超かぐや姫!Encore -超かぐや姫!短編集- 作:YURitoIKA
「彩葉って彼氏作らないの?」
「────」
仮想空間ツクヨミからログアウトして、スマコンことコンタクトレンズ型デバイスを充電器にしまったところで、かぐやはそんな爆弾発言をしてくる。
時刻は丑三つ時。虫の鳴き声が聞こえる。住宅街だというのに、自然に包まれている感覚。流石は家賃三万八千円。あ、いや住めてるだけ文句ないっす。
学校の課題、予習復習、アルバイト、加えて駆け出しライバー・かぐやの為の作曲活動と、日々の疲れにより、かぐやが発言するカンマ一秒前までは即刻眠れそうだったのに、彼女のせいで眠気が吹き飛んだ。
「ねーねー聞いてるー? 彩葉は、彼氏作らないの?」
「つ、作らないよ。そんな暇無いし。……日々の生活で精一杯です」
「じゃあ暇があれば作るの?」
「いや、そーゆーわけじゃなくて……」
「じゃ、どーゆーわけなの?」
なんだなんだ。度々ある、かぐやの痛いところを徹底的につついてくるこの感じ。素直さ純度百パーセントだから可能な芸当だ。
「彩葉ってモテると思うけどな〜」
「別にそんな……」
とも言い切れない。学校では高嶺の花扱いをされていて、あんまり男の子に声をかけられることは少ないけど、けれど時々告白してくる人はいる。もちろん私の過密スケジュールを言い訳にして断っているけど。
「いい人いないのー?」
「いないよ」
……むむ。思い返せば、好きな男子について、という会話を、小学生の修学旅行以来していないかもしれない。その時ですら班の班長としてのシゴデキ精神に集中しすぎて疲れ切った末に、みんながクラスの男の子を指名している最中で寝落ちした、というものだけど。うん。変わってないな、私。
タイプの男の子……か。芦花や真実ともその手の甘酸っぱい会話をした覚えがない。芦花は美容系、真実は食べる系の話ばっかしてるし、私はヤチヨのオススメ切り抜き動画ばっかり宣伝しているし、誰からも恋愛についての話題を切り出さない。
……あ。一回だけ、ちょびっとだけあるか。私がクラスの男の子を振って、ちょっと噂になった時に、芦花が心配してくれて、その時──
『芦花は好きな人とか、いるの』
『────。いるっちゃ、いるかな。その人、いっつも忙しそうで、フッと消えちゃいそうな人で、とても恋愛なんてしてくれなそうだから』
『へぇ。芦花、なんか大人だね』
『大人なのは彩葉の方だよ──』
とかなんとか。
けどそれきり。
タイプとか無いしな。推しもヤチヨだけだし。
はぁ……これもつまらない女ってことの証明かな。
「本当にいないのー? つまんなーい」
「はいはい。つまんない女で悪かったですね。ほら、寝るよ。私は明日も学校」
「でも安心したー」
「なんであんたが安心すんのよ」
「だってワタシが彩葉を独り占めできるってことだもんねー♪」
「独り占めって……。かぐやが私のことを好き好き言うの、家に住ませてくれて、甘えさせてくれるからでしょ」
「それもそうだけど〜〜」
やっぱりそうなんかい。
「それだけじゃないんだよ〜〜。かぐやはねー、彩葉のぜぇーんぶがっ、好きなんだよッ!」
「…………。なにそれ。意味わかんないはいもう寝るおやすみー」
「あ、ちょっとぉ」
ブチ。部屋の灯りを消して布団に引っ込む。顔まで隠す。やっぱりかぐやが布団に割り込んでくるけど、かぐやの顔と反対方向を向いて、うずくまる。
……絶対に。
今この瞬間の
絶対に見られてはいけない。
私に告白してきた男の子たちも、顔の整った人たちだったと思う。けど、本当に、本心で、ときめいたことなんてない。これまでの人生で、男の人にドギマギしたことなんて無かった。もちろん女の子に対しても。
なぜだろう。
かぐやにとっては求愛行動ではなく単なるスキンシップとしての言葉の積み重ねが、日々の私をおかしくしている。かぐやに『好き』と言われると胸がざわざわして、鼓動が早くなる。
これじゃあまるで私────。
いやいや。
いやいやいや。
ないない。
こんな迷惑かけられっぱなしのちんちくりん家出(月)女に、ドキドキしてるとか、ないない。
くだらないこと考えるのやめて、さっさと寝よ。
「彩葉……」
かぐやが私の手を引いて、きゅっと絡めてくる。
いつものことだ。
「なんか今日の彩葉、いつもよりちょっとあったかい……」
「…………」
私は聞こえないフリをして、目をじっと瞑った。それから暫く眠れなかったことは、誰にも内緒なのである。
/おしまい