第1話 先生とアビドス《前編》
哮がキヴォトスに来てから十日程経過したある日、哮はいつものように仕事に追われていた。
「はぁ~…ユウカやノアが偶に手伝いに来てくるおかげで、少し楽にはなったけど……一回ぐらい書類から離れて別のことがしたい…」
パソコンに文字を打ち込みながら哮が愚痴を零していると、
『おはようございます先生! デスクワークが辛いようでしたら、シャーレに来ている依頼を受けてみてはどうでしょうか!』
デスクの上に置いているシッテムの箱が起動し、アロナが画面越しに挨拶をしながら、哮へ1つの提案を出す。
「おー…おはようアロナ。それで、シャーレに来ている依頼とやらは…?」
『はい! シャーレに関する噂が広がっていることで、色々な依頼が来ているのですが…その中でも不穏な物があったので、一度先生に見て頂こうと思いまして…』
「どんな内容…?」
『こちらです!」
アロナに言われて、手紙の内容が気になった哮は、気分転換も兼ねてその手紙の内容を確認することにした。
シッテムの箱の画面にアロナが表示した手紙の内容をアイスカフェオレが入ったマグカップ片手に読んだ哮は、一口カフェオレを口に含んだ後、マグカップだけをデスクの上に置いて椅子の背もたれに体重をかけて、メールの最後の方に書かれていた補給して欲しいリストを確認する。
「…俺が相談に乗って、解決できそうなことなら今すぐにやるけど……この内容は、現地に行かないと分からないな。それに、急を要するみたいだし…リンちゃんに頼んで、アビドス高等学校とやら場所に行ってみるか」
補給物資の内容を見つめながら、少しの間色々と思考を巡らせた哮は、アビドス高等学校に行ってみることにし、早速そのことをシッテムの箱にダウンロードしているモモトークと呼ばれるキヴォトスでメインとなっているコミュニケーションアプリで、リンに話をする。
《リンちゃん、リンちゃん! 生徒からの依頼で、アビドス高等学校という所に行きたいんだけど…いいかな? 見た限り、急を要する依頼みたいなんだ》
《誰がリンちゃんですか…連邦生徒会としましては、先生に仕事を手伝って欲しいところですが、シャーレの目的は、生徒達の相談に乗ることなので構いませんよ。今後も我々に一言申していただけば、シャーレに仕事が行かないように配慮するので、何かしらのトラブルなので、他学校に行く際は一言申してください》
《了解!》
すぐに返って来た返信に一言反応した後、哮はシッテムの箱を操作し、1枚の画像を送り、一言添える。
《後、その子達から補給して欲しいリストがあるんだけど…それもいいかな?》
《なるほど…細部を確認した後に、申請許可の書類を送ります》
《色々とありがとう、リンちゃん!》
《……くれぐれもお気を付けくださいね》
《ああ!!》
リンとの連絡を終え、哮は上半身を起こした。
「アロナ、アビドスについて教えてくれ」
『はい! アビドス高等学校は、街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるぐらい大きい自治区だったのですが、気候の変化で厳しい状況に置かれていると聞きました。まあ、流石に街のど真ん中で遭難は誇張だと思いますが……学校が暴力組織に攻撃されているのはただ事ではないですね』
「それじゃあ、早速アビドス高等学校に向かうとするか!」
『おお! 流石、大人の行動力! すぐに出発しましょう! 私が案内しますので!』
「頼むよアロナ…!」
こうして哮はアロナの案内で、アビドス高等学校へ出張をすることとなった。
燦燦と太陽の日差しが降り注ぐ早朝。アビドスの自治区の街中で、哮は力なく前のめりに倒れ込んでいた。
「…ひ、広い……そして…あ、あつ…い……」
目の前にある空となったペットボトルを見つめながら哮は、「水一本あれば大丈夫だろ!!」という軽率な考えでまともな準備をしなかった過去の自分を殴りたくなってくる。
(テガソードを呼んで…空から……)
前のめりに倒れながら必死に打開策を考えて、身体を動かそうとするが、脱水症状になりかけている身体は言うことを利かない。
(……このまま、ここで干からびるのか…?)
今にでも手放しそうな意識の中、哮は最悪の状況を考え始める。
その時、何処からか自転車を漕ぐ音が聞こえて来て、哮は何が横を通り過ぎたように感じた。
「……大丈夫?」
哮は誰かが近寄って来ていることが匂いで分かるのだが、身体が上手く動かない。
その誰かが、トントンっとうつむけになっている哮の背を優しく叩いた。
「う゛ぅ…あ゛ぁ゛ぁ……」
何とか自分が生きていることを伝えるため、哮は力を振り絞って声を出す。
「あっ、生きてた……日向ぼっこ?」
「う゛っ…う゛んん……」
目の前にいる誰か、匂いと声的に少女っぽい者からの質問に、哮は蚊のようなか細い声で否定する。
「行き倒れ…?」
「ぅ…ん………アビド、ス……に…ッ………」
少女の質問に最後の力を振り絞って答えた哮は、そこで意識を手放した。
「っぷはぁ~~! あ~~、生き返ったぁーー!!」
少女に運ばれた哮は、出してもらったお茶を飲み干して、完全復活を遂げていた。
「シロコちゃん? こちらの方、拉致してきちゃったんですか!?」
出された菓子パンを哮が頬張っていると、ベージュのロングヘアの少女が、哮をここまで背負って運んできたオッドアイのセミロングの銀髪の少女をシロコちゃんと呼んで、経緯を尋ねる。
「まさか、シロコ先輩。ついに犯罪に手を……!!」
ベージュの少女とはまた別の尖った耳に黒髪ボブヘアの少女は、タブレットをしっかりと抱きしめながら冷や汗を流す。
「皆落ち着いて! 問題を発覚する前に、もみ消すわよ!」
黒い髪をツインテールにし、頭には猫耳のような物が生えている少女は、身構えながら一番物騒なことを口にする。
(は、ははっ…ひっでぇ言いよう…)
菓子パンを食べながら、哮は心の内で苦笑いをする。
「違う。この人、うちの学校に用があるんだって」
「えっ…てことはお客さん?」
「そうみたい」
銀髪の少女が犯罪を犯していないことが分かり、他の3人の少女は安堵の表情を浮かべ、今が頃合いだと思った哮は、菓子パンをお茶で流し込み、口を開いた。
「んんっ…俺は連邦捜査部シャーレの先生、豊夜哮だ。気軽に哮先生か、先生って呼んでくれ! 今日は、君達にこれを届けに来たんだ」
軽く咳払いした哮は、4人に自己紹介をして、持って来た鞄から一枚の書類を出し、それを黒髪ボブの少女に手渡す。
その書類には、物品譲渡証明書という言葉が大きく書かれており、その下の方には、5.56×45mmNATO弾や、7.62×51mmNATO弾、医療セットなどのアビドス高等学校が、連邦生徒会に申請した補給品の名前が並んでおり、一番下にはリンのサインと連邦生徒会のマークが書かれていた。
「あ、ありがとうございます! これで弾薬と補給品の援助が受けられます!」
「申請を続けた甲斐があるというものですね! アヤネちゃん!」
「はい! あっ、ホシノ先輩にも伝えないとですね」
「多分、先輩ならいつもの所で寝てると思う。私、起こしてくるね」
相当苦しかったのか、補給品を受け取れることに4人は笑みを見せ、そのうちの猫耳の少女は、もう1人を呼ぶため、教室から出て行った。
「そう言えば、自己紹介がまだだった。先生…私は、2年の砂狼シロコ。さっき出て行ったのが、1年の黒見セリカ」
「私はシロコちゃんと同じ2年の十六夜ノノミと申します!」
「改めまして、1年の奥空アヤネです!」
「それともう1人、セリカが呼びに行ったのが、対策委員の委員長で、3年の小鳥遊ホシノ先輩…以上の5人が、アビドス高等学校、廃校対策委員会…よろしくね」
「こちらこそ、よろしく…!」
シロコ達から自己紹介を受けた哮は、挨拶を返しながら、廃校という言葉が引っかかった。
哮がそのことを3人に聞こうとしたその時、何処からか突然銃声が鳴り響いた。
「じゅ、銃声!」
「っ!!」
驚きながら皆が窓から銃声が聞こえて来た方を確認すると、校門の前にフルフェイスヘルメットを被り、似た銃を持っている武装集団が居た。
「は、ははっ…やっぱ慣れねぇな…」
武装集団とは言え、明らか女子高校生の服装をしているため、外から来た哮から見ると少し異常に思えるため、乾いた笑みが出る。
「アビドス高校の諸君! 今日こそお前らの学校を占拠させてもらうぜぇ!!」
黒で統一している他の子とは違い、赤色の制服にヘルメットをしているリーダーらしき少女は、堂々とアビドスに宣戦布告して来た。
「あ、あれはカタカタヘルメット団です! よりによって、こんなタイミングで…!」
「あいつら、性懲りもなく…!」
突然の襲撃にアヤネは焦り、シロコは握り拳を作って怒りを覚える。
「ホシノ先輩、寝ぼけないでしっかりと起きて!!」
「うへぇ~…これじゃあ、おちおちお昼寝もできないじゃないか~」
セリカに引っ張られながら入って来た小柄な体型で、頭部の頂点に大きなアホ毛があるピンク色の髪で、オッドアイの少女が教室へと入って来ては、そこに置かれていたそれぞれの武器を手に取り始める。
ホシノはショットガンと折り畳み式の盾、シロコとセリカはアサルトライフル、ノノミはミニガンをそれぞれ装備すると、
「はーい、みんなで出撃です☆」
ノノミを先頭に校庭へと出て行った。
「ん? アヤネは行かないのか?」
唯一教室に残ったアヤネに、哮はそう尋ねる。
「私はオペレーターです。先生は、こちらでサポートをお願いします!」
アヤネは自前のタブレットから支援ドローンを起動させながら哮の質問に答え、哮にサポートを頼むが、
「いいや、俺も出る…!」
「えっ! ちょ、ちょっと待ってください! どういう意味ですか!!」
哮はそう言い残し、驚くアヤネを置いて教室から走り去っていった。
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