視点)
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床のトマトジュースを血だと思って焦るリン
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幼児退行リンちゃん
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哮とリンちゃんラジオ~脳破壊を添えて~